何か唐突に出てきたので……はい。
サマービーチタイム
改めて思うけど、兄ちゃんの力って本当にエグいと思う。
なんていうの? 攻撃と防御を完璧に兼ね備えてると言えば良いのか? 兄ちゃんから攻撃すれば破壊され、逆に相手が攻撃してもその破壊により無力化……そして逆に攻撃した方がダメージを受ける。
『所詮は副産物の技術』なんて兄ちゃんは言うけど、ちっちゃい姉ちゃん曰く、その力だけで神様すらぶちのめせるってんだから、もはや副産物では片付けられないと思うんだ。
まぁ、つまりだ……そんな力による仕込みを貰っちゃったあのクズ野郎は、この先の人生お先真っ暗なんだろうなぁとか思う訳。
臨海学校に行くにしても、満足に身体を動かせないポンコツのままなんだからさ。
「え、ラウラの嫁が密かに来るって?」
「うむ、シャルロットの兄と一緒にな」
「それはまた……何で?」
「心配なんだってさ。もうそこまで子供じゃないのにね」
そして思う、この臨海学校……変な意味で荒れそうな気がすると。
IS学園の1学年は本日ほぼ全員が浮かれまくっていた。
その理由は言わずもながらの臨時学校だからである。
「この日の為に水着を新調したんだ~」
「体調も最高潮よ!」
どのクラスも基本的に浮かれていて、クラス別のバス内でもこんな感じでわいわいしているのだが、一組のバス内も一部を除いて浮かれていた。
「おっかしいな、兄ちゃん携帯に出ないや」
「どうしたんだろ?」
「寝てるか……オーフィス姉とイチャコラしてるかだと思うから心配はしてないけど……うーん」
兵藤の方の一夏は、隣に座る簪と共に育ての兄と姉である一誠とオーフィスとの連絡が取れないことに解せない表情をしながら何度も端末を操作しており……。
「ぐ、か、身体が痛い……!」
「大丈夫ですか一夏さん……」
「……」
織斑の方の一夏は、クラス対抗戦から一切受けたダメージの回復が無いという状況なのに『何故か異常に必死こいて』参加すると無理してバスに乗っており、ちょっと機嫌が宜しくない箒と、心配そうにしてるセシリアに囲まれている。
「うむ、ヴァーリの気配はちゃんと感じる。
つまり着いてきているという事で間違いないな」
「お兄ちゃんと一緒に居るんでしょ? 到着したら二人で選んだ水着を着て褒めてもらいたいね?」
「うむ、まあ褒めて貰えるのは間違いないがな」
そして兵藤の方の一夏と簪の座る座席のちょうど後ろに座るは、先日ISのタッグトーナメントで優勝したシャルロット&ラウラのペア。
どうやら、今乗るバスのちょうど真上の上空百メートルから飛んでついてきている悪童三人組の内の二人が付いてきているという事に嬉しんでいる様子だ。
「ところで、一夏に簪よ。お前達の兄と姉は来ないのか?」
「え? いや来ないだろ。だって臨海学校が今日だって知らんし」
「え、教えてなかったの?」
「教えてないというか、海だとしか言ってなかったから……。姉さんか本音が教えでもしてないかぎりは……」
そしてそんな流れというか、繋がりというか……波長が合ったせいか一夏と簪、シャルロットとラウラは気づけば普通に仲が良くなっており、此度の臨海学校では同じ班になっていた。
「本音は何か言った?」
「いや、かんちゃんが言ってるのかと思って何も言ってないよ?」
