色々なIF集   作:超人類DX

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面子が面子のせいか、一番かわゆい束おねーさんなのだった。


所詮は成り代わり

 疑問が尽きない。

 何故束が一夏に対してまるで他人相手の様な冷たい態度なのか。

 そして、何故逆に兵藤一夏には寧ろ好意的なのか。

 

 昼間の海でのやり取りで知った時、束の妹である箒もまたその態度に驚いていたが、結局その理由は聞いていない。

 ……いや、聞けないといった方が正しいのか……聞いてしまえば後悔してしまいそうな……そんな気が……。

 

 

「ボールを相手のゴール(顔面)にシュゥゥゥッー!!!」

 

「がぼ!?」

 

「超っ! エキサイティン!!!」

 

「ぴ、ピンポン玉がホップアップしながら神牙お兄ちゃんの顎に……」

 

「なぁヴァーリ? 本当に一夏のお兄さんは二人のパシりさんなのか? 昨日のビーチバレーの時もそうだったが、ヤケに遠慮してない様な……」

 

「あ、あぁ……うん……ほら、久々に会ったからちょっとはしゃいでるんだよきっと……」

 

 

 束の事もそうたが、私にはまだ疑問がもうひとつある。

 それは一夏そっくりな少年である兵藤一夏とその父兄と思われる男。私が教官を勤めていた時には見たこともないラウラの嫁……らしい男。全然似てないデュノアの兄らしき男……そして、あの他人嫌いである筈の束の手伝いと言っていた女……。

 

 

「今日は調子が実に良いぜ、げっげっげっげっ!!!」

 

「なるほど、あの二人に対して妙に攻撃的な理由が解りましたよオーフィス。

パシりとはまた大層な見栄を張ったみたいで……」

 

「でもあの二人に一誠は違うと言ってない。なんでも『がっかりさせたらちょっと可哀想だから、敢えて何も言わない』らしい」

 

「敢えて乗ってあげた上でという事ですか、一誠らしい」

 

「あ、相変わらずIS要らずな身体能力……」

 

 

 

 

「………何だ、これは」

 

 

 案の定怪我をしたまま回復もしてない一夏が篠ノ之達共々暴走機にやられてしまった。

 予想していた事だし、全員怪我はしたものの命に別状は無かったので取り敢えず治療を受けさせている。

 とはいえ、もう一度出撃させた所で結果は目に見えているし、何より専用機を与えられた事で増長しがちになっている篠ノ之が実に危うくなっている。

 

 其ならばどうするか? 決まっている、予め一度目の攻勢が失敗した際のバックアップとして控えさせていたボーデヴィッヒとデュノアを出撃させるしかなく、私はこうして部屋待機だと命じたのに部屋に居らず、もしかしたらという予感そのままにIS学園の関係者が泊まる旅館の隣側の館に何の目的があってなのか泊まっている兵藤の父兄の方々と一緒に居る所をこうして見つけたのだが……。

 

 

「喰らえ、ピンポン式レーザービーム!!!」

 

「ね、ネットを突き破って――がっぷ!?」

 

 

 

 

 

「何だ、これは……」

 

 

 二度に渡って私は同じ言葉を呟きながらその場に立ち尽くしてしまっていた。

 

 兵藤の父兄が、ボーデヴィッヒとデュノアの父兄相手にニヤニヤしながら卓球――という名を語るだけの何かでボコボコにしているのだから……。

 ただのピンポン玉をラケットで弾き、弾丸の様に全身を叩く。

 それはまるで単なる戦闘の様であり、また単なるラケットとピンポン玉だけで見るだけで痛々しくなるまでにボコボコにしているという異常さもあってか、私はまるで漫画の世界に飛び込んでしまったような感覚になってしまっていた。

 

 

「げっげっげっげっ、さぁてラウラちゃんとシャルロットちゃんは、その二人の身に付けてる衣服をひっぺがしなさい」

 

「ちょ、やめろ! これじゃあ只の羞恥プレイだ!」

 

「そ、そうだそうだ! 大体俺達は脱衣ピンポンをやるなんて言ってない!」

 

「うるせぇなぁ雑魚共ォ!

