別に特になんもない
完璧な強さ。究極の力。
そんなものに意味は無し。
力とは常に進化させてこそ意味があり、無力に苛まれてこそ進化という道を見出だせる。
故に俺が与えた道は完成では無く未完成。
完璧では無く、不完全。
限界では無く、限界突破。
それが正しいのかどうかなんて知らないし、誰かが決めた正しさなどに興味はない。
餓鬼の頃、そう思うことに決めた俺は常に復讐と、アイツを独りにしない為だけに生きているのだから……。
だけど思う事がひとつ……。
「鶴喰鴎だっけ? 俺に対して何を確かめたかったのかは知らないし、グチグチ文句言ってるのも大半聞き取れなかったからスルーしとく。
けど、一個言わせろ……『邪魔するな』」
「………。いやー別に邪魔とか私するつもり無いというか、単に私安心院さんにパシられてキミとキミの後ろで呑気にたい焼き食ってる人の『今』を見に来たんだというか……。てか何オマエ? 然り気無く
善吉さんってさ、飲み込み速すぎだろ。
本当にどんどん強くなっちまって俺はもう開けちゃいけない扉開けちゃった感満載なんすけど、つかこの鶴喰鴎って人………誰だっけ?
「あ、不知火さんもたい焼きをどーぞ」
「あざーす!」
…………。あ、スタイル使いだ! ちょっと思い出した。そんな話を結構前に聞いた事あるわ。
あ、そーだそーだ。獅子目言彦の力もスタイルっぽいから何とか獲られた俺が忘れてるとかアホかってんだよな?
「聞きたいんだけど、キミ達はどうする訳? 黒神めだかを倒して何がしたいの? …………って、私にしてみれば全然興味とか無いんだけど、あの人が聞け聞けと煩いから一応質問とかするスタイル」
「アイツを倒した後の事なんて別に特に考えてない。
完全に元に戻れなくなったらそれまで、卒業するまでのんびりとさせて貰うつもりだ」
「無計画かよめんどくせー……で、そっちの人は?」
あ、鶴喰ってのが俺見てる……あ、いや目線は逸らしてるけど。
てか何か……うーん、嫌いじゃないかもこいう奴。
「俺? 俺はアレだよ、過去のなじみに対して嫌がらせするのに飽きたら自分の居た場所に帰るつもりだけど?」
「えー!? 卒業まで居ないのかよ!?」
「は? いやちょっと待ってよ善吉さん。俺そんな話してないんすけど……」
「人吉懐きすぎでしょ……まあ、わからなくもないけど」
適当に飽きたら帰ります的な話を目線逸らしまくりの鶴喰鴎君に話した途端、何故かショック受けた顔をする善吉さんに何故そんな話しになってるのかがわからずにちょっと困惑。
てか卒業するまでって、俺後二年弱も居なきゃならんのかよ? 流石にそこまで長居したらなじみの奴に強制帰還とかさせられるだろうし……こりゃ無理――
「折角友達になれたのに………」
「――――居るわ! てかアレっすわ! 戸籍存在してないの利用して転校とかするのもアリっすかね!?」
無理だと思ったけど、まさか……いやホントまさかボソッと呟いた善吉さんからそんな言葉が聞こえるとは思わなかったというか……やっべ、やべーよ、嘘だろ? 善吉さんと友達とかヤバくね!? ドライグこれヤバくね!?
『俺に聞かれてもな……』
いやそうかもしれんけど、ヤバくね!? テンションがめっちゃ上がってる自分自身もヤバくね!?
「私は放置プレイか」
「あ、いや……キミのお陰で俺今テンションが良い意味上がったわ。
ありがとう、えっと鶴喰君だっけ? ありがとう、キミのおかげて俺はこの世界に吹っ飛ばされた意味をやっと得られた! お礼に是非この白たい焼きを……」
「…………」
やったねドライグ! 俺ドライグを抜かしたら男の友達生まれて初めてだよ!
