所謂公開処刑な、昔シトリー家で面子共が見てる場で歯に浮く台詞を言わされた時以来無かったが……今回のこれはそれ以上にキツイ。
今更女とキスする程度で恥ずかしがる歳でも無いけど、それにしたって若い女の子――それも現役の女子高生達や、一夏と簪達の前でああも好き勝手されたら色々と威厳がぶち壊しになるし、何より厄介なのがひんぬー会長に乗せられてオーフィスまでやって来やがったって所だ。
おかげ様で俺は真性のロリコン男として白い目で見られるぜクソッタレェ!!
当然の如く叩き出された一誠達は、海で遊ぶ気力を色んな意味で吸い取られてしまい、IS学園の生徒が泊まる旅館とは隣同士となる別館の部屋に集結していた。
「別にソーナ・シトリーの肩を持つつもりでは無いけど、拗らせた女を放置するからそうなるんだと思う」
「ヴァーリに同意だなこればかりは」
「知ったような事を言いやがって……と言いたいが、思い知らされた身としては反論も出来ねぇよクソが」
「…………」
畳部屋の真ん中辺りに、浴衣に着替えた状態で大の字ポーズで横になる一誠に同じく浴衣の曹操と、ワニの着ぐるみパジャマ姿のヴァーリに海辺でのソーナについて言われていた。
「あの女の執念はハッキリ言わんでも凄まじいしな、寧ろあの程度で済んでるだけマシだろ」
「全くだ」
「公開処刑がマシなら世界に戦争は無いぜ……ハァ」
拗らせ悪魔。悪童に対抗可能な女悪魔。無限の龍神に啖呵すらきれる喪女。
元の世界ではそんな評価を下され、その実力故に男の引く手が多い筈だったソーナ・シトリー
だが実際の彼女は誰とも結婚をするつもりが無いと明言しており、その理由が人間進化の最先端に位置する人間にあるという事実は既に悪魔の間では周知の事実だった。
しかしその本人である一誠からしたら堪ったものでは無い。
「大丈夫、今度は完璧に雌悪魔から一誠を守る」
オーフィスがふんすと意気込んでるが、ソーナと一緒になって滅茶苦茶にしてきたので正直どっちもどっちだ。
「つーか、何で駒王の制服だったの?」
「俺達にそんな事言われても……」
「自分で用意したんじゃないのかとしか……」
「それもそうだ。
ったく歳を考えろよ、人間基準で三十路で行き遅れなんて地雷マックスなのに、よりにもよって駒王学園時代の制服とかキツイにも程があるわ」
ぶつくさ言う一誠。しかしソーナ自身の見た目はその高校生時代と一切変わって無いので別に似合って無いという事でもない。
第一それを言うなら、人間基準だと立派なおっさん手前のヴァーリなんか未だに着ぐるみパジャマを愛用してるし、もっと言えば一誠だって思考回路がまんまお盛んな十代のそれだから、一概にソーナを責められるという訳じゃないのだ。
「悪魔基準なら小娘扱いされるんだし、良いんじゃないか?」
「人間のつもりである俺や一誠では視点が違うというのもわかるがな」
「あ? 何だよ曹操? その言い方じゃやっぱあのひんぬーの格好がキツイと思ってたんだろ?」
「え……? いや、俺は何とも言えんよ……後が怖いし」
言葉を濁しながら自分で煎れた緑茶を静かに飲む曹操。
余計な事を口走ってソーナの耳に入ったらと思うと、曹操とて怖いのだ。
「寧ろオーフィスにゴスロリ衣装を好んで着させてる一誠の方が危ない様な――――あ、いやスマン! 今のはそういう意味では無いから――ゴフッ!?」
「マッスル・スパークの元の技の名前はアロガント・スパークってんだが……急に練習がしたくなったなぁ?」
しかし彼は曹操だった。
ソーナに対して余計な事を口にするのを避けられたものの、結局は一誠に余計な事を口走ってしまったせいで、大の字ポーズになってるまま投げ付けられた枕を食らって悶絶してしまう。
「ま、待て! ネーミングからして残虐的な技にしか聞こえんぞ!?」
「残念、使い手は正義超人の開祖なんだなぁ。げげげげ、何回目に死ぬかな?」
そうこの場に居る繋がりの深い者達からすれば、実に聞き馴染みのある特徴的な笑い方をしながらゆっくりと立ち上がり、後退りしながらヘルプを連呼する曹操に近付く。