ピンポンが弱いのが悪いんだよォっ! げーげげげげ!」

 

 

 ………。兵藤の父兄……確か一誠とか言ったか。

 見た限りだと私よりも年下で、もっといえば高校生ぐらいにしか見えない男だが、どうやら性格も微妙にガキっぽいようで、同じくどう盛っても私より年下にしか見えない男二人相手に悪そうな顔して笑っている。

 

 そして、束がお手伝いと言っていた支取蒼那が楽しそうだ。

 

 

「おいボーデヴィッヒにデュノア。

部屋で待機していろと命じたのに何故此処にいる?」

 

「あ、教官」

 

「ええっと……」

 

 

 取り敢えず卓球ひとつでバカみたいにはしゃいでる連中は置いておき、私は少し厳しめにラウラとデュノアに話しかける。

 命じた事を一応は破って別館に居るのだ、注意しなければならんのは明白なのだが……。

 

 

「おっ!? 美人先生じゃないか!」

 

 

 その二人よりも先に、卓球で遊んでいた兵藤の兄が私に気づくと、持っていたラケットを所々何故か抉れている卓球台に置いてから私に近づいてきた。

 

 

「う、うちの生徒が世話になったみたいで……」

 

「いや~すんませんねぇ?いけない事かとは思ってましたが、勝手に連れ出しちゃった感じで」

 

 

 相変わらず見た目が十代の少年にしか見えない程に若々しい。

 兵藤曰く30前との事らしいが、年齢詐称でもしているのではないかと疑ってしまうレベルだ。

 む、そういえばその兵藤本人と何時も一緒に居る更識……それに支取蒼那が居るから一緒だと思っていた束が居ない?

 

 

「先生もどうです?」

 

「いえ結構。私は生徒二人を連れ戻しに来ただけですので……。

それより支取さんと仰ったか? 束の居場所を知りませんか?」

 

 

 てっきり一緒だと勝手に思ってたが、居ないのであれば聞いてみるだけだと、一々妙に近い兵藤一誠から然り気無く距離を離しつつ、浴衣姿の支取蒼那に聞いてみる。

 あの束が他人を横に置くという時点で、この女に何かあるのだというのは何となく予想出来るし、現に初めて見た時から自分達とは『何かが違う』といった気配も感じる。

 それが束が傍に置いている理由なのかまでは知らないにしても、何かはある。

 

 

「さぁ? 私も四六時中一緒ではありませんからね。多分何処かで『誰かに馬乗りにでもなって上下運動』でもしてるんじゃありませんか?」

 

「は?」

 

 

 だからこそ油断ならない相手ではあるのだが、先の質問に対しての答えは、妙に含みを持たせた笑みを浮かべながらの頓珍漢な答えだった。

 

 

「馬乗り? 運動? 申し訳無いが要点がイマイチ……」

 

「あらら……タバネの言った通り疎いのね織斑先生?」

 

 

 意味がわからない私を見てクスクスと笑う支取蒼那。

 何故かバカにされてる気がして一瞬だけむっとなるが、怒る理由にはならないのでその気持ちを抑えながら、取り敢えずラウラとデュノアを連れて行こうと考える。

 

 

「ちぇ、十五・六の小僧が年上のおっぱいちゃんに筆下ろしされるとか羨ましいな……俺の弟ながら」

 

「……………なんだと?」

 

 

 ボソッと兵藤一誠の呟いた台詞を聞いてしまった私は思わず足を止めた。

 そして近くにあった椅子に座り、長い黒髪の小さな少女を膝の上に乗せて座らせていた兵藤一誠に思わず詰め寄った。

 

 

「アナタ方は束の何なのですか? 思えば他人嫌いの束がああも普通に接するというのがおかしいし、兵藤――アナタの弟に束があんなしおらしくなるのも変だ」

 

「変って……あんな可愛い子が可愛らしい態度するのが変な訳無いでしょうに。

まぁそこの貧乳が同じ事しても俺は笑うがな」

 

「あら嫌だわ、相変わらず素直じゃないのね一誠は……ふふふ♪」

 

「っ……!?」

 

 

 少しきつめに問い詰めたつもりなのに、本人達は全く動じてはおらず、寧ろヘラヘラした態度に私は反射的に睨んでしまった。

 

 

「誤魔化さないで貰いたい。

よくよく考えたら、ボーデヴィッヒとデュノアの身内であるそこのお二人と知り合いというのも出来すぎた話。

一体何者だアナタ達は?」

 

 

 そもそもがおかしい。

 ラウラが懐いている銀髪の男にしたって、私は全く知らなかった。というか何だあの格好は?

