そういえば俺、レーティングゲームのルールとかよく分からない。
いや、紅髪の悪魔さんがなんやペラペラか語ってた気はしたけど、正直生返事ばっかで聞いてない。
そもそも俺のポジションはなんだ? 捨て駒か何かか? まあ、何でも良いんだけどさ……どうせ俺が入った時点で負けるし。
「イッセーはアーシアと一緒で私の横で待機よ。
イザとなった時に貴方の力で私達に受けたダメージを消して貰うから」
「はぁ」
やっと学校に戻ってこれ、趣味が合わない旧校舎で奴らの部室とやに連れて来られた俺は、指示を出してくる紅髪の人に対して内心『そのネームで呼んで良いのはミッテルトちゃんだけであって、アンタに気安く呼ばれたかねーよ』なんて思いつつも指示に頷くと、隣にくっついてたミッテルトちゃんが小さく手を挙げている。
「あの、うちはどうすれば?」
「貴女は眷属じゃないから、観戦の場に転送させるわ」
サラリと事もなさげに言う紅髪の悪魔さんに、ミッテルトちゃんは俺と同じく曖昧な頷き返事をするんだが、ちょっと待て。
観戦席って当然悪魔しか居ないんだろ? それってヤバくねーのか? 主にミッテルトちゃんの命的な意味で。
「貴方の使い魔という事にしてあるから何もされないわよ、だから安心なさい」
「は? そんなもん信用できるわけ――」
「大丈夫っすよイッセーさん! うちの事は良いんで今を集中してください!」
堕天使が悪魔の天敵云々と10日前にほざいといて、何を根拠に大丈夫なのか一から十まで説明しろと、ちょっち攻撃的な口調になりかけた所で、ミッテルトちゃんが俺の手を握って笑顔を見せた。
その笑顔は、この紅髪の悪魔とは違って根拠を感じさせる笑顔だと俺だけに分かったので、渋々と矛を納める。
「ミッテルトは大丈夫と言ってるわよ?」
「チッ……」
「おい一誠、その態度は……」
「あーはいはい、すいませんでしたー(棒)
トイレ行ってきまーす(棒)」
「あ、じゃあうちも……」
うるさいお兄上様だぜ全く……俺は取り敢えずその場を納める為に全力で謝罪の言葉を送ってからトイレという理由を使って時間まで逃げてようと、付いて行こうとするミッテルトちゃんを連れて部室を後にする。
糞に長くて意味無し人生を歩んでる中でも特に意味の無い10日を好きでも何でもない連中からなぶられて過ごした。
「まるで信用してないみたいね。まあ当然だけど」
「すいません……アイツがまさかあそこまで堕天使を庇いだてしようとするとは……」
「良いのよセーヤ。お陰で利用はしやすくなってるしね」
「……。(部長……変わってしまったな)」
「……。(うぅ、悪魔って怖いです……)」
その際、金髪の……あ、そうだ木場君と今名前が出たアーシアって人が物凄い同情的視線を向けてくれた。
どうも俺の立場が兄者とは違って、完全な回復装置的な扱いにされてる事に対して思うところがあるとの事らしく、天敵である筈のミッテルトちゃんにもその同情は伝染していた。
ちなみに兄者は当然一切の俺に優しくしてくれずで、木場君とアルジェントさん以外の残りの部下の人達も同じくであったと考えると、どうやら俺は金髪の人と縁があるらしい。
まあ、でも……平気だね。
俺は勝負には勝てないかもしれないし、もしかしたら裏切るなんて腹積もりも彼女たちに見抜かれているかもしれない。
けどね……。
「……。なんて言われてますよイッセーさん……。流石にうちキレそうっす」
「あはは、キレても返り討ちだろ多分。良いって良いって、言わせておけよ。その分仕返しも捗るしー」
勝つなんて真似をして裏目に出るのなら……勝負事態から逃げてしまえばそれで良いのさ。
フフフ、そうだろミッテルトちゃん。だからプンスカしなさんな……わざわざ俺なんぞの為にな。
最早、サーゼクスにとって今回のレーティングゲームの結果は見えていた。
それは勿論、妹とその仲間達の勝利で幕を閉じるでは無く、この前その正体を知ってしまった…………かつて自分がどうしてもなれなかった悪平等であるライザー・フェニックスだ。
「………」
「サーゼクス様、準備が整いました」
「うん」
自分の眷属であり、妻という事になってる(少なくともサーゼクスは正直そう思ってる)グレイフィアに本日のレーティングゲームがそろそろ開始されると言われ、心此処にあらずといった様子で短く返事をする。
その様子を見てグレイフィアは首を内心傾げる。
「ここ数日、何やら考え事をしている様に見受けられますが……」
返事は気が抜け、表情も何処かぼーっとしている、自らの主であり夫であるサーゼクスを心配するように声を掛けるグレイフィアだが、サーゼクスはグレイフィアを一切見ずにその横を通りすぎる。
「別に……何でもない」
「………」
何かを思い出し、そしてその直後に失った虚しさ……とでも言うべきか、何と無く今のサーゼクスからはそんな雰囲気が漂っている。
少なくともグレイフィアはそう感じた。
そして、サーゼクスがこの態度になる理由と言えば一つしか無いこともグレイフィアは解っていた。
だから言うのだ……その名前を、原因を。
「安心院なじみ……ですか?」
「………」
ピタリと部屋を出ようとしたサーゼクスの足が止まる。
その反応を見たグレイフィアはやはりと小さく声を漏らす。
「『彼女』なら仕方無いですね。貴方様がそうなるのも」
「だったら何だい?」
サーゼクスの声が低くなり、僅かに殺気が漏れ始める。