それが偶然といえばそれまでに片付けられるかもしれないが、それぞれの繋がりがまさか横にも繋がってるとは……奇跡的なすれ違いが続いてる今、一夏達には知るよしも無かった。
「百メートル以上離れられないって、お前何をしたからそんな事になったんだ?」
「冗談で悪魔の契約みたいな真似したら、思いの外強い願いを言われてな……気づいたら成立してこの様だ」
「ラウラって小娘と離れられないとか……ふっ、お前も立派に一誠の事は言えなくなったな」
「違う! 俺は一誠みたいに言い訳じゃなく契約としての繋がりでの関係でしかない!」
「わかったわかった、ロリコンは皆そう言う」
「………。お前、本当に後で覚えてろよ」
それぞれ慕う少女に見栄を張り、一誠をパシリにしてると吹いていたこの二人にもきっちりとフラグめいたものが近づいてたとしても、それはもう仕方ないのかもしれないのだ。
「よーっし、箒ちゃんの為に作った紅椿も準備完了だし、そろそろいっくん達の向かう場所に行くよ!」
「彼の前でヘタレないでくださいよ?」
「へ、ヘタレないもーん!」
そう、仕方ないのだ……色々と。
首尾良く臨海学校の滞在場所となる地へと到着した一同。
毎年使われる旅館に泊まるというのもあり、出迎える従業員は慣れた様子で今年の一年を出迎えると、ぞろぞろと事前に決めた班分けに従って部屋へと入り、荷物を先ずは置く。
「あ、やっぱり俺一人っすか?」
「はい、織斑君の怪我が芳しくないので、織斑先生と同じお部屋に……」
「そっすか、俺としては気楽なんでどっちでも良いっすね」
勿論男子だけは完全に別部屋なのだが、本来は同じ部屋となる予定だった兵藤の方と織斑の方の一夏は、織斑の方の一夏の怪我を考慮し、姉であり担任でもある千冬と同室になる流れとなり、結果兵藤の方の一夏は一人部屋で悠々自適となった。
「それじゃあ兵藤君、慌てないで海に行ってくださいね?」
「うーっす」
まあ、今更同じ部屋にされたところで、突っ掛かれて面倒な事になると思えば実に平和な選択ではあるので、副担任である山田と別れた一夏は、荷物を適当に置くと、さっさと着替えて外に出て海辺へと走る。
そう、待ちに待ったサマーバケーションの時間だ。
「日差しが半端ねぇ!」
一誠の影響をもろ受けしてる一夏はこれが楽しみで仕方なかった。
同年代の女子だらけ空間にてしかも水着姿を間近で見れる……兄の一誠が結構本気で羨ましがっていた体験をできるのだ。
既に先んじて海辺に来ている生徒もチラホラ居る中、一夏は合流予定の班員を待つため、ニヤニヤとしながら先に居た他クラスの女子生徒を眺めている。
「あ、織斑くんじゃない?」
「いや、兵藤くんじゃないの? 怪我してないし」
その際、織斑の方の一夏なのか兵藤の方の一夏なのかで混乱している者がちらほら居たので、俺は兵藤の方だぜ! とアピールも忘れずにしていると……。
「貸し切りじゃないのか……? というか場違い感半端無いんだが……」
「お前があのラウラって小娘との繋がりが切れないせいで居なくちゃいけなんだぞ、文句言うな」
続々と生徒達が集まる場所から少し離れた箇所にて、どう見てもIS学園の生徒じゃないと分かる二人組の若い男が、居心地悪そうに――されどちゃんとハーフパンツタイプの水着を着用してパラソルを立てているのが一夏のみならず全員の目に止まる。