 もっと言えば弟の一夏と兵藤の容姿は似すぎている。

 名前まで同じだし、まるでそう……双子の様に……。

 

 

「何って言われましても、しがない三十路手前のおっさんですよとしか―――って、おいオーフィス! 尻で俺のをもぞもぞすんなバカ!」

 

「この女を見る目がいやらしい」

 

「うるせ!」

 

 

 勿論そんな訳が無いことはわかってる。

 しかしあまりにも似すぎている……まるで造られたかの様に……。

 

 

「……。まぁ良いです、こちらも少し失礼でした。

行くぞボーデヴィッヒ、デュノア」

 

「はっ! じゃあまた後でなヴァーリ」

 

「神牙お兄ちゃんも」

 

「おーう……いててて」

 

「よくわからんけど頑張れよー……いつつつ」

 

 

 彼等を見ていると、何故か私は『とても大切な何か』を失った気持ちになってしまう。

 だからその正体を私は……。

 

 

「私達を呼び出したという事は織斑君達は……」

 

「あぁ」

 

「やはりでしたか。怪我人が無理をしても良い事なんてありませんね」

 

 

 しかし今必要なのは、暴走したISを黙らせる事。

 一夏、紅椿を手にした篠ノ之、オルコット、凰が脱落した今、この二人……もしくは我々教師陣が出なければならないのだから。

 気にくわないが、束の知識を頼る必要もあるかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 千冬がラウラとシャルロットを連れて去るのを見送った後。

 

 

「で、ひんぬー先輩よ。実際の所その暴走したISってのはあの子二人で何とかなるのか?」

 

 

 それまで舐め腐っていた態度が嘘の様に真剣な表情で、遊戯室の椅子に腰掛けるソーナに問いかける。

 そう、一誠達は既に知っている……何故二人が千冬に連れられたのかを。

 

 

「練度によりますが、ヴァーリと曹操にちゃんと鍛えられた子であるなら問題は無い筈です」

 

「……どうなんだヴァーリに曹操? あの子達はどこまでやれる?」

 

「ISに関しては専門外だから判定のしようが無いが、取り敢えず簡単な『護身術』程度には教えていた」

 

「素手での戦闘を重点的に教え込んである。見た目は華奢だがな」

 

 

 ソーナに程度を聞き出し、二人の練度について確認する一誠に保護者の二人はコキンと首の関節を鳴らしながら立ち上がり、それなりに教えていたと答える。

 

 

「流石に自分の『弟』と同名・同容姿である一夏を怪しみ始めたみたいだし、あの様子じゃ弟君とやらは役にも立っちゃいねぇみたいだ。

おいヴァーリ、確かお前はラウラちゃんと繋がりが切れないんだってな?」

 

「あぁ……ラウラが出るとなれば俺も近くまでいかないとな」

 

 

 『独りにしないで欲しい』という願いに洒落で応えてた結果、ラウラとは物理的にある程度の距離以降から離れられないヴァーリが、着ぐるみ姿ながらも真剣な顔つきになる。

 

 

「え、ヴァーリさん……?」

 

 

 そんなヴァーリのラウラを追うつもりだと態度を、然り気無く残って聞いていた本音は、目を丸くする。

 

 

「あの、どうやってらうっちと? ISも無いのに?」

 

 

 さも当然の様に話す面々に不思議そうに首を傾げる本音。

 確かに簪が慕う一誠……そしてその一誠の友達らしきこの人達の身体能力は人を完全に超越した何かではあるが、だからと云って空を高速で飛翔するISをどうやって追い掛けるつもりなのか。

 本音は格好もあって実に可愛らしく首を傾げる訳だが……。

 

 

「起きろアルビオン」

 

「………………………え?」

 

 

 本音は唖然とした。

 ワニさん着ぐるみパジャマのフードを外したヴァーリが、好戦的な笑みを浮かべながら小さく何かを呟いた瞬間、その背に純白に輝く翼が出現したのだから。

 

