異常なまでに人外を嫌う男がいる。
その嫌悪の程は憎悪にすら思える程であり、気にくわなければ直ぐにでも消し飛ばす程だ。
けれどそんな人外嫌いでも唯一傍に居ることを許している人外が居るのだけど、その人外もまた男に匹敵――いや、部分的には男を凌駕するほどの人格破綻者であり、男が何故そんな者を傍に置いてるのかというのも、『似ている』と思っているからであった。
故に二人はあらゆる種族にとって――それこそ神々ですら恐れていた。
人智を外れ、神々すらをも殺す龍の力と無限の進化を持つ人間。
その人間に吐き気すら催す情愛を向け、その男以外の全てを喰いちぎる妖猫。
知る者は知る災厄として。
一体どれ程の月日が流れたのか。
何処かの誰かは年月を重ねれば相手に飽きて倦怠感を持つなんて言ってたけど、私の心はあの時から変わってない。いや寧ろ月日を重ねるごとにその心はあの人に対する愛情で埋め尽くされる。
だからこそ私はあの人――何時までも呼び方は変わらない先輩との一時を邪魔されるのが大嫌いだ。
「不味い。偉そうな事を言いながら人様の邪魔をした割には全然美味しくない」
食べ殺したくなるくらいに。
「神を名乗るものですし、少しはマシな味だと期待したのですが、まあ、所詮はこんなものでしょうね」
『…………』
とある場所――いえ、ここがどんな場所かなんてどうでも良いし考えたこともない。
強いて言うなら神と名乗る存在が色んな意味で身近となってる世界だった様な気がしましたけど、深く考えたことも無いのでどうだって良い。
というか、今こうしてしゃくしゃくして死んじゃったのが神様という時点で気にする存在でも無い。全然美味しくもなかったし。
「しかし先輩が居なくて良かったですね。先輩だったらもっと容赦しませんでしたしね。まあ、死んでるという意味では私と大差無いかもですけど」
しかし自己顕示の強い連中か知らないけど、外から来た私達を今足元で首だけになって息絶えている連中含めて、何かにつけて私と先輩を消そうと襲撃してくる。
ひっそり山小屋でその日暮らしをしてるだけなのに何故なのか? それは外から来て最初に先輩の人外嫌いが発動したからに他ならない。
「いっそ絶滅させてやった方が平和かもしれませんね」
先輩は人外が大嫌いだ。
それも筋金入りで嫌いだ。
どれくらい嫌いかというと、少し見ただけで嫌悪丸出しの顔をするくらいに嫌いだし、声でも掛けられたら反射的に首を撥ね飛ばしてしまうくらいに嫌いだ。
なので外から来て最初の頃に神らしき人に上から目線でものを言われた時、先輩は相手が女神だろうが、元の顔が判別できなくなる程に殴り付け、往航する他の神々の前に捨てた。
まあ、それがいけなかったのでしょうね、その時から先輩と唯一人間じゃなくても先輩の傍に居られる事を許可された私は災厄扱いとなって、特に神々から恨まれた。
けれど恨まれた所で先輩をどうにか出来ることなんて出来るわけも無く、結局殆どの神々は先輩によって駆逐され、この世界の在り方も変わってしまった。
神が居なくとも世界は回る……そんな世界に。
「ふわぁ……あ、そろそろ帰ろ」
だからこその災厄。皮肉にも今の先輩はかつて憎悪の頂点であった悪魔とすら呼ばれている。
神を殺すdevilという意味らしいのですが、それって完全に地雷だったりするのは言うまでもないですけど。
イリナとゼノヴィアが居なくなってから、もう何千年程経ったのだろう。
人類は死滅し、人外共が蔓延る世紀末が到来したけどウザいからその種族共を根絶やしにしてどれ程の時間が経ったのだろうか。
「今日は積極的ですねセンパイ?」
「……………」
『このガキ、また進化している……! 油断するなよ一誠!』
空気は淀み、自然は壊れ、灰色の空で埋め尽くされた星にて俺は殺したくても殺せない憎き存在を前に、相棒の忠告を流しながら全身に気力と活力をたぎらせる。
「近場の星も食べてみましたけど、ふふ、やっぱりどんな存在よりもセンパイから向けられる
「……………」
文明があった頃は地球と呼ばれたこの星の寿命も後僅かとなった今、俺はベラベラと何千年も変わらないムカつく態度の白髪のクソガキに挙動ゼロで接近し、その顔面を殴り飛ばしてやる。
「ぐっ……!?」
進化し過ぎて最早己が人間である事すら疑わしくなってしまった力を渾身の限りぶつけるこの一撃をもってしても、白髪のガキ……白音という猫妖怪をとっくに超越した俺と同じ元転生悪魔は声をくぐもらせながら200メートル程砂漠となった地面を砂ぼこりを巻き上げながら吹っ飛び……。
しゃく!
