色々なIF集   作:超人類DX

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所謂閑話……かな。

うん、超展開にしちゃったけど。


春蘭さんと封じられ執事

 深淵のなぞ、それは天の贈り物

 われらは求め、飛びたった

 彷徨いつづける心の水面に……かすかなさざなみを立てて……。

 

 

 

 今更他者を殺める事に罪悪感は無い。

 しかしそれでも人間同士の殺し合いの中に入り込んだ経験は無い一誠、祐斗、元士郎の三人にとってらある種初めてだった。

 

 

「マジで俺達って過去の時代に居るんだな……」

 

「うん。でも多分この時代は僕達が授業や本で得たものとは違うと思う」

 

「だろうな。第一曹操があんな女の子ってのがなぁ……なまじ子孫みたいな男の曹操を知ってるから余計に―――――って、大丈夫か日之影?」

 

「………。大丈夫に見えますか……今の私は?」

 

「ごめん、あんまり見えないや……」

 

「…………」

 

 

 武官として雇われた以上、きっと近い内に自分達は殺しをしなければならない。

 既に全てをある程度割りきってる一誠や、大切な者の死を無力の念の内に見せられた祐斗には耐性があるが、元士郎はその限りでは無い。

 例えこれから行うのが単なる巨大化した賊組織の退治だったとしても、人を殺める覚悟は必要。

 

 元士郎は果たしてその重圧に耐えられるのか……。

 それが試される日は近い……。

 

 

 

 

 力を失い、ほぼ一からやり直しさせられる世界へと問答無用で押し込まれてから暫く経ってしまった。

 相変わらず元の時代に戻れる目処は無く、どう見てもそうとは思えない三国英雄の名を持つ少女達に雇われて食いぶちを手に入れられたまでは良いが、代わりに待ち受けていたのは、一誠にとってストレスだらけの時間だった。

 

 

「…………」

 

 

 日が昇る少し前。現在時刻で表現するなら明け方の三時半。

 半ば強制的に我の強すぎる少女によって元の時代と同じ役職を与えられし少年こと一誠は冷たい空気を肌に感じながら目を覚ますと、前時代も甚だしい城の一室を飛び出し、外の泉から引いたと思われる井戸の真水をくすねて顔を洗い、掻っ払った布で身体を拭きながら一人っ子一人居ない修練場へと足を踏み入れる。

 

 

「…………」

 

 

 慣れ親しんだ空気とは別物の、余所者であると嫌でも感じてしまう風をその身に受けながら上半身裸の姿となる一誠が行う事は勿論一つ。

 

 可能な限り短時間で力の全てを取り戻す。

 

 

「…………チッ」

 

 

 春蘭……つまり夏侯惇と戦う際、曹操こと華琳に問われて祐斗と元士郎に推されたけど、その時自身の弱体化は祐斗と元士郎よりも深刻であることを嫌という程知った。

 前時代の、どうでも良い一般人に毛が生えた程度の小娘みたいな容姿の女に危うく仕留められかけた……それは誰よりも力を欲し、力がなければ見捨てられると被害妄想の如く恐れている一誠にとっては耐え難い苦痛だ。

 

 故に誰よりも早く起き、誰にも見られず一人で力を取り戻す鍛練を行うのは半ば必然だった。

 だが、スキルを封じられてる今、単独での鍛練で獲られるものなどたかが知れており、一誠は一人イラつきながらも身体を動かし続けていた。

 

 

「む……」

 

「………………」

 

 

 ならば祐斗と元士郎の協力を獲れば良いのだが、そう何度も二人の時間を奪うのは何だか気が引けてしまうという、一誠の特性である他者への無駄な気遣いが発動してしまってるので頭には無い。

 

 だからこそあまり周りに頼らずの孤独な鍛練を続ける一誠だったが、開始して既に二時間は経ったのだろう……空が明るくなり始めたその時、修練場に一人の女性が現れ、既に一人で身体を慣らしていた一誠を見るなりムッとした顔をする。

 

 

「以前までは私が一番乗りだったのに、お前が来てからは何時も先を越されるな……悔しいぞ」

 

「………………」

 

 

