色々なIF集   作:超人類DX

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病気を患って更新が出来なかったです。

なのでリハビリ目的でネタを一つ。

といっても前回の続きですが。


無駄に長いです


I×S……変更編
ゼロの理由


 実にやりにくい対応を三人から受け、そのまま周囲に注目されまくりなままの朝食を終えたルイズは、一誠、曹操、ヴァーリを引き連れて早々に食堂を後にする。

 

 

「朝飯にしちゃ朝っぱらから胃に重いもん食うんだなこの世界の人間ってのは」

 

「長ったらしい前口上に入っていた……確か始祖ブリミルってのが少し気になるな」

 

「? どうした主よ? 先程から元気が無いが……」

 

「アンタ達が急に変な真似をするから、周りの連中に変な目で見られたからよ!」

 

 

 始業の時間までかなりの余裕が出来てしまったルイズが、気色悪いまでに小間使いみたいな真似をした三人に語尾強めに当たる。

 

 周囲の生徒が唖然とするくらいに様になった動きで食事をするルイズの周りを世話しまくるその光景が、余計に居たたまれなさという奴に苛まれてしまい、満足に朝食を取れなかったとルイズはキョトンとする三人を軽く睨む。

 

 

「急にアンタ達があんな真似したせいで、物凄く居辛くなっちゃたじゃない……」

 

「あんな真似? だがご主人様よ、俺たちは使い魔なんだろう?

だったらご主人様が飯食ってるのをただ木偶の坊みたいに突っ立ってる訳にもいかないと思ったんだよ」

 

「主を馬鹿にする言葉を吐いていた連中も、これで俺達が主の使い魔であるとわかっただろうしな」

 

「気に食わん箇所があれば言ってくれよ? 可能な限り修正するからな」

 

「………う」

 

 

 しかし三人はヘラヘラ笑いながら主にルイズの為に良かれと思ってやったと言い切るものだから、思わずこれにはルイズも言葉を詰まらせてしまう。

 というのも、食事中の三人はビックリする程痒いところに手が届く動きしかしなかったのだ。

 

 

「べ、別にあそこまでしなくて良いわよ……」

 

 

 故にルイズはルイズらしからぬ態度で三人にやんわりとそこまでするなと念を押しておく。

 悪くは無いのだが、あんな対応をされ続けられると、逆にゼロのルイズである事をもっと馬鹿にされそうな気がしてならないのだ。

 

 

「ご主人様がそう言うなら控えるしか無いか……」

 

「何処か間違えてたのか?」

 

「中々小間使いの真似事も難しいものよ」

 

「…………」

 

 

 昨日からだけでもチラホラ発覚してる……妙にスペックの高い使い魔三人を引き合いにでも出されたら、ますます自分が惨めに思えるだけなのだから。

 

 

「ところでご主人様、ゼロのルイズってどういう意味なんだ?」

 

「っ……じゅ、授業に行くわよ!」

 

 

 

 

 ゼロのルイズの意味を聞こうとしたら思い切り睨まれてしまった一誠は、ヴァーリと曹操と共に早めながらも授業を受ける為の教室へとやってきた。

 

 

「おお……これが勉学する教室って奴かぁ……」

 

 

 一誠達の世界で例えるなら、大学の抗議室的なテイストに近いものがある場所だったりするのだが、ほぼ一番乗りで教室へと乗り込むや否や、特に一誠は『初めて』見る教室に少し感激していた。

 

 

「すっげー……お勉強部屋とか異世界に来てやっと初めて見るぜ」

 

「俺達は学校というものに縁が無かったからな」

 

「一般教養はアザゼルに教えれてたとはいえ、新鮮だなこれは」

 

「何者よそのアザゼルってのは……? 確かアンタ達の父親って言ってたけど」

 

 

 木では無く石で出来た机と椅子を意味無く妙に色気のある手付きで触れる一誠、ヴァーリ、曹操の口走るアザゼルなる男の話に、勉強道具の準備を終えたルイズがそういえばと訪ねる。

 

 これも昨日からの付き合いでしかないが、三人がアザゼルという男の名前を出す度に妙に誇らしげな表情を浮かべるのだ。

 

 

「俺達の父親だよ。……まあ、血の繋がりは三人とも無いけど」

 

「あ……」

 

 

 しかし聞いたルイズは少しだけ後悔した。

 血の繋がりが無い……それはつまり三人の実の両親はなんらかの理由で『居ない』という事になるのだから。

 

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「? 何でご主人様が謝るんだ?」

 

 

 思わず謝るルイズ。

 しかし三人の表情は寧ろ不思議そうなそれだった。

 

 

「だ、だって三人共本当のご両親を……」

 

 

 言葉はキツイものの、ルイズは基本的に悪い子では無い。

 昨日の儀式でもそうだが、帰れる保証もないのに儀式で召喚してしまった……という自覚は十二分に持っているので、三人の背景を知って尚罪悪感を刺激してしまったのだ。

 

 

「別に気に病むことなんて無いと思うぞ主よ。

何せその実の両親とやらからは俺達は捨てられたようなものだからな」

 

「おう、例えばこのヴァーリなんか、実の親父に毎日殴られてたからなぁ」

 

「と、今言った一誠に至っては『気持ち悪い』と罵倒された挙げ句、山奥に捨てられたんだぞ?」

 

「な……!?」

 

 

 だが三人は寧ろ楽しそうに、笑えない事情を話す。

 捨てられた、虐待された……どれもこれも全然笑えずにルイズが絶句してしまう話を平然と。

 

 

「おかしいんじゃないのアンタ達? 普通笑って話す事じゃないわよ……」

 

