色々なIF集   作:超人類DX

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前半はキンクリしまくりです。
まあ、結局のところこの話しはマイナス一誠とミッテルトちゃんと新たに現れた人妻さんの話ですからね。


……………と、言い訳にして戦闘描写ができねーだけです。


混沌からすら這い出ないマイナス

 転移ってのは実に気分が悪い。

 なんていうか、目の前がグルッグルになるというか、そんな景色をほんの一瞬だけど見せられてしまう訳で、気がつ茶付けば茶番ゲームを行うとの事らしい会場…………わざわざその為だけに作ったらしい駒王学園全体のレプリカ空間に転送した俺は、そのまま地面に引っくり返って――

 

 

「う……おぇぇっ!?」

 

 

 吐いていた。

 ものっそい量の胃液が逆流してそのまま口から地面に向かって飛び出ていた。

 

 

「う、ぁ……ぐぅ……」

 

 

 最悪だ。

 のっけから体調が一気に最悪だ。

 口の中は酸っぱいし、胃はムカムカしやがるし、周りの紅髪悪魔のお仲間連中は平気なツラして俺を見下ろしてるし……。

 俺って腑罪証明(アリバイ・ブロック)以外のこういったメルヘン移動方法は向かないみたいだ。

 

 

「早くしろ」

 

 

 しかも鬼な事に兄者は俺に厳しく、ゴミを見るようや目で見下ろしながら早く立てと命令してきやがるぜ。

 本当に兄弟ってのはロクなもんじゃねぇぜ……クソ。

 

 

「ちょ、待って……まだ目の前がぐるぐると……」

 

「お前の持つ訳のわからない力でさっさと自分を回復させれば良いだろ。時間が無いんだよ」

 

 

 きびちーな……。

 仲が悪いからってもう少しくらい労りをくれよ……ぐぅ。

 クソめ、言われんでも『回復』をしてやるよ『回復』をな。

 

 

「ふぅ……何か飲みてぇ」

 

「だ、大丈夫かい?」

 

 

 回復……じゃなくて『逃げて』身体の外や中に纏わりついた不愉快なもの全てを消して、体調を戻した俺がフラフラと立ち上がると、言うだけ言ってさっさと旧校舎の部室の中に入っていった紅髪悪魔と白髪チビと黒髪女と兄者……とは違って何で俺を待って金髪君と金髪さんが、真面目に可哀想なモノを見る目でそれぞれ俺の肩を支えながら一緒に歩いてくれた。

 

 

「……。あの、俺にこんな真似したら怒られるぞ? 特に『お兄ちゃん。』辺りに」

 

 

 甘やかすとその恩を仇で返してくる……なんて勝手ながら実は少しだけ当たってる話を吹きまくったせいで、紅髪悪魔達は基本的に俺に厳しい中、どういう訳か途中からこの金髪のお二人さんは妙に優しいというか……よく分からん訳で、俺に優しいと怒られちまうぞと忠告をしてみるも、二人はショボくれた顔で首を横に振る。

 

 

「調子の良い話であるし、キミはそうは思ってないだろうけどキミを見てられないんだよ。

あの部長までキミに厳しいなんて……」

 

「私も……木場さんと同じです」

 

「ふーん?」

 

 

 先に行った4人をこの二人に支えられながら追い掛けるその道中露見させる二人の心理に、俺は特に何を思うことなく…………という訳では無いが頷く。

 

 

「別に同情しなくても良いよ。こんな扱いは昔からだしね。

家族でお出掛けだの旅行って時も俺だけ1000円札渡されて放置とかザラだったしー」

 

「そ、そんな……! 何でそこまでキミが嫌われなくては……」

 

「曰く俺は誰から見ても『気持ち悪い』らしいぜ? なら仕方ないだろ?」

 

「そ、そんな、気持ち悪いだなんて私は思いませんよ! セーヤさんがそんな人だったなんて……!」

 

「オイオイ、俺が嘘っぱち吐いてるかもしれないのにそんな簡単に鵜呑みにするなよ? 俺より『お兄ちゃん。』の方が付き合いが長いんだろ?」

 

「彼がキミに対して見せる扱いで嘘っぱちじゃ無いことぐらい僕でも解るよ……」

 

 

 

 別にこの二人のせいじゃ無いのに、メチャクチャ罪悪感タップリな顔をして何故か俺の言うことを信じてる二人に対してちょっとだけ困る。

 うん、このゲームが終わる頃にはキミ等を裏切ってサヨナラバイバイする予定なのにね……うん。まあ、裏切るけど。

 

