イリナとゼノヴィアが居なくなってから、もう何千年程経ったのだろう。
人類は死滅し、人外共が蔓延る世紀末が到来したけどウザいからその種族共を根絶やしにしてどれ程の時間が経ったのだろうか。
「今日は積極的ですねセンパイ?」
「……………」
『このガキ、また進化している……! 油断するなよ一誠!』
空気は淀み、自然は壊れ、灰色の空で埋め尽くされた星にて俺は殺したくても殺せない憎き存在を前に、相棒の忠告を流しながら全身に気力と活力をたぎらせる。
「近場の星も食べてみましたけど、ふふ、やっぱりどんな存在よりもセンパイから向けられる
「……………」
文明があった頃は地球と呼ばれたこの星の寿命も後僅かとなった今、俺はベラベラと何千年も変わらないムカつく態度の白髪のクソガキに挙動ゼロで接近し、その顔面を殴り飛ばしてやる。
「ぐっ……!?」
進化し過ぎて最早己が人間である事すら疑わしくなってしまった力を渾身の限りぶつけるこの一撃をもってしても、白髪のガキ……白音という猫妖怪をとっくに超越した俺と同じ元転生悪魔は声をくぐもらせながら200メートル程砂漠となった地面を砂ぼこりを巻き上げながら吹っ飛び……。
しゃく!
「あは……美味しい……♪」
そのまま起き上がる……ムカつく台詞と何かを咀嚼するかの様なツラを見せながら。
『一誠の拳の威力自体を喰ったのか。やはりこのままではラチがあかんぞ』
「あぁ……わかってるさ」
「先輩ったらまた強くなりましたね。いや、当然でしょうけど……ふふふ」
『チッ、クソガキが……全然堪えちゃいねぇ』
「…………」
俺に殴られた頬を擦りながら、気色悪く頬をそめて砂だらけになって立ち上がる白音にドライグが相変わらずだと悪態を付く。
「もっとください……先輩からの愛情をもっと食べたい……!」
相変わらずクソみてーな解釈しか出来やしない人格破綻者っぷり。
「…………クソが」
何時見てもムカつく、後一歩で何時も殺せず、そしてそんな真似を気が狂う果てしない時間を使って受けてきたというのに、このガキはテメーが覚醒した時と全く変わりゃしない。
あームカつく……ムカつくんだよ!
―我は全ての理を超越せし龍帝なり―
―全てを殺し、総てを破壊せん―
―我、理と星をも喰らい糧とし永遠の進化を遂げる無神臓を宿し、汝を滅ぼさん―
だから殺す。
俺を好きだとほざくその声も、笑うツラも、何もかもを壊してやる……!
「死ね、今度こそ」
「…………………あは♪ 良いですよ先輩、来てください……私の中は先輩だけしか受け入れませんよ?」
そして俺自身も……消えて無くなって、負けて死ね。
少年の力に初め魅入ってしまった少女は、何時しか少年自身を愛した。
少年を愛するが故に少年の力を砂粒から育て、覚醒した。
そして少年から与えられる全ての事象を愛と感じとり、果てしない時間の中愛された。
「っ……アァァァァッ!!!!」
「はぁ……♪ もっと、もっと……!!」
狂ってるのはとっくに自覚している。けれど少女はそれでも少年のみを求めた。
全てを犠牲にしてまでも、少年の向ける全ての事象を独り占めにしてやりたかった。
だから少女は少年の殺意も笑って受け止める……。
まるで駄々をこねる子供を優しく受け止める様に……。
「ずーっと愛してます……先輩……♪」
「ウガァァァァッ!!!! シネェェェェッ!!」
それは未来永劫変わらない。己と少年以外の総てが滅ぼうとも……。
閃光の様な光に包まれ……消えてしまおうとも。
少女はどこまでも一途であった。
少女と少年は同じ地上から眺めた。
一人は歪んだ愛を胸に星を見た。
一人は壊れた殺意を胸に屍で埋め尽くされた泥を見た……。
ここが一体何処で、何時なのかなんてのはわからない。
