色々なIF集   作:超人類DX

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随分前のネタの続きだけど、続けるかは反応見てから。


三バカの三バカ行動
三バカのおバカな使い魔生活


 ひょんな事での追いかけっこをしたら、何と異世界へと辿り着いてしまった三バカ。

 名を一誠、曹操、ヴァーリ……という、知ってる者からしたら災害持ち込み三バカと呼ばれるくらいには一々やんちゃである大人になれそうもない子供だ。

 

 そんな三バカが前時代を思わせるテイストの、貴族制度が浸透しきってる魔法使いがいる世界にて、魔法は上手くないけど態度のデカい小さめな少女の使い魔なんてやる事になった訳だけど……。

 

 

「使い魔には証であるルーンが身体のどこかに刻まれるみたいだが……」

 

「嫌だよ、彫り物みたいだし銭湯入れなくなりそうじゃん」

 

「いやそれ以前に使い魔の契約としてキスか何かするのだろう? ご主人とは形式上ってままで良いんじゃないか?」

 

 

 この三バカの一個人戦力が、軽く世界征服可能なレベルであるという、ある意味で爆弾みたいな存在を果たして呼び出した少女――つまりルイズはきちんと手綱を握れるのか……。

 

 

「ご主人様、野菜も食べようぜ? そらあーん?」

 

「ひ、一人で食べられるわよ!!」

「バランス良く食べないと身体悪くするぞ? それあーん?」

 

「それに胃にも宜しくない。ほらあーん?」

 

「だ・か・らっ!! 私は子供じゃないの!!」

 

『……………』

 

 

 多分! 大丈夫かもしれない……。

 

 

 

 

 ルイズの暫定的使い魔になり、ルイズ自身が魔法とは別に自分達側の才がある事を確信した三バカことイッセー、曹操、ヴァーリは、周囲の生徒からゼロのルイズとバカにされるご主人にせめて『魔法はアレだけどそれなりに使えそうな使い魔を三人も呼び出した』という構図を見せ付ける為、洗濯、掃除、ご飯等々、ルイズに命じられる前に動いてアピールポイントを稼いでいた。

 

 誰に対してのアピールかは三人とも良くわかってないし、どこかがズレてるけど。

 

 

 しかしどうであれ、顔は其々整ってはいる三人の男子にチヤホヤされてる様に見えなくもない構図な為、多感な女子生徒の一部は地味にルイズを羨ましがっていたりしているので決して効果がまったく無いという訳でも無さそうだ。

 

 

「うーん、何がいけなかったのだろう?」

 

「ワインボトルを持つ手が駄目だったのだろうか?」

 

「それともご主人に無理矢理野菜を食わせようとしたのがダメだったか?」

 

 

 恥ずかしくなったルイズに食堂を遂に追い出されてしまった三バカは、ルイズのが出てくるのを待つ為に食堂の扉の横で駄弁りながら立っていた。

 自分達側という事もあり、その才の自覚をして貰うために割りとノリノリで使い魔の真似事をしていた三人に何が駄目だったのかなど無神経故に気付かず、揃って首を捻っていると……。

 

 

「最低!!」

 

 

 という誰かの怒声が食堂から聞こえ……

 

 

「っ……ふっ……!」

 

 

 無駄に大きな食堂の扉を蹴破る勢いで開けられると、顔も名前も全然知らない金髪でドリルな女子が口元を押さえて涙を流して出ていってしまった。

 

 

「……なんだ?」

 

「女の子が泣きながら行っちゃったんだけど」

 

「ふむ、とするとその原因は食堂にあると見たが……」

 

 

 不味い飯にでも当たっちゃったのかしら? と他人事宜しくに考えながら開けっぱなしの食堂から中を覗いてみる三バカは、丁度此方から見て真ん中辺りに多少の人だかりと……。

 

 

「さようなら!!」

 

 

 その人だかりから今度は栗毛の少女が涙を堪えながら覗いていた三バカに気付いてない様子で通りすぎていく。

 

 

「? 何だよ、この世界は女は泣かなければならない風習でもあるのか?」

 

「んな訳ねーだろ、あの子達二人ともマジで泣いてたし……」

 