「まあ、俺達がおかしいのは否定しようもないね。

だけど、そんな経験をしたからこそアザゼルさんに命を拾って貰えたし、このアホ二人ともそれなりに楽しく生きてられるんだ。

寧ろ今何処で何をしてるかも知らねぇ実親共が現れたら笑って『ありがとう、捨ててくれて』とお礼を言ってやりたいぐらいだぜ」

 

 

 ケタケタと笑って言う一誠に、同じく薄く笑いながら同意するかの様に頷くヴァーリと曹操。

 

 常人とは価値観が違う異常性を持つが故の思考回路だから宣える言葉に、ルイズもまた端的にながら改めて自分が呼び出した三人の使い魔の異常な部分に得体の知れないものを肌で感じ取ってしまう訳だが、そんな気持ちを抱くのとは別に、ルイズの心の隅っこにはこんな感情があった。

 

 

『何故かは知らないけど、こんなおかしな事を宣える変人なのかもしれないけど――――理解できてしまう部分がある』

 

 

 という、ある種の同類意識的なものを。

 それは己が召喚した弊害なのか、それとも元から持っていたものなのか……。

 

 

「今の話、他人にしない方が良いわよ。

変な奴だと思われるから」

 

「好き好んでこんな話なんてしないが、了解しましたよご主人様?」

 

 

 使い魔の契約はせずとも、ルイズは三人に対して小さいながらのシンパシーを感じたのだ。

 とはいえ、そのシンパシーというのもルイズが自覚している部分では無い為、始業の時間が近づくに連れて他の生徒達が先日召喚した『普通』の使い魔達を連れてゾロゾロと教室に入って来る頃には『やっぱりどこか変だわコイツ等……』と、ルイズの座る席の後ろに立って待機する三人に対して一般的なイメージを抱いていると、時間と共に教師がやって来た。

 

 

「皆さん、授業を始めますよ」

 

 

 入ってきたのは中年の女性で、紫色のローブに帽子を被っている……ふくよかな頬が優しい雰囲気を持った教師だった。

 彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んで言う。

 

 

「みなさん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」

 

 

 どうやらシュヴルーズという名前らしい教師は、生徒達の傍らに居る使い魔達を見て言葉を並べているのだが……。

 

 

「うーん、あの人独身かな? だったら後で声掛けたいぜ」

 

 

 信じられない事に、シュヴルーズをしげしげと眺めながら一誠がナンパしようかなと言った声を出したのだ。

 幸い本人やその他には聞こえてないが、ルイズや曹操やヴァーリにはバッチリ聞こえており、特にルイズは『正気かお前!?』といった目を思わず向けてしまう。

 

 

「で、玉砕だろ? 一誠は何時も失敗する」

 

「成功率無しだからな一誠は」

 

「うっせーなバカ、ほっとけや」

 

「……………」

 

 

 ヴァーリと曹操は『何時もの悪癖だ』と呆れた表情をしてるがルイズにしてみればドン引きするに充分な事だった。

 キュルケを見ての反応からして女好きな面が強いといった認識はあったが、まさか見境無しだとは……。

 

 三人の中でよりバカそうで色々とだらしなさそうなイメージを持っていたルイズは、授業が終わったらまず一誠から色々と教育してやらないと……と密かに決意を固める中、よそ見をしていたのがバレてしまったからなのか、それとも本当に珍しいと思ってからなのか、シュヴルーズの視線がルイズ達四人へと向けられる。

 

 

「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね、ミス・ヴァリエール?」

 

 

 様々な生物の使い魔が居る中、人間にしか見えない存在をそれも三人も使い魔として後ろに控えさせているというのは教師生活そこそこのシュヴルーズにとっても珍しいというレベルでは無く、普通にただそう呟いてしまった。

 しかし、それが火種となり、直後教室中が一気に嘲笑の籠った悪意の笑いに支配される。

 

 

「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」

 

 

 そう、呼び出して使役してるのが他ならぬヴァリエールだからだ。

 シュヴルーズの言葉に対して待ってましたとばかりに生徒達がルイズに向かって見下した嘲笑をぶつけまくる。

 

「違うわきちんと召喚したもの! コルベール先生だって認めくださったのっ!」

 

「ははは、嘘つくな! サモン・サーヴァントが出来ずに誤魔化したんだろ?」

 

 

 コルベールが認めたのは事実だった。

 だが何も知らない生徒達にしてみれば信じられる訳も無く、ますます……もはや苛めの領域の罵倒がルイズへと向けられ続ける。

 

 

「ミセス・シュヴルーズ、私は侮辱されました! 

このかぜっぴきのマリコルヌが私をっ!」

 

 

 握りしめた拳で、ルイズが机を勢いよく叩く。

 

 

「かぜっぴきだと!?

俺は風上のマリコルヌだ! 風邪なんか引いてないぞ!」

 

「あんたのガラガラ声はまるで風邪も引いてるみたいなのよ!」

 

 

 マリコルヌと呼ばれた少年が立ち上がってルイズを睨み付け、ルイズもこれでもかといった啖呵で睨み返そうとする中、それまで棒立ちしていた一誠、ヴァーリ、曹操はゼロだゼロだと言われるルイズのそれが悪口である事を何となく察していた。

 

 

「ゼロ、ねぇ……」

 

「どう聞いても良い意味では無いらしい」

 

「というか暇なガキ共だ。他人を貶せるのであれば、さぞ自分達は優秀な魔法使いなんだろう」

 

 

 

「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はやめなさい」

 

 

 ルイズへ向けられる嘲笑に冷めた気分で眺める三人は、小さくただそう呟いた。

 

 そんな中、シュヴルーズが漸く手に持った小ぶりな杖を振って魔法らしきものを発動させる。

 何かを操作する魔法なのか、直後席から立ってヒートアップしていたルイズとマリコルヌなる生徒が無理矢理といった様子で強制的に椅子に座らされる。

 

 

「お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません。分かりましたか?」

 