しかしグレイフィアは動じず、背中を見せるサーゼクスを真っ直ぐ……そして何処かの誰かに似た瞳で見据えて口を開く。
「人質として貴方の取り巻きから命令され、貴方の子を身籠った私が憎いですか? サーゼクス・グレモリー」
「…………」
「フッ、謂わずもながらと言った様子ですね。
ですがね私は後悔はしてませんよ。この通り無事に生きてますからねぇ? 戦争で負け、尊厳も失っても尚、みっとも無く生き残ってやるとあの時誓いましたから。
故に、貴方が彼女にフラれるのは貴方自身のせいであって『私は悪くない。』」
「っ!!!」
殺気を僅かに出すサーゼクスを前にして、薄く微笑んでかつて何度も聞かされた責任逃れのフレーズを聞かされたサーゼクスはカッとなって未だ笑ってるグレイフィアを睨み付ける。
世間では良い夫婦と言われているこの二人だが、実情は何時殺し合いになるか分からないほどに破綻していた。
「次その言葉を吐いたら、カッとなって思わず消し飛ばす可能性がある……気を付けた方がいい」
「おぉ、怖い怖い……胆に命じますよルシファー様。
ですが、これだけはお互いに確認しておきましょうか……私も貴方も、今も昔も変わらず互いが大嫌いって事を」
「……………」
クスクスと妖艶ながら、何処か気持ち悪さを感じる笑みを見せるグレイフィアをサーゼクスは感情を感じない瞳でただ見据えると、何も言わずにレーティングゲームの会場へと一人転移する。
「相変わらず安心院さん関連に対する煽り耐性の無さには呆れるわ。そんな男の……命令とはいえ子種で孕んだ自分にも……」
後に残ったグレイフィアは、先程見せたサーゼクスの様子を思い出しながら笑い――――
「ま、それが私の持って生まれた運の無さだしあの子に罪は無いわ……あの男は私共々あの子を憎んでるみたいだけど。
さてと、そんな事より今は私と同じタイプでありながら人間であり、安心院さんと同じ力を一つ持つ彼を見に行きますか……」
キミと気質が似た人間なら一人知ってる。
そうだね……うーん、話しを聞いてもらう際は軽く色仕掛けをしてみたら良いと思うよ? 彼は子供であり、何より思春期の男の子からな。
2日前に夢に現れ、自分と同じ気質を持つ人間が居ると教えられ、何時に無くわくわくしていたグレイフィアはその口を歪め、誰も居ない一室で小さく声を紡ぐ。
「お嬢様曰く問答無用の回復能力との事らしいですが、そんな
それでもし私以上――いや以下で良い子だったら…フフ、ミリキャスに会わせて彼の生き方を学ばせてあげたいわ……ふふ、あはははははははは」
本気となった彼と同等の気持ち悪さを感じる笑みとドロドロと空間が捩曲がる雰囲気を出しながらサーゼクスに続いて彼の居る場所へと転移するのであった。
「ただ、子持ちで年上の人妻に彼は興味あるのかしら……。
あるのならあの男と結婚している体である今の身分も少しは良かったと思うけど……安心院さんに聞いておくべきしたね」
安心院さんの言葉を完全に鵜呑みにしてるせいで、ちょっとばかし変な方向に一誠本人の知らぬ所で展開されている訳だが。
「ヘッキシ!」
「大丈夫っすかイッセーさん、もしかして風邪?」
「ずび……んーん、違う。ただ、何か誰かに変な噂されてるって気がする」
そんな事実があるとは露にも思わない一誠は、時が来るまでの間、旧校舎の外でミッテルトと二人で適当に話をしてほんわかしていた。
更に場所は変わり、フェニックス家三男坊のお部屋では、やっとこの日が来たと一昨日からヤケに張り切っている悪平等……ライザーが眷属達と共に迎えが来るまでの間楽しげにトークをしていた。
そこには、彼の妹であるレイヴェル・フェニックスも居て話を聞いていた。
別に彼女は悪平等でもなければ過負荷でもなければ異常者でも無い、本当に只の上級悪魔なのだが、ライザーの本来の性格は把握しており、彼が悪平等という存在なのも知っていた。
故に、彼がリアス・グレモリーと結婚する気が無いことも、同じ悪平等である堕天使と人間の過負荷を助ける為に動いている事も知っていた。
知っているからこそ………。
「お兄様、本当にその人間を助ける価値がおありなのですか?」
いくら兄とその眷属の皆と同じ存在の堕天使と一緒に居るからという理由で助けるというのが、金髪で縦ロールなレイヴェルには理解不能だった。
そしてその都度、ライザーは表で見せる気取った笑みとは違う、ただただ爽やかに笑いながらこう言うのだ。
「別に価値で動いて無いぞ? そりゃ最初は安心院さんのお気に入りで、頼まれたからってのもあるけどな。
ま、機会があれば話してみると良いぞ? お前の様なタイプだと物凄い煽ってケタケタ笑ってくると思うけど」
「………」
だからこそ会わせてみたいぜと、子供みたいな事を言うライザーにレイヴェルは顔をしかめて、人間である彼がどんな奴なのか見てはみたくなった。
グレモリー眷属に敢えてなり、今日のレーティングゲームで裏切るという話を聞く限り、ろくでもない人間なのだろうと、取り敢えず思って。
「へっくしょい!!」
「本当に風邪じゃないですよね?」
「ずび……おう、今日は俺を噂する輩だらけみたい。
補足
二人の関係は初期球磨川さんとめだかちゃん的な関係ですね。
それと、人妻萌えでもツンデレ萌えでもロリ萌えでも彼には無いです。
でも多分色仕掛けには引っ掛かるかも、簡単に