元々そんな話など信じるつもりなんて無かった。
しかし結局は探してしまう辺りは私もまだまだかもしれないし、結果的にいうなら見つかりはした。
不思議な衣装に身を包む、あの胡散臭い占い師曰くの恐らくは悪鬼三人の方を。
最初私は一人という御しやすいというのと響き的に天人を拾えれば良いと思っていた。
何せこの悪鬼と思われる三人の男――内二人、私と同じ髪の色をした男と三人の中では多分一番御しやすいだろう男はともかく、唯一着ている服などが違う茶色の髪をした男はまっっっっっっっったく! 口を開かないのだ。
開いたとしても仲間の二人にだけだし、試しに此方から話し掛けてみても、目すら合わせず仲間を介して答える始末。
態度からしてまず面倒な性格をしてるだろうというのは聞くまでもなくわかるし、お陰で春蘭がすぐに目の敵にしてこの先本当に大丈夫なのかが不安になる。
いっそ下につかせず野に放ってしまったほうが良いかとも考えたけど、他の誰かに勧誘されたらそれはそれで面倒なので、取り敢えず監視という意味で下に付かせる事には成功したけど、今度は別の問題――つまり三人が使えるか使えないかだ。
「三人の中で一番腕が立つのは誰?」
「「それは……」」
「………………………………」
聞けば三人は未来からこの地に意図せず降り立ち、その未来では兵として活動したらしい。
それはつまり闘う事に関しては問題ないという解釈なのだろうけど、この目で見るまで私は信じない主義なので三人の中で一番強いのが誰なのかを聞いてみた。
すると何と無く三人が三人『自分が一番だ』とでも主張した挙げ句争いでも起こるのかなと思っていたのだけど、意外な事に他の二人が揃ってあっさり誰が一番腕が立つのかを視線を向ける事で教えてくれた。
そう……一番読めない無口な男であると。
「なるほど日之影だったわね? アナタこの春蘭と戦ってみなさい?」
少し面倒に思えたけど、逆にある程度闘う姿を見れば何か掴めるのではないかとさっきからずっと三人に敵意を剥き出しにしてる春蘭をけしかける。
勿論そんな私に対して日之影は全く視線を寄越さず、具合の悪そうな顔色をしたまま人形の様に突っ立ってたのだけど……。
「おい! 何とか言え!!」
「………………………チッ」
「!? 何だその態度は!?」
始めて見せた反応は春蘭に向けて、しかも舌打ちという無礼な態度だった。
勿論春蘭は激怒するのだけど、これは良い流れだと判断した私は即座に兵達の修練場に連れていき、皆の前で軽い模擬戦を行わせてみた。
結果……最初に抱いた感想はただただ落胆だった。
「姉者の攻撃を避けてはいますが……姉者はまだ本気ではありませんね」
「そうね……もう少し何かあると思ったけど避けるのが精一杯って様子だし、見込み違いだったかしら?」
いっそ簡単に春蘭を手玉に取れたのなら驚けたけど、辛うじて逃げてる様にしか見えない動きに力を隠してる等という様子は見えない。
「避けるって行動をとるなんて……」
「普段なら何もしなくてもあの女の振り回す得物がへし折れるのに、今の日之影はそこまで弱体化しちまってるのかよ……」
ただ、仲間の木場と匙が気になることを呟いていたのを聞いてなければそのまま止めていた程に日之影の力は春蘭に劣っていた。
そうこうしている内に春蘭の一撃が日之影の頭を捉え、膝を付く。
「ふん、三人の中では一番に腕が立つと言っても所詮この程度か……」
「これまでですね華琳様」
「そのようね、はぁ……過大評価しすぎたかしら?」
「「……」」
心底驚いた顔の木場と匙は気にはなるけど、もしかしたら一番腕が立つと言われた日之影の力量が単に春蘭に劣っていただけの事なのかもしれないと思い始めた私は手を挙げながら春蘭の勝利を宣言しようとした――その時だった。
「…………………して、やる……」
「む? 何だ負け犬、言い訳なら後で――」
「殺してやる……」
日之影の包む気配が明らかに変化した。
恐らく春蘭や皆も気づいた筈……だからこそ挙げかけた手をそのまま卸してもう一度見に回ろうとしたのだけど。
「ブチ殺すぞクソがぁぁぁっ!!!!!!」
日之影は完全にそれまでの無機質な態度から豹変し、まさに占い通りの悪鬼を思わせる形相で雄叫びをあげた。
「っ!? な、なにアレ? 日之影の髪の色が……」
