あまりにも堂々としてるせいなのか、食堂で謎の体調不良者大量続出の原因がルイズの使い魔のせいである事がバレないまま普段の授業へと戻ったのはルイズにとってホッとする事だった。
コルベール辺りか勘付く気もしたが、コルベール本人は特に何を言うでも無かったし、他の教師も疑ってくることも無し。
そして被害を受けたギーシュ筆頭である生徒達は恐怖を本能で忘却させでもしたのか、誰一人として体調不良になった前後の記憶がない。
まさに奇跡が重なる事でルイズはお咎め無しというフラッグを走り抜けてゲットしたとも言えよう。
「え、実力を見たい?」
「そう。取り敢えずアンタ達が『ただ者』じゃないのはよーく分かったけど、どこまで只者じゃないかを見極めておかないと、この先めちゃくちゃにされたら堪ったもんじゃないわ。
だから力を見せなさい、加減するラインを指摘するから」
「なーるほど、ちょっとは信じてくれる様で使い魔の甲斐があるってもんだぜご主人様」
しかしあんなハラハラする体験は二度としたくない。
そう考えたルイズは、今まで半信半疑としていた三人の使い魔の力を把握する為、この日の休日……つまり虚無の曜日にて力を見せろと命じ、それに対してイッセー、曹操の二人は了承したのだけど……。
「それって三人ともじゃないといけないのか?」
その事に対して消極的な事を軽く手を挙げながら言う少年が居た。
そう、ヴァーリだった。
「当たり前でしょう? 三人の程度を知って加減すべき所を指摘するんだから」
「……だよな」
「あぁん、どうしたヴァーリ? なんかあるのか?」
「そうだそうだ、お前最近主が授業を終えると一人でフラフラ何処かへ行くし、付き合いが悪いぞ?」
「………。うん」
ルイズ、イッセー、曹操の三人から怪しまれる様に見られるヴァーリが誤魔化しにもなってない曖昧な返事をする。
別に特に自分だって隠す事なんて無いとは思うのだが、言ったら言ったでまずイッセーが大騒ぎするだろうし、曹操は余計な事ばっか言い出してイライラするだろうし、ルイズは例のツェルプストーという女と関わるなと口酸っぱく言うのを考えて、文句を言ってくるだろうし………と、考えた結果、ヴァーリはひょんな事から関わる事になったとある女子からの教えについてを秘密にしようと考えていた。
「わかった、だがちょっと待て。少し出てくる」
「出てくるって何よ? 何処かに用事でもあるわけ?」
「やっぱお前怪しいな……?」
「昔からお前は冷蔵庫に入ってるプリンが一個しか無い時コソコソして盗み食いをしてたが、今まさにそんな雰囲気を感じるぞ?」
「違う、別に何でも無い。とにかく少し待ってろ」
怪しむ三人に対してそう素っ気なく返したヴァーリが部屋から出ていく。
「……。絶対何か隠してるぜアイツ? わかるもん」
「何を隠してるのかまではわからんが、無理に聞こうとすると機嫌が悪くなるからなぁ……」
「ご主人様の私に隠すっておかしいでしょう……でもまあ、イッセーと違って他所の女に鼻の下伸ばすタイプじゃ無いのはわかるから良いんだけど……」
「おいおい、ご主人様。そりゃ無いぜ~」
どう見ても怪しいと踏む三人だが、数分待たずしてヴァーリは戻ってきたので、取り敢えず当初の予定を終わらせ様と四人は外へと出る。
行き先は誰にも見られなさそうな平原か何かなのは勿論だ。
一方その頃、食堂での一件からすっかりルイズの使い魔が只者通り越した何かという認識を持ったツェルプストーことキュルケは、ルイズを先頭に使い魔三人の計四人が学園の外へと向かう姿を窓から見た。
「あら、使い魔三人とお出掛けとは意外ね……」
窓から見える四人の姿は一見すれば普通というか、楽しそうに見えなくもない光景であった。
それがキュルケにしてみれば微妙に負けた気分にさせるのは云うまでも無く、色気もへったくれも無かったルイズをちやほやするハンサム気味な使い魔三人という構図が地味にツェルプストーとして悔しいのだ。
