が、問題がひとつあって…………やる気が果たしてあるのか? 的な。
最早超越しても尚止まらない進化に付いてこれるのは、あの白い猫しか居ない。
全力で戦いになってくれる相手も白い猫しか居ない。
だから男は新たな地に住み着く事になってからは白猫が傍らに居ることに対して何も言うことはしなかった。
いや、それどころか意味も無く白猫の存在を確かめるかの様に求めもした。
毎日、毎日……。
勿論白い少女はそれを喜んで受け止める。
どんな無茶でも簡単に平行して受け止める。
だから少年だった男はズルズルと少女に――
さぁてと、何処の誰でしょうかね? 久々にイラッとする悪戯なんて仕掛けてくれたのは。
「……」
「………」
今私は……いや、私と先輩は、折角掴んだ平々凡々な生活から一辺、地上数千メートル程上空から文字通り『落ちて』いる。
勿論、飛ぶ事が出来る私と先輩にしてみれば『取り乱す』程のものでは無いのですが、この状況に至るまでの経緯と『今の私と先輩の状況』が状況なので、只今先輩共々頗る機嫌を悪くしながら黙って地上めがけて落ちてあげている。
「新手のくだらない新興宗教からの勧誘の手紙かと思ったら、まさかこんな悪戯が仕掛けられたなんて……まったくやってくれますよホント。ねぇ一誠先輩?」
「くだらねぇ」
「はい、本当にくだらない……。
まったく、元凶を探してしゃくしゃくしてやりたくなりますよ、折角気持くなってたのに……」
「うおぉっ!」
「きゃっ!?」
「わっ!」
手紙なんて届く時点で怪しむべきだったと今更ながら、人二人は軽く包めるシーツ一枚に先輩と私がくっつきながらくるまってる姿でどんどんと近づく地上を前に私はこんな悪戯を仕掛けてきたバカを食い殺しにでもしてやろうかとちょっと本気になる。
すぐ近くで女の子二人と男の子一人が一緒になって落ちてるのだが……まあ、どうでも良いので視界から消しておく。
若干は何者なのか気にはなりますが、その三人は漏れ無く湖に落ちてしまったので取り敢えず私と先輩は湖にでは無く地面に着地し、辺りを見渡してみる。
「元居た場所じゃありませんね。随分と『懐かしい』臭いがします」
「みたいだな」
一つのシーツにくっつきながらくるまってるという、ちょっと間抜けな姿を維持したまま周囲に……いや、世界中から感じる懐かしい感覚に、ここが確実に『さっきまで私たちがのほほんと暮らしてた世界』とは違う事を瞬時に察する。
それと同時に、あの新興宗教の勧誘の手紙だと思って即暖炉の火種にしてやったアレが、原因であることを理解しつつふと湖の方を見てると、どうやら単なる人間じゃなかったらしく、普通に這い上がってから何やら文句を言っていた。
「し、信じられないわ!
まさか問答無用で引きずり込んだ挙句、いきなり空に放り出すなんて!」
「右に同じだクソッタレ、場合によっちゃ即ゲームオーバーだぜこれ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」
「……いえ、石の中に呼び出されたら動けないでしょう?」
「残念ながら俺は問題ない」
「そう、身勝手ね」
へぇ、三人とも特に怪我は無しですか。
なるほど、生きてる時点で察せましたが、やはり『普通』の人間ではないらしいですね。あまり興味は沸きませんけど。
「おい白音」
「あ、はいわかってます……。でも一応まだ動くべきじゃないかと。
私も先輩もこんな姿ですからね」
そんな事より気になるのは、先程から私と先輩とこの三人の子供が立つ場所から少し離れた茂みの影から伺う誰かさんです。
先輩も既に気付いてるのか、若干機嫌の悪そうにした顔をしている。
「悪戯を仕掛けて来た張本人か、それとも単に騒がしいのが気になって見に来ただけなのか。
取り敢えず様子見に徹してみましょう」
「………」
あれで隠れてるつもりなんでしょうかね?