「赤く……? アレは姉者の一撃による出血で染まってる訳ではないようですが…」
春蘭の妹である秋蘭も日之影の変化と纏う強烈な圧力に表情を強張らせていた。
それほどまでに日之影の変わり様は凄まじかったのだ。
「ギャン!?」
「…………」
そして驚くことに今度は日之影が春蘭を地に沈め、意識を失わせた。
余りの状況の変わりの速さに不覚にも私はしばし鮮血の様に髪か染まり、瞳孔が開いた目で目を回して気絶する春蘭を見下ろす日之影を見ていたら……。
「おい」
「っ……!」
その時初めて日之影の目と私の目が合い、一言勝敗はどっちだ? という意味だと思われる声を発した。
「しょ、勝者日之影……」
思わず私は日之影が勝ったと宣言してしまい、周りもそれに対して不満を出すものは居なかった。
「っう……」
「お、おい大丈夫か日之影!?」
「あ、頭から血が……!」
「問題ありません。
ありませんが……くく、見ましたか? 笑えなくなるレベルまで落ちてますよ私は。
もしも転生者のクズと鉢合わせすれば間違いなく死ねます……くくくっ!」
立っているのは日之影で、地に伏せるは春蘭なのだから。
「か、勝ちましたね姉者に……」
「そうね……」
「兵達が動揺してますが……」
「そうね……」
「華琳様……?」
決して使えない名ばかりの存在では無いことだけはわかった。
けどそれよりも私は、秋蘭の声すら曖昧に返答できなかった。
「あの、どうかされましたか?」
「………あの目」
「目?」
日之影の目……あの目の奥に私はひとつの景色が見えた気がした。
広大な大地にただひとつ堂々と天まで伸びる巨大な大木……。
きっとこれは気のせいではないと思う。
いえ、というより生まれて初めて確信できる事なのかもしれない。
「秋蘭、春蘭と日之影を治療させなさい。
彼等は何がなんでも仲間にするわよ」
「え……あ、は、はっ!!」
自分にとってが当たり前だけど、周りにとっては異常と思われる程の『同じ何か』を……。
探し物をやっと見つけた。
自責の念に苛まれない居場所を。
何故ならその男は異様な戦いを見せる異邦人で私と同じ……。
結果的にいうと一誠的には最悪な気分だった。
何せ一般人に毛が生えた程度の女に追い込まれ、無理矢理肉体のリミッターを外して何とか勢いで叩き潰せたのだから、弱体化の度合いが大きすぎるショックは計り知れない。
これは恐らく現段階だと元士郎や祐斗にすら劣るだろう……とすら。
「改めて我が軍に歓迎するわ匙、木場、日之影」
「え、一誠くんだけじゃないのですか?」
「俺と木場には試験的なものは?」
「無いわ。日之影が春蘭に勝った時点で私はアナタ達にもそれに準ずるものがあると思ってるから」
「…………」
「姉者、そう拗ねるな」
「拗ねてなどない! ふん!」
しかしそんな一誠の焦りとは裏腹に、曹操達的には合格であったらしく、三人は武官として曹操軍の配下へと収まった。
春蘭こと夏侯惇が悔しげに一誠を睨み散らしてる辺り、どうやら大した怪我は無さそうだ。
それだけ一誠の弱体化が深刻だった。
「勿論ただの配下ではなく我々の直属の配下として迎えるわ」
「直属? 何故ですか、僕達は外様から来た余所者なのに……」
「一番したっぱの方が、他の人達的にも不満が出ないと思うんすけど……」
「……………」
乱神モードの興奮で初めて曹操と目を合わせたっきり、再び人形の様な能面顔となった一誠の代わりに祐斗と元士郎は直属配下という上位の位置に配属される件に他の者達への示し的な意味で断ろうとするが、どうやら既に一番めんどくさそうな春蘭すらも納得させた様で、その言葉を悉く却下していく。
「私の配下達がそんな器の狭い者達だとでも? 既に全員が納得しているわ。
まぁ……日之影は正直気味悪がられてるけど」
「………………」
「気味悪がられてるって……そんなの……」
「ただ模擬戦しただけじゃねぇかよ……ここでもやっぱりそうなのかよ?」
下の者達の殆どが、今は茶へと戻ってる一誠の髪の色の変化を含めた出で立ちを気味悪がってると、若干残念そうに話す曹操に、当の本人は無表情そのままで代わりに祐斗と元士郎は身に覚えがあるように毒づく。
「なるほど、その反応からしてアナタ達の故郷でも日之影はそういう目で見られてた訳ね?」