「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」

 

 

 マリコルヌのその一言でくすくす笑いが漏れ、ルイズは打ちのめされてしまったかの様に、そして悔しさに歯を食い縛りながら俯いてしまう。

 

 

「ご主人様、フォローとか必要?」

 

「………要らないわ」

 

 

 それを見かねて三人は問い掛けてみるも、ルイズは惨めな気分でうつ向いたまま首を横に振り、暫く何も話しかけるなといったオーラを放つ。

 付き合いがこの時点で長ければ、聞くまでも無く一誠なら未だにルイズを笑ってる連中を八つ裂きにでもするのだろうが、如何せん一誠達はルイズに対してそこまでの情を持ち合わせては無かった。

 

 故にうつ向いてしまうルイズの小さな背を、シュヴルーズが魔法でまた他の生徒の声を止めて授業を始めるのを黙って見つめるのだった。

 

 

 しかし一誠達はこの直後、何故ルイズが自分達三人を召喚魔法で呼び出せたのかを知ることになる。

 そしてルイズに対するひ弱な小娘というイメージを180度変える事になる。

 

 

「さて、それではまずは去年の復習を予てみましょう」

 

 

 それはシュヴルーズの授業の中程を使って、この世界の魔法についての話をしていた時から始まった。

 何でもこの世界の魔法には『火』『水』『風』『土』の四大系統が存在し、さらにそこに今は失われた系統魔法である『虚無』を合わせて全部で五つの系統がある……という説明をルイズの後ろで『吸収』するかの如く聞き耳を立てていた一誠達が、実際シュヴルーズが小石をゴールドメッキの真鍮に錬金させるのを眺め、メイジのランクについても把握しつつ……『何か微妙』と揃って異世界の魔法使いに対しての評価を下しかけた時、ひょんな事からルイズが錬金魔法の実践をシュヴルーズから指名された時に事は動いた。

 

 

「それではミス・ヴァリエールに実践をして頂きましょう」

 

『!?』

 

 

 先生からの指名をルイズが受けた瞬間、教室内の空気が一瞬完全に止まった。

 それが何を意味するのか、ルイズが『魔法』を行使する所をまだ見ていない三馬鹿は首を傾げる中、今朝方少しばかり話をした女子生徒であるキュルケが、恐る恐るといった様子で手を挙げながら言う。

 

 

「せ、先生」

 

「何です?」

 

「やめといた方が良いと思いますけど……」

 

 

 まるで恐ろしい幽霊でも恐れるかの様なキュルケに、一誠達と同じく何も知らないシュヴルーズも首を傾げる。

 

 

「どうしてですか?」

 

「危険です」

 

 

 キュルケがきっぱりと言うと、教室のほとんど全員がそれに同意するように頷いた。

 

 

「危険?」

 

 

 何がどう危険なのか? 高々初歩的な錬金魔法なのにとますます不思議に思うシュヴルーズ。

 

 

「ルイズに教えるのは初めてですよね?」

 

「ええ、でも、彼女が努力家という事は聞いています。さぁミス・ヴァリエール、気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては何もできませんよ?」

 

 

 事前に生徒達の評判を聞いて把握していたシュヴルーズ。

 魔法に関してはお世辞にも良いとは言えない評価があるものの、座学に関しては優秀に加えて努力をも惜しまないといった評価があった。

 故にその魔法に関しての余り良くは無い評価といったものを軽く考えてしまっていたシュヴルーズは、生徒達の反対を押してルイズにやってみなさいと背中を押してしまう。

 それを受けたルイズのやる気を芽生えさせるには充分な程の……。

 

 

「ルイズやめて……!」

 

 

 顔つきを見てキュルケが蒼白な顔で言うが、ルイズは立ち上がってはっきりした声で告げる。

 

 

「……………。やります」

 

 

 そして緊張した顔で、つかつかと教室の前へと歩いて行った。

 そんなやる気に満ち溢れた生徒を見てシュヴルーズはにっこり何処か満足そうにルイズに笑いかける。

 

 

「ミス・ヴァリエール、錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」

 

「は、はい……!」

 

 

 完全にやる気になり、シュヴルーズに言われて杖を取り出したルイズ。

 その瞬間、最早止められないと悟ったキュルケ……いや、クラスメート全員が顔色を悪くさせながら、まるで防災訓練が如く机の下へと避難し始める。

 

 

「何だ急に……?」

 

 

 ガタガタと全員して机の下に隠れる姿は、教室の一番後ろから立って見ていた一誠達から見るとかなりシュールであり、また何をそんなに怯えているのかと疑問だった。

 

 

「アナタ達も隠れるべき」

 

「あん?」

 

 

 そんな一誠達にルイズの隣に座っていた青髪の少女が忠告のつもりで話しかけて来た。

 一応ルイズから貴族と平民の差について聞かされていてたのだが、いきなり机の下から話し掛けられたというのもあって思わず素の声が出てしまう。

 

 

「危険……」

 

「危険?」

 

「高々錬金の基礎魔法を実演するのに何が危険なのだ?」

 

「嘘じゃない、早くしないとアナタ達は怪我をする……」

 

 

 眼鏡を掛けた、ルイズと似た小柄な少女の口にした危険という言葉がますます解せない三人。

 曹操の言うとおり、高々錬金の初歩魔法の実践だけでそこまで脅威に言われるルイズが魔法を得意としてないのは何となく察してる。

 

 

「ふーん……寧ろ見てみたいね、ご主人様の魔法」

 

「あぁ、普段主を小馬鹿にする連中が恐怖するくらいだしな」

 

「寧ろ隠れるなんて使い魔をやってる俺達はしてはいけないだろ」

 

「…………」

 

 