「じゃあ何かがあったと言う事だが……」

 

 

 泣いて去った二人を見てヴァーリがボケを噛ますのに突っ込みつつ、再度食堂を覗く三バカ。

 一体全体何があったのだろうか……なんて軽い野次馬根性で覗いた三人の目に飛び込んだのは。

 

 

「ゼロのルイズ。キミが軽率に香水の瓶を拾ったお陰で二人のレディの名誉に傷がついた。どうしてくれるのかね?」

 

「はぁ? 私はアンタが寝ぼけた台詞吐いて落とし物にも気づかずに居たのを拾っただけじゃない。

アンタの二股がバレた事と関係ないわ!!」

 

 

 多分、おそらく、きっとこの騒動の中心人物と思われる貴族の小僧と、その小僧相手に怒りを爆発させているルイズの姿があった。

 

 

「その通りだギーシュ! お前が悪い!」

 

 

 どうやらギーシュという名前らしく、その少年の周りのギャラリーが何の事だかは知らないが笑い出すと、ギーシュの顔にさっと赤みが差した。

 

 

「良いかいゼロのルイズ?

僕は君が香水の瓶について言ってきた時、知らないフリをしたじゃないか。

ならば話を合わせるぐらいの機転があっても良いだろう?」

「何でアンタごときに私が気を使わないといけないのよ」

 

『そりゃそうだ!』

 

 

 周囲も何時もはゼロとバカにするルイズの肩を持つので、ギーシュはますます悔し気な顔に少し歪む。

 

 

「なるほど、ゼロのルイズらしい無神経さだ。確かさっきまで三人の平民を使い魔と評してあれこれさせてた様だが、ふん、サモン・サーヴァントの魔法すら使えないからってそこら辺に居た平民を使い魔代わりにするのは如何にもゼロのルイズらしいな」

 

「……! あの三人はちゃんと私が召喚したのよ! 今の言葉取り消しなさい!」

 

「フッ、図星を突かれて怒ったのかいゼロのルイズ? 所詮出来損ないのゼロか……」

 

 

 ギーシュの言葉にそれまで若干肩を持ってた周囲がどっと笑う。

 それは勿論、ルイズの二つ名であるゼロをバカにした、何度もルイズ本人が味わった嫌な嘲笑。

 

 

「違う、私は本当に呼び出したのよ……!」

 

 

 香水の瓶を拾ったら責められ、挙げ句思い出したかのようにゼロだゼロだとバカにするギーシュや周囲の嘲笑にルイズはスカートの裾を強く握りしめながら、でも涙目で睨む。

 だがそんなルイズを見てますます嘲笑は深まるばかりであり、ギーシュもほんの少しだけスッとした気分に浸ったのだけど……。

 

 

「よぉ、誰のご主人様泣かしちゃってんの?」

 

「聞いてみるとご主人が責められる謂れはこれっぽっちも無いんだが?」

 

「というか、異常に腹立たしいのだが?」

 

 

 バキボキと指を鳴らしながら出現した三バカに全員の視線が一斉に向く。

 

 

「おい退けやボンクラ共……ほれ、大丈夫かよご主人様?」

 

「小さな親切のつもりがとんだ災難だったな?」

 

「取り敢えず部屋に戻って茶でも飲んで落ち着こうじゃないか」

 

「………だ、大丈夫よ……別に……」

 

 

 道を塞いでた生徒何人かを軽く突き飛ばしながら半泣きのルイズにポンポンと優しく背中を叩く三バカ。

 

 

「待ちたまえ、ゼロのルイズが連れてきた平民三人。今キミ達は我々貴族に対して無礼な言葉を―――ひっ!?」

 

 

 そんな三バカの一人が……というかイッセーが然り気無く口に出したこの場に向けた罵倒の言葉を聞き逃さなかったギーシュが、追い討ちつもりか気取った態度で話し掛けたその瞬間だった。

 

 

「あ? 無礼だとボンクラコゾー? テメーだって今このボンクラ共と一緒になってご主人様に無礼働いてんじゃねーか?」

 

 