「……。勿論仲間である僕たち以外ですがね」
「殆どはそうっすよ」
力を示す度、家族として構い倒してくる者達以外からは化け物扱いされ、腫れ物の様に扱われる一誠を思い出して苦い表情の二人。
勿論この二人にそんな感情は皆無だが、やはり元の時代では気味悪がられる比率が圧倒的だ。何せ殆どの悪魔からすらそう思われてる。
「だけど少なくとも私やこの子達はそうは思わないわ。
そんな感情を持って逃げるなんて私の道には無いわ」
「………………」
「そうですか……」
「なら良いですけど、途中でやっぱり気味悪いなんて言ったら俺達はあんたを許さないぞ?」
「結構よ、春蘭と秋蘭もそうよね?」
「ふん、さっきは偶々負けたのだ。次は負けん!」
「私も同意だ」
「…………………」
もしやと思ってたけど、この人達ちょっと変わってるな……と、一誠に寧ろ挑み掛かる気満々の春蘭や、ヘラヘラしてる秋蘭や、クスクス笑ってる曹操こと華琳を見ながら祐斗と元士郎は取り敢えずホッとする。
結局直属配下にされるのは断れなかったが、逆を返せば情報を収集しやすい意味では決して悪ではない。
「慎んでお受け致します曹操様」
まだ信用できる訳じゃないのはお互い様だけど、落ち度としてはここら辺が妥当だろうと、コミュ障抜群の祐斗が最初に膝を付いて頭を下げ、それに続いて元士郎が慌てて同じように頭を下げる。
一誠までギリギリ最後まで嫌そうな態度だったが、それでも形式だけという事で頭を下げる事で曹操の配下へと降る事になった。
「よろしい。では直属配下となったアナタ達三人とこれから真名を呼び合いたいのだけど……」
一応一誠も頭を下げたのに満足したのか、曹操は頷くと、三人にとっては聞きなれない言葉を放つ。
「? 真名?」
「なんすかそのマナってのは?」
「…………?」
当然真名という概念を知らない三人は一誠を含めて怪訝そうな顔をする。
その反応は当たり前なのだが、どうやら曹操達にとっては違うらしく、心底信じられないと目を見開いた。
「真名を知らないの? 本当に?」
「驚いたな……いや、寧ろ今の反応でお前達が天から来た事が信じられてきたよ」
「ただ嘘を言ってるだけじゃないのか?」
「いえ、本当に知りませんし……」
「恐らくは木場様、白音様の様に表沙汰にしている名とは別の名前の様なものではないかと……」
「あ、そういや何度か別の名前で呼びあってたっけ?」
「…………。本当に知らないのね?」
元の時代の仲間の一人に例えた一誠に納得はしたものの、やはりそれでも分からない三人に曹操が説明をする。
真名とは心を許した者だけに呼ぶ事を許す特別な『真』実の『名』であり、その名はこの時代に生きる彼女達にとっては非常に大事なモノで、許可無く呼んでしまった場合、斬り殺されても文句は言えない。
「――簡単に言うとこんな感じね」
「本当に重要ですね……」
「あっぶね……さっき俺口走りそうになったぜ……」
「……………」
曹操の説明を受けた三人は取り敢えず別の名前が耳に入っても絶対に口に出さないことを頑なに誓う。
もっとも一誠の場合はそれ以前の問題だが……。
「それで話を戻すけどアナタ達の真名は?」
「いや、別に真名というものはありませんが……強いて言うなれば祐斗が真名ですかね?」
「それだと俺は元士郎か?」
「……………………」
「さっき料理屋で話をした時の名ね? …………………そういえば私、あの時呼んでしまったわね」
「だ、大丈夫です華琳様! 奴等は真名を知らなかったのですから! そうだよな貴様等!?」
「え、ええ……別に斬り殺すなんて物騒な事をする程とは思いませんし……」
「お、おう」
「…………」
真名が春蘭である女性の曹操を庇いながらの血走った目に祐斗と元士郎は首を縦に振る。
「でも初対面で呼んでしまった事に変わりは無いわ。ならば私はアナタ達に真名を授ける……良いかしら?」
とはいえ、我の強い曹操は納得せず、そのまま己の真名である華琳で呼ぶことを許そうと三人に口を開きかけた――
「待った」
―――その時だった。
「……何かしら?」
「一誠くん?」
「おいどうした急に?」
それまでただ静観していた一誠の声に自然と全員の視線が一誠へと集中する。