それこそあの食堂での一見で三人の内の一人で、どうみても自分に鼻の下を伸ばした茶髪の……確かイッセーという男かは放たれた重苦しい殺意を受けて当初は軽く恐怖を感じたが、結局のところそれもこれもルイズをギーシュから守ったという行為に行き着く訳で、食事の時も執事が如くルイズをちやほやしていると思えば、恐怖よりもルイズに対する対抗心が勝ってしまうのだ。
さて、そんな訳で話は逸れたが、とにかくルイズが本日虚無の曜日に三人の使い魔と楽しくお出掛けする様子を見たキュルケは、取り敢えず何をするのかが気になって仕方なかった。
なので、その様子を見てやろうと考え尾行を思い付き、部屋を飛び出すと、足早にとある場所へと向かう。
その場所というのはトリステイン魔法学園の図書室的場所であった。
キュルケ自身好き好んで活字だらけの本を読む趣味もなく普段滅多に来る所では無いが、来たのにはそれ相応の理由があった。
「タバサ、出掛けるわよ!」
それは休日だろうが何だろうが暇さえあれば本ばっか読んでる友人のタバサを引っ張り出してやるからという理由であり、案の定虚無の曜日なのに静かに本を読んでた青髪でルイズよりも更に小柄な少女、タバサは本から目を話さずに小さくボソッと言う。
「今日は虚無の曜日」
「そんなの私も知ってるわ。けど年から年中、虚無の曜日でも本ばっか読んでてもつまらないでしょう?」
「別に思わない」
あっさり返すタバサにキュルケはハァとため息を吐く。
まったくどうしてこう、ルイズといいタバサといい自分の友人は引きこもり気質なのか……。もっとこう少しくらい年頃の女らしいことに興味を持てよと内心突っ込むキュルケは、取り敢えず一緒に来て欲しい理由を言ってみる。これで駄目なら大人しく諦めようと思いつつだ。
「いえね、ルイズが使い魔三人を連れてお外に出たのを見たのよ。で、この前の事もあって地味に気になるから、尾行に協力して貰いたいと――」
あの体験の生還者同士だから少しは理解してくれるか……とちょっと期待しつつ最後まで言おうとしたキュルケに、それまで小難しい本を読んでいたタバサが即座に本を閉じた。
「すぐ準備する」
そして表情は乏しいが臨戦態勢よろしくな目をすると、窓を開け口笛を吹く。
「あら、そう……。急にやる気になった?」
「別に」
「いえでもさっきと偉い違いというか……え、なぁに? まさかあの三人の中に気になる相手でも――」
「どっちに行った?」
そのやる気たるや、キュルケの茶化しをもスルーする勢いであり、『きゅいきゅい』と鳴きながらタバサの口笛に応じてやって来た大きめの竜の背中に窓から飛び移るアグレッシブさも見せた。
「え、ええっと……流石に方向までは見てないわ」
え、なにこの子怖い……。と急過ぎる態度の変わり様に軽く引くキュルケだが、どうであれ協力を貰えるのならとキュルケもタバサの使い魔であるウィンドドラゴンの背に飛び移る。
「ルイズと使い魔三人。今すぐ探す」
『きゅい!? きゅいきゅいきゅい!?!!?』
「……………? シルフィードの様子が変じゃない?」
やる気・元気・イワキ状態のタバサがかなり簡潔に使い魔のシルフィードに捜索命令を出した途端、シルフィードが急に鳴き声を大きく出した。
それはなんというか……めっちゃ嫌がってる様に見てなくもないとキュルケは内心思った。
「いいから行く」
『ぎゅいぎゅいー!!!(だ、だめなのお姉様! あの三人は危険! 特に茶髪と銀髪はシルフィより怖いドラゴンなのー!!)』
「……ねぇタバサ? すっごい嫌がってる気が――」
「行く、良いから……早くっ!!!」
見える気がするどころか、どう見ても嫌がってる風にしか見えないシルフィードに流石のキュルケも可哀想かもと口を挟むが、タバサは一切聞き入れないどころか、地味に感情的にもなっていた。