 殺意というにはあまりにも凶悪な重圧に、ギーシュは一瞬にして顔色を死人の様に変え、その場に腰を抜かした様にへたり込む。

 勿論、それまでルイズへと矛先を変えてバカにしていた他の者達も、酷いものは先程食べたばかりの物をその場に吐き出したりもしていた。

 

 

「うげぇぇ!!?」

 

「ひぃぃ!?」

 

「た、助けてくれ!!?」

 

 

 一瞬にして阿鼻叫喚と化す食堂。

 涙も引っ込んで混乱するルイズ。

 端辺りで震える青髪の少女と赤髪少女。

 

 

「あ、ぇ……!」

 

「三数えるから今すぐご主人様に謝罪しろ……じゃないと殺す」

 

「ひぃぃ!」

 

 

 チョロチョロとパンツとズボンがびっしょびしょになって恐怖に震えるギーシュにイッセーは後ろでルイズを庇いながらやれやれと苦笑いするヴァーリと曹操を背に、カウントダウンを開始する。

 

 

「はい、いーち!」

 

 

 ただし、理不尽なが付くカウントであった。

 具体的に言うと、三数えると言ってる癖に一カウント目で大理石っぽい床をその場で踏み砕き始めたり……。

 

 

「はい、にー!!!」

 

「ひぎぃ!?」

 

 

 二カウント目で近くにあった長机を蹴りで粉々にしてみせたり……。

 

 

「はいさーん!!!!!」

 

 

 そして三カウント目でギーシュ本人目掛けて顔面をぐちゃぐちゃにする勢いのパンチを放とうとしたり……。

 

 

「ま、待ちなさいイッセー!!」

 

「ぎぇ!?」

 

「……………む!」

 

 

 まあ、それは寸前でルイズの待ったがあった為にギリギリの所で拳は止まった訳だが……。

 

 

「………………」

 

 

 ギーシュの精神は完全に潰れ、口から泡やら下半身から何やらと色々と出しながら気絶してしまったのは云うまでも無かった。

 

 

「何だよご主人様?」

 

 

 ルイズからの待ったで殺意を引っ込めたイッセーがけろっとした顔で振り返る。

 そのギャップがまたルイズにとって気の抜ける様な気持ちにさせる訳だけど、いくら何でもやり過ぎな為、注意をし始める。

 

 

「怒られるのは私なの……だから、もう良いわ」

 

「あー……すんません」

 

「ったく、頭に血が上りすぎだ」

 

「後処理が大変だぞこれは……」

 

 

 ビックリするくらいに大人しく従ったイッセーはペコペコとルイズに頭を下げる。

 確かに曹操、ヴァーリ、ルイズの言うとおり少しやり過ぎた感は否めないし、食堂に居た全員が泡吹きながら気絶してるのは大問題かもしれない。

 

 なので考えた結果……。

 

 

「……よし、バックレちまえ!」

 

 

 何食わぬ顔で部屋に戻ってしらばっくれ作戦に打って出る事にした。

 

 

「ちょ、そんなのダメに――」

 

「大丈夫大丈夫! 勝手に集団食中毒にでもなっちまった事にしちゃえば良いって!」

 

「だが備品を破壊したのはどうするつもりだ?」

 

「床も完全に作り直さないとならないし」

 

「それはアレだ……この学校は金持ち学校そうだしこれくらい経費でなんとかなるだろ!」

 

 

 言ってる事がめちゃくちゃ過ぎる言い分にルイズは勿論駄目だと言おうとしたのだが。

 

 

「じゃあそういう事で行きましょうぜご主人様!」

 

「きゃっ……! な、何してんのよアンタ――」

 

「それ、バイビー!!」

 

 

 結局一誠の勢いにより、しらばっくれ作戦に巻き込まれてしまうのであった。

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 

 ギリギリ意識を保ってた二人のルイズの同級生に目撃されっぱなしなのも忘れて……。

 

 

 

 結果的に言うと、本日の授業は生徒の殆どが謎の体調不良により休校という事になった。

 

 

「ど、どうするのよこれ! もし誰かがこの原因を話したら私は退学よ!」

 

「大丈夫だって。情報によると気絶した連中はその前後の記憶がぶっ飛んでるらしいしな」

 

「本能が記憶を封じたのだろうな」

 