 この世界での初めての戦闘相手であった夏侯惇……真名を春蘭が長い黒髪を揺らしながら悔しげに無言の一誠を睨む。

 元々三人組に対しては敵意丸出しだし今も変わってないが、一誠が華琳直属の部下として登用されてからは特に敵意が強くなっており、顔を見る度喧嘩腰しだった。

 

 

「一人で身体を動かすのも退屈だろう? 私と手合わせしろ」

 

「……………………………………」

 

 

 誰かが一人でも来た時点で鍛練を終わらせるつもりだった一誠。

 だがそうはさせんと春蘭は模擬戦用の木剣を構えて一誠を挑発する。

 乱神モードにより逆転負けを喫して以降、春蘭は隙あらば一誠に挑み掛かる様になり、また基本コミュ障で吹っ切らないと声がでない一誠が返答も出来ないのを良いことに問答無用だった。

 

 

「トリャアァァァッ!!!」

 

「………………」

 

 

 だが一誠としても、生身の相手との戦闘は重要と考えてるので、挑み掛かればそれに付き合う。

 現状、元士郎と祐斗を除けば軍内でまともにやりあえるのはこの春蘭かその妹くらいなのだから……。

 

 

「遅い!」

 

「!?」

 

 

 そんな各々の秘めた理由の下始まった早朝模擬戦。

 普通なら小指ひとつの一瞬で勝負を終わらせる程の差が両者の間にはあったが、現状ほぼ全ての力を失っている一誠にとっては春蘭はある種の脅威であり、一撃一撃を捌かなければ敗北すらありえる故に突進してくる春蘭の攻撃をまともに捌くのだが、一度目の敗北から彼女の中で『何か』が変わったのだろう……戦う度に彼女の太刀筋は鋭さを増していっていた。

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

 肩に固い木の剣が叩き込まれ、初めて顔を痛みに歪める。

 

 

「ワハハハハ! やはりこの前は偶然だったのだ!」

 

 

 その表情を浮かべながら大きく後退した一誠を見るなり、春蘭は余程嬉しいのか笑う。

 

 

(お、おかしいぞこの女……! あきらかに強くなるテンポが速すぎる!?)

 

 

 再び突撃してきた春蘭の攻撃を痛む肩をおして避け続ける一誠は内心、初めて戦った時とは明らかに上昇してる春蘭の力に驚く。

 それは一般人の成長速度を明らかに超越してるという意味であった。

 

 

「どうした! この前の時の様に怒って反撃してみよ!」

 

「チッ……!!」

 

 

 春蘭はどうやら乱神化した一誠を待っているらしく、わかりやすい挑発をまじえながら喉元目掛けて鋭い突きを放つ。

 だがその一撃は寸前で一誠に掴まれる事で阻まれ……

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

 腹部に鋭い掌打を打ち込まれ、その身は勢いよく修練場の壁まで吹き飛ぶ。

 

 

「い……つつつ、少し油断したぞ」

 

「クソ、立ち上がれるのか……」

 

 

 しかし呆気なく春蘭は立ち上がり、特にダメージを受けた様子も無くむしろニヤリも笑っており、割りと現段階ではマジになって打ち込んだ一撃だったのか、一誠は思わず毒づいてしまった。

 

 

「私を嘗めて貰っては困るな。華琳様の覇道の為にこの身を鍛え上げたのだ。そんな攻撃など児戯に等しいわ!!!」

 

 

 獲物は既に掌打を打ち込んだ際に春蘭の手から離れている。

 しかしにも関わらず春蘭は気合いを入れ直した途端武器も取らず一誠へと肉薄すると、今度は素手で挑みかかった。

 

 

「武器が無ければ戦えんと思ってるのか? 甘い!」

 

「っ……!」

 

 

 鋭い拳と脚の連擊を素早く捌き、時おり隙を見て反撃に転ずるが、流石脳筋的思考回路のせいか、決定打にはならずに徐々に押され始める。

 

 

「フハハハ! どうしたどうした! そんな程度で華琳様直属の部下など笑止!!」

 

「ぐほ!?」

 

 

 そして遂に先程のお返しとばかりに春蘭の拳が一誠の鳩尾にめり込み、その勢いで身体は勢いよく壁際に叩きつけられた。

 

 

「げほ!? ぐほ……!」

 

