秘密を持つ者同士故の秘密の繋がり。
それも互いに必要とし合っていたペア同士なら尚更普段のやり取りも独り身には厳しい空気を醸し出す。
それが一誠とリアスの日常なのだが……。
「愛しのリ~アス、お前に会うためにわざわざ人間界まで来てやってきたぜ」
割りと一誠は嫉妬深い性格故、リアスが二十代前半のホストみたいな男にベタベタされるのを見るだけで、色々と切れそうになっていた。
『おい一誠、リアスの小娘が言ってたんだ。我慢しろ我慢を』
(何を言ってるんだぜドライグ? 俺は何時でもクールだぜ? 大丈夫大丈夫、今なら阿修羅で許してやれるくらいは寛大な心を保持してるぜ)
『それ使ったら死ぬから。寧ろ半島もろとも消滅だから。
全然寛大じゃないから』
相棒がこうして内から働きかけて怒りを緩和させてるが、それでも怒りはブチブチと溜まりまくる一方だった。
『前』の時は自分の立場が自由だったのと、当時のリアスが裏切られ過ぎて心がズタズタになっていたからというのもあって、とっとと殺してしまったのだが、今の自分は一介の転生悪魔で兵士という立場だ。
大貴族の子息を殴り飛ばすというのは許されないのだ。
冷たくあしらってるというのに、知らん顔でリアスの身に手を伸ばしてるライザーなる悪魔を達磨にでもしてしまいたいという衝動も耐えなければならないのだ。
「申し訳ありませんが、心を許した異性以外に触れられたくありませんわ」
当然リアスも『前』の嫌な記憶を持ってるので、ライザーと結婚するつもりなど最初からある訳も無く、低い声と冷たい表情で伸ばされた手をパシンと叩きながら、他人行儀に拒絶しようとするのだが……。
「冷たいなリアスは。しかしそこが良いぜ」
相手の男、ライザー・フェニックスはクツクツと笑いながら全然堪えちゃ居なかった。
断っておくが、リアスがその気になればライザー・フェニックスは細胞のひと欠片も遺さずこの世から消滅させられる。
それをしないのは、どうであれ今の自分は平和にリアス・グレモリーとして生きていられるからであり、家に迷惑を掛ける訳にはいかないという理由があるからだ。
まあ、それでも婚約の話は死んでも断るが。
「婚約のお話は存じてますが、それは私の両親が決めた事であり、私は一切了承しておりません。
純血の悪魔が先の戦争で殆ど死に絶えて数が減っているというのは私も承知しておりますし、純血の数をこれ以上減らさない為にアナタとこの様な事になり掛けているのも理解は示します。
しかし私は好きでも無い相手に身体を明け渡す様な女のつもりではありませんし、この話のせいでグレモリー家とフェニックス家の関係に皹が入って勘当を貰ったとしても、アナタと結婚しないという意思は曲げません。
遠い所からご足労頂いて大変申し訳ありませんが、アナタとの結婚は致しません」
どこまでも淡々としながらの拒絶の意思に、ライザーは徐々に顔を歪ませる。
同行していたグレイフィアはあくまで中立の為に我関せずを貫き、リアスの眷属達もまた帰れオーラを撒き散らす。
誰がどう見てもアウェイな空気満載であり、ここまで固くなに拒絶されたともなれば、ライザーもプライドを傷つけられたと思うのは必然だった。
「そこまで拒絶するとはな。
だが俺も炎と風をつかさどるフェニックスの看板を背負っているんだよ。
此処まで来て断られたなんてのは名前に泥を塗られるに等しく、また塗られる訳にはいかない。
だから俺は、お前の眷族を燃やし殺してでもお前を冥界に連れて帰るぞ?」
気に入ったモノは大概手に入った。
そしてリアスは気に入ったもの。
それが手に入らないのであれば、拒絶するのであるなら実家同士の取り決めという大義名分を掲げてでも手に入れてやる。