無論、命乞いなんて全く聞いていない。近くで見ていたヴァーリはワニの着ぐるみパジャマ姿で手を合わせて南無南無と呟き、オーフィスはボーッと見てるだけで助けてもらえる気配が全く無く、曹操は詰みを悟った。
「失礼しますよ」
少なくとも、ソーナが部屋に来るまでは……。
「……! ひんぬーさんか。何の用っすか?」
「何の用って酷いですね一誠。タバネが一人で専用機持ちを集めた織斑教諭の所へ行ってしまったので、こうして会いに来たのですよ?」
顔を見るなり曹操への新技掛けの手を止め、露骨に嫌そうな顔をする一誠に気にせず微笑むソーナ。
当然オーフィスも一緒に嫌そうな顔をするが、ソーナは寧ろ楽しげに部屋の中へ入り、テーブルの前に正座し始める。
ちなみに今の服装は浴衣であり、温泉にでも入ってきたのか、その匂いが微かにしている。
「5人でこうして集まるのも久し振りな気がしますね」
「言われてみれば確かにな」
「ほっ……助かった」
「寛ぐ気満々かよ……まぁ別に良いけど」
「むぅ」
兵藤一誠、オーフィス、ソーナ・シトリー、曹操、ヴァーリ・ルシファー
元の世界ではその個人だけでも世界最強のレベルであり、諸勢力達にしてみれば実に目の上のたん瘤に加えて5人内の仲は暴言暴力があれど仲が悪く無いという、実に敵に回したくない存在達だった。
そんな5人が、異世界――それも自分達の脅威をまるで知らない世界で再び集結するという事は、それだけでこの世界のパワーバランスが滅茶苦茶になってしまう程のものがある。
「あのタバネって子、一夏の事を本物と認識してたが……」
「当然でしょう、だってあの子、小さい頃の一夏君に告白されて、それを今までずっと待っていたんですから」
「は!? 一夏の奴そんな事したのか……」
「だからタバネって女は一夏と偽者を区別できた……?」
「ええ、偽者人間が平然と一夏君を名乗って最初の邂逅の時点で様子が違うと察知し、何となくカマを掛けたら矛盾してる事に気付いてそれ以降って感じです。
本人は一誠に拾われて完全に雲隠れしてしまった一夏君を探すのに苦労したと言ってましたよ」
「とことん昔の一誠そっくりだな、あの少年は」
「その偽者人間も運が無かったな。
よりにもよって既に体験済みの人間でしかも一誠が現れてしまったんだから」
しかしそんな事は知らんとばかりに、5人は割りと普通にのほほんと会話を楽しんでいた。
憎まれ口の応酬は多いが、一誠に関してを抜かせばオーフィスとソーナも話をする分には普通なのだ。
一誠の取り合いさえ無ければだ。
「既に一夏の偽者は半分再起不能にしてあるし、その内勝手に自爆するか一夏の怒りに触れて完全に潰されるかのどっちかだろ。
現にあのタバネって子に露骨なまでに拒否られ、一夏に対しては恋した女の子でーすみたいな態度をしたのを見た時、逆恨みが如く一夏にしょぼい殺意向けてたし」
「やっぱりタバネも狙っていたみたいでしたね。
既に少なくとも三人の女性に曖昧な態度を取って好意を向けるように仕向けてる癖に」
「女好きって奴か……一誠とはベクトルが真逆の」
「女好きなのは否定できねぇなオイ。
それにしても、あのタバネって子のおっぱいは一夏の言う通りに素晴らしいね。
良いな一夏は……あんな子に好かれてさ」
「一誠には我が居る。別に羨ましがる事はない」
「そうですよ、早いとこ尊厳丸無視した乱暴さで、私のお腹がタプタプになるまで孕ませて――」
「黙れ雌悪魔、一誠の子は我だけが産む。お前じゃない」
と、またしても不穏な空気がオーフィスとソーナの間に出る。
一誠が幼い頃からずっと一緒のオーフィスと比べたら出遅れてる感はあるが、ソーナも最早長年の付き合いがあると言っても何の否定もしようがない存在だ。
故に両者は何時でも激突寸前にまで展開してしまうのだが……。
「俺の知り合いはまな板しか居ねぇ。
世の中って世界が変わっても理不尽だぜ……」
本人にそんな気は更々無さそうに加え、オーフィスとソーナの慎ましい胸に目を向けながら最低な事を独り言の様に口にしていた。