その中を内心『やべ、吐きそう……』と胃液が逆流するのを感じながらもそれを抑え、一誠は再び二度目になる上座に座る曹操を真っ直ぐ見上げながら言った。
「この二人にその真名というものを授けるのは構わない。だが俺は断るぞ」
「………なんですって?」
「おい貴様! どういう意味だ!」
貴様等を真名では呼ばない。
立場が立場なら不敬ともいうべき物言いに曹操――否華琳の目付きが変わる。
だがそんな華琳の威圧めいた視線に対して一誠は屈する事も無く言う。
「心を許した間柄にって説明を聞いた以上は、俺は断るって言ったんだ。
笑わせるなよ? たった一晩でそんな間柄に――呼び合える程心を許し合えるだなんて曹操――お前だってわかってるだろう?」
「…………」
「あー……あー……一誠くん……」
「ま、まあお前はそうだわな……うん」
要するに、頼まれれば要人警護から暗殺までしてやれるが、心を許し合う証は御免被るぜ……と、他人嫌いが爆発した一誠の言い分は確かに理には叶ってる。
しかし空気的には多分間違ってた。
「それにそこの側近二人だって嫌だろうに……だろ?」
「む、いや別に私は華琳様に命じられればな……」
「私もな! お前はアレだが!」
「ふん、ほらな……真名ってのは偉い奴に命令されたら教えなきゃならんものなのか? それで神聖? 笑わせるなよ」
「「む……」」
「………」
ハラハラする元士郎と祐斗を背に一誠は多分ここに来て初めて嫌味に嗤った。
「曹操、一応現状はアンタの下に居る事にはなった。
命じられりゃあ邪魔な奴等を暗殺するのだって吝かじゃない……。俺にとってアンタはただそれだけの相手でしかないんでね、だから俺にその真名ってのは必要ない」
「……………………」
力を封じられても尚変えられない自覚しためんどくささを全開にしながら、真っ向から啖呵を切る一誠に華琳はある種の感心をした。
「真正面から逆らう男を初めて見たわ、でも確かにその言い分は間違いではないわ」
「か、華琳様! こんな奴の戯言なんて……」
「黙ってなさい春蘭。では日之影に問うわ、どうすればアナタは真名に相当する信頼を向ける?」
騒ごうとした春蘭を黙らせてからの華琳の質問に一誠は一言言う。
「そんなものなど……この先があったとしても一切無い」
死ぬまで心は許さない。
たった一言辛辣に返した一誠の目は確かに華琳達に一切の心を許さないものを感じた。
「そう……わかったわ」
「いい加減にしろ貴様! どこまで華琳様を侮辱するつもりだ!」
「真名云々は別にしてお前の言い方は見過ごせないぞ?」
「す、すいませんすいません!」
「こいつかなり面倒な性格なんです! 最初はこんなんですけど、一度でも認めれば律儀というか献身的になるんでホントに!」
それを受けて華琳は小さく俯く中不穏な空気となったのを察知した祐斗と元士郎が必死にフォローする。
そんな中を小さく俯いていた華琳は……。
「私の真名は華琳よ」
「あ?」
それでも構わず、授けるとか関係なしに独り言の様に己の真名を口ずさんだ。
思わず変な声が出てしまう一誠達……。
「聞いてなかったのか? 俺は――」
「これはただの独り言よ。
私はね、自分の失敗の責任を放棄できるほど大人では無いわ。
どうであれあの時私はアナタ達の真名に相当する名を口にしてしまった。
ならば私が出来ることは斬られること――だけどここで死ぬわけにはいかない。だかこそアナタ達には真名を耳に入れさせる」
「華琳様……」
上座から降り、己より頭一つ以上は背の高い一誠達を見上げながら真っ直ぐな瞳で話す華琳に春蘭と秋蘭は妙な感激に震えており、一誠はヒクヒクと頬の筋肉を痙攣させていた。
「今わかった……お前、相当に面倒だな」
「でなければ今の時代渡れないし上に立つ事はできないわ。性分よこれは」
「チッ……アイツ等みたいな……」
「誰の事だかは知らないけどこれで貸し借りは無しよ。で? 私はアナタ達を真名に相当する名で呼んで良いのかしら?」
小柄ながらも確かに感じる王の気迫を放った微笑みに一誠は目を逸らす。
「…………勝手にしろ、だが俺は呼ばねぇ」
「あ、構いませんはい……」
「お、俺も……」
それはきっと華琳に初めて負けた瞬間なのかもしれない。
「あぁ、それと配置を変えるわ。
元士郎と祐斗は春蘭や秋蘭を含めた直属の武官として登用するけど、一誠……アナタは私直属に遣えなさい」