「え、誰かしらあの二人? というか、今日からこの浜辺って学園の貸し切りなんじゃ……」
「キッチリとパラソル立ててるけど、誰か言った方が良いんじゃないの? 様子から見て知らないっぽいし」
「えぇ? でも誰が行くのよ? よく見たら結構カッコいいけど」
「……というか、最近何かで見たような……」
「……。あぁ、アレがラウラとシャルロットが言ってた人か? 本当に来たんだな」
ヒソヒソと段々黄色い声へと変わって向けられてる銀髪と黒髪の青年二人を見て、一人ひっそりと何者かと察した一夏は、ラウラとシャルロットが来たらさっさと教えようと敢えて放置する事にしてひたすら簪達を待ち、来たと同時に二人を指差しながら教える。
「なぁ二人とも。あの人達がそうなんじゃないか?」
「む、本当だ。おーいヴァーリ!」
「神牙!」
それは案の定当たりだった様で、パラソルの下で居心地悪げに俯いてた二人にどう声を掛けようと迷っていた生徒達を掻き分けながら前へと出たラウラとシャルロットは、驚く生徒達を背に何の躊躇も無く駆け出し――
「っえーい!! 何か知らねーけどおんにゃのこばっかじゃん!」
「……………」
「「「「え?」」」」
ヴァーリと曹操、駆け寄ろうとしたシャルロットとラウラの距離が後数メートルというその瞬間、その間に出現した不思議現象にその場の全員が固まった。
一部以外は知るよしも無いが、砂浜に出現するはシトリー家の証が刻まれた完璧な魔方陣であり、それを扱えるのは世界でただ二人だけ。
それゆえに、何も知らない者達は目の前に突然現れたファンタジー現象に開いた口が塞がらなかったが、人混みからちゃっかり見てた一夏と簪と、最近その背景を知った本音は驚きに目を丸くし、ヴァーリと曹操は違う意味でヤバイと焦った。
何せ、ちゃっかりソーナ・シトリーにより外堀埋め的な意味で教えられて扱えるようになった転移用の魔方陣から出てきたのは、ヴァーリや曹操と同じタイプの水着を着用した茶髪の青年と、小学生にしか見えない黒髪の少女のペア。
つまり――
「一誠、ここじゃなくてもっと人が居ないところが良い」
「え、やだ。せっかくピチピチのおんにゃのこがこんな大量に居るんだぜ? 是非とも日焼け止めクリームを塗り塗りするお手伝いをしたいわ」
一夏と簪にとっては兄。
本音にとってはロリコンだけど強い人。
ラウラとシャルロットにしてみればパシリの人。
そしてヴァーリと曹操にとってすれぱ一番今このタイミングで会いたく無かった理不尽大魔王……。
「ん? ………………あれ、お前等何してんの?」
「い、いや……その、元気そうだな一誠よ……」
「ホントもう、オーフィスともども変わり無くて……は、はは」
兵藤一誠とオーフィスのペアなのだから。
織斑一夏はかなりの我が儘を言って、姉やフラグを立てた者達に支えられながら海に行こうとしていた。
「部屋でおとなしくしてたほうが……」
「じゅ、授業には出るんだから、た、頼む」
端から見れば大ケガのままの体たらくなのに、何でそんなに必死なのかがわからない。
類を見ないレベルで強情になってる一夏に折れ、泳がないを条件に海岸まで連れていく事に承諾した千冬に連れられながら、転生者は内心こんな事を考えていた。
(原作通りにしたつもりが、もうめちゃくちゃだ。
もしかしたら束も今日来るかもしれないし、暴走した銀の福音だって……くそ!)