「あは……美味しい……♪」
そのまま起き上がる……ムカつく台詞と何かを咀嚼するかの様なツラを見せながら。
『一誠の拳の威力自体を喰ったのか。やはりこのままではラチがあかんぞ』
「あぁ……わかってるさ」
「先輩ったらまた強くなりましたね。いや、当然でしょうけど……ふふふ」
『チッ、クソガキが……全然堪えちゃいねぇ』
「…………」
俺に殴られた頬を擦りながら、気色悪く頬をそめて砂だらけになって立ち上がる白音にドライグが相変わらずだと悪態を付く。
「もっとください……先輩からの愛情をもっと食べたい……!」
相変わらずクソみてーな解釈しか出来やしない人格破綻者っぷり。
「…………クソが」
何時見てもムカつく、後一歩で何時も殺せず、そしてそんな真似を気が狂う果てしない時間を使って受けてきたというのに、このガキはテメーが覚醒した時と全く変わりゃしない。
あームカつく……ムカつくんだよ!
―我は全ての理を超越せし龍帝なり―
―全てを殺し、総てを破壊せん―
―我、理と星をも喰らい糧とし永遠の進化を遂げる無神臓を宿し、汝を滅ぼさん―
だから殺す。
俺を好きだとほざくその声も、笑うツラも、何もかもを壊してやる……!
「死ね……今度こそ!!」
「あっは♪
良いですよ来てください先輩……。私の中は先輩だけしか受け入れませんよ?」
そして俺自身も……消えて無くなって、負けて死ね!
少年の力に初め魅入ってしまった少女は、何時しか少年自身を愛した。
少年を愛するが故に少年の力を砂粒から育て、覚醒した。
そして少年から与えられる全ての事象を愛と感じとり、果てしない時間の中愛された。
「っ……アァァァァッ!!!!」
「はぁ……♪ もっと、もっと……!!」
狂ってるのはとっくに自覚している。けれど少女はそれでも少年のみを求めた。
全てを犠牲にしてまでも、少年の向ける全ての事象を独り占めにしてやりたかった。
だから少女は少年の殺意も笑って受け止める……。
まるで駄々をこねる子供を優しく受け止める様に……。
「ずーっと愛してます……先輩……♪」
「ウガァァァァッ!!!! シネェェェェッ!!」
それは未来永劫変わらない。己と少年以外の総てが滅ぼうとも……。
閃光の様な光に包まれ……消えてしまおうとも。
少女はどこまでも一途であった。
少女と少年は同じ地上から眺めた。
一人は歪んだ愛を胸に星を見た。
一人は壊れた殺意を胸に屍で埋め尽くされた泥を見た……。
ここが一体何処で、何時なのかなんてのはわからない。
でもそんなのはどうでも良い。何処に居ようとも、私は彼と共に在るのだから。
「今日も何もなくて、人々が沢山居る平和な日でしたね先輩……まあ、少しばかり邪魔がいますけど」
「…………」
私は白音。種族は猫妖怪であり……いや、私の名前なんかどうでも良いでしょう。
私は今実に充実している……それだけで他の説明なんて必要もありませんからね。
「外に出ればお店があって、お金を出せば物が買える。
今更ながらこのやり取りは実に便利なものですよね、全部消えた世界を経験をしてると」
「…………」
領主を脅して手に入れた前時代的な狭い家屋、外を出ても田畑だの整備されてない道だので、お世辞にも近代とは思えない世界。
でも私と先輩からすれば、生物と自然が存在するという時点で懐かしさを覚える光景と空気だ。
欲を言えば、先輩と
死臭だらけになったあの場所よりはマシですしね。
「それにしても今日のアルバイトは中々面倒でしたよ。お陰で汗かいちゃって……」
「……」
さて、そんな調べもしてないまま先輩と共に住み着く様になった謎の世界。
私と先輩だけしか存在しなかった元の世界で何時ものように
勿論最初は目を覚ました私と先輩は久しく見た自然と人の気配に驚き、辺りを散策したのだけど、わかった事は明らかに元の世界とは違う世界である事。
それと、無理矢理次元を抉じ開けても帰れる気がしない事ぐらいでしょうか。
「でもおかけで、その分日当は割り増しでした」
どちらにせよ、帰るつもりも無かったし、先輩も何か色々と諦めてしまったのか、私にとっては喜ばしい事に先輩とこうして行動を共にしながら平和に生きています。
――平和にね。