『きゅいー……。(ぐすん、お姉様は鬼畜なの。もしかしたらシルフィが食べられちゃうのに)』
が、結局主には逆らえず、まるで養豚場の豚さんがバラ肉にされる前の最後の鳴き声の如く弱々しく泣くと、そのままバッサバッサと数百メイル程上昇するのだったとか。
本当に何にも無い開けた平原が学園から遠く離れた場所にあり、そこに文字通り降り立ったイッセー、ヴァーリ、曹操。
「相変わらずメイジじゃないのに普通に空飛んでくれるのね」
「だってこっちの方が早いでしょ?」
「まぁね、ありがと……」
基礎的な飛行の魔法も使えないルイズをイッセーが横抱きに抱えてた体勢から降りたルイズは、一面に広がるなーんにも無い平原を見渡し、人が居ないかの確認をする。
「居ないわよね?」
「うーんと……居ないな」
「あぁ、確かに人の気配は無い」
「獣の気配はあるがな」
地面を軽く拳で付ながら、人の気配が無いことをルイズに報告する三人に小さくうなずいたルイズは、早速とばかりに命じる。
「じゃあ見せて………いや、違うわね。まずは私の質問に答えなさい。
まず三人に剣などの武器の心得は?」
「あるような無いような……」
「俺もだな。その場の状況で変えるし」
「俺はあるぞ。槍だけど」
元の世界でこの三バカを知る者が見たら、驚くだろう光景。
小さな少女の命令に普通に従い、言われた通り質問に答えるというシュールな光景だが、それに一々驚くメンツがこの世界には存在しない。
「ソウソウは槍術の心得があるとわかったけど、ヴァーリとイッセーは曖昧ね」
そんな光景の中始まる実力鑑定だが、槍の心得があると答える曹操とは違ってどっちでもないような答えを返すイッセーとヴァーリにルイズは困った様に呟く。
だがルイズは知る。あ、そういう事なのかと。
「俺は本当に曖昧かもしれないが、イッセーの場合は反則じみてるんだよ」
「はぁ? どういう意味よ?」
「論より証拠。イッセー見せてやれ」
「へーい」
曹操に言われて間抜けな返事をしたイッセーが、首を傾げるルイズの足元に転がってた枯れ枝をひとつ拾う。
「枝なんか拾ってどうするのよ? アンタまさかそれを武器にするって言いたいの?」
「まあまあ主よ、言いたいことはわかるが見てみろ」
若干ガッカリした感じで言うルイズを宥めつつ、近場にあった少し大きめの岩の前に立ったイッセーは、特に構える事もなく軽く、枯れ枝を使って真横に薙ぎ払った瞬間、固い岩はいとも簡単に真っ二つに切り裂かれた。
「……………は?」
下手な曲芸なんか目じゃないビックリ現象にルイズの目が誇張なしに点となる。
「え……? は……? えぇ……?」
しかも剣で斬れたかの様に見事な切断面であり、ポリポリと頬を掻きながら間抜けな顔をしてるイッセーの手に持つしょぼい枯れ枝と切断された岩とを交互に見ているのだが、それは仕方ないのかもしれない。
だって本当に枯れ枝で切ったのだから。
「これって何? トリック?」
「こんな金も稼げそうにないトリックはしねーぜご主人様~」
「じゃあ何なのよ? ま、まさかアンタ魔法が――」
「いーや違う、イッセーは鍛練バカになった結果『ありふれた物を武器にできる』事が可能になったのだ。
例えば今の枯れ枝に始まり、主が日頃使うペンや教科書なんかでもな」
「えぇ……?」
空を斬る音をさせながら枯れ枝を振り回すイッセーの背を、曹操の補足を受けながら見ていたルイズは荒唐無稽というか、非常識というべきか、とにかくそれまで持っていた価値観を壊されて、驚くよりかはどちらかというと軽く引いていた。
「だけどご主人様もやろうと思えば出来るぜ?」
「無理に決まってるじゃない……」
「いや、イッセーの言うとおり主にはその才能がある。
魔法の事はよくはわからないが、少なくとも主は確実に俺達側の才が秘められている」