知識を頼りに何としてでも欲を埋める。
勝手な想像で気に入った女性達を我が物にしようとする。
その対象は顔さえよければ誰でも良いというものであり……
(性格はアレだが、束だって……)
強情なまでに参加しようとする理由も、束とのフラグを完全に自分のものにする為というだけの事であった。
何せ自分が医務室送りになってたせいで、シャルロットとラウラとのフラグが潰れたなどと考えてるのだ、もはや一人たりとも取り零しなんてあってたまるかと、ある意味の執念を見せる転生者の心情は、悲しいかな既にほだされている女性陣は気付かない。
「む、何だ? 生徒達が騒いでるみたいだが……」
「何かあったのでしょうか?」
「……」
しかしそんな考えなんて最早意味すら無い。
野垂れ死に追い込んで成り代わってやって油断したから生きていた本来の一夏がこうしてIS学園に入り込んでる時点で……。
そして……。
「ヒャッハー!! パシリ一誠くんのバックアターック!!」
「ぶべ!?」
「じ、神牙ぁぁ!?!?」
「ちょ、待て一誠! 悪かった! 俺達が見栄張ったのが悪かったからもう勘弁してくれ!!」
「勘弁? おいおいやめてくださいよせんぱーい? 何時もの様にパシリの僕ちゃんをぶちのめしてジュース買わせてみれば良いじゃないっすかぁ……げげげげ!!」
ニート目的で次元をぶち破って現れた
「だ、誰だ奴等は!? おい、あの男達はだれだ! この海辺はIS学園の貸し切りの筈だぞ!」
「い、いえそれが、デュノアさんとボーデヴィッヒさん、それから兵藤くんの身内の方々らしくて……」
「なに!?」
海辺に到着するや否や、貸し切りにしてある筈の場所で見知らぬ青年……もっといえば学園の生徒達と同年代にも見える男三人が、周囲の女子生徒の盛り上がった声援を背にビーチバレーをしていた。
当然責任者として見過ごせる訳も無い千冬は、唖然としている弟をその場に放置し、騒ぐ生徒達を威圧で黙らせながら、何故か片方二人がボロボロになってる三人組に突撃する。
「何者だ貴様等! 此処はIS学園の関係者以外立ち入り禁止の筈だ!」
「え?」
「ほっ……と、止めてくれる人が来てくれた」
「大丈夫かヴァーリ?」
「神牙お兄ちゃんも……」
「くっ、見栄張った因果応報としてなら、これはまだ全然軽い方だから大丈夫だ」
一応水着の上にパーカーを羽織ったという姿をした女性の出現に、生徒達はマズイと一斉に声を沈める中、ビーチボールを持った茶髪の青年は、黒髪ロングの幼女に、兵藤の方の一夏と簪を傍らに鋭い顔つきの千冬に気の抜けた顔をしながら口を開く。
「え、っと……どちらさん? てか、貸し切りってなに?」
「む……」
どうやら本当に知らなかった様で、貸し切りだったという言葉に若干困惑している様子。
「俺達の担任だよ……織斑千冬先生」
「ほら、一夏の……」
「あぁ、確かそんな顔というか……結構似てんな」
「……」
だが一夏――いや、イチカの耳打ちでそれが担任で、しかも織斑千冬である事を知った一誠は、それでも割りとどうでも良さそうな顔をしつつ千冬の顔を見てから……繁々と視線を下へとずらして胸元へと向ける。
「おっ、割りとあるじゃん……にへへへ」
「っ!?」
その視線たるや、完全に変態なおっさんを思わせるそれであり、昨今の男女逆転立場から来るバッシングなんて関係ないとばかりにニヤニヤしながら見るもんだから、千冬は思わず胸を庇いながらも睨みながら言う。
「兵藤の身内と聞いてますが……?」
「え? あぁ、一応兄貴やってますが」
「そうですか。ですがこの場所は生徒以外は立ち入り禁止としています。
如何に父兄といえど、出ていって頂きたいのですが」
「あー……なんかすいません、その馬鹿二人相手に久々に喧嘩売られちゃったもんだから、年甲斐も無くヒートアップしちまいまして……」
威圧が全く効いて無いのか、ヘラヘラしたまんまの一誠に千冬は微妙にムカつき、ちょっと無愛想になってとっとと出ていけと促す。
それについては一誠もぺこぺこしながら謝り、すんなりと出ていくつもりなのか、さっきから傍で千冬をじーっと見つめている黒髪の少女を抱え、シャルロットとラウラに支えられてる残りの青年二人に行くぞと言って無理矢理立たせる。
「どーもすんません……じゃ一夏に簪――っと、それに本音ちゃん、臨海学校楽しめよ~」
「い、いてて!? ちょ、待て一誠……! ま、まだ全身がバキバキで…っ!」
「うるせぇこの馬鹿共。とっとと来い」
「ぐぇ!? じゃ、じゃあシャルロットにラウラ……ま、また後で……!」
『………』