「そういえばさっきチラッと言いましたけど、今日は例の人達に襲われまして」
「………」
日が暮れる寸前の夕日を、今は何処かに『消えた』領主を脅して手に入れた家の寝室兼リビング兼その他色々となってる部屋に最初からあったベッドの上に腰掛け、ボーッと窓の外を眺めている先輩に、お店で買ってきた食べ物を広げながら私はアルバイト帰りだったさっきの事を話す。
無論先輩は先輩は無反応―――じゃなく、若干反応する程度でした。
「まあ、だからどうだという訳じゃありませんけど」
けどそれだけです。
例え話、国同士が勝手に戦争して殺しあってようが、奴隷商人が横行しまくりな時代だろうが、人じゃない生物が人間襲って食い殺そうが、私や先輩にしてみれば等しく皆ちっぽけにしか思わない。
それよりも濃厚な生物との殺し合いを飽きるほど経験してきた私と先輩にしてみれば、槍や剣やら時代かかった拳銃や魔法やらで殺傷し合ってるだなんてのは、カブトムシ同士が樹液の取り合いで小競り合いをしてるのと同じなのです。
私も先輩も『とっくの昔に』壊れてしまってますからね……ふふふ。
「さて……ご飯の前にお風呂で汗を流してきます」
だからどうとも思わない。勝手にやっててくれ……そんな感情を抱き、私と先輩はこの自然がある何処とも知らない世界で適当に生きる。
そして今日も何の変わり映えしない平和な日を送り、お風呂入ってご飯食べて寝るだけ……。
「よいしょっと」
奪い取った家の都合でシャワーみたいな設備が整ってないのは少し癪だけど、お風呂場があるだけまだマシだななんて思いつつ、まだ食べるつもりも無く日が沈んだ外の景色をぼんやり眺めている先輩にお風呂を先に頂くとだけ告げた私は、部屋を出ようとした……その時でしたね………ふふ♪
「おい」
「? 何ですか先輩?」
ここに来て窓に視線を向けっぱなしだった先輩がそのままの体勢で部屋を出ようとした私を呼び止める声をやっと出してくれた。
断っておきますが、何時もの先輩はもっとよく喋るんですよ? 今日は偶々不機嫌みたいですけどね。
「何かご所望でも?」
どちらにしても私にしてみれば嬉しいので、何時もの調子で呼び止めた先輩に近寄……るのはちょっと躊躇う。お風呂前だから。
「………」
けど先輩的にはどっちでも良いのか、窓の外へと向けていたその目を……皮肉にも私と『同じ』毛色をしたその目で数秒ほど向けると……。
「ぁ……っと」
距離を測りかねていた私の腕を乱暴に掴まれ、同じく乱暴にベッドの上へと引きずり込まれた。
「………」
ギシリとベッドが軋む音と同時に仰向けに腕を縫い付けられながら寝かされた私に先輩がそのまま覆い被さり、私と目が合う。
「お風呂入ってないし、ちょっと恥ずかしいんですけど――んみゅ!?」
その意味が分からない程私は子供じゃないし、そして先輩を知らない仲でも無い。
皮肉な話ですが、この世界に落ち着いてからの先輩は体感的な繋がりは私だけしか居ず、私しか拠り所が無い。
宿したドラゴンよりも更に……。
「ぅ……ん……。
私としては先輩が良いなら構いませんけど……」
「………」
片腕をベッドに縫い付けられたまま、私は今先輩から貰うそれに身も心も一瞬で蕩けさせながら、良いのかと確認する。
どうせするならお風呂で綺麗にしてからの方が良いと思うのだけど、今日の先輩は中々不機嫌なせいか、今は懐かしき元の世界でやっていた学生の格好の私の服を乱暴気味に脱がせる辺り、どっちでも構わないらしい。
「ひゃん! ふふ、せ、先輩……くすぐったいですよ……」
「……」
「でも……あはは、嬉しいです……」
脇腹を指でなぞるその指が擽ったくも心地良く、それに応える様に私は空いていた片手で先輩の頬に触れる。
あぁ、遠かった先輩がこんなに近い……。
心臓の鼓動も、温もりも、何もかもが今私に総て向けられてる……それが堪らなく嬉しく、お腹に熱が帯びる。
「あの時とは逆になりますね先輩……。勿論抵抗なんてしませんよ? キてください」
私は勝ったんだ。
先輩が大事にしていたあの二人と、最初に先輩から奪った元仲間だったあのお二人にも。
生き残った私が今、先輩の全てを独り占めに……あは、あはははは!