 だからこそ三人はニタリと嗤い、少女の忠告を無視して緊張した面持ちのルイズの魔法を見届ける事にした。

 考えてみればルイズが魔法を使用する姿はまだ見ていないし、ゼロと呼ばれる理由も恐らくこれでわかるかもしれない。

 

 逆に仁王立ち状態でルイズを一点見する三人の意味不明使い魔を見た少女は、使い魔になったばかりの無知さを理解しつつも、これ以上言っても無駄だと悟ったのか、感情の読めない表情のまま机の下で丸くなる。

 

 どうせ数秒後には爆発して大怪我をするのは三人だけだし、ならばいっそ身を以て知れば良い。元々気紛れで忠告しただけだから……と、内心呟きながら。

 

 

 そう……。

 

 

「錬金……!」

 

「!? ヴァーリ!!」

 

「わかってる!! アルビオン!!」

 

『DIVINE!!』

 

「チッ!」

 

 

「……え?」

 

 

 ルイズが杖を振り上げたその瞬間、三人が一瞬の内に何かをするのをこの目で見てしまうまでは。

 

 

 

 結果的に云えば、ルイズが魔法を行使した瞬間教室内は爆発の余波で目茶苦茶になった。

 

 しかし目茶苦茶になったのは教室の備品のみであり、爆発を引き起こしたルイズやその隣で見守っていたシュヴルーズは無事だった。

 

 

「くっ……!」

 

「え、イ、イッセー……ソウソウ……?」

 

「あ、あの……」

 

「ふっ、どうやら無事なようだな」

 

 

 ルイズが魔法を行使しようと杖を振り上げたその瞬間、三人はルイズの中に潜む正体は解らないが強大な力を感じ取った。

 それは自分達の住む世界にて嘗て喧嘩を売った魔王やそれに準ずる莫大な魔力に勝るとも劣らない純粋な力の奔流とも言える強い力であり、それを察した瞬間このままでは『まともに教室が吹っ飛ぶ』とまずはヴァーリが二天龍の片割れであるバニシングドラゴンの力を使ってルイズの力を半減させた。

 

 しかし驚いた事にそれでもルイズの力は莫大であり、次に一誠と曹操が其々ルイズとシュヴルーズへと一瞬にして移動。

 シュヴルーズの盾になる曹操とルイズを庇う一誠が爆発寸前となる小石を掴み、無理矢理爆発を押さえ込もうとしたのだが……。

 

 

「大丈夫か主、それにシュヴルーズ教諭」

 

「え……えぇ……い、今何が……?」

 

 

 これは三人とっても大きく外れた予想だったのだが、ルイズの爆発させた力は完全に抑え込めなかったのだ。

 幸い教室内は無惨な事になったものの怪我人は居らず、シュヴルーズも教室の一番後ろに居た筈のルイズの使い魔達が目の前に居る事に困惑しているだけに済んでいる。

 

 

「おい、大丈夫かご主人様?」

 

「あ……う、うん。え、えっと……ちょっと失敗しちゃったわね……」

 

 

 一誠に抱えられる形で庇われているルイズも無事だった様で、驚いた表情のまま固まるだけで怪我は無さそうだ。

 が、三人が真面目に動いても尚抑えきれなかった爆発は相当な物だと物語るかのように身体中煤まみれとなっており、服も所々破けていた。

 まあ、一誠と曹操の黒焦げに焼き爛れている片腕に比べたら可愛いものではある。

 

 

「だから言ったんだ、あいつにやらせるなって!」

 

「もうルイズは退学にしてくれよ!!」

 

「この、魔法の成功確率『ゼロ』のルイズ!」

 

 

 しかしそんな三人の尽力虚しく、慣れていたクラスメートは無事で済んでも尚ルイズを罵倒した。

 本来ならこの程度で済まなかった筈なのだが、やはり普段の彼女の魔法成功率ゼロというイメージは拭えないのだ。

 

 

「…………」

 

 

 そう……三人の使い魔以外は。

 

 

 

 その後授業は当然の如く中止となり、ルイズは罰として魔法無しで教室の片付けをさせられていた。

 その片付けには一誠達も手伝ってたので予定よりも大幅に早く片付けられそうだった。

 

 

「これでわかったでしょ……私が『ゼロ』なんて言われてる理由」

 

 

 しかしルイズの心は折れていた。

 どれだけ頑張っても、どれだけ練習しても己の繰り出す魔法全てが爆発で終わってしまう。

 そればかりか一誠と曹操は自分を庇って片腕に大怪我まで負った。

 

 使い魔は主を守るという点だけはあの日言った通り本当に守ってるとはいえ、自分の失敗が原因なんて笑えやしない。

 

 ルイズは泣きそうな声で黙々と怪我したまま治療してない二人や、無言で窓の修理をしているヴァーリに自分の魔法の才能の無さを告白する。

 

 

「……。うん、よくわかったよ」

 

 

 そんなルイズに言葉を返すのは、床に散らばった石片を拾う一誠だった。

 ルイズ以上に爆発の余波をまともに受けた影響で黒ずんだ腕が痛々しく見えるが、本人は平然としてる表情のまま、机を拭いてるルイズに言った。

 

 

「キミが俺達を使役するに値する器を秘めてるってのが……よーくね」

 

「……は?」

 

 

 それは意図が読めないルイズにしてみれば皮肉にしか聞こえなかった。

 

 

「アンタ、私を馬鹿にしてるの……!? 目の前で見たでしょう!? 初歩的な魔法すら出来ずに爆発させたのを!!」

 

「あぁ、そうだな」

 

「だったら何でそんな事を言うのよ!! 変な慰めなんて要らないわ!!」

 

 

 馬鹿にされてる気しかしないルイズは涙を目に溜めながら一誠を睨む。

 曹操とヴァーリは我関せずを貫き、無言で片付けをしている。

 

 