 

『ふわぁ……何だヴァーリ? 一誠と喧嘩でもするのか?』

 

「違うよアルビオン、単なる援護だ」

 

「え? えっ!?」

 

 

 しかもその両翼からと思われる箇所から男性の声まで聞こえる。

 本音は一瞬ヴァーリがISでも起動させたのかと思い込んだが、一誠とオーフィスの正体を『不思議な体験』と共に理解させられた際に知った、この世界には百パーセント存在しない力の一つについて頭を過り、思わず呟いた。

 

 

神器(セイグリット・ギア)……?」

 

「? へぇ、誰に教えられたんだい? 一誠か?」

 

「えっと……はい……」

 

 

 本音の呟きを聞いたヴァーリが面白そうに微笑む。

 趣味の良いお嬢さんで、話の合う少女にはラウラに続いて二人目。

 事情を知っても恐怖した様子も見られないのもあって、ヴァーリはそういう意味ではない好意を本音に抱く。

 

 

「一誠さんに教えて貰ったから……」

 

「あら、やはり大分入れ込んでるのね一誠は?」

 

「簪の友達だから、教えない訳にはいかない」

 

「なるほど、じゃあオーフィスの正体もか?」

 

「えっと……龍の神様って……」

 

 

 思いの外一誠に教えられていた事を知り、ヴァーリに続いてソーナと曹操も楽しげに微笑む。

 

 

「わざと現実教えたら逃げるかと思ってたけど、たっちゃん共々この子とこの子のお姉ちゃんは結局逃げなかったからね。

中々この世界も捨てたもんじゃねーだろ?」

 

 

 異世界だけど、次世代の自分達になりえる存在は見てるだけでも心が踊るものなのだ。

 

 

「博士ちゃんって機械に強いんだろ? 空からの監視でヴァーリの存在がバレ無いように衛星辺りをハックして欲しいんだが……」

 

「良いでしょう、今ごろは第一ラウンドも終わってる頃でしょうし、束を呼びつけて頼みましょう」

 

 

 

 

 

 

 千冬が三十路集団を怪しんでるそんな頃……。

 

 

「いや、あの……えっと、すいません……そんなカミングアウトされて俺はどんな顔をしたら良いのか」

 

「ぅ……」

 

「大人になれば良いと思うよ一夏?」

 

 

 こっちはこっちで色々と大変だった。主に一夏が。

 

 

「は、はぁ?」

 

「だから大人になれば良いと思うよ。今から」

 

 

 オーフィスとソーナの激戦を聞かされてたからなのか、束をいっそ取り込むつもりでアプローチ全開の簪に、カミングアウトしたは良いが途端に恥ずかしくなったのか、その場にしゃがんで俯く束に挟まれる。

 偽物が見たら殺しにでも来そうなシチュエーションだったりするが、生憎本人は仲間共々暴走したISに負けておめおめと撤退し、治療部屋に押し込まれているのでそんな事なぞ起きる訳もなく、ただただ一夏はどうしたら良いのかわからなかった。

 

 

「あの、ひんぬーさん……じゃなくて兄ちゃんのストーカーらしいソーナって人に何か言われました?」

 

「い、いや……別に……」

 

「お姉ちゃんのライバルというか、色々と激しい人だったよね」

 

「あぁ、会うなり飛び付いてディープ噛ますとか、マジだぜマジ。しかも兄ちゃんレベルの強さだから手に負えないというね」

 

 

 故にソーナに唆されでもしたのかと疑うが、その答えは半分だけ正解だった。

 

 

「その、ごめんねいっくん? 今まで言わないで……」

 

「いや、てっきりアナタも偽物ヤローの方側かと思ってましたので……」

 

 

 確かにソーナのやり方というか、心構えというか……まるで『孕んだもの勝ち』的な姿勢に少なからず影響はあっただろう。

 しかし、束も束で若干残念な面が素で存在しており、探し当てた一夏の映像を盗撮盗聴したのは束自身がやり始めていた事であり、もっと言えばそれを肴に――も束からである。

 

 つまり、ソーナと束は根っこ辺りが似ていたからこそ会うべくして会ったとも言えなくもないのだ。

 

 

「事情はわかりましたけど……うーん」

 