「大好きですよ……先輩……」
この世で生き残った唯一の同じ者同士として私は勝ったんだ……。
少年と少女は果てしない時間を殺し合った。
少年は嫌悪を糧に。少女は少年に対する歪んだ愛を糧に。
結果は少女の歪んだ愛が少年を凌駕することで、少年の全てを独り占めにできる結果となった。
「ん……まいりますよね先輩。夜通しでもお互い足りないなんて」
「……。そうだな」
「あ、やっと機嫌直してくれたんですね? ふふ、どうします? 今日はお互いに一日中暇だし、このまま続けます? 私は続けて欲しいですけど」
「チッ、エロ猫が……」
「先輩に対してだけですよ……ふふふ♪」
互いが互いを求めるというある意味完成された関係へ……。
それは世界が変わろうとも変えることが出来ない。
負けたと思えばそれだけで、抵抗する意思は失ってしまった。
というか、しつこすぎるんだこのガキは。もう見た目はともかく中身はガキじゃないけど。
だから俺はもう諦めた。猫ガキのしつこさを半ば受け入れたという形で。
その瞬間どうなったかは語る必要もないかもしれないけど、ともかく俺は横に猫ガキを置きながら、安住の地でも求めて適当にさ迷った。
その結果世界という概念を飛び越える方法を得た訳だけど、結局の所世界が変わろうとも人外嫌いが災いしてすぐに余計な真似をしてしまい、元居た世界と何ら変わらなかった。
「アナタの事は知ってる。どう、悪魔になってみない?」
何度も何度も世界を飛び越えた先として在った過去の自分達の世界でも、それは多分変わらないのかもしれないと、俺は懐かしくてついブッ壊したくなる赤髪の女の気取った態度を前に、小さくため息を吐くのだった。
「………」
「勿論塔城さんもね」
「はぁ……」
定住できない気質で何度も世界を跨ぎまくった結果たどり着いたこの世界は俺達の原点だった。
俺が俺として存在できる唯一の世界であり、そして俺が人外嫌いになった理由ともいえる世界―――の、過去。
ブッ壊れる前の世界なので当然、俺が怒りに任せてミンチにした連中は存在するし、また当たり前の様に猫ガキこと白音もいる。
だがその当時と今の違いもまたちゃんと存在する。
例えば俺はこの時点で悪魔に転生させられても無ければ、白音は最初から悪魔に転生せずに俺と合流して行動を共にしている。
なので、懐かしき悪魔の雌は俺……そして今隣で呑気に茶なんか飲んでる白音の二人に悪魔になるかと勧誘してくる。
俺が乗るわけ無いのを知らずに。
「悪魔さんの事は噂程度に知ってますけど、私と先輩を勧誘してどうしたいのでしょう? そもそも私も先輩もアナタ達が気にするような真似をした覚えすらないというのに」
「………」
喋るのすら億劫で黙りこむ俺の代わりに白音が、主では無い悪魔の雌に尋ねる。
確かに俺と白音はこの世界……というか過去に来てからは何にもしてない。
本当に文字通り、何にもしてない。
多少自分達に都合の良いように――例えば白音の姉貴の黒い雌猫と疎遠にならないように白音が図ったりとかはしてるが、その他は本当に何にもしてない。
俺だって何度もやらかして流石に理性的になるように努めてたので、誰一人として人間じゃない生物に手を掛けても無い。
まあ、白音相手に軽く鈍らない程度に身体を慣らすとかはしたけど、もしかしてそれを見られてたのか? この雌に。
「まずアナタが猫妖怪にも拘わらず、一般人である彼と深い関わりを持っている事に気付いたのよ。お家に今は居るんでしょう? もう一人猫妖怪さんが」
「…………」
「居ますけどそれは私の姉ですし、先輩とは小さい頃に知り合って以来の仲だからとしか言い様がないのですが」