「その腕だって、私の失敗でしなくても良い怪我をしたのに、それでも私がアンタ達の主の器だって言いたいわけ!?」

 

 

 情けさ、恥ずかしさ、色々な感情が己の中でグチャグチャに溶けながらルイズは叫ぶ。

 しかしそれでも一誠は……いや一誠達は言うのだ。

 

 

「あぁ……誇張無しでキミは俺達を召喚した主ある器だよ」

 

「さっきの力で確信した」

 

「アルビオンの力を使っても尚あの威力だからな……しかもあれだけのパワーを捻り出しておいて怒る元気すらある……ふふ」

 

「っ……!」

 

 

 嘘偽り無くルイズは自分達をコキ使える主になれると。

 そのあまりの笑みにルイズは思わず怒鳴り散らす勢いを削がれてしまう。

 

 

「な、何なのよアンタ達……意味がわからないわよ……」

 

「意味不明と揶揄されるのはもう慣れてる。

んな事より片付けは俺達でやってるから、ご主人様はお風呂入って着替えなよ」

 

 

 クックックッと悪戯小僧みたいな笑みを浮かべる一誠が、ルイズの背を押して教室から追い出す。

 ルイズとしては命じられた罰を最後までやり通したかったが、服も煤だらけでみっともない格好のままなのは否定できなかったので、内心ちょっとだけ三人に謝りつつ、そして重かった心を軽くさせながら浴槽へと向かうのだった。

 

 

 

「…………。おい、見たか?」

 

 

 ルイズが一足早く教室を出た後、残っていた一誠は曹操とヴァーリに対して『嗤い』ながら話しかける。

 すると二人も一誠みたいに嗤いながらコクリと頷く。

 

 

「あぁ、主の力は予想を越えていた」

 

「あれで『ちょっと失敗』というのが信じられないよ」

 

 

 先程のルイズ魔法失敗について思い返しつつの会話。

 アルビオンの半減すらほぼ無意味な程の破壊力を持つルイズの爆発。

 そして、その力を行使したというのに本人に疲労の色が全く見えない事。

 

 やっとゼロのルイズという名前の意味を知れた三人の表情は戦闘狂の笑みをこれでもかと浮かべていた。

 

 

「単純な力は冥界の魔王レベルだなアレは。

そして貯蔵量はチビな見た目を吹っ飛ばす規格外だ」

 

「ヴァーリの白龍皇の光翼で10回半減させてやっとあのレベルまで落としたんだ。

もし何もしなかったら……くく、見ろ、俺も一誠も腕がこの様だ」

 

「まともに怪我するなんて何時振りだったかな。

末恐ろしいご主人様だよ全く――――しかしこれで確信した。

確かにご主人様自身は何が原因かはまだ解らない様子で、単なる魔法を行使しようとすると全部爆発に変換されるみたいだが、それ以上にご主人様はこの世界では誰よりも俺達側だ」

 

 

 ルイズの持つ潜在能力。

 それが自分達と同じベクトルである事を完全に確信し、歓喜という意味で笑みが抑えられない。

 

 つまらない世界に帰る手立てがないままなし崩し的に滞在しなければならない憂いなき目に遇ったが、今やっと三人はこの世界に呼び出されて良かったかもしれないと心の底から思っていた。

 

 

「あの子を化けさせる為に暫く使い魔をやるぜ俺は?」

 

「意義無し、完全に開花させてから戦ってみたいな」

 

「その為にはまず、自覚を促さないといけないな……。

彼女の奥底に眠るスキルを」

 

 

 同じ……血の繋がりを越えた繋がりの為に。

 

 

 

 

 

 やっぱりあれは幻覚では無い。

 三人の内二人がシュヴルーズとルイズを爆発から身を呈して庇ったのを見た少女は、中止になってしまった授業の変わりに自室で本を読みながら考えていた。

 

 

「………」

 

 

 ゼロと馬鹿にされているクラスメートが呼び出した平民三人の使い魔。

 珍しさで言えば確かに珍しいが、所詮は平民だと少女は特に気にも止めなかった。

 しかし今日の授業で見た目にも止まらぬ速度とそれを可能にする身体能力は、見てしまった少女の脳裏に無理矢理刻み付けるに十分だった。

 

 

「………………」

 

 

 それがどうしたと言われたらそれまでかもしれない。

 しかし少女の頭の中は昼間の事がどうしても頭から離れず、気付いたら本片手に日が暮れてしまっても尚考え続けていた。

 

 

「………」

 

 

 自分らしくもない……少女は本を閉じ、思考を切り替えようと二つの月が照らす外の風景でも気分転換に眺めようと窓の近くまで移動する。

 そうだ……ヴァリエールの使い魔がどうだろうと自分には関係ないし、強かったとしても何だ……少女は己の抱える闇と共に払拭しようと小さく首を横に振りながら、今日はもう寝てしまおうと明かりを消そうとしたその時だった。

 

 

「あ……」

 

 

 ピタリと少女の視線が窓の外に釘付けになった。

 それは、昼間見てしまった平民三人の内の一人……名前は微妙に解らないが、確かルイズの事をご主人様と呼んでいた茶髪の男が、一人どこかを目指して歩いている背中を見てしまったのだ。

 

 

「………一人?」

 

 

 そう、一人でだ。

 三人でならまだしも、一人で消灯時間過ぎて外を出歩いている。

 生徒じゃなくて使い魔だから校則違反じゃないにしろ、昼間の事があって微妙に気になる少女は思わずと言った様子でジーっとその背を目で追ってしまう。

 いや、勝手にどこ行こうが少女に関係なんて無いのだし、そのまま寝てしまえばそれで終わりなのかもしれない。

 

 しかし少女は気になって仕方なかったせいか……身の丈レベルの杖を持ち、ローブを羽織って無意識の内に部屋を飛び出してしまった。

 もしかしたら変な事をしているのかもしれない……なんて誰に対して不明な言い訳をしながら。

 