それぞれ繋がりのある子供達にそう言い、とっとと離れていく四人組に、全員無言で見送るのだったとか。
ちなみに――
「誰だ……どっかで見たような……」
転生者はイレギュラーの男子と幼女の顔が思い出せず、一人悶々としていたのだとか。
連絡が取れなかった理由がまさかこんな事だったなんてな……。
お陰で俺達は兄ちゃん達が去った後、微妙にとばっちりだぜ。
「はぁ、やっと尋問が終わったぜ……」
「全然海で遊べなかったね……」
「というか、唐突すぎるよ~」
「ヴァーリ……大丈夫かな」
「神牙お兄ちゃんも……パシリさんにぼっこぼこにされてたし……」
担任からの説教からやっと解放された頃にはビーチタイムは終わっており、他のグループより少し遅れての夕飯を食べながら、今回知った繋がりについてを自然に話し合っていた。
「つーかあのヴァーリと神牙……確か曹操って人が兄ちゃんの知り合いとは思わなかったよ。
世の中って結構狭いのな」
「うむ、神牙についてはこの前シャルロットを介して会ったから、ヴァーリの知り合いだと知ってたが、まさか一夏の兄がなぁ……」
「一緒に居た小さい女の子とも知り合いみたいだけど、あの子ってどんな子なの?」
「一誠お兄ちゃんと事実婚相手。ちなみに、見た目はああだけど、私達より年上だから勘違いしてはだめ」
「む、年上だったのか!? ……見えんぞ」
「いや、ラウラだってオーフィス姉の事は言えない気が……」
「でもウチの会長は一誠さんをロリコン呼ばわりしてるけどね~」
「あ、やっぱりそんな感じなんだ……」
それがまた結構盛り上がるというか……。
「いいなぁ、あんな格好いい人がボーデヴィッヒさんの彼氏なんて~」
「デュノアさんも羨ましい。あんなお兄ちゃんが居たらなぁ」
ヴァーリって人と曹操って人はすっかり他の女子達に嵌ったらしく、逆に兄ちゃんに対しての黄色い声は……あれ?
「いや、兵藤くんのお兄さんも格好いいとは思うけど……」
「すっごい胸とは露骨に見てくるから……ねぇ?」
「言動がおじさんというか……うん」
「あらー……」
「一誠お兄ちゃんって見た目は良いのに残念な評価だよね、何時も」
兄ちゃんの評価はそこら辺のエロオヤジ的な評価だった。
まあ、兄ちゃんはもう嫁も居るしなぁ……今更モテてもあんまり意味が無いからこれで良いと思うけど……。
「えーっと、さっきから何だよ織斑くん? 俺の顔になにか?」
「……………」
にしても鬱陶しいのは偽物ヤローの視線だ。
何かを探るような視線をバシバシ向けてくるのがウザい。
まあ、無視するけどな……ほぼ何も出来なくなってるし。
そんな事より興味深いのは、ラウラとヴァーリって人の関係性だ。
何でも契約とやらで百メートル以上は離れられないという呪いじみた繋がりもそうだけど――
『へーあの銀髪の子に嫁と言われてる、ねぇ?』
『な、何だよ……別にただ言われてるだけで、俺はどうとも――』
『オーフィスの事で散々俺をロリコンとかほざいてたが……お前の場合、正真正銘の年下とか……ぐふっ!? なぁおい曹操、ヴァーリの奴やばくねぇ?』
『あぁ、俺もそれはハッキリ思う。ヴァーリはロリコンに目覚めてしまったのだとな!』
『うるさい! 俺はロリコンじゃない!』
『と、言う奴程真性ってほざいたのはオメーだよこのばーか! ギャハハハハ! あ、仲居さーん、日本酒追加で~』
「……あれ、隣の宴会場から聞いた覚えありまくりな声が」
「うん、お兄ちゃん達だね」
「さっきヴァーリから電話で聞いたのだが、私から百メートル圏内にある別館で部屋を取ってたらしいぞ」
「あ、だから……でも凄い会話だね」
「うむ、嫁が私の話をしてくれるなんて実に嬉しいぞ!」
「いやー多分そんなポジティブじゃないかな~」
うーん、銀髪コンビで見映えが良いにしても、ロリコン呼ばわりさせるヴァーリって人は実に御愁傷様だよな。
なんて呑気に考えていた俺達だったが、明くる日……かなりの修羅場を見ることになるとは知らなかった。
終わり
それは、生みの親の唐突な出現から始まった。
「はろはろ~ 私が何を隠そう篠ノ之束さんだよ~♪」
訓練中に空から降ってきたのは、ISの生みの親と――
「そして此方は束さんの優秀なアシスタントだよ!」
「支取蒼那です、以後お見知りおきを」
と、そのアシスタントの落ち着いた黒髪の女性。
まさしても原作とは違う存在の出現に転生者は密かに狼狽え……そして思い出す。
(な、何でハイスクールD×Dのキャラが!? てか、昨日の奴等もよく思い出してみたら主人公とそのライバルじゃねーか! ふざけんな、何でこんな……!)
