色々なIF集   作:超人類DX

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粗暴、チンピラ……それでも残るギルバ一誠の根っこ。


※軽い修正とシークレット場面の追加。


ギルバの根っこ

 何故俺が過去に居るのか、それはドライグにも解らなかった。

 しかし、分かる事もあった。

 

 

「なるほど、この時代から生きてる知人全てが能力保持者(スキルホルダー)じゃないし、性格も微妙に違う」

 

『コカビエルが特にそうだったな』

 

「あぁ、サンタの存在が嘘だと言われたガキの様な気分だぜ」

 

 

 思っていた以上に、この過去は俺の知る過去じゃないという事。

 

 

「俺達の知るイリナとゼノヴィアには会えないかもな」

 

『あぁ……残念ながら恐らく』

 

 

 少しだけ期待していた再会は恐らく幻に終わる。

 俺だけしか持ってないこの力を考えるに、そう思えてしまう。

 

 

「おっと、またテメーかセラフォルー・シトリー?

くくく、へし折ってやった両手は治ったのか?」

 

「お陰様でね。キミのお陰で仲間の大半が病院行きだよ」

 

 

 悪魔共が思ってた以上にしぶといという事も、嘗てはぶっ壊してやった奴が中々折れないで向かってくる事。

 

 

「ねぇ、キミは人間だよね? まだ人間の文明は発達してないのに、どうしてキミの身形は私達と似てるの?」

 

「それを知ってどうなるんだ? 人間様に負けたのが気に食わねぇから探るにシフトしたとするなら、敢えて言ってやるよ、全部無駄だクソボケ」

 

 

 皮肉にも、イリナとゼノヴィアに会えないのに、その全てが『新しい』。

 

 

 

 

 いーちゃんが意外にも女の子からも人気がそこそこあった。

 いや、うん……別に良いんだけどね? どうせいーちゃんの事だし『悪魔の雌なんぞありえねぇな』と半笑いで吐き捨てるだろうしさ? 別に焦ってないよ私は?

 

 

「……………。おい、何だこの数は?」

 

「凄いね、軽くCM告知してみたら冥界中から若い子達が集まっちゃったみたい」

 

 

 うん、若い子達に戦い方についての講習会の講師としていーちゃんが出てくるって話を冥界中にTV放映権使って流したら、純血の子達が眷属を連れて集まったせいでてんやわんや状態になってるのだって別に良いんだもん。

 

 

「ほ、本当にギルバ様が居られるぞぉ!!」

 

「キャー! ギルバ様ぁ!!!」

 

 

 

「うぜぇ、鳥肌が立ってきた……」

 

「いや、お前の気持ちは分かる。けど、若い者達はお前が悪魔を実はそんなに好きじゃない事を知らない。

だから頼むから我慢を……」

 

「大体何故俺が悪魔の英雄なんだ。

ふざけんな、プロパガンダも甚だしいぜ」

 

 

 若い女の子から、こんなにキャーキャー言われるのだって……私、別にへっちゃらだし……。

 

 

「いーちゃん、若い女の子が凄い声援してるよ?」

 

「知るか」

 

 

 そう、いーちゃんは悪魔の異性は対象外だから。

 

 

 

 すっげぇ……。

 レヴィアタン城前の光景を見た俺は、ただただ皆と一緒に唖然としてしまう。

 

 

「ギルバ様が講師をするという話が冥界全土に伝わった瞬間、殆どの上級悪魔が眷属を連れて来たせいで物凄い事になったのよ」

 

「ええ、ギルバ様は百年に一度公に出るか出ないかですからね。伝承だけでしか知らない我々若輩からすればチャンスな事この上なしですよ」

 

 

 レヴィアタン様のお城に、まるでフェスの会場が如く若い悪魔が集まってるという現状に、勿論参加するためにやって来たリアス部長やシトリー会長が俺達にそう説明する。

 

 

「あ、お前等!」

 

 

 城の前にある壇上を眺めつつ、誰しもがギルバさんの登場を心待ちにしている中、少し離れた場所から聞き覚えのある声が聞こえたので、俺達全員が振り向く。

 

 するとそこに居たのは……。

 

 

「あ、お前ライザー・フェニックス!」

 

 

 リアス部長の元婚約者で、破談を賭けてレーティングゲームで戦った純血悪魔であるライザー・フェニックスが、声は掛けたは良いが微妙に顔をひきつらせた状態でそこに居た。

 

 

「よ、よお……こないだのレーティングゲームぶりだな」

 

「ええ、そうねライザー……まあ、リザインして負けたけど」

 

「おう……」

 

 