「まあ、イザとなったら一誠を生け贄にしてやれば良いし、あまり気にするな」

 

 

 部屋待機で落ち着かない様子のルイズに対してお茶を入れながら呑気を言う三バカにルイズが怒鳴りたい気持ちも反面、自分の為にそうなった事もあったのでちょっとだけ怒れない。

 

 

「はぁ……もうどうにでもなれって感じね」

 

「そうそう、その意気だぜご主人様」

 

「アンタはもう少し反省しなさい!」

 

「へーい」

 

 

 しかしヘラヘラケタケタと笑うのだけは頂けない。

 これで分かった事だが、多分三人の中で一番の激情家がこのイッセーという男なのだろうと、今は呑気にゴロゴロしてる姿を見てルイズは感じ、今後コントロールしていく上でこのイッセーが要だと密かに決意するのであったとか。

 

 

 

 

 暇だから洗濯しとけ。

 と、ルイズに言われてジャンケンで決めた結果、桶を片手に水場で洗濯をしていたのは……。

 

 

「全自動洗濯機というのがどれ程に便利なものだったのかがわかる作業だ……」

 

 

 暗い銀髪少年のヴァーリだった。

 ルイズ、とついでにイッセーと曹操の衣服まで洗わされてるヴァーリの小さなぼやきは、周囲に誰も居ない事でただただ空気となって溶けていくだけであり、ゴシゴシと元の世界だったらまずやらない作業を行う姿は、知る者にしてみればシュール極まりないものだ。

 

 

『随分と順応している様だが、帰る気はないのかヴァーリ?』

 

 

 そんなシュールさを物理的な意味での間近で見せ付けられているのは、ヴァーリの中に宿る白きドラゴンことバニシングドラゴン。

 名をアルビオンというらしいのだが、幼き頃からヴァーリを見てきた一人……いや一匹というべきか、とにかく彼が小さい頃から見てきた為、高々小娘一人の衣類の洗濯を旧時代な手法でやってる姿を見るのは微妙に忍びなく、若干不満そうな声だった。

 

 

「じゃんけんで負けたんだからしょうがないさ。それに相手が単なる女なら無視していたかもしれないけど、主……つまりルイズは『ただの女』じゃない」

 

『お前や曹操、それにイッセーと同じだというのは知ってるが、アレは当たり外れもあるだろう? 俺にはあんな小娘にお前等三バカと同等のモノがあるとは思えんぞ』

 

「元の世界で最初に覚醒したイッセーがああ言ってるし、俺自身も外れでは無いものを感じている。

だからそこは問題ないし、多少はこの世界の風習に従うべきだろう? 元の時代に帰るまではな」

 

『………』

 

 

 ショーツをゴシゴシやりながらクスクス笑うヴァーリは端から見れば独り言にしか聞こえず、少々どころじゃないシュールさを放っている。

 まあ、イッセーがやらかしたお陰で生徒の殆どが医務室で魘されてるし、生徒は自室待機な為に外には居ない為、聞かれてるという事は無いので心配は無い。

 

 

「楽しみだよ、ご主人がどれくらい化けてくれるか。

俺達三人を一気に呼び寄せたのだし、あの小さな身体が嘘の様な器になると思うと……くくく、戦いを挑む楽しみが増えるってものさ」

 

『……はぁ』

 

 

 完全に化けた近い未来のルイズを想像し、三人の中では一番の『戦闘バカ』であるヴァーリはニヤニヤと、ショーツの水気を落とす。

 

 義理の父であるアザゼルに最初に拾われたのに、やってることが全部末っ子みたいな少年は実に戦いが大好きに育ったのであった。

 

 

 

 ギーシュが他の女と逢い引きしていたと知り、尊厳や何やらを全て踏みにじられた気持ちを爆発させて食堂を出ていった内の一人、モンモランシーは、何故か中止となった授業のせいでますます部屋で一人疲れるまで泣いていた。

 

 それこそ最初は浮気の真似をしたギーシュに対する怒りや悔しさだったが、次第にそんな相手に少しでも本気になっていた自分自身への情けなさとなっており、多分数年分は一気に泣きまくったモンモランシーは、フラフラと気分でも変えてみようと外へと出てみた。

 

 だけど陽射しの良い天気の良さが却って自分の抱えるネガティブ思考に拍車が掛かるだけで、直ぐにでも部屋に戻りたくなった……いや、実際戻ろうと回れ右をしかけたのだが、ふとその足は止まる。

 

 

(あれって確かルイズが召喚した三人の平民の一人……?)