「ふん、本気を出さないからそうなるのだ」

 

「く、ぅ……」

 

「これに懲りたらとっとと本気を出すんだな」

 

 

 魔王にて人外のサーゼクスとの喧嘩以来なかった痛み。

 腹部に残る鈍き痛みとそれによる全身の震え。

 それでも立ち上がるのは意地故か……。

 

 

「ちくしょう……」

 

「……む」

 

「ちくしょう………!」

 

 

 自分の体たらく、元の時代へと帰れない焦り、それら全てが今という現状を生み出している事に一誠の中に溜め込んでいた怒りが膨れ上がると……。

 

 

「ド畜生がぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 その感情の爆発を示すかの様にその髪は真っ赤に染まる。

 黒神めだかの真骨頂を真似たが一つ……乱神モードとして。

 

 

「来たな……くく、心なしか普段の無愛想顔よりお前らしく見えるな?」

 

「殺してやるクソアマァ……!」

 

「後半何を言ってるのかはわからんが、この前の様にはいかんぞ?」

 

「ほざけボケが!!!」

 

 

 肉体のリミッターを完全に外し、限界を越えた機動力を生み出す乱神モード。

 その状態になった一誠に加減は無く、寧ろ言葉通りに殺すつもりで春蘭へと地を砕きながら肉薄すると、それだけで致命的な一撃を容赦無く顔面に放つ。

 だが……。

 

 

「ふん!」

 

「ぉ……!?」

 

 

 それよりも速く、鋭いカウンターが一誠の頬を突き刺し、再び吹き飛ばされてしまった。

 

 

「な……に……!?」

 

 

 頬に新たに刻まれた痛みと、予想だにしてない展開に一瞬怒りを忘れてしまい、瞳孔の開いた目を見開きながら腰を軽く下げながら構えてひゅー……と息を吐く春蘭を見る。

 乱神モードの自分の力に対して真正面から競り勝った……それはあまりにもショックが大きかったのだから。

 

 

「同じ手が二度も通用すると思うなよ? まあ、私は確かに秋蘭や華琳様と比べれば頭を使うことは苦手だが、お前の戦い方は我が身を見直せる程にわかりやすい」

 

「…………!」

 

 

 こ、こんな馬鹿そうな女に指摘された……。

 と、内心かなり失礼な事を思いながらも二度目のショックを受ける一誠。

 

 

 

「ある意味でお前には感謝してやる。お陰で私は更に強くなれた。

だから……お前が負けたら今すぐにでも華琳様に頭を下げて直属部下の登用を取り下げて貰おう!!」

 

「…………」

 

 

 紅蓮に染まる髪と開いた瞳孔という容貌でショックに固まる一誠に春蘭はそう告げた。

 皮肉にも一誠の敗北とその後の挑戦の積み重ねが乱神化一誠に短期間で追い付いた。

 

 それまではただ猛突に敵へと突撃していただけの猪だったのが……。

 

 

(進化……か)

 

 

 華琳への盲目までの忠義心だけの存在が、油断の敗北を『反省』し、華琳が一誠へ与えた役職への『嫉妬』が春蘭を昇華させた。

 

 何という皮肉か。

 本人は嫌々で、一刻も早くこの時代から抜け出したいと足掻いているのに、それに当てられた者が進化をしてしまうのは……。

 

 

(この女……夏侯惇から進化の気迫を感じる。くそったれ、ふざけやがって……)

 

 

 春蘭の身から立ち上る進化の光が一誠には見えた。

 それは奇しくも彼の時代の仲間達が何度も……一誠自身も放った光と同じ。

 

 

「夏侯惇だったか……」

 

「む……なんだ、降参か?」

 

 

 もうわかった。もう身に染みた。もういい加減悟った。

 紅蓮に染まった髪をかき上げながらヨロヨロと立ち上がった一誠は初めて真名では無いとはいえ、春蘭の名を口に出した。

 

 

「アンタに少し礼を言う。ありがとう……俺をたたき起こしてくれて」

 

「な、何だ急に? 言っとくが先程言った事を変えるつもりなんて無いぞ?」

 

 クスクスと、皮肉を感じない笑みを浮かべる一誠にちょっと驚きながらも髪の色が真っ赤故に油断無く構える春蘭は動揺するが、一誠はある意味本心での礼だった。

 

 拮抗する敵になってくれてありがとう。

 

 挑んでくれてありがとう。

 

 対抗心を燃やしてくれてありがとう。

 

 …………心を折らずにいてくれてありがとう。

 

「奴の直属の部下の件はどうでも良い。お望みなら言うとおりにもしてやるよ」

 

 

 だから……。

 

 

「でもな、やっぱりお前に負けるのは死ぬほど気に食わねぇ……!」

 

 

 油断無く自分もお前を叩き潰す……!!