 

「やめとけやめとけ。

俺は恩を仇で返す男だし、こんな事しても得にもならんさ……ほら、もう一人で歩けるから大丈夫さ」

 

「「ぁ……」」

 

 

 ひょいっと二人が貸してくれた肩から離れてスタスタと歩く俺を、何とも言えない目で見てくる二人に背を向けて、より仕返しする気になってくるのを感じて口を吊り上げる。

 俺に優しくするのは本当に止めて欲しい……変な期待をしてしまうのはもう懲り懲りだ。

 

 

「だからこそ、紅髪悪魔も兄者もアホだ。

キャラを知ってても尚俺を拘束しようとするから…………ククッ、自分(テメー)から不幸に向かっていくなんてなぁ? 俺と一緒に居て不幸にならないのは、俺と同じ奴か…………ミッテルトちゃんぐらいなもんさ」

 

 

 一瞬チラ付くミッテルトちゃん……そして安心院なじみ。

 本当の意味で俺を制御出来るのはこの二人であり、もしかしたら…………。

 

 

「なんて……ふん、メイド萌えでも人妻属性も無いよ俺は。

俺の好きなのは――」

 

 

 同じく一瞬チラ付いた俺と同じ目と雰囲気を持ったメイドさんの顔が頭の中で浮かび、即座に頭を振って消してニヤリと笑う。

 俺が好むのは――。

 

 

「ダボダボ裸Yシャツと眼鏡が似合う女の子さ……にゃっはっはっはっ!」

 

 

 つまりそういう事だ。

 さてと……茶番ゲームをそこはかとなく台無しにしてやろ!

 

 

 

 

 

 正直……本当に正直な話だ。

 自分の眷属にはそれなりの自信があった。

 だというのにこれは何だ? いくら初めてのレーティングゲームだからといってもこれは無いんじゃないのか? リアス・グレモリーは突き付けられた現実から逃げたかった。

 

 

『リアス様の女王・戦車・騎士……リタイアです』

 

 非情にも聞こえる、己の陣営が脱落したというアナウンスにリアスはすっかり焦った。

 そりゃそうだ、何せこのゲーム……眷属の配置を済ませて開始のアナウンスが流れてから約――

 

 

「うーん……5分かぁ。彼女なら2秒で終わりに出来ることを考えると俺達もまだまだかな」

 

「ですわね。ま、それはまた後日反省会を行った時に考えるとして、今は悪平等(ぼく)を利用し、悪平等(ぼく)のお気に入りである過負荷(マイナス)な彼を無惨に扱うアホ共をさっさと片付けるとしましょうライザー様」

 

「だね、ユールベーナ。俺もさっさとこんな小娘に1ナノの興味もない事を知ってもらいたいしー」

 

 

 5分で戦える眷属が誠八を残して全滅なのだ。

 非戦闘員のアーシアと一誠も生き残ってはいるが、誰が見ても形勢がどちらに傾いているのか一目瞭然であり、リアス本人も嫌というほどに思い知っていた。

 

 

「ラ、ライザー……!」

 

「やぁ、紅髪の滅殺姫……だったかな?」

 

「ご機嫌の程は如何でしょうかリアス・グレモリー様?」

 

 

 悠々とした足取りで自らの女王を傍らに従えて自陣へとやって来たライザーはニコリと何時も見る見下しと自信家を足した笑みとは違う、まるで別人の様な爽やかな笑みを見せてくるのを、リアスは忌々しげに睨み付け、そのリアスを守ろうと誠八が殺気立って左手に赤い籠手を出現させている。

 ついでに言えば、非戦闘員のアーシアも震えながらリアスの前に立っており、一誠も怠そうにしてるのを隠すことなくその隣に居る。

 

 

「お前……どうやって……!」

 

「ん、赤龍帝くんか……。うん、まあ……開始早々にキミ等のお仲間の所に行って戦って勝ちました……的な?