この世界レベルのチートしか持ってない転生者にしてみれば、神だわ悪魔だわとインフレ世界の住人の存在はまさにどうにもならない存在であり、蒼那――いやソーナを口説こうとしたところで無理ゲーだった。
いや、それだけならまだ良いが、一番は束の態度だった。
「お久しぶりです束さん、実はこの前怪我を――」
「あ、うん御愁傷様。
箒ちゃんに看病して貰って早く治ると良いね?」
「………え」
すごいドライだった。
まるで他人相手の態度だった。
なのに……。
「や、やぁやぁ、キミが噂の兵藤一夏くん……だよね?」
「……はぁ」
「い、いやその……というか、いっくんだよね?」
「はぁ……………………は!?」
「!? この人…」
蹴落としてやったのにしぶとく生きてる邪魔者相手に、何故かもじもじした態度に転生者はショックだった。
「あ、アンタ何でっ……!」
「しっ……ここで言ったらアレに悟られちゃうから、ね?」
「お、おお……?」
更に更に……。
「……。やっぱりお前か雌悪魔」
「この前以来ですねオーフィス……ふふ、何処に行こうが私は絶対に逃がしませんよ? 一誠?」
「ヴァーリと曹操で予想ついてたが、まさかひんぬーまで居たか。
へっ、にしてもあの束って子の特盛具合に比べて、ひんぬーのこの残念な事……(笑)」
三十路共の修羅場。
「わ、私は絶対に忘れてないよ。だ、だって……小さい頃のいっくんに結婚して言われたのをアレは知らなかったし」
「ぶっ!? そ、そんな事覚えてたのかよ!? う、うわ……は、恥ずかしい」
「ふーん……やっぱり一夏はそんな事してたんだね? ふーん?」
「いやほら、あ、アレだよ……わ、わかるだろ? しょうがないだろ!? 初恋の人がこの人だったんだから!」
「別に責めてる訳じゃないよ一夏、寧ろ取り込めそうな……」
「あ、ちなみに義弟の一夏くん。タバネの思ってる事は本当ですよ? 何せアナタ事を妄想しながら一人で――ぐむ!」
「わーわー!!!」
「え、っと……なんだって?」
「ウサギさんは性欲お化けって事だよ一夏……」
「はい?」
こっちも修羅場にな――らなかった。
嘘予言・『恋愛の色々』
補足
見た目が幼女だけど年齢は上。
見た目は幼女っぽいけど、中身はガチで年下。
どっちがマシか……ファイッ!!
その2
束さんは本人目の前だと急激に借りてきた猫――いやウサギが如く大人しくなる。
運が良いのは、オーフィスたんとひんぬーさんとは違って、簪さんと組める可能性が高いという事。
そしてまだ心情がピチピチ若いという所か……。
その2
一誠の転移魔法はソーナさんが教えたのですが、外堀埋めの一環として、出現する陣の模様が完全にシトリー家の紋章だったりする。
そして、拗らせ過ぎたせいでシトリー家は頼むから早く一誠とデキ婚でも良いからしてくれとか考えてるので、誰も止められない。