 

 その決意と共に一誠の放つ雰囲気は怒り一辺倒から変化する。

 

 

「……!? 髪が……黒く……?」

 

 

 その変化は勿論対面する春蘭にも察知できたし、何より不思議にも髪の色を変えるという分かりやすい目印があった為によりハッキリと理解できた。

 

 

「ver改神モード」

 

 

 怒りを支配した先の何かになったのだと……。

 

 

「…………!!!」

 

 

 そしてその変化を間近で見た瞬間、一誠の姿は掻き消え……。

 

 

「ギャフッ!?!?」

 

 激しい破裂音と共に春蘭の全身を叩き、修練場の壁を破壊しながら吹き飛んだ。

 

 

「光化静翔・復刻版」

 

 

 基礎に立ち返った異邦人により……。

 

 

 

 

 

 改神モードまで引っ張り出し、しかも黒神ファントムの乱打バージョンともいえる技術まで使ったのは、修練場の破壊というのもあって呆気なく華琳にバレてしまい、只今春蘭と一誠は激しい破裂音で飛び起きた華琳に怒られていた。

 

 

「一誠と春蘭が一緒に鍛練をしてたのはわかったわ。けど何で修練場が破壊されてるの? 納得のいく説明をしなさい?」

 

「も、申し訳ありません華琳様! お、お前からも説明しろ!」

 

「…………………」

 

 

 静かに怒る華琳の鋭い視線に、あれだけの攻撃を受けても大した怪我は無かった春蘭はすっかり小さくなる横で、一誠はふてぶてしさ全開で口を開く。

 

 

「夏侯惇と手合わせしてたら、熱くなりすぎてついやっちまった。それだけのことだよ」

 

「………」

 

「お、おい! その口の聞き方をやめろ!」

 

 

 滅茶苦茶不遜な態度で答えた一誠に更に顔つきを鋭くさせる華琳を見た瞬間、春蘭は焦った様に肘で一誠をつつきながら注意をする。

 勿論騒ぎの事を聞き付けた祐斗と元士郎もハラハラのドキドキであったのだが……。

 

 

「わかったよ………こほん、申し訳ございませんでした曹操様、此度の騒ぎと施設の破壊の原因の全てはこの私にあります。

夏侯惇様は私の我儘に付き合わされただけであります、ですので罰を与えるのであればこの私に……」

 

「へ?」

 

「うん………うん?」

 

 

 あれ、何かちがくね? この場に居た誰もが一誠の対応に違和感を禁じ得ない。

 だって一誠の言い方はまるで春蘭を庇っている様に聞こえるから……いや、というかさっき然り気無く会話してなかったか? と華琳は執事という言葉の響きを気に入って以降、側近クラスで登用しても殆ど無表情で無口な一誠の態度に妙な納得のいかなさを覚える。

 

 

「ちょ、ちょっと待て、お前何を……」

 

「良いから黙ってろ、あの場所を滅茶苦茶にしたのは確かに俺だしな。

ま、さっきの礼のひとつだと思ってくれ」

 

「え……え?」

 

 

 何か言おうとする春蘭に対してフッと笑う一誠……。

 やはり気のせいではなくおかしい。

 

 

「……ひとつ聞いて良いかしら?」

 

「何か?」

 

 

 絶対おかしい。そう思った華琳は思わず咎の話を忘れて話しかけてみると、春蘭とは打って変わって無表情顔の無機質声になる一誠。

 

 

「アナタ、鍛練の時に春蘭と何かあったわね?」

 

 

 それくらい違和感だらけの一誠に質問するのは最早必然的だったし、秋蘭も祐斗も元士郎も興味津々だった。

 だが返って来たこ言葉は冷たい。

 