そしてそんな才能が自分自身にも備わってると軽くカミングアウトもされてしまい、ルイズとしては果てしなく複雑だ。
「ご主人様には是非俺達と一緒に鍛えて欲しいんだけどなー?」
「嫌よ。なんでメイジが杖も使わない戦いをしないといけないのよ……」
「それはそうかもしれないが、会得して損は無いと思うぞ? それにもし主が俺達を抑えられるだけの領域になれたら、それこそ使い魔という体である今の状況から本当の主従関係になれるかもしれないし……。(イッセーが)」
「だな。言い方が悪いかもしれないけど、今のままで居るつもりなら俺達はご主人に興味を失いある日突然元の世界に帰る可能性もある。
だが、もしご主人が覚醒したら、俺達はまず興味を失うことは無いし、それこそ曹操の言うとおり儀式をした上での使い魔にだって逆に頼んでまでなりたがるだろう。(イッセーが)」
メイジらしくない才能があると言われても全然嬉しくなく、当初は鍛えるなんて真っ平ごめんと突っぱねていたルイズに、三人は……特に曹操とヴァーリは言葉巧みに内心イッセーを生け贄にして誘導する。
「う……で、でもどうすれば良いのよ?」
しかし本当の主従関係という言葉に釣られてしまったルイズは渋々といった様子ながらも若干前向きな事を言い出す。
現状三人との間にはルーンという明確な主従関係は結ばれてないで、あくまでも進級の為にお情けでなって貰ってるのに過ぎない。
だからこそルイズにとってみればその言葉はとてもとても誘惑的な響きだったのだ。
「言っとくけど私、走ったりとかそんなに得意じゃないわよ?」
「一応女の子のご主人様にいきなりそんな汗くさい事はさせないよ。
まずやることは『自分を知り、それを受け入れる』事さ」
力を見せて貰うつもりが、いつの間にかルイズ覚醒修行になってしまったこの状況に突っ込みを入れる者は居らず、こうしてルイズは三人によってメイジとかいう領域を八段階は軽く飛び越える領域への第一歩を三人から背中を押される形で踏み入れてしまったのであった。
「あら、街でお買い物でもするのかと思ったらあんな寂れた平原で何をしてるのかしら?」
「………」
その頃、血走った目でルイズ達を捜索していたキュルケとタバサは、シルフィードから見下ろす上空から四人を発見し、その動向を観察していた。
「……………。イッセーって子が岩を切り裂いたわね……武器でも隠し持ってたのかしら?」
「…………」
「きゅー……」
単純に遊んでるのかと思っていたキュルケにとっては少々拍子抜けする展開であり、少し退屈しつつイッセーがちょうど岩を真横に切り落としてる所を見る横で、タバサがまるでショーウィンドウに飾られてる宝石を食い入るかの如く見ていて、そんな主を背に飛んでいるシルフィードは早く逃げたいと小さく鳴いている。
「まさかルイズったら、魔法の才能が無いからって生身で何とかしようと思ってるのかしら?」
「…………」
楽しくお出掛けしてるとかなら軽く邪魔をしてやろうと考えていたのが、普通に身体を鍛える様な真似事をしてるルイズの様子にキュルケはつまらなそうに呟いていると……。
「よぉ、誰探してるんだ?」
「「「!?」」」
突如、その場にはいないはずの第三者の声がして、2人は弾かれたように後ろを振り向いた。
それは先程……いや、今自分達が驚いて振り向くまでルイズと一緒に居た筈の、三人の中ではそれなりな容姿の少年ことイッセーだった。
いつの間にか、何故か、どうしてなのかはわからないが、瞬間移動を思わせる速さで上空からシルフィードを使って盗み見ていたその背に乗り込んできたのだ。
慌てて地を見てみると、ルイズと曹操とヴァーリが真っ直ぐ80メイル程上空に居る自分達を見上げてる。
「……………。って、なんだご主人様の友達の……ええっと、そう! ツェルプストーさんじゃないか! おいおいこんな所でどうしたんだよ!」