その内面を隠しつつ、尤もらしい台詞を宣いながらフェニックスの特徴である炎を話し合いの場となっていたオカルト研究部の部室全体に撒き散らしつつ脅しの言葉を投げ掛けたライザー
「……………………」
『良いから落ち着け一誠。こんな熱風ごときにリアスの小娘がびびる訳無いだろう?』
その瞬間、ライザーやリアスの眷属達に見えない所で瞳孔を目一杯開いた目で殺意を滲ませようとした一誠に間髪入れずにドライグがストップを掛ける。
リアスの事になると熱くなりすぎる。かつての頃からそこだけは一切ブレ無いその思考回路に相棒のドライグは呆れつつも一誠らしさを感じつつ、ライザーの炎で戦闘体勢に入るかつての裏切り者達の『弱さ』に頼りなさを覚えるドライグ。
これなら一誠一人で全部兼任した方が良いんじゃないのか? とか割りとドライグもドライグで酷い思考回路だ。
「ここ、木造建築ですので焚き火はやめて頂けます?」
「!?」
さて、そんなこんなでライザーが脅しの炎を撒き散らしてリアスに迫る訳だが、やはり甘かった。
記憶を取り戻した事で修羅場を潜った経験を持つ今のリアスではこんな程度の脅しは脅しにもなりはしないし、またその領域の差も文字通り別次元だ。
部室に広がる炎と熱に対し変わらずの淡々とした口調で言い退けるとの同時に軽く羽虫を追っ払う様な感じで手を振ったリアスにより、一瞬にしてライザーの炎は消滅させられた。
「リアス……お前……」
「私を只のグレモリーのリアスと思うのなら勘違いも甚だしい。
私は自分より弱い男にこの身を捧げるつもりは無い……言いたいことは解りますね?」
「……! つまり俺がお前より弱い男だと?」
「ハッキリ言えばそうなりますわライザー・フェニックス」
発した炎を焚き火呼ばわりしたばかりか、大胆不敵にもライザーは弱いと言い切ったリアスに、言われた本人は怒りの表情を更に深める。
「ならキミより強いと証明できたら結婚するのか?」
予想外の反撃……いや見誤っていたリアスの力だが、不死のフェニックスである己が負ける筈無いと思い込むライザーは挑発する様にリアスに問う。
「そうなりますわね」
その挑発に対してリアスは無表情で応えると……。
「まぁでも……こんな詭弁並べた所で私の心は最初からもう決まっていますけど」
「何?」
「アナタと結婚したくない理由は、まずそもそもアナタは好きじゃないというのもありますが、私自身、心に決めた相手が居るからというのが本当の理由ですから」
「はぁ!?」
お前は嫌だ。そして自分には既に心に決めた相手が居るというリアスからのまさかのカミングアウトに、ライザーはおろか、『早く終わらせて人間界の彼の下に』と思っていた銀髪のメイド姿であるグレイフィア・ルキフグスが驚いた様に目を見開く。
「だ、誰だその心に決めた奴ってのは!? キミは自分が何を言ってるのか解ってるのか!?」
「落ち着いてくださいライザー様。しかしリアスお嬢様、その話は私も初耳なのですが」
当然ライザーは誰なんだとリアスに詰め寄り、グレイフィアも一応の仕事の為にその相手の把握をしようと続いて質問する。
「………」
リアスはその二人の問いに答えはしなかったが、リアスを知る眷属達はその言葉に一瞬でそれが誰なのかを察してしまい、思わずその人物へと視線を向けてしまう。
そう……。
「へっきし!」
今デカいクシャミをしたリアスの兵士……一誠である事を。
「お、おいまさかとは思うがリアス。キミが心に決めた奴ってのはまさかそこの下僕悪魔風情じゃ無いだろうな?」
「……………」
「……。沈黙は肯定と受け取らせて頂きますよ?」