「や、やっぱり駄目? そうだよね……私なんか後二・三年したら行き遅れ予備軍のおばさんに……」

 

「そうじゃなくて、色々と急すぎて整理できないといいますか……なぁ簪?」

 

「でも初恋の人なんでしょ? 一夏にとっては」

 

「い、いやそれは……」

 

「だったらいっそ、あのうるさい偽物に邪魔される前に関係を修復したほうが良い。

というか、博士さえよければ今から部屋の鍵を閉めきって三人で色々すれば良いと思う」

 

 

 取り敢えず一夏が生徒として寝泊まりしてる部屋に連れ出しその最中に落ち着かせる作戦をとった一夏だが、寧ろ逆効果だったのか、簪も簪でちょっと強引だ。

 それはもう、オーフィスが一誠に迫るが如く……いや見方を変えたらオーフィス以上に過激だった。

 

 

「な、何かグイグイ来るね今日の簪って……」

 

「……。オーフィスお姉ちゃんとソーナさんのやり取りを見てると、このまま博士と一夏を巡って争ってたら百年経っても同じ関係のままになりそう。

博士を見てると本気みたいだし、だったら……ね?」

 

「ね? って言われても……ていうか、そんな事する前提で話されてもさぁ」

 

「わ、私いっくんの言う通りにするよ? ぼ、棒のアイスとかで練習したし」

 

「なんの!?」

 

 

 一誠の背を見て育った弊害でスケベ小僧になってしまった一夏。

 しかしまともに感情を向けられる経験が無かったせいか、慣れすぎた一誠の様に上手くあしらう技術が圧倒的に足りない。

 

 というか、与えられた現実が嬉しいやら何やらで取り敢えず整理がしたい。

 

 

「あのさ、束さんが『解ってくれていた』のは俺も十分に分かったし、何か物凄いカミングアウトとかもされてビックリしたけど、取り敢えず落ち着こうぜ? 簪もよ……」

 

 

 一誠達がイソイソと出ていった理由がこれなのはわかったが、だからといって再会してそのままゴーなんて何か違いすぎると思う訳で。

 一夏は取り敢えずちょっと不満そうな二人を宥めると、先程本音から仕入れた暴走軍用ISについての話題に切り替える。

 

 

「偽物ヤロー御一行はそのISを片付けられるんですか? 片付けられなかったらラウラとシャルロットが尻拭いするっぽくて……」

 

「あー……一応箒ちゃんに紅椿は頼まれたから渡したけど、微妙に無理かなー……。

ほら、この前私がゴーレム送り込んだ時に受けた怪我が治って無いみたいだし」

 

「じゃあ束さんは無理だと?」

 

「うん、そもそも白式にしたって『手段』としてしか使ってないアレじゃ完全に使えないだろうし」

 

 

 専門家の見解に一夏は面倒だなと思う。

 織斑一夏の顔と名前を使ってるなら使ってるで最早勝手にしろとは思うが、でしゃばるくらいならきちんと処理だけは怠って欲しくない。

 

 

「まあ、ラウラとシャルロットでどうにでもなるとは思うけど……ちっ、微妙に役に立たねぇな」

 

 

 思わず愚痴る一夏。

 これで意味もわからずラウラやシャルロットが非協力的だったからだとか、束がどうのとかほざいたら殴るのを我慢できる気がしない。

 

 しかしそういう予感程当たってしまうものであり……。

 

 

「此所に居たんですね、束さん……」

 

「げ……」

 

「うわぁ……」

 

 

 おめおめと銀の福音にやられて帰って来た織斑一夏が、フラフラな身体で一夏の部屋へとやって来た。

 

 

「束さん、話があるんですけど……」

 

 

 さも痛そうな身体を無理してアナタに会いに来ましたというのが見え見えの態度で、一夏と簪を無視して束に来いと言う織斑一夏に束の表情が冷たくなる。

 

 

「何? 怪我人の癖に出て負けて帰って来た弟君と話すことなんて無いんだけど?」

 

「違います、束さんは誤解してます」

 

「何がかな? 誤解も何も負け犬は負け犬だろ? とっとと部屋戻ってちーちゃんか箒ちゃんに慰めて貰えば? 束さんは絶対嫌だけど」

 