いやさ、アレだよね……こんな事言いたくないけど弱すぎて拍子抜けしちゃったよ」

 

 

 神滅具・赤龍帝の籠手を持つ転生悪魔の誠八に対して、悪平等が故に持つ必然的な勝利からくる笑みを見せるライザーと女王・ユールベーナ……そして――

 

 

「ライザー様~ 早くケリ付けて彼と彼女を連れて帰ってご飯食べましょうよ~」

 

「同意。ハッキリ言って拍子抜け以前の問題でつまらなすぎでした」

 

 

 無傷・無事・疲労無しなライザー眷属全員が、リアス陣営に入った事によりプロモーション状態で集結していた。

 つまりだ……赤龍帝に目覚めて毛が這えた程度、そして非戦闘員のである一誠とアーシアだけでは……。

 

 

「オーケーオーケー! …………てな訳で詰み(チェックメイト)らしいぞリアス・グレモリーさん?」

 

 

 完璧なまでの詰み(チェックメイト)であった。

 

 

「だ、黙りなさい! 私はまだ……!!」

 

 

 

 しかしそれでも諦めない。

 婚約話もそうだが、それ以前にプライドがあった。

 降参……リザインするくらいなら最後まで足掻く、それがリアス・グレモリーだった。

 それは同じく誠八もであり、ここ一番……リアスを守る為に持てる力を赤龍帝の籠手の力により倍加させてライザーに殴りかかるが……。

 

 

「遅い」

 

「ぐふっ!?」

 

 

 ライザーに飛び掛かるよりも速く、ライザー眷属・騎士カーラマインが持っていた剣の柄を誠八の鳩尾にめり込ませ、悶絶する隙に殴り飛ばす。

 

 

「う……ぐっ……!」

 

「セーヤ!?」

 

 

 見えなかった……リアスもアーシアも誰もがカーラマインの動きが見えず、戦慄する。

 

 

「イ、イッセー!!」

 

「………。はい、なんすか?」

 

 

 一撃でリタイア寸前のダメージを負った誠八を救おうとリアスはぽりぽりと頭を掻きながらボーッとしている一誠を呼び寄せる。

 生憎余裕の現れをライザー達は見せてくれてるお陰で反撃以外は何もせず見ているだけに留めてくれる。

 だからその間に一誠の持つ謎の回復能力で即座に誠八を回復させる……そういう腹積もりなのだが……。

 

 

「早くセーヤを……」

 

「……。直すのは構いませんが、もうこれ詰んでますよ? さっさと諦めて負けちゃいましょうよ。無理っすわ」

 

「黙りなさい! ミッテルトがどうなっても良いの!?」

 

「…………はぁ」

 

 

 完全に頭に血が昇ってるせいか、ドストレートにミッテルトを使った脅し文句を吐くリアスは気付いてない。

 ライザー達の顔付きが笑みから一瞬にして憤怒の形相に変貌したのを。

 それは表情に出してはない一誠も同様であり――――

 

 

「煩いんだよそろそろ」

 

「ぎぃっ!?」

 

 

 リアスの身体は大量の釘と杭によって地面に縫い付けられていた。

 

 

「いっ……つ………イ、イッセー……! アナタ……!!」

 

 

 身体中に刺さる杭と釘……そしてそこから吹き出した血が間近に居た一誠の身体と顔に付着する。

 此処に来て……人質を取られていると解っている癖に裏切りを決行してきた一誠に床に縫い付けられ、襲い掛かる痛みに顔を思いきり歪めながら睨み付けるリアス。

 そんなリアスに、返り血で全身を濡らしながらゆっくりと立ち上がる一誠は、ここ最近見せなかったヘラヘラとした笑顔を浮かべていた。

 

 

「ハァ……本当はライザーさんに全部片付けて貰おうと思ったんだけどね……。すいませんね、余計な事をアンタが言ってくれたお陰で我慢の限界でしたわ。あは♪」

 

「いや、良い……正直キミがやらなかったら俺が殺ってたかもしれねぇ」

 

 

 ニコニコと返り血まみれで無邪気な子供の様に笑って言う一誠に、何の接点も無い筈のライザーが醒めた目で地面に縫い付けられて動けないリアスを見下しながら、一誠の肩をポンと優しく叩く。

 

 

「な……ぇ……?」

 

 

 困惑するリアス。

 だが、そんなリアスを無視して、ライザーは褪めきった目をリアスに向けたまま、やけに大きな声で言った。

 

 

「グレモリー家は慈悲深い、ねぇ? 人質を取って嫌がる人間を悪魔に無理矢理転生させて利用しようとするなんて、本当に慈悲深いなぁ? 俺はビックリだぞコノヤロー?」

 

「っ……!?」

 

 

 大袈裟な声量で一誠が悪魔に転生した理由を話しだすライザーに、リアスの心臓は跳ね上がる。

 そして思い出す……今回のレーティングゲームに兄である魔王サーゼクスや上流悪魔が見ている事を。

 