別に悪いことをたくらんでた訳じゃないけど、気まずい気分になってしまうキュルケとタバサだったが、タバサ……では無くキュルケと認識したその瞬間、イッセーはわっかりやすい程の溢れんばかりの笑顔を見せて何やらハイテンションとなった。
そう、イッセーはキュルケみたいな女子はドストライクなのだ。
「え、ええっと、ごきげんよう……?」
「ちーっす! いやぁ、いいっすねぇ! いや、もうホントいいっすねぇ!! ヒャハー!!」
ビクビクするシルフィードや、無言で何か言いたげなタバサを無視してキュルケに対してめっちゃ露骨な態度を示すイッセー。
どうやら何かされる心配は無いとホッとするキュルケだが、ふと下を見るとルイズが物凄く嫌そうな顔をしてるのが見える。
取り敢えず観念して降りてはみるが、この分じゃ開幕一番にルイズから『帰れ』とでも言われるだろう。
そう思うと若干わくわくするキュルケなのだった。
「………何しに来たのよ?」
「ルイズが使い魔の男の子三人を連れて楽しそうにしてるから、軽くからかってあげようかと思ったのよ」
「暇なのねアンタ。だけどおあいにく様、アンタの思ってる様な事は無いわよ」
案の定、顔を見せるや否やどう聞いても歓迎してませんな態度のルイズを見て、内心ほくそ笑みながら悪びれずにキュルケは返しつつ、ふとタバサを見ると、タバサは何故か例のイッセーの前に立ってじーっと身長の差もあって見上げている。
「おいイッセー、知り合いか?」
「知り合いじゃない。そもそも名前も知らんし俺」
「じゃあ何でこの女はお前を見てるんだ?」
「さぁ? そんなもん聞かないとわからんし―――――って事で聞くけど何?」
タバサの性格上、ああして自分から何かを訴える事は殆ど無いのを知るキュルケは若干驚きつつもどことなく納得した。
そういえばルイズと使い魔の三人を尾行するって話をした瞬間、急にアグレッシブになってたし、その理由もどうから三人……というより、自分の胸を見て鼻の下伸びまくりのわかりやすいイッセーなる彼が気になるらしいとキュルケはちょっと面白いとニヤリ。
「………。これって修行してたの?」
「は? そうだけど……それが何?」
「………。ルイズに教えてる?」
「そうだが、それが何だっての?」
キュルケがルイズの癇癪を適当に受け流しつつタバサを見てニヤリとしてるのを背に、さっきから質問ばかりするタバサはというと、ルイズに対してこの前見せられた力を持つ彼が教えをしているという事実に、反応をする。
「……。この前言ったけど、ルイズに教えるついでに私に……」
「はぁ?」
「この前だと? おいイッセー、やっぱり知り合いなんじゃないか」
「しかも様子からしてお前、この女に力を見られたのか?」
「偶々だよ偶々……というか、断ったのに諦めてなかったのねキミ」
「…………」
ヴァーリと曹操が『本当に小さい奴に懐かれる奴』と半笑いで言われ、イッセーは舌打ちしつつ『ルイズにあやかって教えて貰いたい』的な目をしてるタバサに、いっそ残酷なまでの一言を送る。
「はぁ、分かった。そこまで言うなら敢えて言う。
俺は別に意地悪で教えたくない訳じゃない。良いかいお嬢さん、キミに教えずご主人様に教える理由は二つある。
まず一つ、あの子……つまりルイズは一応俺達のご主人様であり、そして俺達側の才を秘めているから。
そして二つ目は―――キミにはその才能が欠片も無い」
「…………………!」
あの日の夜、完璧に打ちのめされた時に思いしるメイジでは無い強烈な力。
それこそ世界を、自分の措かれたどうしようもない状況をもひっくり返せるだろう力。
その力をもし獲られるのであれば、それこそ何でもしたいとすら思っていたタバサは、ハッキリとルイズにはあってお前には欠片も無いと言われてしまい、思わず目を見開きながら放心してしまった。
「ちょっとちょっと、聞いてたけど私の友達に酷いんじゃないの?」