 

 一夏とは正反対過ぎる束の態度に、さっきまでもろ女の子な態度だったのを知っただけに一夏と簪は内心舌を巻く。

 何というか、自分達以上に身内以外に閉鎖的になのだ。

 

 

「人の部屋来て挨拶なしは良いけど、束さんの言う通り織斑君は大人しく部屋で安静にすべきじゃねーか」

 

「さっさと帰れ」

 

「っ!? お前は黙ってろ。これは俺と束さんの――」

 

「しつこいな、だから話なんて無いって言ってんだろ? さっきから何だよキミは?」

 

 

 然り気無く罵倒する簪はスルーし、一夏の忠告にだけ噛みつこうとするのを束が間髪いれずに辛辣な言葉をぶつけて黙らせる。

 再会から時間は少ないが、既に中々のチームワークを発揮している。

 

 

「ちーちゃんの『弟』という程度だけで親しい様に振る舞うのはやめてくれない? 元からキミになんて興味無いし」

 

「っ……! なら、更に他人でしか無い兵藤には随分と態度が違うみたいですけど?」

 

「違う? そりゃあそうでしょ? いっくんだもん。

というか、自分の胸にでも聞けばわかるでしょ? 馬鹿じゃあるまいしさ」

 

「…………!?」

 

 

 とりつく島なしに加えて、束の言葉に心の底に隠していたものを掘り起こされたかの様な顔をする織斑一夏は、その隣で見下した様な顔をする一夏を憎悪するような形相で睨み付ける。

 

 

「お前、束さんに何を言った……!!」

 

「は?」

 

 

 まるで自分が成り代わりの存在だと見抜くような言動を束から受けた。

 それは即ち、既にコイツこそが偽物だと見ていた一夏が喋ったとしか思えない。

 だからこそよくも余計な邪魔をしてくれたとばかりに憎しみの目を向けるのだが……。

 

 

「とことん馬鹿だねキミって人間は? いっくんは何も言ってないし、私は初めからキミが『偽物』だと思ってたよ」

 

「……なっ!?」

 

 

 返ってきた答えは束からであり、更に衝撃的な言葉だった。

 

 

「な、何の事、ですか!? 偽物って……!」

 

 

 当然織斑一夏は惚けようとする。

 だがしかしそれすらも束にしてみれば滑稽に見えた。

 

 

「ちーちゃんや箒ちゃんは簡単に信じてくれたみたいだけど、私は最初(ハナ)っから疑ってたよ。

だってお前はいっくんと違って私に告白してないし」

 

「……!? こ、こくはく……?」

 

 

 何を言ってる? 間抜けな程に唖然とした顔の織斑一夏を見て、一夏は若干恥ずかしそうに口を開く。

 

 

「いくら俺から名前と居場所を奪おうが、テメーが沸いて現れる前の俺の記憶までは奪えなかったという事だよ間抜け。

ったく、まさかガキの頃そこら辺で引っこ抜いた花片手に真面目に束さんにコクった恥ずかしい行動が役に立つとはな……」

 

「な、なんだと……!?」

 

 

 織斑一夏は驚愕する。そして一夏の行動が幼少から原作と違う事に此処で漸く知り絶望する。

 

 

「心配しなくてもちーちゃんと箒ちゃんには黙っててあげるよ。

キミはどうしてもいっくんが本当なら居るべき場所に居座りたいみたいだし? いっくんにはもう仲間が居る。

だからどうぞこれからも存分にちーちゃんと箒ちゃん達を騙しながら生きれば良いよ」

 

「っ!?」

 

「それ、俺が言いたかった台詞なんですけど……」

 

「へ? あ、ご、ごめんね? いっくんの迷惑だった?」

 

「いや別に……」

 

 

 束は……そして簪はどう足掻いても自分のモノにはならないと。

 そしてバックに存在するバグが余計に手出し出来ない事を……。

 

 

「ね、ねぇ……ぎゅってして良い?」

 

「えーっと……」

 

「良いですよ博士。博士も我慢し続けてて辛かったでしょ?」

 

「お、おい簪……わぷ!?」

 

「えへへ、ありがと……あぁ、いっくん……。

ずっとこうしたかったよぉ……」

 