「あーぁ、せめて同じ生徒会長だったにしてもたっちゃんくらい可愛げがありゃ良いのに……」
「たっちゃん?」
「簪の姉」
「あぁ、あの時の……」
オーフィスに言われ、無人機越しに一誠の姿を見た際に居た簪と髪の色がそっくりな少女が居たことを思い出すソーナ。
「更識でしたか? 人間政府が抱える暗部組織だかの」
「暗部ってのは別にどうでも良いとして、昔のアンタと同じで一々からかい甲斐のある子だよ、結構な努力家だしな」
「ふーん?」
ヘラヘラと笑いながらこの場に居ないたっちゃんこと更識楯無について割かし高評価気味な言い方にソーナは若干面白くなさそうに眉をひそめる。
「まずおっぱい特盛って時点でどこぞのひんぬーよりも発言権が上なのは確定的だね。
あと、自分の理解できない『領域』についても理解できないなりに、既に入ってる妹の簪を知ろうと必死になってる面も最近のひ弱なガキ共と比べるまでもなく強い。
『スキルは多分覚醒できない』なんて言っといたものの、今後次第じゃもしくは……だな」
「随分とまあその子を買ってる様ですね?」
「あ? まあ、一夏と簪を理解できる同年代の子は多く居ても損はねぇからな。
アイツ等だって何れは俺達みたいな年になるんだしよ……だろ、曹操にヴァーリ?」
「まぁな」
「何時かは俺達も元の世界に帰らないとならないしな」
一誠の言葉に、ヴァーリと曹操はそれぞれラウラとシャルロットの事を思いながら小さく頷く。
そう、出会いがあれば別れの時も来る……。
況してや自分達の様に永い時を生きるのとは違い、一夏達はまだ常人の範疇だし元々も住む世界も違う。
まあ、その一夏達本人が果たして『お別れだ』と言って素直にはいさようならなんて言うとは思えないが、そういう事も視野に入れておかなければいけないのが大人になった一誠達の総意だった。
「とはいえ、一度拾っちまった子達を中途半端にゃしねぇ。
あの子達が望むなら、望むだけの力の付け方を叩き込む……その後の事はあの子達の判断に任せるさ」
「意外と考えてて安心したわ一誠」
「へん、何時までも俺だってガキじゃありませんってこったい」
さて、そんな子供な大人達の会合が進んでいる頃。
子供達である一夏と簪は、教員に言われた通りに部屋で待機をしていた。
その理由は一般生徒には不明であり、専用機持ちのみが千冬に呼び出されて別部屋に行ってしまい、持ちでは無い一夏と簪にも理由はわからない――
「軍用ISの暴走?」
と、いう訳でもなく男子故の一人部屋にてボーッとしていた所にやって来た簪……そして更識家の従者である本音からのリークにより情報を獲ていた。
「更識家の情報によると、この近くの海上をその暴走した軍用ISが通過するんだって。
で、それを専用機持ちの人達が沈静化させる作戦が云々かんぬん……みたいだよ?」
「へー? ラウラとシャルロットが呼び出されたのはそれが理由だったのか……でも何で俺にそんな話を?」
「いや~……いっちー達の領域を知っちゃうと何となくかな~」
一夏の疑問に本音がコンコン狐タイプの着ぐるみパジャマ姿で、ダボダボの裾を振り回しながら答える。
自身の独自ネットワークで掴んだ情報を、分類的には単なる一学生の男にリークするなぞ、暗部組織の面子としてはあまり宜しくないのだが、その一学生が一学生なので、本音も……そして学園から本音に連絡した楯無も気にしてない。
「らうっちとしゃるーが居るから何とかなると思うし、篠ノ之博士も居るから大丈夫だとは思うけどさ……問題は織斑一夏君なんだよねー……」
「は?」
「なんでも、負傷してるのに沈静化させる作戦に出ると聞かないらしい」
「…………バカなんじゃねーか? 足手まといにしかならんだろ」
「うーん、本人は白式の有用性を主張してるみたいで……」
「白式?」
「織斑一夏の専用機の名前だよ一夏」
「あぁ、そんな名前だったんだ、今知ったどうでも良い情報だぜ」
相変わらず所々で自己主張の激しい織斑一夏に呆れる様子の一夏。