もし先輩が『かなり』機嫌が悪かったら、既にあの誰かさんは首と胴体がさようならしてましたよ……いやはや、運が良いです。
「それで? そこのシーツ仲良く簀巻きになってる二人は何者?」
隠れてる何者の出方を窺いつつ、さてどうしましょうかと先輩と相談しようかと思っていたその時でした、不意に三人の内の一人……妙に偉そうな女の子が私と先輩に対して簀巻きと比喩しながら何者かと訊ねてきた。
「それは俺も気になるぜ、仲良く二人三脚の練習か?」
「…………」
その偉そうな女の子に続き、喧しそうな男の子と猫を抱えた女の子がそれぞれニヤニヤと無表情のアクションをしながら私たちを見る。
さてどうしましょうか。名前くらいなら別に教えても良いですが、先輩以外に本名で呼ばれたくはありませんので、昔も今も外でよく使う偽名で誤魔化しますか。
「塔城小猫です。この人は私の先輩の兵藤一誠」
「………」
先輩の場合は雑じり気無しの本名だけど、どうせ答えるなんて先輩はしないだろうし偽名を使う必要も無いので、私が代わりにご所望のお名前を教える。
「へー? 兵藤に塔城ね……お前達は同じ世界から来たって訳だ?」
「そうなります。
ちなみに何で二人してこんな格好かというと、シーツの下はどっちも全裸なのでこうせざるを得ないだけです」
どうせこの場限りですし、教えるだけ教えておきつつ今の格好についての理由も言っておく。
「な……ぜ、全裸って……な、何したからそんな事になってるのよ……」
「何ってナニですよ、見た感じ皆さんお子様では無さそうですし意味はわかりますよね?」
「「「……」」」
全裸の理由を引きながら訊ねてきた偉そうな方の女の子にこの悪戯を仕掛けられる前までしていた事を話すと、一気にシーンとなってしまった。
いや、詳しく言うと三人とも引いてるといった方が正しいかもしれませんね。
「お前、見た目からしてまだガキだろ?」
「見た目で判断しないで貰えますかね、これでも一応先輩とは一つしか年は違いませんので」
「ふ、不潔よ……」
「どうも。
でも一誠先輩とはそういう関係なんですから、不潔なんて言われようが知った事ではありませんね」
「…………」
無言の先輩に代わって、また先輩がロリコン扱いされない為に私がフォローを入れておく。
先輩と出会った時の姿を維持したまま生きてきたせいで、幼い見た目とよく言われてしまう事が多々あり、またそういう行為をすると漏れるとすぐ先輩が変な目で見られてしまう。
さっきまで居た世界でもよく先輩は引かれてたせいで、私はよく似た様な説明をしてます。
まあ、説明をしても大体ドン引きされちゃいますけど。
「とはいえ、揃って全裸なのも不格好ですから……一応服は着ましょうか」
「あん? どうやってだ? ここら辺に服なんて都合よく落ちてる訳――」
「
金髪の男の子が私の言葉に眉を潜めるのをスルーし、私はスキルを発動する。
現実と自分の描く夢を入れ替える第二のスキルを使えば……。
「あ、そういえば久々に制服プレイしてたんでしたね」
「お前が勝手に着て、俺にも着ろと着させただけだろ」
「そうでしたっけ? でも体育倉庫での背徳感プレイは私かなり興奮しちゃいましたよ? まあ、ただの設定ですけど」
「知らねーよエロ猫」
「「「!?」」」
シーツは消え、代わりに私と先輩は懐かしき駒王学園の制服に身を包む。
ちなみに理由は、今先輩と話した通り制服プレイがしたかったからです。
「今、お前何をしたんだ?」
先輩と私の出会いのルーツとも言える時代の服装に、全裸でくっつき合ってた方が正直良かったなー……なんて思いつつ袖を伸ばしていると、驚いた顔をする三人の中で金髪の男の子が品定めするような視線と共に私に訊ねてきた。