悪魔ってのは何処でも利己的な生物だ。
それが本質だからと言えばそれまでだが、その利己的な部分は俺以外の所でやってくれと思う。
じゃないと会話の主導権は此方にあると言わんばかりのこの目の前の雌と、それに控える連中全員に蹴りを入れたくなる。
これでも白音曰く相当気が長くなったらしいけど、やはりどれだけ時が流れても嫌いなものは嫌いだなと俺は思う。
「だからこそ勧誘したいのよ。出来ればお姉さんを含めてアナタ達三人を」
「………」
「応じないとどうなるんですか?」
「そうね、この地は私達悪魔の管理下に措かれてるから、それなりの監視が入るかもしれないわ」
「それは私達が悪魔じゃないから?」
「ええ。でも私達の仲間になれば監視をする意味は無くなるし、見たところアナタ
「…………………」
得意顔でほざく雌悪魔だけど、そんな概念とっくの昔に克服してるんだがな。
まあ、言ったら面倒なんで言わないけど。
「それにアナタの中には神器が宿ってて、その神器を狙う他勢力から保護も出来る。どう、悪い話じゃないでしょう?」
「………」
「………」
ドライグの事までは探れてないけど、そこまでは探れてるみたいだな。
「勿論、学校にもちゃんと通える様に手配もできる。
調べた所じゃアナタはご両親を失って早くに独立しているみたいだけど、学校には通えてないらしいじゃない?」
…………。ちっ、段々イライラしてきやがった。
焼き直しと知ったからこそ、今度は穏和に、密かに、そして平和的に生きようと、過去の失敗からその結論へと辿り着いた一誠は、過去と同じく自分を捨てた親に対して寧ろ感謝しながら、当たり前の様に合流してきた白猫の少女とボロボロのアパートにてその日暮らしをしていた。
しかし運命というのは――進化に進化を重ね過ぎた代償はやはり高くつくものなのか、どんなに隠れても利用したがる輩の目には止まってしまうらしい。
かつての頃皆殺しにした種族による食い下がり気味な勧誘にイライラしつつ、相棒なのか微妙な位置に居る白音と共に、家へと帰った彼は、取り敢えず白音との合流の際に着いてきていた黒猫を交えて今日についての話をした。
「え、悪魔に……?」
「ええ、黒歌姉様も引き入れたいと言ってました」
「………………」
住んでる場所はみすぼらしいが、決して貧乏ではないので一般的で割りと健康的な食生活だったりする一誠宅にて、囲んでご飯を食べながら二人と違ってただの白音の姉である黒歌は心配そうな顔をする。
「大丈夫なの?」
白音によりはぐれ悪魔では無く、しかも指導によってかつての世界の黒歌と同じスキルを覚醒させてたりする黒髪の女性は、妹と違って実にグラマスな肢体の肌を若干露出させながら無言で食べてる一誠と、話をしていた白音に尋ねる。
皮肉な事に、かつての黒歌と違い、この世界の姉妹の仲は非常に良かった。
「まぁ大丈夫でしょう。
監視がどうのこうのと言ってましたけど、好きにしろって感じですし。ね、先輩?」
「………ん」
「でもイッセーって悪魔が嫌いなんじゃ―――あ、この事聞かれたらまずいにゃ?」
「大丈夫です、今は誰からも監視はされてませんから」
色々と負い目を持ってるのか、一誠は黒歌に対してどう接して良いのか実の所わからず、話を振られても思う通りの返答が出来ない。
一見すれば無愛想な態度なのかもしれないけど、向けられてる本人である黒歌は、妹以外でかつ妹が絶対的に信頼している唯一の人間の同類である一誠が嫌いではないので、特に気にする様子はない。
これもまた皮肉な話である。
「私は嫌だな。今の生活が楽しいし」