でもそんなのはどうでも良い。何処に居ようとも、私は彼と共に在るのだから。
「今日も何もなくて、人々が沢山居る平和な日でしたね先輩」
「…………」
私は白音。種族は猫妖怪であり……いや、私の名前なんかどうでも良いでしょう。
私は今実に充実している……それだけで他の説明なんて必要もありませんからね。
「外に出ればお店があって、お金を出せば物が買える。
今更ながらこのやり取りは実に便利なものですよね、全部消えた世界を経験をしてると」
「…………」
領主を脅して手に入れた前時代的な狭い家屋、外を出ても田畑だの整備されてない道だので、お世辞にも近代とは思えない世界。
でも私と先輩からすれば、生物と自然が存在するという時点で懐かしさを覚える光景と空気だ。
欲を言えば、先輩と
死臭だらけになったあの場所よりはマシですしね。
「それにしても今日のアルバイトは中々面倒でしたよ。お陰で汗かいちゃって……」
「……」
さて、そんな調べもしてないまま先輩と共に住み着く様になった謎の世界。
私と先輩だけしか存在しなかった元の世界で何時ものように
勿論最初は目を覚ました私と先輩は久しく見た自然と人の気配に驚き、辺りを散策したのだけど、わかった事は明らかに元の世界とは違う世界である事。
それと、無理矢理次元を抉じ開けても帰れる気がしない事ぐらいでしょうか。
「でもおかけで、その分日当は割り増しでした」
どちらにせよ、帰るつもりも無かったし、先輩も何か色々と諦めてしまったのか、私にとっては喜ばしい事に先輩とこうして行動を共にしながら平和に生きています。
「そういえばどこぞの街が軍勢集団に襲われたらしいです」
「………」
日が暮れる寸前の夕日を、今は何処かに『消えた』領主を脅して手に入れた家の寝室兼リビング兼その他色々となってる部屋に最初からあったベッドの上に腰掛け、ボーッと窓の外を眺めている先輩に、お店で買ってきた食べ物を広げながら私はアルバイトの時に仕入れた情報を一応伝えておく。
「まあ、だからどうだという訳じゃありませんけど」
例え話、国同士が勝手に戦争して殺しあってようが、奴隷商人が横行しまくりな時代だろうが、人じゃない生物が人間襲って食い殺そうが、私や先輩にしてみれば等しく皆ちっぽけにしか思わない。
それよりも濃厚な生物との殺し合いを飽きるほど経験してきた私と先輩にしてみれば、槍や剣やら時代かかった拳銃や魔法やらで殺傷し合ってるだなんてのは、カブトムシ同士が樹液の取り合いで小競り合いをしてるのと同じなのです。
私も先輩も『とっくの昔に』壊れてしまってますからね……ふふふ。
「さて……ご飯の前にお風呂で汗を流してきます」
だからどうとも思わない。勝手にやっててくれ……そんな感情を抱き、私と先輩はこの自然がある何処とも知らない世界で適当に生きる。
そして今日も何の変わり映えしない平和な日を送り、お風呂入ってご飯食べて寝るだけ……。
「よいしょっと」
奪い取った家の都合でシャワーみたいな設備が整ってないのは少し癪だけど、お風呂場があるだけまだマシだななんて思いつつ、まだ食べるつもりも無く日が沈んだ外の景色をぼんやり眺めている先輩にお風呂を先に頂くとだけ告げた私は、部屋を出ようとした……その時でしたね………ふふ♪
「おい」
「? 何ですか先輩?」
ここに来て窓に視線を向けっぱなしだった先輩がそのままの体勢で部屋を出ようとした私を呼び止める声をやっと出してくれた。
断っておきますが、何時もの先輩はもっとよく喋るんですよ? 今日は偶々不機嫌みたいですけどね。
「何かご所望でも?」
どちらにしても私にしてみれば嬉しいので、何時もの調子で呼び止めた先輩に近寄……るのはちょっと躊躇う。お風呂前だから。