 

「別に何にも。ただ、夏侯惇様には色々と学ばされたので少しは敬意を持たなければならないのでは……と、思っただけですが」

 

「「「「「は!?」」」」」

 

 

 シレッと口に出した言葉は祐斗と元士郎をも驚愕させるに十二分な言葉であり、春蘭ですら驚いていた。

 

 

「で、私めへの罰は?」

 

「あ、え、ええ……修練場の修復作業……かしら」

「畏まりました……この度はお騒がせして申し訳ございませんでした」

 

「え、ええ……」

 

 

 一礼しながら謝罪するせいか、微妙に怒れなかった華琳。

 一体全体何がどうなってるのか……フラフラした足取りで玉座から去ろうとする一誠の背中をじーっと見ていても、戸惑う春蘭を見ても読めなかった。

 

 

「あぁ、それと夏侯惇……もう知ってると思うし、呼ぶも呼ばないもアンタに委ねるが、俺の真名は一誠だ」

 

「「「「!?」」」」

 

「はぇ? きゅ、急に何だ?」

 

「深い意味は無い。

ただ、これから暫くはアンタを相手に力を取り戻す必要があるからな……」

 

 

 そして退室間際にぶちこまれる爆弾。

 それは気安い口調で、尚且つ楽しそうに笑いながら自らの真名を教えるという、あれ? この前の啖呵は? と突っ込まざるを得ない言葉。

 

 

「ま、待ちなさい一誠!! アナタ以前心を許さないって……!」

 

「言ったな。但しそれは見込みのない有象無象に対してだ。

久々だな、テメーの考えをねじ曲げてくる存在と会うのは……」

 

 

 自然と突っ込んでしまった華琳に対してこれまたシレーッと返しながら春蘭にヘッと笑う一誠。それはとても年相応な表情だった。

 

 

「夏侯淵だったか? アンタの姉は確かに『最高』だね」

 

「あ、う、うむ……?」

 

 

 急に話を振られて戸惑う秋蘭。

 呆然としてる華琳がレア過ぎるが、それ以上に無表情男がこんな浮かれてるなんて……という驚きに支配されてしまう。

 

 

「急に気色悪いぞ! な、何なんだ!」

 

「その説明は後でするさ。あぁ、今晩暇なら街の外の近くにある湖に来い。

そこで毎晩木場と匙――いや、祐斗と元士郎と秘密の鍛練をしてるんだが、アンタもやらないか?」

 

「え……」

 

「曹操の覇道ってのを手助けしたいんだろ? だったら損はさせないぜ? な、二人はどうだ? この女……もしかしたら『化ける』可能性が高い」

 

「だ、だからか……しかしホントかよ?」

 

「一誠くんってその……ホント同じ気質の人に対してアレだよね」

 

「現金な性格なのはわかってるさ。くくくく……!」

 

「「………」」

 

 

 秋蘭と華琳が呆然とする中、勝手に春蘭を聞かされてすらなかった秘密の鍛練とやらに巻き込もうとする一誠。

 つまる所一誠は、力を取り戻せる近道になりえる春蘭を一時的に気に入った……ただそれだけの話だった。

 

 

「ま、待て待て待て! 華琳様の許可も無く何をしてるんだお前達は!?」

 

「日がある内はここの仕事があるから夜にやってただけさ。それにわざわざ報告することなのか? 業務外にやってんだぜ?」

 

「そ、それは……」

 

「まさか天下を取ろうとする曹操様がそんな器量の狭い訳がないだろ? なぁ……そうでしょう曹操様?」

 

「ぅ……ま、まぁ……仕事さえして節度を守れば……」

 

「だってさ」

 

 

 普段相当ストレスが溜まってたのか、これでもかというくらい皮肉っぽく嗤う一誠に華琳は曖昧に頷くしかできない。

 しかしやはり……。

 

 

「本当にもっと強くなれるんだろうな? 嘘だったら承知せんぞ」

 

「それはアンタ次第だがね」

 

「む……わかった、だがそのアンタと呼ぶのはやめろ。一誠……一応お前から真名を貰った以上、私も真名を……」

 

「春蘭つったか? 機会が互いに呼び合えば良いだろ……くくくく!」

 