「私もそれは同意ですよ姉様。しなくて良い労力を担うのと監視される生活のどっちが良いかなんて決まりきってますよ……ね、先輩?」
「ん……」
豆腐の味噌汁を飲みながら一誠は短く返事をする。
当たり前だが、転生なんかしてもしスキルの事があの時の様に知られたり、利用されたりしたらどうなるか等わかりきってるのだ。
「監視で結構。そう返しますよ明日にでも」
「私も同行したほうが良いかな?」
「……どっちでも良いんじゃね」
無駄な敵は作らない。波風はたてない。
何度も人外嫌いから来る短気さで失敗している一誠は今度こそ、のんべんだらりとしたその日暮らしを目指す為に、嫌いな悪魔を前にしても平静になるよう努める。
白音とこの世界の姉の黒歌の仲が拗れて無く、こうして楽しそうに姉妹をやってるから……という理由も密かに抱いて。
兵藤一誠。
永久進化の破壊の龍帝
白音。
夢幻を捩じ変えるネオ
黒歌
二人によって引き上げられた安察者。
終わり
妹の白音が大好きな男の子が居て、その男の子は種族としての力じゃない力を持つ自分達と同じ力を持つ同類である事を知って驚いたのはもう昔の事だ。
「…………」
なので黒歌は妹の白音がどれほどにその男の子に好意を持ってるのかを知ってるし、行動を共にしてから毎晩聞こえてしまう光景も慣れた訳じゃないが知っている。
いや、というか部屋全体に防音の仕掛けを施してるは良いけど同じ部屋に襖一枚挟んだ部屋に居る自分には音が丸聞こえなのだ。
「んっ……せんぱい……せんぱい……!」
その……妹が彼――つまり一誠と何をしてるのかが。
「うぅ……」
妹が選んだ相手で、しかも口数は少ないけど信用できる相手なので黒歌に反対意思は無い。
無いのだが、そういう事になる度に声を聞かされる身としては色々と辛く、襖の向こうから聞こえるその声に黒歌は悶々とした気持ちで自分のお腹を撫でていた。
「うー……良いなぁ」
皮肉な事に、この世界の黒歌はなんと一誠が嫌いじゃないばかりか好意すら抱いていた。
妹の想い人故にその気持ちは抑えているものの、それでもやはり辛いものは辛い。
二人に混ざれたらどんなに良いかと考えた事は数知れない。
「うー……」
だから黒歌は悶々する気持ちを抱えたまま……つい、一人で何かをしてしまう訳だけど。
「黒歌姉さま? なにしてるんですか?」
「わにゃあ!?」
この日は少しだけ違う事になった……とだけ記載する。
「あ、あの……その……ち、違うにゃ。こ、声が聞こえてて、聞いてる内に寂しくなっちゃって……ご、ごめんね?」
「先輩の事がそんなに好きですか?」
「へ!? あ、いや……き、嫌いじゃないけど……」
「嫌いじゃない? じゃあ好きでもないんですね?」
「えっと……………その、す、好き……」
「そうですか……なら混ざってみます? その代わり途中で疲れたからってのは通用しませんけど」
こんな感じで……。
終わり
補足
短気は損気をいい加減学び、本編と比べたら相当気の長い性格にはなった一誠くんと、敵意を抱く前のお姉ちゃんを丸め込んで引き込んだという、ネオ白音たんにとってはハッピーエンドルートですかね。
一誠にとってはかなり皮肉にも、かつては殺意すら抱かれた黒猫の姉ちゃんに寧ろ好意向けられてるという、割りと本人的にもどうしたら良いのかわからん事になってますけど。
その2
気は長くなったとはいえ、それでも嫌いなもんは嫌いなのは変わらないし、当然勧誘される気もない。
その3
その後黒歌さんは、え? って顔する一誠の前で白音たんに色々され――――――ってなるとアウトになるのでここで止めとく。