『あぁ、そうか……。単純な奴……』
「今の私では善吉には届かない」
文字通り小指のみで一誠にあしらわれ、尚且つ道を示されためだかは、生徒会のメンバー――そして小競り合いをしていた筈の安心院なじみ達が集まる前でそう宣言した。
「無力という気持ちを知ってたつもりでも、私はまるで知らなかったのと同時に、今更になって善吉の気持ちが分かった」
『……』
対・兵藤一誠……と言っても過言では無い集まりとも言えるこの面子。
普通であった善吉を極限までに引き上げ、尚且つ不知火半袖という厄介な人材までも手懐けたという意味では、最早安心院なじみも黒神めだかも小競り合いをしてる暇すら無くなっており、めだかはどうにかして善吉に振り向いて貰う。安心院なじみは――
「僕がアイツを丸め込めってか? 人選間違ってるだろ」
兵藤一誠を取り込む。
それが勝利条件であった。
「『うーん』『まさか安心院さんと徒党を組む事になるとはね』」
「恨むなら僕の邪魔をし続けるアイツを恨みたまえよ球磨川君。
お陰で僕の計画はめっちゃくちゃになっちゃったしね」
そう解放された左手をヒラヒラさせながら安心院なじみは一見すると穏やかに笑っている。
が、内心はめちゃくちゃ腸が煮えくり返ってたりする訳で、過去とはいえ安心院なじみを知り尽くしてるといえる一誠の底意地の悪さが中々に光っていた。
「でもどうするの? 安心院さんが目論んでた人吉を主人公にして黒神さんにぶつける計画にしても、ある意味達成してるような……」
「だったらどんなに良かった事かとだよ喜界島ちゃん。
人吉君は確かにめだかちゃんに勝利できるレベルになってるけど、それって結局は主人公というよりは
似て非なる……僕にとっても相当厄介な場所に引きずり込まれたのさ……アイツに」
「兵藤一誠……ですか。
前々から思ってましたが、彼は一体何者なのでしょう? 未来から来たとか何とかとは聞きましたが……」
そもそも兵藤一誠という人物自体があやふやであり、いつの間にか善吉を取り込んでしまっていたというのと、スケベなイメージしか出てこない。
特にこの前善吉がめだかを下した際に着替えを見られてしまった女子面々からしたらドスケベ野郎のイメージしか沸いてこないので、本当に彼が善吉をそこまでのレベルに引き上げたのかがキナ臭くて仕方ないのだ。
「実力に関しては確かだ。私は文字通り小指ひとつで無力化させられたからな」
「『小指と来たか』『確かに未来の安心院さんの下に付いてるを自称するだけはあるね』」
だがめだか自身が肯定すれば、その場に居た全員は神妙な顔で黙るしか無い。
「一番簡単なのはアイツを口説き落とすよりも早く未来の僕に突っ返すのが早いと思――」
だからこそ、奴を止めるにはとっととこの世界から追い出すしかないと現代なじみは言うが。
「善吉さん強い~強い~♪
善吉さんマジパネェ~パネェ~♪」
集まりに使ってる会議室の外の廊下から、棒コーホー帝国のマーチっぽいトーンの替え歌が聞こえ、やがて遠ざかっていくのを聞いてしまい、なじみは本当にもうムカムカして仕方なかった。
「良いよわかった。やってやるよ、小僧ひとりたぶらかすくらい訳無いぜ」
だからこそ安心院なじみは勢い混じりで言ってしまったのだけど……。
「『無理じゃない?』」
「……………」
最近一誠のせいで精神に不安定な面が出てしまったのか、球磨川のその言葉に若干ムッとしてしまうにまでなっており、この時もついムキになってしまった。
「嘗めるんじゃないぜ球磨川君。
安心院さんに任せなさい、明日の朝には奴は僕に――」
「ふひひゅうひへ」
『!?』
やってんやんぜと意思表明をしようとしたその瞬間、何時だったか終業式の時に球磨川がめだかにしたのと同じ様な感じで後ろから音も無く姿を現し、なじみのぽっぺたを玩んでいたのだ。
そのあまりの神出鬼没さにその場に居た者は硬直してしまう。
「よぉ、誰が誰を服従させるだって? お前がやんの?」
「ふぇみゃみゅみゅ」
「兵藤一誠……」
離せと訴える顔をするなじみに対してニタニタと嫌がらせしてまっせなニヤケ顔でぽっぺたをこねくりまわす一誠の出現方法に今更感はあったが、それでもさっき廊下でアホっぽい歌を歌いながら通りすぎたと思ってただけに不意打ちを貰った気分にさせられる訳で、相変わらずあの安心院なじみに対する嫌がらせのやり方はプロ級だ。
「あ、黒神さん。先日はどうも」
「………」
「心配しなくても善吉さんは元気でやってますぜ……ってか、生徒会の仕事はまだ続けてるしそれは知ってるか」
クスクスと笑ながら、漸くなじみの頬をつまんでた手を離したかと思ったら、今度は頭をポンポコ叩き始める一誠の行動がシュール過ぎて言葉が全然頭に入らない。