「いやー……俺も言いたくはなかったんだけどー……下手な希望を持たれるよりかは……ねぇ?」
「ていうか、アンタ達側のそれって誰でも持ってるじゃないんだ……」
「そりゃそうだぜご主人様。てかまだ何とも言えないけど、今んところご主人様だけだぜ? 俺達側の才があるのって」
「喜んで良いのか悪いのか……微妙ね」
「……………」
むっつりとした顔をするルイズに対して、タバサは生まれて初めて心の底から嫉妬した。
欲してる自分には無く、そんなに関心の無いルイズにはあるなんて……こんな理不尽があって欲しくないと。
「まぁだからつまり、残念だけどキミは魔法一本で頑張った方が良いと思うぜ? つーか大体そもそも、得体の知れない相手に教えて貰うって思うかね?」
「…………」
「アンタこの子と何時知り合ったのよ?」
「えーっと前の夜に一人で軽く運動してる所を見られちゃってさ。で、急にバトル申し込まれて………って感じ?」
「なるほど、その時お前は加減はしたけど相手の心をへし折るようにして下したと……」
「有り体に言えば。そしたらこの……えっと、タバサってのにとって俺の力がツボに入ったのか、教えろ教えろと。
てっきり諦めてくれたと思ったんだがねぇ……」
大きめの杖をきゅっと握りしめるタバサに見向きもせずペラペラ話すイッセー。
これがもしボッキュンボンだったら早々にしてお前に才能は無いから諦めろとは言わないだろうが……それは今は関係ないだろう。
「どうしても……無理?」
「無理だね。そもそもどっちにせよ優先度はご主人様だし」
「ちなみに私なんかは……?」
「無いけど、キミだったら僕ちゃん何でも教えまーす!!」
「………」
いや、関係あるかもしれない。
タバサには酷な事だが、イッセーの性癖はキュルケみたいなタイプなのだから。
自分でも何故そこまで拘ってるのかは分からない。
分からないけど、タバサはあの日の夜見た力がどうしても欲しかった。
その力があれば全てを取り戻せるかもしれないと……。
「治療できる力ってある?」
「は? 何だ突然……治療?」
「例えば、病気になった人とか呪いを掛けられた人を何とかできちゃう力みたいなの……」
その力の中には大好きな者を救えるものがあるかもしれないと。
心を閉ざしても尚求めるそれを持っている可能性を感じたタバサは、学園へと帰る途中、思いきって聞いてみた。勿論イッセーにだけしか聞こえない声で。
「治療か……傷を治りを早めるくらいは出来るけど、病気やら呪いは無いかな。
…………。まさかキミの周りの誰かがそんな感じになってるの?」
「…………」
「沈黙は肯定と取るぜ? なるほどだからか。
そっか、そういった理由があった訳か……なるほどね」
「……………」
「曹操もヴァーリも俺も完全に戦闘タイプだからな。
その呪いだか病気だかがどんなのかを見ないことにはわからんけど……うーん」
「………。気にしてくれるの?」
「そりゃ一応……。単に力だけ欲しがると思ってただけに、理由が理由だったからな……うーん」
意外な事に普通に考えてくれてる様子のイッセーにタバサは少し意外な気持ちになる。
そういった力は無いけど、深くは聞かずに察してくれてるという事も含めて、タバサは意外だったのだ。
「あんまり聞かれたくないみたいだから大きな声は控えるけど、その病気だか呪いってどんな特徴?」
「…………。毒を盛られて心が壊れた」
「幻覚作用の薬物か何かか? 譲渡して無理矢理薬の効果を乗り越える領域に引き上げる……いや、流石にそれは都合が良すぎだな」
いっそヤケクソで聞いたのが思いの外効いたのか、割りと真面目に考えるイッセーに思わずタバサは聞いてみた。
「気にしてくれてる」