 

 

 召喚されてから食堂でよく見る風変わりな使い魔の一人が、篭を抱えながらこちらに向かって歩いていくのを見つけたモンモランシーは、普段なら別段特にどうとも思わないが、ギーシュの件があって精神的に不安定だったのか、すたすた歩いてくる銀髪の少年を食い入る様に見ていた。

 

 篭を持ってるということは洗濯でもさせられていたのかしら? と内心思いつつ徐々に近づく銀髪の少年は170サントも無さそうな背丈だった。

 が、顔の方は整ってはおり、暗い銀髪と深い湖を思わせる蒼い瞳は平民である事を疑わしく思える雰囲気あった。篭を持ってても。

 

 

「?」

 

「あ……」

 

 

 そんな風に少年に対して今初めてまともに観察していたモンモランシーは、見られている事に気づいた様子の少年と目が合い、思わず声が出てしまう。

 

 別にやましい事はしてないつもりだったが、キョトンとした顔をする少年から思わず目を逸らしてしまった。

 

 するとそんなモンモランシーの態度に暫く何かを思い出そうとした様に立ち止まった少年は、『あぁ』と一言呟くと……。

 

 

「思い出した、確か食堂から泣きながら出ていった……」

 

「!? な、何でそれを……!?」

 

 

 ギョッとしながら思わず声を張り上げるモンモランシーは同時にちょっと忘れかけていた出来事を再び思い出し、軽く凹みそうになる。

 

 

「ご主人に外で待ってろと言われて待ってたら、アンタが勢いよく一人飛び出してきたからな」

 

「あ、あぁ……そういう……」

 

 

 確かにあの時、せこせことルイズの食事の補佐みたいな真似をしてたら三人揃って追い出されていたのを思い出したモンモランシーは、微妙に恥ずかしく思いながら納得する。

 何せ見られたくないものを見られたのだ。気位の高いモンモランシーからしたら軽い屈辱にも近い気持ちだ。

 

 

「そうか、アンタともう一人の女は直ぐに出ていったから無事だったな」

 

「何のことよ?」

 

「……いや、何でも無いこっちの話だ。

ところでアンタは何を? うちの主の話によれば授業が中止になって部屋で待機するって話らしいが?」

 

「…………」

 

 

 平民の癖に口の悪い男ね……と内心思いつつ、少年の質問にモンモランシーは軽くうつむく。

 まさか失恋して泣き疲れ、部屋にいるだけで気分が沈むから気晴らしに外でボーッとしようとした……とは、こんな初対面の男に話す内容では無かった。

 

 

「べ、別に、授業が何でか無くなったから少し外にでもと……って、何で一々平民のアナタに答えなきゃいけないのよ?」

 

「確かにそれもそうだ。うん、すまん……邪魔したな」

 

 

 ついつい強気で高圧的な態度に出るモンモランシーは、そんなメンタルも無いのに無理をしてる感満載であった。

 それを察したのかどうかはわからないが、銀髪の少年は律儀にペコリと小さく頭を下げながら謝ると……。

 

 

「えーっと……あ、これで良いか」

 

「?」

 

 

 何を思ったのか、周囲をキョロキョロし始め、やがて何かを発見し、その場に向かった少年は、何と地面に生えていた何の変哲もない小さな花を土から引っこ抜くという謎の行動に出た。

 

 何をしてるんだろうと、思わず凝視していたモンモランシーだが、戻ってきた少年の行動に固まった。

 

 

「深くは聞かないが、取り敢えずこれで元気でも出した方が良いんじゃないか? アンタの顔、かなり辛そうだしな」

 

「……………」

 

 

 何の変哲もない単なる雑草にも近い花をモンモランシーに向かって差し出しながら、銀髪の少年は元気付ける言葉を言ったのだ。

 

 

「…………」

 