 

「ま、待って……イッセーは……!」

 

「おやグレモリー嬢、何か申し開きでもあるのか? いや、一誠君に聞こうか。

どうなんだ一誠君や?」

 

「友達人質に取られて嫌々悪魔に転生しましたね。

正直めっちゃ嫌でした」

 

「…………だ、そうだが?」

 

「ぐぅ……!」

 

 

 即答する一誠にライザーはニヤリと笑う。

 どうにもライザーの性格は一誠と馬が合うらしい。

 

 

「イ、イッセェェェェッ!!!!」

 

 

 ふざけるな、とその他憎悪を込めた形相で一誠を睨み上げるリアスは、身体に刺さって抜けない大量の釘と杭を無理矢理外そうともがく。

 そんなリアスに対して一誠はニコリと無垢な少年を思わせる笑顔を向けてしゃがみ、こう言った。

 

 

「変な人だ。何を怒ってるんですか? 最初に俺言いましたよね? 『俺なんか仲間にしてもロクな目に遇いませんよ』って。

それを無視してミッテルトちゃんを使って脅しくれたのはアンタであり、今のこの様だって全部キミ等がライザーさんより弱いからだろ? つまりぜーんぶ自分達の自業自得。

ほら、どう考えても―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『俺は普通に被害者であり』『俺は一切合切0から100まで悪くない。』」

 

 

 最大級の笑顔を見せながら言い切った一誠に、それまで憎悪の形相を浮かべていたリアスの中にあるナニかが壊れた。

 

 

「good-bye リアス・グレモリー 誰がお前みたいな小娘と結婚するかっつーの!」

 

 

 そしてそのまま横で見ていたライザーの手刀により、意識を刈り取られ……………只震えて動けないアーシアやカーラマインのカウンター攻撃で内蔵数ヵ所を破壊されて血を吐いたまま気絶する誠八を残して、無慈悲なアナウンスがライザー達を祝福する。

 

 

『兵藤一誠様の謀反がありましたが、ライザー様がトドメを刺したのでルールに問題なくリアス・グレモリー様がリタイアとなりました。

よって勝者はライザー・フェニックス様となります』

 

 

 

「ハァ、結局茶番は茶番だったな」

 

「まぁまぁそう言うなよ一誠君。これでこの小娘から解放されるんだからさ」

 

「ですね…………って、ミッテルトちゃんは?」

 

「それなら大丈夫だ。当然俺等が先にキッチリ保護したからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 レーティングゲーム中に眷属による裏切り。

 それは見ていた上流階級の悪魔達の顔をしかめるのに十分であり、その裏切りをしでかした転生悪魔を処刑しようという声が一部出てきた。

 が、だ……一部では『嫌々転生させたのもどうなんだ?』とか『そもそも造反される時点で悪魔としての格を疑う』などという声もあり、結局は魔王サーゼクスが『彼と堕天使には一切の手出しを許さない』と何処か必死こいた様子で宣言した為、一誠は何もされずに勝者であるライザー達の近くに居た。

 

 

「お疲れ様ライザー」

 

「ありがとうございます」

 

 

 魔王サーゼクス・ルシファーがライザーとその眷属達を個人的に呼び寄せ、にこやかに勝者のライザーにこやかに労りの言葉を贈っている横で、裏切り者状態の一誠はライザーに保護されていたミッテルトと数分振りの再会をしていた。

 サーゼクス以外……つまり他の上級悪魔は居ないので、一誠もミッテルトも何も気にせずに、やっと終わったこの茶番にホッと一息吐く。

 

 

「お疲れっすイッセーさん」

 

「結局俺は何もしてないがね」

 

「ストレス日々だった10日間込みっすよ。

それに、何もしてないだなんてウチは思ってません」

 

「ああ、それなら……」

 

 

 リアスとその眷属なその後どうなったかは知らない……いや、知る気にもならない。

 自称兄貴もそのお仲間達がどうなろうと一誠は気にしない。

 木場とアーシアの顔が一瞬浮かんだ気がしたが、気がしただけで次の瞬間にはミッテルトが無事だという安堵感で忘却の彼方になっていた。

 

 

「ではその様にお願いしますよ」

 

「うん分かってる……。色々と済まなかったね」

 

「別に貴方が謝る必要は無いと思いますが……。所詮は彼女の掌の上で踊って見せたお遊びなんですから」

 

 