 

 

 

 

「何これ? 何なのこの納得のいかなさは?」

 

「ええ、私も何となく感じます。なんでしょうねこの例えの無い気持ち」

 

 

 微妙に納得できない華琳と秋蘭なのだった。

 

 

 

 終わり。

 

 

 

 

 

 まさかの春蘭に対してのデレ期に微妙に納得できない華琳は、夜に行われてるとされる秘密の特訓をこっそりと秋蘭と覗きに行ったのだが……。

 

 

「良いか、今の気持ちを変えるな。我を強く持て……!」

 

「言われなくても……!!」

 

 

 

「………。

春蘭ってあんなに凄かったかしら? それに一誠達も……」

 

「こ、これは気のせいではありません。明らかに姉者は強くなってます……」

 

 

 暴風を巻き起こす程の打ち合いを展開する春蘭の力は華琳達を驚かせる程に急激なスピードで成長する。

 

 

「剣の鍛練は僕が付き合いますよ」

 

「む……祐斗か。お前……中々やるな」

 

「一応三人の中では剣の心得が一番ある自負はありますからね!」

 

 

 剣の腕も……。

 

 

「うおっ!?」

 

「匙くーん、油断しちゃダメだよ!」

 

「今の彼女は並みの相手ではありませんよ」

 

「わかってる、つーの!!!」

 

「軽い、これ程に身体が軽いなど生まれて初めてだ!!」

 

 

 それはまさに進化。

 それは見ていた華琳と秋蘭にとって喜ぶべきものではあった。

 あったのだが……。

 

 

「一誠、お茶を――」

 

「春蘭様、新作の菓子です……どうぞご賞味を。夏侯淵様も」

 

「え、あ、わ、私は良いから華琳様をだな……」

 

「失礼に値するからやめろ」

 

「え? あぁ……はい曹操様」

 

「……………」

 

 

 どんどんそれが悪化している気がするのは気のせいじゃない。

 頭に来た華琳は関係ない時も一誠を引きずり回し始める。

 

 

「遠乗りよ、付き合いなさい」

 

「何故私が……」

 

「直属の配下だからよ。なに、嫌なの?」

 

「いえ別に……………チッ、メンドクセーナ」

 

「今アナタ小さい声で面倒と言ったわね? そんなに私が気にくわないわけ? 何なのそれ?」

 

 

 ドS同士だから反発し合うのか……しかしそれでも日を追う毎に妙な連携を持ち始める二人。

 

 

「俺は北郷一刀、天の御使いとして義勇軍に所属してる」

 

 

 天人と思われる男と後の蜀となる者達との邂逅。

 どうやら然り気無く話を聞いてみれば三人組の少し後に、妙な鏡によってこの地に来てしまったらしいのだが……。

 

 

「ちなみに悪鬼についてはどう思う?」

 

「悪鬼? それは考えるまでもなく敵となるだろう。

名の通りだしな」

 

「「「…………」」」

 

 

 他勢力からの評判は別に何もしてないのに滅茶苦茶悪いらしく、やはり呼ばれ方はある程度大事と理解する。

 のだったが……。

 

 

「貴様ァ! 馬鹿にするなぁぁぁっ!!!」

 

「「「!?」」」

 

 

 何故かいの一番に切れる春蘭。

 そのせいで華琳の下にその悪鬼三人が……しかも目の前に居た事を知って微妙に気まずい空気になる。

 

 

「あ、あのすまん……決して悪気があった訳じゃ……」

 

「…………」

 

「いえ別に」

 

「評判とか基本気にしないので……」

 

「ふん! 知りもせず呼び名だけで判断する愚か者が!」

 

 

 天人さんに謝られて取り敢えず矛を収める春蘭だが、完全に劉備達を敵認定してしまった様だ。

 そして始まる劉備達への問答なのだが……。

 

 

「あ、あの……」

 

「ん、何かしら?」

 

「あ、い、いえ……その、そちらの黒い衣服のお方は俺の世界で言うところの執事みたいな格好なのですが、一体彼は……」

 

「あぁ、執事なら知ってるわ、何せ彼は元の時代ではその職についていたのだからね」

 

「へ、へー……?」

 

「………………」

 

 