「シーツが手品みたいに消えたと思ったら、全裸と自己申告してたお前達が服を着てる。
どうにも種も仕掛けもありそうなもんだが……」
「さぁてね、猫に化かされたとでも思えば宜しいのでは? ね、先輩?」
「……………」
「無口な奴だな、お前の先輩は」
「ちょっと今は不機嫌気味なんですよ」
一々答えてあげる程親しくも無いし、何よりかったるいので適当に誤魔化す。
というか、質問してきたこの金髪さんやら、偉そうな方の人やら、猫を抱えてる人やらも『何かある』んだから、今更夢と現実を単に入れ替えるだけの細やかな力なんて説明してもインパクトに欠けるんじゃありませんか? ふふ。
「まぁ、良い……。
そんな事より呼び出されたは良いがここから何も無いこの現状をさっさと終わらせたいんだが……」
「ええそうね、何の説明も無ければ、動きようが無いもの」
「……この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
あらら、完全に警戒されちゃったみたいですね。
それでも気を取り直して現状把握に勤しもうとする辺り、只のボンクラじゃないのはわかりますね。
「それなら、そこの茂みに隠れてる方から聞いたらどうですか?」
「!? へぇ、やっぱお前……塔城って言ったか? おもしれーよ?」
一応この人達も気付いていたみたいですし。
「あら、貴方も気付いていたの?」
「当然だろ? こちとら昔からかくれんぼじゃ負け無しだぜ? そっちの猫を抱えている奴や、さっきからだんまりの兵藤も気付いてるんだろ?」
「風上に立たれたら嫌でもわかる」
「……。くだらねー」
というか全員気付いてましたねこれは。
先輩は不機嫌気味なんで金髪の人の言葉に肯定も否定もせずですけど、ほぼ無視された本人はニヤリと面白そうに全員を品定めしてるし……。
この金髪の人はどうも今の先輩が一番めんどくさく思うタイプらしいですね。
「どうする? このままじゃ平行線だし、ひとつ引きずり出しでもして――」
そんな覗き魔さんをどうしようかと、金髪の人がニタニタしながらわざと聞こえる声で言った瞬間でしたね……。
『Boost!!』
それまで無口キャラなんて似合わない状態だった先輩が突如私にとっては見慣れたそれを左腕に纏うと、纏ったソレから発せられる掛け声と共に鮮血を思わせる光の弾を茂みに隠れてる誰か――では無くギリギリ狙いを外して投げつけた。
「ヤハハハ……!」
「………」
「………」
「もう、先輩ったらそれを撃つなら私に向かって撃ってくださいよ……。
これじゃあ欲しくなるじゃないですか……」
超高速……いや並みじゃ目視も出来ないスピードで放たれた光弾が茂みを通過し、数秒も経たない内に遠くの方で巨大なキノコ雲を生成しながら大爆発を起こした。
恐らく数キロ先の何かに当たって爆発したのでしょうが、その余波だけで私達の居る湖付近の木々等の自然を破壊する規模であり……。
「あ……あぅ……」
「……………………」
茂みなんてのも吹き飛んで隠れる場所を失ったウサミミが特徴である女の人を引きずり出すことに成功するのでしたとさ……チャンチャン♪
「ほら引きずり出したぞ? どうするんだ、殺すか?」
そしてそんな自然破壊を引き起こした張本人たる先輩はといえば、腰を抜かしたのかパクパクしながら私達を見るウサギの耳搭載の女の人を指差しながら、私達……いや私に殺すかどうかを聞いてくる。
最初から先輩にしてみれば、このウサミミも三人の少年・少女もどうでも良かったらしい。
「おいおいおい、何だそのイカれた装備は?