 

「………」

 

 

 窓からフライの魔法で飛び出した少女は、フラフラと開けた場所立ち止まる茶髪の少年を木の影からこそこそと覗き見る。

 校則違反だが、知的好奇心を満たす欲求に比べれば些細な事でありまた少女にしてみれば『見てしまった』それの前では最早どうでも良くなっていた。

 

 

「右腕はもう大丈夫にしても、曹操もヴァーリと付き合いの悪い。

一人で修行するのは寂しいぜ……なぁドライグ?」

 

『ヴァーリはすぐ寝てしまうし、曹操はそもそもそんなタイプじゃないからな。仕方ないだろう』

 

 

 

 

「なに……あれ……?」

 

 

 左腕に淡い光と共に出現する真っ赤な籠手の様なもの。そしてその籠手に埋め込まれてる宝玉から発せられるオッサンの声…………いや、それ以上に感じる強い力。

 昼間の事以上の驚愕出来事に少女は暫く唖然としながらも、少年に視線を釘付けにする。

 

 

『で、あのお前らを召喚したらしい小娘を誘導してこちら側に引き込むといってたが、具体的にはどうするんだ?』

 

「どうするかなんて決まってる。俺達の力をご主人様に認めて貰った上で、ご主人様も似たベクトルのそれがあると暴露するんだよ。

で、自分を知って貰う…………が、理想だな」

 

『確かにスキルについてはそれが一番だが、あの我の強い小娘が素直にお前達の言うことを聞くのか?』

 

「あー……まぁ、何とかなるでしょ……多分」

 

 

 

 左腕に纏う真っ赤な籠手と会話する……端から見れば物凄くシュールな絵面を少女はジーっと眺め続けている。

 正直、あの籠手が何なのかもそうだが、それ以上にさっきから普通に魔法みたいな紅く輝く槍らしき何かを手に素振りの様に振り回してるのが信じられない。

 

 

『それとイッセー……』

 

「え? ……あ、うん」

 

 

「…………っ!?」

 

 

 そしてそれ以上に少女はまずいと悟る。

 

 

「誰? 俺は女の子の着替えを覗くのは好きだけど、覗かれる趣味は無いんだよね……」

 

 

(気付かれてる……!)

 

 

 少年に自分の存在を完璧に気付かれてしまっている事に……。

 少女は内心動揺しつつ、手に持っていた杖を握りしめながら姿を見せるべきか迷った。

 

 

「………槍投げでもするかー?」

 

「う……」

 

 

 だが少年が手に生成した謎の光の槍を自分に向かって投げ付けようと構えた瞬間、少女は取り敢えず敵意なんて無いという意思を示す為に慌てて木の影から飛び出した。

 

 

「待って。覗いていたのは謝る」

 

 

 こんな所で騒ぎを起こしたら洒落にならない。

 故に少女は敢えて姿を晒して敵じゃないと伝える。

 すると茶髪の少年は……いや、一誠は少女の姿を見るなり何かを思い出したのか、その手に構えた光の槍を消す。

 

 

「……。昼間忠告してくれた子か? 何だ、消灯時間はとっくに過ぎてる筈だけどな」

 

「偶々アナタの姿が見えたから、気になって……」

 

「あー……そう」

 

 

 ルイズのクラスメートなら殴り倒す……なんて真似は出来ないと殺意を引っ込めた一誠だが、目の前の少女の事情説明を受けてもあんまり嬉しくは無かった。

 

 

(チッ、寸胴のガキか……つまらねぇ)

 

 

 女子だったのは良いとして、その見た目があまりにも対象外であったせいか、一誠の顔は露骨に嫌そうな顔だ。

 

 

「何をしてたの? それにその左腕の……」

 

「それはお偉い貴族様としての質問でしょうか?」

 

 

 もっとボイン来いよ……。

 

 内心毒づきつつも、取って付けた様な笑顔を見せる一誠に少女は小さくフルフルと首を横に振る。

 

 

「違う……気になるだけ。でも、言いたくなければこれ以上聞かない」

 

「あ、そっすか」

 

 

 ルイズとは真逆の雰囲気漂う少女に一誠は、もし貴族様顔で教えるのを強要して来た場合、ぶちのめして記憶を物理的に消すつもりで構えていた為、少し肩透かしを食らった気分となる。

 

 神器(セイクリッドギア)という概念が存在しないこの世界の人間に説明なんて面倒にも程があるのだ。

 

 

「出来れば他の方々にも黙って貰いたいんですがね……」

 

「………」

 

 

 主の器になり得るだろうルイズなら兎も角、こんな寸胴でどうでも良くてほぼ全部が対象外の小娘一匹ごときに教えたくも無い一誠はついでとばかりに言い触らさないでと釘を刺しておく。

 

 

「わかった」

 

 

 少女もそれを受けて小さく頷く辺り、聞き分けは良いと少しだけ評価を上方修正する一誠だったのだが。

 

 

「その代わり、少しだけアナタの実力が知りたい」

 

「あ?」

 

 

 小柄な少女には少々大きい杖を構え始める少女に、一誠は昼間初めてこの少女に話し掛けられた時と同じ反応をしてしまう。

 

 何せ、急に戦えと言われたのだから。

 

 

「一応聞きますけど、それを断ったらどうなるんですか?」

 

「……………。さっきの約束は無かったことになると言ったら、戦ってくれる?」

 

「なるほどね……」

 

 

 だから覗いてたのか。うぜぇ……。

 この世界の魔法の原理は基礎構造のみながら把握し始めていた一誠にしてみれば戦う理由が無いし、どう見ても貧弱そうな小娘なので、やる気が出ない。

 しかし誰にも言うなという約束を反故にされると例え嘘でも言われてしまえば、その要求を受け入れざるを得ないと判断した一誠は……。

 