「む? おかしいな、イッセーやアザゼルに言われた通り、弱った女にはそれなりの対応をしろと言われてやってみたんだが効果がまったく無さそうだ」

 

 

 ギーシュに比べたらお粗末どころかアホにも思えるやり方に暫く弱ったメンタルも忘れてポカーンとしているモンモランシーに少年は首を傾げる。

 

 だがそれもやがて小さく肩を震わせたモンモランシーが大笑いすることで変質する。

 

 

「ふふっ! な、なによそれ? あ、あははははは!!!」

 

「……?」

 

「いやキョトンとしないでよ、も、もうだめ……あはははは!」

 

「……? よくはわからんが成功したみたいで何よりだ。失敗したら曹操とイッセーに嫌味言われてしまうしな」

 

 

 ネガティブな気持ちが吹っ飛び、腹まで抱えて笑うモンモランシーに少年は特に気を害した様子も無く、寧ろ成功したんだと認識してうんうんと頷いている。

 それがまた可笑しくてモンモランシーは笑う訳だけど、その時だけは嫌な気持ちは全て消えていた。

 

 

 それを機に不思議な縁を感じたモンモランシーは、案の定主と残りの使い魔二人の衣類を洗濯した後で部屋に戻るという少年を引き留め、広場の木陰に腰を下ろしながら、まともに会ったばかりの少年相手に殆ど愚痴にも近い話をした。

 

 

「要するにその男がアンタともう一人とで二股をしていたと?」

 

「そうなのよ! まったく私を何だと思ってるのかしら……!」

 

「だから主がその男の落とし物を拾っただけで絡まれたのか……」

 

 

 ぷんすか怒るモンモランシーの話を意外にも普通に聞き手となっていた少年……ヴァーリは小さくふむと呟き、食堂での出来事の理由を理解する。

 

 

「だからアンタは泣いてたのか。イッセーに忠告する事が増えたな」

 

「誰よイッセーって?」

 

「主に召喚された内の一人……茶髪の男だ。アイツは相当の女好きだからな。言っておかないとそのギーシュとやらと同じ末路でも辿りそうだ」

 

「ええ、言っておきなさい、フラフラしてる男の数程女は泣くってね」

 

「ああ……」

 

 

 気安い口調だけど不思議と嫌な気分にはならなかったモンモランシーは、思う存分ヴァーリを相手にモヤモヤしていた嫌な気持ちを吐き出し続けた。

 

 やれギーシュのだらしなさだの。

 この授業が非常に退屈だの。

 召喚した自分の使い魔が早々にヘマをしただの。

 

 ヴァーリにしてみれば全部関係の無い話だったが、モンモランシーはとにかく誰かに愚痴を聞いて欲しかった為、矢継ぎ早にどんどんと愚痴を続けていた。

 

 

「それにしてもアナタ、いきなり雑草引っこ抜いて私に差し出した時はびっくりしちゃったわよ?」

 

「あぁ、アレは義理の父親に言われたのを思い出して実践してみただけなんだよ。見事に失敗したみたいだけど」

「まあ、そうね。けど少なくとも半分くらいは成功したかも。けどそれは偶々私だっから良かったけど、他の子なら激怒ものよ?」

 

「なるほど、肝に銘じておこう。女というのはよくわからんな」

 

 

 忠告を素直に聞くヴァーリにモンモランシーはくすりと笑う。

 何と言うか、話せば話すほど抜けているというか天然というか、先程のアレも彼なりに良かれと思ってやったに過ぎないことが直ぐにわかってしまうくらい、ヴァーリは純粋に見えた。

 

 

「良いわねルイズは、毎日退屈しなさそうな使い魔を三人もこさえるなんて」

 

「主がどう思ってるかはわからないが、少なくとも俺達三人は退屈とは遠い毎日ではあるな」

 

 

 気付けば部屋に居た時の嫌な気持ちは全部晴れていたモンモランシーは、本来持つ快活さを取り戻しており、興味本意で使い魔であるヴァーリや残り二人について聞いていた。

 

 

「え、文字が読めないの?」

 

「本を試しに読もうとしたのだが、言語に対して文字がまるっきり別だったんだ。異世界ならではいうか……」

 

「? 異世界?」

 