 ライザーがリアスと結婚する気等無く、別の目的で動いていた事を事前に知っていたサーゼクスは、ライザーが口にする要求に頷く。……いや頷く他が無いと言った方が正解か。

 何せ今話している相手は、フェニックス家三男のライザー・フェニックスでは無く、サーゼクスの初恋の相手で今もそうである安心院なじみ……悪平等(ノットイコール)のライザーなのだ。

 安心院なじみに嫌われる……完全に見捨てられる事を恐れている彼は、ホイホイとライザーの要求を呑むしかないし、何よりも今回のお陰で、ライザー曰く……『安心院さんのお気に入りかつ最も会って話が出来る頻度が高い』と言われている堕天使の悪平等と過負荷の少年と繋がりが出来上がったのだ。

 この二人とでは上手くやれば、彼女と高い頻度で会えるかもしれない……サーゼクスの考えは結局そこにあったのだ。

 

 

「……。なるほど、なるほどね……はははは」

 

「? どうかされましたか?」

 

「いや、なるほどね……過負荷(マイナス)か……。ククッ! 言い得て妙だね」

 

 

 そしてもうひとつ。

 過負荷(マイナス)と呼ばれる少年、兵藤一誠を見ながらサーゼクスは憎悪なのか、愉悦なのかどちらにも見える表情を浮かべて笑っている。

 そりゃそうだ、何せこの一誠という少年は似過ぎているのだ。

 嫌々結婚し、今も自分の隣で清ました顔で立っている女王・グレイフィアにだ。

 

 

「イッセーさん……。

なんか魔王さんがイッセーさんを見てるッス……。笑ってるんだか怒ってるんだかよく分からない顔で」

 

「は? …………ああ、多分俺があの人の隣に突っ立ってるメイドさんと似てるからだろうさ。

ハッ、予想通りあの夫婦の仲はグチャグチャらしいね」

 

 

 グレイフィアに対してはほぼ本能的に嫌悪感を持つサーゼクスにとってすれば、一誠が如何に彼女と本質が似ているのかなどを見抜くのは容易く、本来の彼女が見せる小馬鹿にした笑みが今の一誠が見せるヘラヘラとした顔と重なって見える。

 そんなサーゼクスのあらゆる感情が混ざった視線を半笑いで受け流して喋る一誠にミッテルトは『ほぇ……』と妙に可愛らしい声を上げつつ、ゲームが始まる直前にそのメイドさんに耳打ちされた事を思い出し、ちょっぴり目付きを鋭くメイドさん……つまりグレイフィアを睨みながら、引き続きサーゼクスに向かってヘラヘラと笑ってる一誠の手を握る。

 

 

「んぁ? どしたの?」

 

「何でもないっす」

 

 

 その日会っただけの、只の人妻の癖に誰よりも……一誠本人も認めるほどに一誠と同じである女……ミッテルトからして見れば最初から面白くなく、正直ライザーの部下に保護されてる最中も、レーティングゲームを見てる気になれなかった。

 

 誠に悔しい話、自分には無い物を持ちすぎてるのだ。

 大人な雰囲気と整って引くレベルの容姿の状態で反則なのに、胸までありやがるぜちくしょーめ!

 ちっこい、ロリ、ガキ、まな板………何もかんも年齢以外は完全に負けているミッテルトは、睨まれてると気付いているのか、薄く笑みを溢すグレイフィアを悔しそうに睨む事しか出来ずに居た。

 

 最初は安心院なじみに突然話をされて聞き、そのまま紹介される形で出会い、気付けば彼の持つ妙ちくりんなキャラに惹かれていた……いや、本当は知っている。

 あの時、堕天使・レイナーレと共に今回完全に螺子伏せた悪魔達に殺され掛け、今正にあの世へと逝こうとした時、駆け付けた一誠が告げた言葉――

 

 

『ちぇ、どうも俺は駄目だね。

嘘っぱちかもしれないのに、仕方無くそうしてるだけかもしれないのに、俺に優しくしてくれる人が死ぬのを見ると気が狂いそうになる。

ホント、キミは変だよ…………でもね、そんな変な子は嫌いじゃあ無いんだぜ? だから、今日からキミに襲い掛かる嫌な現実(コト)はみーんな俺が一緒に否定して逃げてあげる。だから――』

 

 

 

 

 俺とトモダチになってよ、ミッテルトちゃん……。

 

 

 