何だお前ら? ファンタジー世界からでも招待されたのか?」
「……」
「……」
しかしそんな先輩の認識とは裏腹に、金髪の男の人は途端に獰猛な笑みを浮かべて先輩に絡み始めました。
まるで獲物を見付けたかの様に……。
「来て大正解だぜバカ野郎、いきなり大当たりを引いたんだからなぁ!」
「で、どうするんだ白音?」
「殺すのはやめておきましょうよ。一応このウサミミさんに聞いておきたい事もありますのでね」
「あ、そ……」
しかし先輩はあくまで無視を決め込み、私の殺すのはまだ後という言葉に対し、気の抜ける声を放ちながら真っ赤な籠手のソレを消し、再び無言となる。
憐れな事に、ウサミミさんはすっかり先輩をクレイジーな人と認識したのか完全に怯えてしまっていた。
「……。それにしても彼女は何なの? というかコスプレ?」
「ウサギ人間?」
そんなウサミミさんを、まるで先程先輩がやったことを『見なかった事』にして話を進め出す偉そうな女の人と猫を抱える女の人が、あわあわ言ってるウサミミさんを興味深そうに眺める。
「ち、違いますよ!? 黒ウサギは決してコスプレではありません! あ、あと敵意なんて持ち合わせおりませんので、こ、殺すのはご勘弁を……」
「だ、そうですよ一誠先輩?」
「どちらでも良い」
しかし先輩に対する『何をしでかすかわからない』という恐怖はどうやら拭えない様ですね……ふふ。
その強すぎる情愛に一誠は初めて心の底から敗けを認めてしまった。
そして最初の世界にて最後の殺し合いの果てに辿り着いた新世界で、一誠は白音という少女の愛情を受け入れてしまった。
というか、最早それしか選択が無かった。
何せ全力を――星をも含む世界を破壊し尽くすパワーを持つまでに進化した自分の全力の殺意と力を受け止められるのは、平和な新世界でも白音しか居ないし、何より白音はどこまでも……その小柄な見た目を裏切るかの如く一誠に対して母性的なまでに愛していた。
故に一誠はその愛情に引き込まれ、ほぼ毎日ただれた行為に勤しみ……白音という檻から完全に抜け出せなくなってしまった。
「………」
だから今の一誠はどこまでも他人に対しての認識と意識が薄い。
先程から十六夜という少年からの絡みも全部無視だったし、黒ウサギなる見飽きた気もしないでもない生物に対する罪悪感もゼロだった。
尤も、その黒ウサギも春日部耀と久遠飛鳥という二人の少女の『好奇心』によりある程度そのメンタルを回復させていたりするのだが……。
「で、結局お前は何なんだ?」
どれだけ挑発しても乗ってこない一誠に、今だけ諦めたのか、十六夜が少し拗ねた顔で耳を弄られて悶絶していた黒ウサギなる生物に要件を問う。
「ぜぇ、ぜぇ……!
思ってた通りの問題児達ですよ貴方方は!」
「そりゃどうも、それで?」
息を切らして文句を垂れる黒ウサギに十六夜は無視して説明を急かす。
十六夜としては、呑気に小猫と名乗った少女と並んで腰を下ろしながら先の核爆発クラスのパワーで殆ど水が消し飛んだ湖を眺めてる一誠の力を是非知りたいので、とっとと自分に寄越したイカレた手紙の意味と共に説明をして欲しいのだ。
「それでは改めまして……こほん、ようこそ皆様〝箱庭の世界〟へ。
我々は皆様に、ギフトを与えられた者だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうか思いまして、この箱庭にご招待いたしました」
そんな十六夜少年の軽い苦労もあってか、漸く黒ウサギなる生物はこの世界についての説明を、どこかマニュアルっぽい台詞と共に開始した。
「ギフトゲーム?」
「どうやら前とは違ってまともでは無さそうですね」
一誠と白音も一応聞いてはいるらしく、聞きなれない単語に眉をひそめる三人と共に少し離れた場所から聞き耳を立てていると、黒ウサギなる生物はフッと笑みを溢しながらこの世界のルールを説明した。
「ゲームね……」