捻り潰すつもりで一誠からの地獄の鍛練を耐え抜き続けた結果、蓋を開けたら想定の以下の以下のそれまた下だったという結果に加えて半再起不能な状態なのに威勢だけは良いのは見てて醜いだけだった。
故に一夏としては落胆以上にどうでも良い存在に成り下がっており、直接何かやって来た時は完全に再起不能にしてやる以外は基本見ててせせら笑ってやる事に決めていたのだが……。
「ふん!」
「まったくもう……!」
三人だけの部屋の襖を若干乱暴に開けながら入ってきたラウラとシャルロットにより、更にその認識を下の下のそれ以下にまで下げる事になる。
「ラウラにシャルロット? あれ、お前達どうしたんだよ?」
「確か専用機持ちは先生に呼び出されてたんじゃ……」
ぷりぷりと怒りながら一夏の部屋に入ってきて、その場に座り出すシャルロットとラウラに、一夏達は一応事情を知らないフリをして問いかける。
すると二人は作戦の事は伏せつつも、愚痴る様にして言った。
「詳しくは言えないがな、私達もお前達と同じく部屋で待機だそうだ」
「何でも邪魔なんだって、織斑君達曰くね」
「「……」」
「えぇ……?」
テーブルの上にある水をひったくるかの様に取って二人で回し飲みをするシャルロットとラウラに、その内容について知る三人は知らないフリをしつつも内心呆れた。
「怪我をしてるなら出ない方が良いと言ったのに、本人は頑なだし、篠ノ之さんも自分が居るから問題ないと聞かないし」
「まったくISを何だと思っているんだ……! 教官と篠ノ之博士も呆れてしまっていたぞ」
二人の話を解釈するに、怪我をしてまともに動けない織斑一夏が出ると頑なで、篠ノ之箒もそれに続く形の一点張りなせいで作戦が立てられず、結局それが原因で二人は外された……といった感じか。
未だに腹を立ててるのか、二人して『手のひら返したって命令拒否してやる』と言ってる様子からして割りと簡単に想像できてしまうのは、本音からの情報と普段の織斑一夏とそれを取り巻く女子達のめんどくさい結束力じみた取り合いのせいか……。
「ふーん……? よくわからんけど、お疲れさま」
「待機なら此処に居れば良い。あ、何ならこっそりと一誠お兄ちゃん達が居る別館に行く?」
まあ、それならそれで勝手にやってろと事実他人事な一夏と簪は、二人をなだめるつもりで一緒に自分達の保護者の所にこっそり遊びに行くか?と誘う。
部屋に待機と言われたものの、それは自分達のとは言われても無いし部屋は部屋なので……という屁理屈なのだが、ラウラもシャルロットも保護者の所で心を落ち着かせるべきだと判断したからだ。
勿論本音も引き連れるつもりであり、頷く二人を加えた計5人は、一誠達の泊まる別館へとこっそり遊びに行くのだった。
「へー? それで遊びにね」
「何か悪いな……大勢でさ」
「気にしないで。我達も暇してたし」
てな訳で別館の一誠達のもとへと押し掛けた一夏達は、既に束のお手伝いさんと自称する黒髪の女性を交えた計5人の一誠達と、適当に其々のんべんだらりとしていた。
「む、キミのその狐パジャマ……中々良いな」
「えっと、お兄さんのワニさんパジャマも……」
「む……」
「ヴァーリの趣味に似てるなあの小娘は」
「というか、ヴァーリさんがああいう格好をすることに僕はびっくりなんだけど」
特にヴァーリと本音は顔を合わせるなり、互いの格好を見て何か通じたのか、無言で握手をしてからそのパジャマは何処で買ったのか等の談義で地味に盛り上がっており、それを横で見てるラウラはちょっと面白くなさそうにしていたりしたが、ヴァーリは本音とキラキラした顔で着ぐるみパジャマ談義を続けるのだった。
あーぁ、どうするつもりなんだろうね? このままじゃ確実に詰むってのにさぁ。
ちーちゃんもそれぐらいはわかってるのか、あのラウラって子とシャルロットって子をバックアップ目的で外したみたいだし……。
ま、一回くらいは箒ちゃんも現実を知るべきだし良いかな……。