リアスの眷属達の視線が一誠一人に向けられていたのを見抜いたライザーが信じられないとばかりに狼狽え、何も答えないリアスにグレイフィアはそれが本当だと察してしまう。
「はははは!!! おいおい勘弁しろよリアス! お前さっき『自分より弱い男には興味ない』と言ってたじゃないか! それなのにこんな下僕悪魔が心に決めた相手だって? 嘘も大概にした方が良いぜ?」
前世で破壊された事を知る訳も無く、ライザーはポツンと立ってる一誠を指差しながら嘲笑う。
「嘘じゃありませんわライザー・フェニックス。
彼は……一誠は私の想い人、私のこの身と心を全て捧げられる人ですわ」
「おいおいおい、我が儘も大概にしようぜリアス? それが本当だと仮定したって、純血でもない下僕風情とキミじゃ釣り合う訳が無いだろ? ご両親だって反対なさるに決まってる」
「ですから勘当されても私は構わないと言った。
他の事なら、喩え戦地に赴いて死ねと言われても私は従う。
しかしこれだけは何と言われても私はこの我が儘を貫き通す……!」
「っ!?」
一朝一夕では到底放てない強烈な圧力と共に、強い意思を示す瞳と共に宣言するリアスにライザーは息を飲んだ。
リアスが只の顔とスタイルの良い女では無い事は今ので理解した。しかしそれでもこんな下僕悪魔ごときに気に入った女を取られるのは気に食わないし、強い訳が無いと思い込むライザーに、それまで沈黙を貫いていたグレイフィアが二人の間に入って声を出す。
「そこまでにしましょう。今回の話が拗れる事を魔王様は見抜いておられました。
故にお二人のお話が食い違った場合の最終手段として、レーティングゲームで決着をと仰せつかっております」
「……!」
「なるほど、確かにそっちの方が四の五の言わずに決められる。それに、その下僕風情が雑魚である事を証明できそうだ」
レーティングゲームという言葉に少しリアスの顔に影が帯びるのに気付かず、もう勝ったつもりのライザーが、忠犬の如く黙って佇む一誠を見下しながら嗤う。
「良いぜリアス。ならレーティングゲームでケリを着けようじゃないか。俺が弱い男かそれで確かめられるだろう?」
「……」
こうしてレーティングゲームでケリを着ける流れに収まった今回の騒動。
しかしライザーは知らない。今見下した相手が……ペアが。
「…………………………………くくっ」
破壊の権化であるという事を。
と、まあそんな訳でライザーとレーティングゲームでケリを着ける流れとなり、グレイフィアと共にライザーは自慢して呼び出した自身の眷属達と自信満々に帰った訳だが。
「………はぁ、緊張したぁ」
「お疲れっすリアス部長」
「今、お茶を入れ直しますわ」
「お菓子食べても良いでしょうか?」
「うん、もう大丈夫だと思うよ」
「い、一時はどうなるかと思いました……」
帰るや否や、リアスの纏っていた厳しいオーラはナリを潜め、何時もの遠慮しがちな雰囲気なってソファに深く座り直す。
「しかし宜しいのですか? ライザー・フェニックスとのレーティングゲームなんて」
徒労を労るという意味でお茶を出しながら、女王の姫島朱乃が心配そうに問う。
「大丈夫よ。10日後と決められたし、その間に少し鍛練を積んで挑めば勝てない相手では無いわ。
幸い向こうの眷属は彼の趣味の塊みたいだし」
そんな女王の心配を優しく笑みを浮かべて安心させる様に返す。
ぶっちゃけ一誠とリアスのペアのみでもオーバーキルな事は一応黙っている。
「修行ですか……」
「学校は休むんですか?」
「そうね、アーシアに色々と教えてあげないといけないし明日にでもグレモリー家所有の別荘にでも行きましょう。