それまで、ていうかさっきまでめんどくさそうな態度だったので余計に疑問に思ったタバサの一言に、先をキュルケと言い争いしながら歩くルイズや、何やら一人ボーッとしてるヴァーリや曹操の列の最後尾を歩くイッセーは『うん』と一言発してから続けた。
「この前ちょっとやり過ぎた感があるというか、キミが力を欲しがった理由も今知った訳だからさ。
まあ、なんつーの? お詫び?」
これもまたムシの良い話だけど……と締めながら難しそうに唸るイッセーにタバサはじーっと見つめ、理解した。
彼は正直に向かい合えばそれ相応に返すタイプなんだと。
「アザゼルさんだったら何とかしてくれそうなもんだけど……うーむ」
「…………」
今度から少しだけ彼に正直になろう。タバサはひそかに決意するのだったとか。
終わり
そんなこんなで少しイッセーに対して正直になってみたタバサ。
だが問題が発生した。
「ご主人様がめちゃんこ不機嫌なんだ。何でだ……」
「そりゃお前、最近暇になるとあのタバサなる女とコソコソと何かしてるからだろ」
「何をしてるんだ? ヴァーリもだが」
「いや、俺は別に特に……」
「俺も別に特に……」
ルイズが怒ってしまった。
理由が理由なだけに安易に話せないぜ口ごもったせいで余計に怒らせてしまったイッセーは、最近お外で眠ることになっていた。
「まいったね、ご主人様に怒られちゃってさぁ。でも理由も言うわけにもいかないしさぁ」
「あの、ごめん……」
「え? 良いよ良いよ、キミは別に関係ないしね。
そんな事よりキミの器を俺の譲渡に耐えられるレベルに広げる事が先決だ。
助けたいんだろキミの大事な人?」
部屋を追い出されて外で寝てると知ったタバサが謝るが、イッセーはヘラヘラ笑いながら気にするなと返す。
これは共通する事だが、イッセーは一度そうなると相当に献身的になる。
それこそ自分の事は二の次となり、その相手の為に動こうとし、その時のイッセーに損得という考えは無くなっている。
だからこそ型に填まればモテる可能性はあるのだが、本人にその自覚も無ければこの態度が浮き彫りになる相手が興味なしな体型や男相手なのでモテる事は無かった。
「どこで寝るの?」
「そこら辺。まあ、野宿にゃ慣れてるし」
だからこそ、興味の無いちんまいのに懐かれるイッセーだが、この日その特性は遂にこの世界でも発揮される事になった。
「それなら私の部屋を使って良い。協力してくれたお礼」
「おぉ、良いのか? ラッキー」
本人にしてみればラッキー程度の話だった。
そう、ラッキー程度だった……。
「あ、あ、あんた! だ、誰の部屋から出てきたのよ!?」
「え? あ、いや……外で寝てるって言ったら貸してくれるっつーから……」
「それでホイホイ何でついていくのよ!!」
「だって出きれば屋根のある部屋で寝たかったし……」
「ルイズの思ってるような事にはなってない。けど多分、そうなったら私は抵抗しない。
それだけイッセーにはお世話になってる」
「!? な、なんですってぇ!?」
「いててて!? 爪先はらめぇぇ!!!」
どう足掻いてもちんまいのにばっかり懐かれるイッセー。
だから元の世界では本人は否定してるにも関わらずロリコンと呼ばれるのだ。
「ヴァーリはモンモランシーと何かやってたし! ソウソウはメイドと遊んでるし! ご主人様ほったらかしてどいつもこいつも!! アンタはキュルケみたいなのが良いんじゃないの!?」
「そりゃ当たり前じゃん! てか何か誤解してない!?」
おしまい
補足
人外嫌い世界と違い、全然マイルドな為、実の所割りと誠実だったりする。ただし正直である相手にのみですが。
故に思いきって力を求める理由を話したせいで、タバサさんはイッセーにロックオンされましたとさ。
かわいそー(棒)
その2
幻実逃否を持ってたら即解決だったという……。しかし無い。アザえもんことアザゼルさんも居ない。
災厄の三バカ故にパワーバカなんでそういうのも無い。
故に考えた結果…………協力し合う。