私としても偽者人間に協力するつもりなんて無いしー
「て、事でソーナちゃんを探して此処まで来たんだけど……大所帯だね」
そんな事よりいっくんだ。
偽者人間といっくんの違いがわかってると言いはしたものの、結局その後のゴタゴタでイマイチ伝えられて無かったし、今一度きちんと伝えないとと思ってソーナちゃんを探して一誠って人が使ってる部屋に来てみたんだけど……。
「あ、おっぱい博士だ! おい一夏! おっぱい博士ちゃんが来たぜ!」
「…………あ、うん」
「篠ノ之博士……」
一誠って人が私の胸をガン見しながら隣に座ってたいっくんの背中をバシバシ叩いてはしゃぎ、いっくんはそれに対してちょっと警戒気味に私を見ている。
……わかってたけど、いっくんにそんな顔されると辛いな……。
「豚さん柄もおすすめだよー?」
「ふっ、当然持ってるよ。俺としてはねずみさん柄も中々……」
「ヴァーリ~ 私に構ってくれよぉ……」
……というか、端に居る着ぐるみ男は何なんだろうか……。
一誠って人の仲間らしいけど、色々シュールだね。
「………。あ、突然ピンポンがしたい」
其々勝手にやってる空気の中、いっくんを見て一瞬だけ顔つきを変えた一誠って人が思い出したかのようにわざとらしく大きめの声でそんな事を言い出した。
それにより全員が一誠って人に視線を向ける。
「ピンポンがしたい。よしやりに行こうぜ皆」
「へ? あ、うん……それは別に――」
「おっと、お前はそこのお嬢さんとの変な空気を何とかしてからだ。おらオーフィス、ヴァーリ、曹操、ひんぬーさん、それからラウラちゃんとシャルロットちゃんと本音ちゃんも行くぞ! 負けたら脱衣だ!」
「へ? お、おい兄ちゃん……!?」
「っと、簪……お前は残れ。わかってるだろ?」
「………うん」
な、なんて強引な。
私といっくんと簪って子以外を半分無理矢理連れ出すなんて…………って、ちょっと待ってよ!?
「ま、待ってよ!? ま、まだ私は――」
当然引き留めようと私は慌てる。
だって、いっくんの顔見てると緊張しちゃって上手く伝えられない。
せめてソーナちゃんだけでもフォローして貰うために――
「上手くやって押し倒して既成事実でも作りなさい。
私と違い、あの簪って子を上手く説得してね」
「は!?」
と思ったら、ソーナちゃんはクスクス笑いながらさっさと部屋を出ていっちゃった……。
そうだ、顔に似合わずソーナちゃんはアレだった……。
「………」
「………」
「あ、あぁ……」
そして残ったのは私といっくんと簪って子の三人で、さっきまでガヤガヤしていたのが嘘の様に部屋は静まり返ってしまう。
「あ、あの……」
「………あ、はい」
「……」
ど、どうしよう。これ、どう話せば良いんだろう? いっくんが本物だよってひたすら言えば良いの? いやそれじゃあ弱い?
それなら……。
「ず、ずっと小さい頃のいっくんに言われた事を引きずりすぎてるバカな奴だって自覚した上で言うね? そ、その……………」
「………」
「……………」
「じ、実はいっくんの写真や映像を結構前から衛星やら何やらをハッキングして見ながら独りで悶々しながらアレしてた変態です! だ、だから罰としていっくんに色々とお仕置きされたいです!!!!」
「ぶっ!?」
「……。これは酷い」
しょ、正直に言おう。
追いかけて、覗いて……びしょびしょになるまでアレしてたはしたない女である事と、それについてきちんと罰を受けなければならない覚悟があると。
「昔、いっくんに言って貰えた事をずっと引きずりすぎてるバカな女で、会う勇気も無くて映像を盗み見て変な事して……だから……その事についていっくんに……」
「い、いや……え? ど、どうすれば良いんだよ簪?」
「…………………。多分、お布団敷いてこの人仰向けに寝かせて――って事じゃないかな?」
「話が飛躍し過ぎだろ!?」
「そうでも無いと思うよ。篠ノ之博士の顔見たら何となくわかる。私もそんな時あるし」
「え? か、簪が……」
続く
補足
テンパっちゃったからだよ……仕方ない