あそこなら山々に囲まれてるし、良い修行場所になるわ」
そう言って、前と同じ因果か、最近色々あって堕天使から救出して眷属として迎えたアーシアに微笑みかける。
ちなみにこのアーシアと最初に出会ったのは一誠じゃなく、また一誠は特にアーシアとは『どうとも思ってない』程度の関係……つまり眷属仲間程度の認識しか持ってない。
そして勿論、一誠の家に住まわせる事もせず、戦車の塔城小猫と一緒に住んでるらしい。
「一誠……アナタの力も頼りにしてるわ」
「おいーっす」
微笑むリアスに一誠はニヤッとしながら軽く敬礼をする。
ちなみに先程リアスの事をリアスちゃんでは無くてリアス部長と呼ぶのは、眷属として活動してる以上は王と兵士という上下関係をちゃんとしておかないといけないじゃろ? と、こうした場面で使い分けてた呼び方だった。
流石に四六時中、それも他の眷属が見てる前でイチャイチャしてたら悪いので……と一誠とリアスが話し合って決めた事なのだ。
「頑張るぜ俺!」
「頼もしいわよ? ふふ」
『………』
まあ、その眷属達にはバレバレだし――
「それにしてもあのライザーってのがリアスちゃんにベタベタしようとしてたのを見て何度ぶちのめしてやろうと思ったか……」
プライベートとなれば真逆になる訳だが。
「前とそんなに変わってなかったわね……あの性格は」
リアスが学園に通う為に用意した自宅の寝室。
そこには一誠とリアスがかつての時と同じようにお互いにくっつき合いながら本日の事についての話をしていた。
……そう、ベッドじゃなくて部屋の隅の壁に背を預けて腰掛け、一つのタオルケットにくるまいながら。
「まぁでも勝つよ。つーか本気出しちゃうぜ俺。リアスちゃんは絶対他の野郎にゃ渡さないぜ」
かつてホームレス生活を二人でしていた名残からか、こうしないと熟睡が出来ないという困った癖が今尚強く残っている。
とはいえ、二人は『こっちの方が自分達らしい』と思ってて直そうともしない辺り、かなり重症なのかもしれない。
そしてこうしてくっつき合いながらくるまえば、プライベートと平和という事もあってイチャイチャ度もうなぎ登りだ。
「綺麗な髪だねリアスちゃん……。俺好きだな、リアスちゃんの髪」
「昔はこの色が大嫌いだったのに、一誠はずっと誉めてくれたわね?」
お互いに身体を密着させて抱き合い、一誠が紅い髪を撫でればリアスは心地良さそうに微笑む。
「んっ……」
そして互いに額をくっ付けて見つめ合い、そのまま軽く唇を重ね合う。
「ぁ……ちゅ……」
二度、三度、四度、五度……と軽く重ねては離れてを繰り返し、六度目に差し掛かった時を合図に今度は激しく強く重ね合わせる。
初心な少年少女が見れば赤面もの間違いなしな程に。
「はぁ……はむ……ぁっ……いっせ……いっせぇ……!」
「結局、あのクソ野郎を粉々にした後が無かったんだよね俺達。ははは、ほんと……また会えて良かったよリアスちゃん」
「私も……今度はずっと一緒に……」
「当然さ……嫌でも付きまとうぜ俺は? くく」
互いに頬を紅潮させ、見つめ合いながら言葉を紡ぎ合う。
そして……。
「お願い一誠……一誠が欲しいの……」
「前と違ってその殺し文句は堪らないよリアスちゃん……」
電気もついてない暗い部屋の隅に在る二つの影は重なる。
まあつまり……どう足掻いても相手にとっては無理ゲーだった。
補足
ベリーハードの修羅場経験者の実力。
基本的に経験者同士の戦闘は地図の書き換えが必須レベル。
なので相当に加減してる。
忘れがちだけどリアスさんは完全模倣スキル持ちで、種族違いとか神器持ちの概念すら飛び越えて模倣する理不尽さ。
しかし本人達の望みはイチャイチャしたいだけ。