 

「この世界の魔法……折角だから堪能してみるかな。良いぜ……来いよ?」

 

 

 仕方ないので遊んでやると、一誠は赤龍帝の籠手を引っ込めながら構えた。

 

 

「……さっきの赤いのは?」

 

 

 杖を構えた少女が目を細めて赤龍帝の籠手を消した意図を問う。

 

 

「あ? おいおい、お前ごときに何で力を使わなきゃならないんだ? 貴族で魔法使えるからって自惚れるなよ? 『貴族で魔法が使えるだけ』のガキが」

 

「………」

 

 

 へっ、と割りと辛辣にて処刑ものの暴言を吐く一誠に少女の目元がピクリと動く。

 それは暴言を吐かれて怒ったというのでは無く、明らかに自分の実力を軽く見られている事自体に少しムッとなったからだった。

 

 

「エア・ハンマー……」

 

 

 一誠の挑発に乗る形で少女は魔法をぶつけた。空気を固めて不可視の槌として相手にぶつける魔法であり、本当は詠唱が無いと満足な威力は発揮できないのだが、生憎この少女は魔法は才能に恵まれていた。ルイズとは違い『魔法は』才能があったのだ。

 

 

「温風の魔法かこれは?」

 

「は?」

 

 

 しかしそれだけでは、異世界にて龍帝と呼ばれた少年に傷なぞ付けられる訳もなく、平然とエア・ハンマーを食らって温風と宣うその姿にさしもの少女も唖然となる。

 

 

「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ……」

 

 

 ならばと少女は、得意にて威力の高い魔法を撃とうと詠唱をしながら呑気に首をコキコキ鳴らす一誠を暗殺者の様な眼差しで見据える。

 ただ者では無いことは最早わかりきった事だし、手加減できる程甘い相手じゃない……だからこそ知るという意味で全力を尽くさなければならないと少女は……。

 

 

「ウィンディ・アイシクル」

 

 

 大気を凍らせて生成した無数の氷の槍を一斉にぶつけた。

 これなら流石に無傷では無い筈だと信じて……。

 

 しかしそれでも……。

 

 

「何時だったか見た女魔王の遥か劣化版かなこれは」

 

「……!?」

 

 

 その氷矢は一誠の身を傷つける事は出来ず、逆に砕け散った。

 平然と、つまらなそうに呟く一誠に持っていた杖を落としそうになってしまうのは仕方ないのかもしれない。

 

 

「ど、どうして……?」

 

「キミが殺すつもりで捻り出した力より、鍛えまくった俺の身体の方が強度が上だって事だろ。残念だったね」

 

 

 残酷すぎる一言に心がへし折れそうになる少女。

 しかし、それならばと他の魔法をぶつけようと今度は別の……もっと殺傷力の高い魔法を詠唱しようと口を開こうとする。

 

 しかし少女は甘かった……いや視えなかった。

 

 

「ふーん、ご主人様の杖とは全然違うんだな」

 

「え……?」

 

 

 魔法の詠唱をしようとしたその瞬間、狐に化かされたかのように少女が持っていた筈の杖が自分の手から消えた。

 

 そればかりか、少し離れた距離に突っ立っていた筈の一誠が自分の背後に回り込んでいたのだ。

 

 

「杖にも種類があるのは勉強になるかも」

 

「……」

 

 

 完全に視えなかった。

 冷たい何かが少女の全身を伝う中、そんな少女の内情を知らんとばかりに呑気に奪った杖をしげしげと観察する一誠に、ハッと少女は慌てた様に手を伸ばす。

 

 

「か、返して」

 

「鈍器として使った方が強そうだこれ」

 

「返して……」

 

 

 杖を奪われた時点で少女は魔法を行使できない。

 故に自分の杖をしげしげと眺める一誠に返せと手を伸ばす少女なのだが、悲しいかな身長の差のせいで夜空に翳すように杖を観察している杖に全然手が届かない。

 

 

「返して……」

 

「あ、はいはい……どーぞ」

 

 

 ぴょんぴょんしながら杖を取り返そうと躍起になる少女がしつこいので取り敢えず言われた通り返す一誠。

 

 

「…………」

 

「……? 何で凹んでるの?」

 

「杖を奪われた時のアナタの動きが視えなかった……」

 

「あ? あぁ……眼鏡掛けてるからじゃないっすか?」

 

 

 少女があからさまに凹み、その理由を聞いた一誠が適当な事を言うが少女にしてみればまるで慰めにもなっちゃいない。

 

 

「……何でアナタはそんなに強いの? 魔法が使えないのに……」

 

「鍛えたから」

 

 

 簡単に言ってのける一誠だが、少女にしてみればそれこそが異常にしか聞こえない。

 鍛えてそんなに強くなれるなら、自分だって鍛えてる。

 自分の望みを叶える為には力が必要で、その為に毎日努力を惜しまなかったつもりだった。

 

 なのに目の前の使い魔の一人は何だ? 魔法も使わず、変な力あれど純粋な身体能力だけで自分の魔法を真正面から打ち破った。

 

 何故そこまで強い、鍛えるとはどんな鍛え方をしたのだ。力を求める少女がそれが知りたかった。

 だから……。

 

 

「どうすればアナタみたいに強くなれるのか……教えて欲しい」

 

 

 その力を自分も……。

 少女は杖を地面に落としながら懇願した。

 魔法を越える力を、知ってしまった領域を得る為に。

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ? 何で俺がキミみたいな寸胴なクソガキに教えるなんて真似しなきゃいけない訳? つーかキミに俺達の才能は無いから無理。

うちのご主人様ならなれるがね」

 

「……」

 