「…………………はぁ!?」
「「わっつ!?」」
「「華琳様!?」」
そして奇しくも華琳は一誠に対して命じたのだ。
「私だから許したけど、他の者にそんな態度は許されないわ。
見る限りそうとう屈折した性格だし矯正とまではいかないけど私が直々に叩き込むわ、ありがたいと思いなさい?」
「なりません華琳様! こんな男を華琳様のお側に置くなど!」
「そこの女に同意だな。
ふざけるなよ、誰がテメーの執事の真似事なんぞ……」
「しつじ? 良い響きね、気に入ったわ。一誠、アナタは今日から私の執事になりなさい」
「聞けよ!!?」
元の時代でしている仕事と同じ事を。
「凄いですねあの方は……」
「一誠の感情をもう引き出し始めてる……」
「当たり前だ、華琳様は天下を制するお力を持つ方だぞ? 気難しい男の一人や二人すぐにでも手玉に取れるさ。
それにしてもあわてふためく姉者はかわいいなぁ……」
「………。あ、アンタも大概だな」
性格は違えど、ある種ヴェネラナやグレイフィア……セラフォルーとタメが張れるだろう我の強さに、一誠はひたすら辟易するのだった。
終了
究極に最悪な環境に投げ落とされた一誠。
元士郎から
『いや、もう無理だろ……』
と文字通り匙を投げられたせいで、本当に執事の真似事をこの世界でもしなければならなくなった。
最初は勿論何を言われても唾でも吐いてやろうとしていたのだが……悲しいかな15年近くグレイフィア達に仕込まれたものは裏切れなかった。
「そ、曹操様……お茶です」
「あらもうそんな時間? 一休みしましょうか」
春蘭に命を狙われる勢いで睨まれる中始まる執事タイム。
それは悲しいかな数日もしない内に華琳にとって痒いところに手が届くでは済まされない有能さが発揮されてしまい……。
「あら美味しい……」
「確かに……これはお前の居た時代で習ったのか?」
「ババァに無理矢理―――いえ、何でもありません……クソが」
「ごくごく! もっと寄越せ一誠!!」
「悲しいかな、職業病の如く有能さが滲み出ちゃってるよ……」
「これ、会長達が知ったら後が怖いんじゃないか?」
「確実にまずいよ……」
下手に有能なせいでどんどん使われる一誠。
それは街に出るという華琳に無理矢理付き合わされても変わらない。
「これなんかどうかしら?」
「知りません」
「ならこれは?」
「興味ございません」
「……………。ちゃんと評価して貰わないとわからないのだけど」
「知るかボケ、何時の時代の女も同じような行動しやがって……」
なんかどう見ても現代的なものを少し取り揃えてる服屋に付き合わされ……。
「それはこう読むのよ、ほらもう一回」
「木場と匙に教えて貰うから要らな――」
「はいまた間違えた、罰として肩を揉みなさい……」
「こ、このアマ……殺すぞいい加減……!」
デジャビュを感じる事をさせられ……。
そして――
「これがアナタの言う魂の力……ね。不思議だわ……それまで解ってた気になってた一誠の事が本当の意味で解る」
「…………………。何やらかしてんだろ俺……」
王の器は無限の進化を封じられた青年により真なる覚醒をする。
「神滅具にスキルのハイブリッド……完全に俺の上位互換かよちきしょう……!」
「来なさい一誠、アナタの封じられたすべてを取り戻す手伝いをしてあげるわ」
「アナタ、ウチに遣えない?」
「へ?」
「いやぁ、曹操にだけ三人も居るし、劉備さんの所にも一人居るしでウチってだぁれも居ないのよねー? どう?」
「いやどうって言われても……」
裏で勧誘される匙や……。
「あ、どうも……なんというか、大変ですね色々と」
「あぁ、何で私ってこうなんだろう……」
普通と言われる不運な女性と妙なシンパシーを感じて何か仲良くなる木場も忘れてはならない。
おわり
補足
なんてこった! 華琳様がナイス配置をしてしまった! お陰で職業病がががが……。
その2
執事的仕事なら本当に身体が勝手に動いてしまうレベルでグレイフィアさんとヴェネラナさんに調教――叩き込まれてしまったらしい。
その3
一度完全に認めてしまうと、引くほど律儀で献身的になる。
つまりツンギレからツンデレになってしまう。
その4
黄昏の聖槍に王たらしめるスキルのハイブリッド……=チート。