で、かなりいい加減にまとめると、どうやらこの世界における生物は、様々な修羅神仏や悪魔、精霊等から与えられた『恩恵ギフト』と呼ばれる力を持ち、その特異な力を用いて『ギフトゲーム』なるもので競い合うゲームが存在しているらしい。
つまり生物レベルが聞いてるだけで相当に高く、一誠と白音にとっては懐かしさを感じる魔王やら神々も存在しているらしい。
「ほほぅ?」
「メルヘンね」
「………」
最初は聞き流していた十六夜も徐々に興味を持ったのか、まだ説明途中の黒ウサギの言葉を徐々に聞き入っています。
「また懐かしい名前がチラホラ出てきましたよ。
特に魔王なんて先輩にしてみれば人生の分岐点みたいなものですよね?」
「お前に憑き纏われたという意味でもな」
三人の『子供』が黒ウサギの話をフムフムと聞いている少し離れた場所から、懐かしき種族についてどうでも良さそうな顔で悪態付く一誠。
修羅仏神魔……己がまだガキだった頃に散々殺してやった種族が横行している……結構な事だが、今更興味を持てと言われても、殺意も何も沸かない程にどうでも良かった。
「ここの人達って食べたらどんな味がするんでしょうか?」
「さてな、今更食い直しても不味いだろどうせ」
「それって食べさせるのは自分だけだっていう独占欲的なものと思って良いんですね?」
「知るか」
「ふふ」
干からびた湖の畔にて、まるでカップルの様に腰掛ける一誠と白音。
話してる内容はかなり物騒だったりする訳だが、これが二人にとっての普通だった。
「―――この世界は……面白いか?」
十六夜少年が黒ウサギなる生物に向けて放った質問もどうだって良く、世界を捨ててまで同じく招待された飛鳥も耀共々、勝手にしてろといって認識しか持てない。
「―――YES,
『ギフトゲーム』は人を超えた者だけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします」
そんな三人の期待に対し、黒ウサギは堂々と答えた。
少なくともこの問題児三人を満たせるだけのものが箱庭と呼ばれる世界には無数に存在する……そうハッキリと。
ともなれば最早三人の心は決まっていた……。
そう……。
「おい」
この二人の超越者を除いて。
「は、はい……!? な、なんでしょうか……?」
予想を越えてヤバイと悟り、またいきなり話しかけられた黒ウサギはオーバー気味にビビりながら、学生服に身を包む一誠との横にちょこんと立つ白音に返事をする。
誤解は解けてる様だが、正直な所戦力という意味ではこの二人は恐らく役に立つ。だからこそ下手に出ようとする黒ウサギだったのだが……。
「そこら辺の村人Aとして生きるにはどうすれば良い?」
「同じく……うーん、Bポジションが良いですね私は」
「はっ!?」
返ってきた言葉は、黒ウサギどころか問題児三人にとっても意外なものだった。
「り、理由は?」
乗ってこない……だと? と内心予想外でテンパりながらも黒ウサギは帰ると言い出した二人に理由を尋ねた。
するとそれまで無言で石像みたいな雰囲気を放っていた一誠は、たった一言。
「食い扶持さえ確保すれば、寝床なんて何処でも良い。
だがギフトゲームだって言ったか? そんなものに興味なんて無い」
身も蓋も無い事を言ってのけてしまった。
「きょ、興味無いって……」
「そうだぜ兵藤、お前だって元々世界に飽々してたんだからこの箱庭世界に来たんだろ?」
戸惑う黒ウサギに続き、十六夜が一誠に絡みだす。
だが一誠は手持ち無沙汰なのか白音の頭を何となく撫でながら、心底冷たい表情で言う。
「じゃあ言ってやる。
俺は元々の世界に飽々していた訳じゃ無いし、偶々この白音と一緒にあの胡散臭い手紙を読んでしまったからこの世界に飛ばされて来ただけだ。
だから、別に面白いか面白くないかなんてくだらねぇ理由で物事を判断しないし、否定もしない。
だけど、そういった意気込みでやりたければ勝手にやれば良いさ……………俺以外でな」