 できるだけ劉備達の視線を無視し、物凄い早さでお茶と御茶請けの準備を済ませる一誠。

 既に自作で紅茶まで再現し、クッキーまでも再現し始めたのか、席につく劉備達にもついでに振る舞うと評判は良かった。

 

 

「お、美味しい……初めての味なのだ!」

 

「普段の茶より薄いが口当たりが良い……なんという茶なんだこれは?」

 

「こ、紅茶にクッキー……ひ、久々すぎて涙が……!」

 

 

 感激する中、涙まで流す天人さんは口々に一誠へと礼を言うのだが、そのせいで一誠の体調は最悪だ。

 

 

「…………」

 

「あ、あのー?」

 

「あぁ、すまないわね、彼は見知らぬ他人と話をするのが苦手なの。

気分を害したのなら代わりに謝るわ」

 

「い、いえそんな!」

 

「…………うっぷ」

 

「お、おい一誠大丈夫か? 外にでるか?」

 

「い……いえ……」

 

 

 滅茶苦茶に顔色の悪いのを心配して外に出るかと気遣うレベルにまでは春蘭に信用され始めてる一誠は断り、それでも手早く、口に出すまでもなく華琳の身の回りの世話をせっせと焼く姿は最早プロ根性の塊ともいうべき執念だ。

 

 例えば、話をする途中で空となった再現させたカップを華琳がほんの少し前に出せば……。

 

 

「先ず聞いて置きたいのは、貴方達が何を目的として義勇軍を率いているのか、ね」

 

「…………」

 

(すげぇ、即座に対応してるし……)

 

 

 音すら立てずにいれたりする。

 もうとにかく相手側にしてみれば華琳の王としての大きさをまざまざと見せつける演出を滲み出していた。

 

 

「まあ、連携については劉備の言うとおり、ある程度打ち合わせすれば問題ないわね………一誠」

 

「はっ……こちらに」

 

「ん、ありがとう」

 

 

 ただ呼ばれただけで華琳の求める物を即座に手渡したり……。

 

 

「な、何だか気味が悪いな……あの男は」

 

「曹操さんに名前を呼ばれただけでなんでもしてるって凄いようななんというか……」

 

「まるで操られた人形みたいなのだ」

 

「ちょ、ちょっと俺も理解できない……」

 

 

 ハッキリ言って気持ち悪かった……というのが常人判断だったらしい。

 

 

「オロロロロロロ!!!?!?!」

 

「よく耐えた! よく耐えた!」

 

「凄かったよ!」

 

「悔しいがあの時ばかりはお前に負けた!」

 

 

 でも実はその後、物凄い勢いでリバースしていたなんて知らずに……。

 

 

「義勇軍と連携!? アンタなんで断らなかったのよ!」

 

「俺に聞くな……流れで何かそうなったんだよ。ほら、天人だったか? それが軍の中に居て、曹操曰く連中を『試す』らしい……ぐぅ」

 

 

 物凄い気性の激しい軍師に罵られ……。

 

 

「そ、そこを何とかするのが直属配下の仕事でしょうが! 一から考え直さないといけない私の身にもなりなさいよ!」

 

「じゃあお前が言えや! オゲェェェ!!!」

 

「ちょっ!? だ、大丈夫?」

 

「く、くそ……す、少し休めば治る……うぅ……」

 

「な、治るって酷い顔よ? 背中擦れば良いの? こう?」

 

 

 だけど、直属配下として色々と頑張りすぎたのを体調の悪さで物語ったせいかちょっと優しくされたりと……。

 

 

「うぅ……」

 

「殆ど寝ずに居るからよ、私が知らないと思ってるの?」

 

「別に寝なくても俺は活動でき……うっぷ」

 

「バカ、そんな体たらくで言ったって説得力なんて無いわよ。華琳様には言っておくから今日は休んでなさい……ほら!」

 

「ぐぅ……」

 

 

 そんな軍師と何時知り合ったのか……それは少し前というか次回以降になるかもしれない。

 

以上、似非予告




補足

以外にも最も早く無意識に引き上げられ始めたのは彼女だった。

故にこんな……。


その2
楽しい相手と察知したら急にベラベラ喋るのがこの執事の悪癖。

つまり、どことなく華琳様と馬が合う。

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