 そう言って一誠はミッテルトが死ぬという現実を否定し、全くの無傷な状態という幻実へと逃げた。

 そのお陰で悪魔達に一部始終を見られて軟禁生活を送る羽目になったりもしたが、それも全てミッテルトは楽しかったし、レーティングゲームの最中、頭に血が昇ったリアスが人質扱いしてた自分を使って脅した時も、一誠は珍し怒ってくれた。

 だから――だからこそ――

 

 

「…………」

 

「? ミッテルトちゃん?」

 

 

 こんな似てるだけの人妻女なんぞに一誠は渡しはしない。

 実力も女としても負けているかもしれない……しかしそれでも構わないとミッテルトはキョトンとしている一誠を背に、薄く笑みを見せるグレイフィアの前に立ち、しっかりと意識を強さを感じる碧眼で見上げながら大きく宣言した。

 

 

「アンタになんか負けねーっすよ、中古女」

 

「………………………」

 

「? ? ?」

 

 

 中古……つまり意味はそのままだったりする言葉をハッキリ口にした瞬間に、グレイフィアは笑顔のまんま頬をピクピクと痙攣させ、その後ろで見ているだけの一誠は首を傾げている。

 

 

「べーっだ」

 

「……………」

 

「何してんだよミッテルトちゃん……」

 

「ちょっとしたお返しっすよイッセーさん」

 

「は?」

 

 

 満足そうな顔で笑って言うミッテルトに一誠の頭の上には大量のハテナが生産され、ふとグレイフィアの方を見ると、笑った顔のまま微かに震えていた。

 それは多分……間違い無く、中古女呼ばわりされた事に対して思うところがありますと分かる姿であった。

 

 

「………………………………………兵藤様」

 

 

 だからこそなんだろう、マイナスだからなんだろう。

 此処まで言われて黙ってられる程実は気が長い訳じゃないグレイフィアは、ミッテルトに腕を引かれてその場を離れようとする一誠を呼び止める。

 

 

「え、何す―――」

 

 

 急に苗字で呼ばれ、つい立ち止まって振り返った瞬間だった。

 何すか? と軽い感じの返事をするつもりだった一誠の声が途中で止まったのだ。

 その理由は簡単で単純……それなりの距離を置いていた筈のグレイフィアの顔が文字通り自分の目と鼻の先に迫って来ており、ビックリする暇もミッテルトが止める暇も無くそのままライザーやその眷属達、サーゼクスが見てる中……そして何より喧嘩を吹っ掛けてきたミッテルに大人を怒らせたらどうなるかと分からせる為に、ブリーズしている一誠の手首を掴み、自分の方へと引き寄せると……。

 

 

「っむ!?」

 

「……ん」

 

「なぁっ!?」

 

 

 驚く面々をガン無視した公開接吻が幕を開けた。

 

 

「ん、んんっー!? は……か……な、なにを……むぶ!?」

 

 

 当然さっぱり意味と意図が掴めてない一誠が、グレイフィアから一瞬だけ離れ、顔真っ赤で喚こうとするが、元々の生物的スペックが野良犬に負け越し中の一誠と、銀髪の滅殺女王だの最強の女性悪魔…………とか言われちゃってるグレイフィアとでは単純腕力で差が大きく違うので、再び腕を取られて引き寄せられると、またもや唇を塞がれる。

 

 

「ちゅ……はむ……れろ……んっ……!」

 

「ちょ、な……にゅ!?」

 

 

 しかも今度は思いっきり舌まで入れられていた。

 何かもう、一誠の頭はパンクしてしまい……最初は無駄な抵抗を続けていたが、やがてそれは無くなり……遂には――

 

 

「ん……ぷは」

 

「あ、あは? あはははははは?」

 

 

 ゆでダコの様に真っ赤になった顔で目を回して気絶していおり、唇を離したグレイフィアはその身を抱き寄せ、唖然としてる周りを丸無視し、ミッテルトに対して実に妖艶な笑みを浮かべてからハッキリこう言った。

 

 

「はぁ………アナタは彼とキスの経験はおありかしら?」

 

 

 …………。その後一誠はどうやって家に帰ったか覚えて無い……とだけ言っておく。




補足

「気付いたらライザーさんの家で寝てました。
起きた瞬間ミッテルトちゃんにグレイフィアって人と同じ真似されてまた意識が飛びました。
てか、あのグレイフィアって人のせいで魔王さんに呼び出しくらいました。そしてライザーさんの妹さんが居たんですが、メチャクチャ睨まれてしまいました」


次のネタとしてはこんな感じ。

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