「一応フォローすると、貴方が仕込んだあの手紙も最初は安い『インチキ新興宗教』の勧誘の手紙と勘違いしてただけなんですよね」
「な……」
「「「………」」」
ある意味十六夜以上に見下した言葉に、それを理由としていた三人の視線が少しばかり鋭くなる。
黒ウサギは黒ウサギでインチキ新興宗教呼ばわりされた事に何とも言えない顔をする。
「言ってくれるじゃねぇか、というか結構喋るじゃねーか?」
「喋る理由も無かったのでね。さて、そんな訳だから質問を続ける――村人Aにはどうやってなれる? もっと言えば元の場所に帰る方法があればそっちを取るが」
「先輩がこう言ってる以上、私も先輩と同じく村人Bとして適当にやらせて貰います。ゲームはやりません」
「ま、待ってください! 帰るにしてもかなり厳しいギフトゲームをクリアしないとなりません!」
あくまで村人Aと村人Bになりたいと主張する一誠と白音に黒ウサギは、ある意味で十六夜達以上に問題性を感じる二人に頭を抱えた。
何というか、二人して何を考えているのか全然解らないのだ。
「まぁ、そんなチマチマした真似なんかしなくても、この世界の次元の壁をぶち破れば問題ないな」
「っ!?」
挙げ句の果てには、力技で箱庭世界から抜け出せると当たり前の様に宣言した一誠に黒ウサギは絶句し、慌てて止めようとする。
「そ、その場合この世界に対する影響はどうなるんですか?」
「さぁ? 運が悪ければこの世界が消滅する程度じゃありませんか?」
「!? だ、ダメですよ! そんな事をすればこの箱庭世界に君臨する様々な存在が――」
「知らねーな。
今更神だの何だのなんて有象無象、ガキの頃には飽きるほどぶっ殺しちまったよ」
「!?」
やる気の無い表情から一変、ゾッとするような禍々しい笑みを見せる一誠に、同じく白音も嗤う。
「あれ? ある程度私達の事情を知ってて呼んだと思ったのですがね?」
「っ……そ、それは」
「まあ、村人Aとしての生活を勝手に呼び出した以上、テメー等で保証してくれるのなら黙って住み着くに留めるが」
箱庭世界とやらの方々はどんな味がするんでしょうね……? と不気味に嗤う白音に、十六夜含めた全員が背中に氷柱を入れられた様な寒気を覚える。
というか、さっきからかなりエライ事を口走ってる気がしてなら無い。
「やる気があるそこの小僧と小娘二人が居るんだから、俺と白音が村人AとBをやっても別に良いだろ?」
「小僧だと? 俺の目にはお前との年の差は無いと思うんだが?」
「お前がそう見えるのなら、そうなんだろう。お前の中ではな。
だから詳しく説明してやるつもりは無い」
「………」
興味の無い玩具を見るような目を向けながら、言い捨てる一誠に十六夜少年はスッと目を細める。
「わ、わかりました……と、取り敢えず皆さん場所を移動しましょう。
我々のコミュニティを紹介したいので……」
「ええ……」
「……」
「確かに此処でも揉めてもしょうがないしな……兵藤と搭城も来るんだろう?」
「ええ、村人AとBの為なら従いますよ……今はね。
ね、一誠せんぱい?」
「まぁな」
クックックッとまるで黒ウサギの内心を見透かす様に嗤い、言われた通り最後尾を付いてくる二人の得体の知れない存在に黒ウサギはかなり後悔したのだったとか。
「あ、一応先輩がさっき壊した場所は私が今夢へと書き換えましたので、ご心配無く」
「え………あれ!? け、景色が元に……?」
「またあのマジックか? おいおい、マジで何者だよお前ら?」
しかし力だけは本物だと、小猫と名乗った少女が起こしたらしき『手品』によって一誠が破壊した一面の更地を元の状態に戻したそれを見て、黒ウサギは密かにストレスと戦う決意を固めるのだったとか。
終わり
補足
あくまで村人AとBに拘る二人。
ちなみにな話、実力的には二人は拮抗していて、その力もおかしな次元に到達し過ぎて一見すると『普通程度』にしか見えないらしい。
その2
ぶっちゃけラスボスが二人いる時点で……うん。