「それにあのキュルケって子ならやる気でるけど、キミはなぁ……? 貧弱・寸胴・地味眼鏡とか俺の好みの悉くを外してるせいでやる気でねぇわ」

 

「………………………」

 

 

 が、悲しいかな目の前の少年はおっぱいドラゴン故に、少女の懇願に対して心底嫌そうな顔であっさり断った。

 然り気無くキュルケを引き合いにディスられもしたし、少女は正直かなりグサグサと心に見えない槍に刺されまくる。

 

 

「ルイズは良いのに?」

 

「は? そりゃそうだろ、だってあの子才能あるし」

 

「……なんの?」

 

「だから俺達側のだよ。まあ、言ったってキミじゃ一生掛かっても理解できないけどね。残念だね、来世に期待しな」

 

 

 才能がない。ルイズにはあって己には無い。

 何の事だか解らないが、少なくとも化け物じみた力を持つ一誠本人からの評価な為、少女は……いや、タバサは大いに凹んだ。

 

 

「何とかならない?」

 

 

 しかしそれでも、目の前の少年の持つ力を知ってしまった少女は諦めたくなかったのか、何とかならないのかとすがりつく。

 正直な所、こんな碌に接点も無かった相手にここまで食い下がるなんて自分らしくないと思っていたが、欲しいものは欲しいし、もしかしたら今抱えるクソッタレな現状をこの少年によって何とか出来るかもしれない。

 

 だからタバサは自分でも戸惑うレベルで食い下がるのだが……。

 

 

「教えて俺に何の得がある訳? ご主人様みたいに俺達側の領域になるのを見れる訳じゃねーし」

 

 

 一誠の反応は全然変わらずであり、メリットの有無という話になった。

 

 

「得……」

 

 

 タバサは考える。

 確かにタダで教えて貰うというのはムシが良すぎる。

 

 目の前の少年……確かルイズがイッセーと呼んでいた少年の納得する何かを提示すれば……と、タバサは暫く無言で、されど割りと必死に考えた。

 

 

「私自身」

 

 

 結果、タバサは何をトチ狂ったのか、自分自身と宣った。

 金や地位や名誉に興味無さげなこの少年が昼間シュヴルーズにアレなコメントをしていたのをルイズの隣で然り気無く聞いていたのを思い出したタバサは、力を得る代償と割りきって自分自身を好きにして良いと言った。

 

 

「………………………」

 

 

 だが一誠は無言のまま……されど心の底から嫌そうな顔でタバサを見下ろしていた。

 それはもう清々しい程に……。

 

 

「それ、何の罰ゲームっすか?」

 

「ば……!」

 

 

 おっぱいドラゴンからすればメリットのメの字も無く、寧ろ罰ゲームにしか聞こえなかったらしく、心底嫌そうな顔で思わず言い切られたタバサはまたしてもグサリと何かが身を刺した。

 

 

「いやいやいや……得じゃねーわぁ? 何それ? それ言えば男全員が喜ぶとでも思ってるんすか? うわぁ、引くわぁ」

 

「い、いや別にそんなつもりじゃ……」

 

「じゃあ言わなきゃ良いでしょうに、何キミ? まさか自分に自信でもあったの? あ、貴族だから? 魔法使えて貴族だから平民にそれ言えば何とかなると思っちゃったんすか?」

 

「そ、そうじゃなくて、ものの例えというか……その……」

 

「本当に勘弁してくださいよ貴族様ー……。何が悲しくて貴女様みたいな寸胴・チビ・貧弱・餓鬼のアンタの事好きにしなきゃいけないんすか。

罰ゲームそのものじゃないっすかー」

 

「だ、だから例え――」

 

「例えなら初めから言うなよ。心底萎えるわクソガキ」

 

「…………………………ふぇ」

 

 

 挙げ句罵倒の嵐。従姉に人形と罵倒されても揺さぶられなかった何かが、何故か目の前の少年の言葉によってズタズタにされ、気付けばメソメソと心を凍てつかせる前の時と同じように……。

 

 

「ご、ごめんなさい……ひっく」

 

 

 涙を流した。

 

 

「ケッ、これに懲りたらくだらん事は口走らない事だな。そら、とっとと帰れ」

 

「くすん……くすん」

 

「ほら帰れよ」

 

「うー……」

 

「いや『うー』じゃなくて帰れよ……普通ここまで言われたら二度と関わろうとしねーだろ」

 

「……くすん」

 

「……。チッ、わかったよホラ! ドラゴン波!!」

 

 

 その意味がわかる訳も無い一誠はと言えば、突き放す言葉をぶつけても尚、泣きはしても消えようとしないタバサにほんのちょっと罪悪感でも感じたのか、それを誤魔化すかのように夜空に向かって左腕に赤龍帝の籠手を纏い、ドラゴン波なるビームをぶっ放して泣き止ませようとする。

 

 

「くすん……凄い」

 

 

 ルイズですら見てない一誠の力の一端を見せて貰えたりする訳で、杖も無しに属性不明の魔法っぽい力を見せられたタバサは涙目を少し輝かせた。

 

 

「それ、私にもできる?」

 

「無理。だから帰れ」

 

「…………うぅ」

 

「!? 一々泣くな鬱陶しい! 何だお前、メンヘラか!?」

 

「ふぇ……!」

 

 

 夜はまだ長い。

 

 

終わり




補足

ルイズたんの爆発、ヴァーリきゅんの半減を駆使しても二人を傷つけられる程の潜在パワーがありました。


そのせいで三人から本格的に引きずり込まれるフラグ。



その2
逆にそっち系の才能が無い少女は……罵倒されて泣いちゃったとさ。

皮肉な事に魔法の才能は抜群だけども、求める理想の力の像の才能はゼロのルイズにあるという。

故に手取り足取り教えて貰うルイズに嫉妬しまくるフラグが……。

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