「おい、いい加減やめて貰えるか? 僕は玩具じゃないんだよ」
安心院なじみがかなりムッとしながら抗議の声を出すことでやっと止むのか……と思えば。
「んー? やめろねぇ? やめない方がお前に対して嫌がらせになりそうだし……やめまっせーん!!」
物凄い良い笑顔で断り、おでこに向かって軽くぺしぺし叩き始める始末。
こんな男を果たして今の安心院なじみが御せるのか、そして取り込めるのか――――見てる面々の共通の考えは『無理だろ』であった。
「善吉はどうしてるのだ……?」
「ええ、あの人は何時も通りよ。
今日もまた進化したし、その内俺もぶち越えちゃうかも……」
結局安心院なじみを使って遊びながら始まるトーク。
勿論めだかは最初に善吉の事について聞いてみるのだが、返ってきた言葉はめだかは焦りを覚えさせるものであった。
「善吉はどこまで行ってしまうんだ……」
「あの人の意思がある限り無限大って所かなぁ……」
「無限って……」
「比喩でも無ければ誇張でも無いぜ。あの人は今自分を受け入れた事で本当の進化を遂げている。
さっきだって、今までだったらまず勝てなかった相手にも勝ったしねぇ……」
ツンツンと物凄く嫌そうな顔をするなじみの頬をつっつきながら一誠は自分の事のように楽しく善吉の進化についてを話すと、今度はなじみに向かって底意地の悪い笑顔でこう言い出す。
「ね、悔しい? 善吉さんが全然コントロール不可能な所に俺が引きずり込んだの悔しい? どんな気持ち? ねぇねぇ教えてよぉ~?」
「……………」
「あぁ、良いねその顔。未来のお前じゃまず見ることも出来ない苦虫噛んだその顔たまらないよ。
あぁゾクゾクする、楽しいよ……ひひひひ!」
「最低な性格だなお前……」
「でなきゃアイツと一緒に居ないさ。それに、未来の事とはいえ俺をこうさせたのは未来のお前自身なんだぜ?」
だから俺は悪くないと一誠は言う。
「あぁ、本当に良いわその顔。それが見たかったんだぜ俺は、やっばいなこれ……シャクシャクしてやりてぇ……」
ある意味となるが、一誠は安心院なじみが大好きなのかもしれない。
それこそ『喰ってやりたくなる』くらいに……。
「ま、そういう訳だから黒神さん……この前言った通り今までは追われてたキミが、今度から逆に善吉さんを追う側になった事を自覚し、そこから先をどうするかよーく考えろ。
でなければあの人に追い付くのは一生掛かったって不可能だぜ?」
『………』
全てはただの嫌がらせの為。そして近い内に訪れる英雄との死闘の為。
兵藤一誠はただわが道を行く。
終わり。
完成で満足することなかれ。
その言葉を受けためだかは、その日以降、ある意味以前以上に善吉に拘り始めた。
「混神モードか。それだけ俺に本気を示してくれる様になったとはね。
だけど――――」
俺は更にその先に行く……!
一誠というイレギュラーによる、進化を続けていた善吉は日に日にその強さを強烈のものとし、最早全力で挑むめだかを大きく受け止め、そしてはね除ける大きな壁となっていた。
「どうしたんだよ。お前ならもっと上に来れるだろ? 完成なんかで満足するなよ、生徒会長なんだろお前は?」
「く……ぅ……」
デビルスタイルでは無く、ジ・エンドゼロ。
人吉善吉の領域はもはや全世界に存在する異常者・過負荷の概念を超越し始めていた。
そして――
「生で見るのは初めてだよオリジナルゥ……!」
「げげげげ! 儂の模倣とは新しいぃ!!」
始まるは最狂最悪の戦い。
「む、何故止める。貴様と戦うのは新しい。もっとやるぞ」
「そうはしたいんだが、生憎お前を仕留めるのは俺じゃねぇ……」
「「俺(アタシ)達だ……!」」
降り立つはイレギュラーにより進化を果たした少年と次代の依り代だった少女。
それは本来見定めた目的でもあり、終わりでもあり――
「過去の僕でも一誠は渡せないな」
「冗談じゃないぜ。ここまでひっかき回された責任として寄越せコノヤロー」
「ダメだな。アイツは僕のものだし、そろそろ試しにアイツから種でも貰おうと思ってるんだ。
ふふ、産まれるのは一体どんな子になるか、地味に気になるんだぜ?」
「鍋島先輩でもナンパしてこよ――――ぐへぇ!?」
「「おい、逃げるなよ?」」
修羅の始まりだった。
「うるせー! ステレオで迫ってくるんじゃねぇ!! 俺はもっとボインなおんにゃのこが良いんじゃい!!」
おしまい
補足
ぶっちゃけ正直、嫌がらせしまくってる理由も小学生の男子がクラスの女子にちょっかいかけるそれと何ら変わらない………のかもしれないけど、端から見たら安心院さんに対してエグいレベルで執着してるだけかもしれない。