「む、いや……何でもない」

 

 

 その際異世界という言葉を聞いて首を傾げるモンモランシーだったが、何でもないと返すヴァーリを見て少し察したのか深くは聞かない事にし、文字が読めないヴァーリに対してその内暇にでもなったら教えてあげないこともないと言ってみると、結構本気でお礼を言われて少しいい気分になる。

 

 

「あんまり主に負担させる訳にはいかないと独学のつもりだったんだ。助かるよ」

 

「え、えぇ……でも気紛れよ?」

「それでも構わない。よし、後でイッセーと曹操にこの事を教えとこう」

 

「ちょ、ちょっと待って! アナタ達三人にだなんて言ってないわよ私!? 取り敢えずアナタに教えたアナタからその二人に教えた方が早いわよ」

 

「む……アンタがそう言うのなら……」

 

 

 しかし何だろうか、このヴァーリなる少年を見てると妙な気持ちになるとモンモランシーは、一々リアクションが背伸びしたがりな子供っぽいヴァーリに感じる。

 

 

「そうね、最初は軽い絵本から始めましょうか。明日の放課後辺り、ここに来なさい。暇だったら行って教えてあげるわ」

 

「おお、早速教えてくれるのか! わかった!」

 

「……。ちょっと待って、暇だったらって言ったんだから、もしかしたら来ないかもしれないのよ? 何でそんな喜ぶのよ?」

 

「? いや、アンタなら何となく明日教えてくれそうだし、暇じゃないなら仕方ないとも思ってる。

どちらにせよ俺は明日アンタが来るまで此処で待つよ」

 

「………」

 

 

 それどころか簡単に初対面の人間を信じ、来ないかもしれない自分を言われた通り此処で待ち続けると言い出す始末。

 

 素直なのはアホなのか……それはいまいちわからないが、モンモランシーはギーシュとは違うタイプの男子にほんの少し……。

 

 

「わ、わかったわ、なるべく時間は作ってあげるわ。そこまで期待されるとは思わなかったし……」

 

「おお! ありがとう……ええっと、名前何だっけ?」

 

「モンモランシーよ……」

 

「そう、モンモランシー! 恩に着るよ!」

 

「ぅ……」

 

 

 ほんの少しだけ、内に放置された母性本能がコチョコチョされたとかなんとか。

 

 

おわり

 

 

 

 

 その日以降、放課後になると一人何処かへ居なくなるヴァーリに疑問を感じたルイズとイッセーと曹操は見た。

 

 

「も、モンモランシー!? その男は誰だい!? いや、ゼロのルイズの使い魔の一人じゃないか!!」

 

「何よ? 女にだらしない男が気安く話し掛けないで貰える? さぁヴァーリ、この文字はどう読む?」

 

「ええーっと…………『も・ん・も・ら・ん・しー?』」

 

「はーい正解。飲み込み早くて良いわよ?」

 

「おう……しかし俺は子供じゃないんだぞ。何故一々正解する度に頭を撫でられなければいけないんだ?」

 

「さぁ? 何でかしらねぇ? うふふふ……♪」

 

「モンモランシィィィェェェ!?!?」

 

 

 軽くおかしな構図を。

 

 

「あの野郎……! フラフラどっか行くと思ったらおんにゃこと………!」

 

「つ、使い魔の分際で何してるのよ!!」

 

「やっぱり昔から女にモテるなヴァーリは」

 

「ふざけんな! あの天然バカのお陰で堕天使のナイスおんにゃこの殆どが取られたんだぞ! レイナーレちゃん時とか殺意全開だチキショー!!」

 

「いや、お前もほんの一部で需要あったろ。ほら、あの小さい堕天使の」

 

「ミッテルトの事か! アレただのガキだろ!? 一々たかりに来るチビガキなんざ興味あるかい!!」

 

「……。それ、私に対して嫌味でも言ってるわけ? 悪かったわね小さくて……」

 

「え、いやいや、ご主人様は別だって……確かに全然おんにゃことしては興味ゼロですけどーーアーッ!? 踵で爪先踏まないで!」

 

 

 終了




補足

小さいにしか懐かれない。それがイッセーくん。

ロリコンだったら天国だったのにねー

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