「………」
けど先輩的にはどっちでも良いのか、窓の外へと向けていたその目を……皮肉にも私と『同じ』毛色をしたその目で数秒ほど向けると……。
「ぁ……っと」
距離を測りかねていた私の腕を乱暴に掴まれ、同じく乱暴にベッドの上へと引きずり込まれた。
「………」
ギシリとベッドが軋む音と同時に仰向けに腕を縫い付けられながら寝かされた私に先輩がそのまま覆い被さり、私と目が合う。
「お風呂入ってないし、ちょっと恥ずかしいんですけど――んみゅ!?」
その意味が分からない程私は子供じゃないし、そして先輩を知らない仲でも無い。
皮肉な話ですが、この世界に落ち着いてからの先輩は体感的な繋がりは私だけしか居ず、私しか拠り所が無い。
宿したドラゴンよりも更に……。
「ぅ……ん……。
私としては先輩が良いなら構いませんけど……」
「………」
片腕をベッドに縫い付けられたまま、私は今先輩から貰うそれに身も心も一瞬で蕩けさせながら、良いのかと確認する。
どうせするならお風呂で綺麗にしてからの方が良いと思うのだけど、今日の先輩は中々不機嫌なせいか、今は懐かしき元の世界でやっていた学生の格好の私の服を乱暴気味に脱がせる辺り、どっちでも構わないらしい。
「ひゃん! ふふ、せ、先輩……くすぐったいですよ……」
「……」
「でも……あはは、嬉しいです……」
脇腹を指でなぞるその指が擽ったくも心地良く、それに応える様に私は空いていた片手で先輩の頬に触れる。
あぁ、遠かった先輩がこんなに近い……。
心臓の鼓動も、温もりも、何もかもが今私に総て向けられてる……それが堪らなく嬉しく、お腹に熱が帯びる。
「あの時とは逆になりますね先輩……。勿論抵抗なんてしませんよ? キてください」
私は勝ったんだ。
先輩が大事にしていたあの二人と、最初に先輩から奪った元仲間だったあのお二人にも。
生き残った私が今、先輩の全てを独り占めに……あは、あはははは!
「大好きですよ……先輩……」
この世で生き残った唯一の同じ者同士として私は勝ったんだ……。
少年と少女は果てしない時間を殺し合った。
少年は嫌悪を糧に。少女は少年に対する歪んだ愛を糧に。
結果は少女の歪んだ愛が少年を凌駕することで、少年の全てを独り占めにできる結果となった。
「ん……まいりますよね先輩。夜通しでもお互い足りないなんて」
「……。そうだな」
「あ、やっと機嫌直してくれたんですね? ふふ、どうします? 今日はお互いに一日中暇だし、このまま続けます? 私は続けて欲しいですけど」
「チッ、エロ猫が……」
「先輩に対してだけですよ……ふふふ♪」
互いが互いを求めるというある意味完成された関係へ……。
終わり
補足
やったね小猫たん、完全勝利だぜ!
ネオ白音たんの意味を知らない方への説明。
白音(悪魔を越えた
D×Sシリーズにて一度報復により一誠から破壊されて肉塊になってしまった小猫が、恨むよりも歪んだ愛を一誠により抱く事で、使役していた一誠のスキルの残骸をかき集める事で復活し、同時に発現させた二つのスキルにより完全に覚醒してしまったヤンデル猫妖怪。
簡単にいえば、しゃくしゃくしたり、現実逃避したり、一誠と同じく進化したりと……手が付けられない存在。
その2
異世界とありますが、元ネタは特に考えてなく適当。
まあ、需要無さそうだから敢えて曖昧にしただけなんですけど。
その3
簡単にいえば、ラスボスが一緒になって毎日ペロペロし合ってる感じ。
というか、あんまりにもしつこすぎるのと、彼女しか全力殺意を受け止められるのが居ないので、割りと一誠から彼女を求めてしまってるという状況。
え、小猫たん? そらもうにっこりと受け止めてますよ毎日。