「う……良い匂いがぁぁぁ……!」

 

 

 お前なんぞどうでもいいとばかりの、当て付けなイチャイチャを三人でし始めるのを見ながら、織斑一夏は貪欲故に一夏に逆恨みの感情を更に増幅させる。

 

 

「ほら、邪魔だから出てけ」

 

「見られるのは趣味じゃないし、別にキミなら篠ノ之さん達辺りに頼めばやってくれるでしょ? さようなら」

 

「………」

 

 

 束と簪により織斑一夏は追い出された。

 ソーナとオーフィスとは違い、実に連携が取れてるというべき行動力に一夏はちょっと関心するのだが。

 

 

「大人になるのは今度でも良いけど、代わりばんこにチューとかしてみます? ほら、海岸でお兄ちゃんに飛び付いてキスした助手の人みたいに」

 

「あ、あれかぁ……。でも、ソーナちゃんみたいにしたらお腹の中が狂っちゃうくらい熱くなって我慢が……」

 

「その時は仕方ないので、一夏に頑張って貰うとか……」

 

「……。すげーよ兄ちゃん、俺モテ期入ったわ」

 

 

 ある意味ターゲットが自分一人に絞られた気がしてならないと、ちょっと恥ずかし気に頬を染めながら、さながら女豹ポーズっぽく誘うように此方へと近付いてくる二人を前に、今はこの場に居ない兄を思う一夏なのだった。




補足

エロロリっ娘龍神
拗らせストーカーエロ悪魔っ娘

エロロにもろ影響受けの眼鏡っ娘
ムッツリだけど本人前だと潮らしくなるおねーさん

さぁ、マシな組み合わせはどっち!?


その2
転生者が戻った頃……。

「銀の福音は活動を停止した。ボーデヴィッヒとデュノアが完全に止めたのだ」

「は!?」

「……。(殆どヴァーリの白龍皇の光翼の力だがな)」

「……。(曹操お兄ちゃんまで着いてきて軽く暴走機が気の毒だったね)」


 暴走機は呆気なく黙った。

 そして……。


「へぇ、力付くでかい? ブリュンヒルデと呼ばれたキミなら俺から聞きたい事を聞き出せるかもしれないね。
良いよ――――かかってきなお嬢ちゃん? おじさんが少しだけ遊んでやるぜ」

「っ!?」


 ラウラとシャルロットの異常な戦闘力を知り、ますます一誠……そしてその弟の一夏の存在を探ろうと千冬は動き出し。


「部屋なら余ってるし、一夏と毎週会いたいならウチに住めば?」

「え? い、良いの?」

「良かったわねタバネ、毎週お腹がたぷんたぷんになるまで――」

「アンタは余計な事をこの子に植え付けるな! このド変態悪魔が!」


 一夏の事を想う束に簪からも頼まれて後押しする事にした一誠による提供と、始まる以前の世界では考えも無かった同棲生活。


「良いか、部屋は貸すが……寝込み襲ったらマジで怒るかんな?」

「大丈夫、この淫乱雌悪魔は我が監視する」

「随分信用が無いわね。まあ、今釘を刺されなかったらやってましたけど」


 そう、この三人がである。


「どわっ!? テメェ、襲うなって釘刺したのになんで全裸で俺のベッドに寝てる!? つーかオーフィスも!」

「? 襲わないわよ? でも一緒に寝るなとは言われてないでしょ?」

「大丈夫、一誠は我が守るから」

「…………」


 そう、この腐れ縁の三人が……。



「やぁ、たっちゃんに虚ちゃん。
思わず抱きつきたくなるくらい柔っこそうで何よりだ」

「セクハラで訴えますよ? ロリコンに加えてセクハラなんて最低ですね」

「わーぉ、虚ちゃんは厳しいねぇ」

「私だけじゃありませんよ。当然お嬢様も――」




「て、手を繋ぐくらいなら……」





「……………あれ?」

「お、お嬢様……!? 一誠さん! これはどういうことですかっ!?」

「い、いや俺もさっぱり……。
振り返っても馬鹿な事しかしてねーし……んー?」


「ほらオーフィス。
放っておくとこうなるから早く手を組めば良かったんです」

「ちょっとお前に同意……ぐすん」



以上、エセ予告

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