 声を掛けちゃったは良いが、気まずくでもなったのか、部長と話すライザーの態度はどこかおどおどしている。

 

 

「アナタもギルバ様の講習会に?」

 

「お、おう……こんなチャンス滅多に無いからな。下僕達の為にもなると思ってよ」

 

 

 チラチラと俺を見ながら前に見たイケイケな態度が嘘みたいに大人しめに話すライザーの後ろには、確かに俺達と戦った眷属達がいる。

 

 その内の一人……確か僧侶だったかの金髪の女の子が俺をじーっと見てくるのだが、結局話し掛けられる事は無く、ギルバさんの登場によって爆発するかの如く沸く声援に全て塗り替えられてしまうのだった。

 

 

「やはり似てるな、イッセーとギルバは」

 

「生き別れの兄とか言われても今なら驚かない自信あるぜ俺」

 

 

 周囲がギルバ様だと黄色い声援を送る中、俺とゼノヴィアは比較的冷静に見ながらその容姿の似さについて語り合う。

 ギルバさんとは二度会ったけど、何故か妙に俺とゼノヴィアには気安くしてくれるというか、優しい。

 

 

「よくあの方を呼び捨てに出来ますね……」

 

「いや、本人がそうして欲しいと言ったからな」

 

「私には出来ないですよ。というか、あの方と目すら合わせてませんし私は……」

 

「そうなのか小猫ちゃん?」

 

「はい……」

 

 

 だから俺とゼノヴィアは、如何にギルバさんが凄くても怖いという感じがしない。

 他の仲間達は恐れてる様子だけど……。

 

 

「正直、こんなにお集まり頂いている事に、このギルバは驚きを隠せません」

 

 

 怖くないと思うんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 ギルバはめんどくさかった。

 

 

「自分の種族としての力に誇りを持ちたければ持てば良い。

しかし、そう宣う者程早死にしたのを私は過去何度も見ましたしね」

 

 

 悪魔のガキ共相手にこんな演説じみた真似をしなくちゃいけない事を。

 

 

「私は元々人からセラフォルー様により悪魔へと転身した身。ですが何とか今まで生きてこられたのは、死にたくないという怯えを持っていた事です。

わかりますか? 誰かの為に命を張るのも結構ですが、相手の力量差を理解し、逃げる事も大切なのです。

それを世間では腰抜けと揶揄されるでしょうが、力量差も考量した上で向かって無駄死にすれば世話なんてありゃしません。

退く精神を片隅に、やる時は徹底的に……潰せ」

 

 

 適当ぶっこいてるだけなので怠くて仕方ない。

 

 

『うぉぉぉぉっ!!』

 

『ギルバ様ぁぁぁっ!!』

 

 

 それなのにガキ共は勝手に自分を指差してはしゃぐ。

 

 

(お前等の親を昔ぶち壊してやろうとしてたことも知らないで……呑気なガキ共だ)

 

 

 その全てがギルバにしてみれば居たたまれない気分になってしまう。

 

 

「セラフォルー様の意向により、私は暫く公に出ています。

その間、皆様の中で直接指導を受けたい方が居られるなら私は拒みません。

抱えられる眷属の皆様もろとも、拙いですが私が生き延びられてきた技術をお教えしましょう」

 

 

 どうせ本性出して鬼コーチよろしくにやったら、ボンボンのガキ共の事だ、すぐにでも音を上げるに決まってるさ。

 そう内心見下しながら締めたギルバだったが……。

 

 

『我々が先だ!』

 

『いいえ私達です!!』

 

 

 

 

 

「あれ……?」

 

「暴動みたいになっちゃったね、いーちゃんの個人指導の話になったら」

 

「……。これは僕達的にも予想外だったよ」

 

 

 寧ろ若者達はヒートしていた。

 物凄いヒートしていた。

 貴族出身の悪魔が特に我先にとヒートしていた。

 

 

「仕方ない、抽選方式にしよう。このままでは埒が明かない」

 

「そうだね、いーちゃんもそれで良い?」

 

「何でも良いよ、半日経たないで逃げ出すレベルのメニューでやるから」

 

 

 結局、公に姿を現した事で冥界悪魔の士気は余計に高まった。

 皮肉にも、嘗て悪魔を一人残らず破壊し尽くした男によって。

 

 

 

 

 運命的といえばそれまでなのかもしれないけど、これはまさに運命って思いたい。

 

 

『抽選の結果、初回はリアス・グレモリー様! 次回はソーナ・シトリー様! そして三番目はサイラオーグ・バアル様となります!』

 

 

 凄いねソーナちゃんとリアスちゃん。

 これから二人でレーティングゲームで戦う前にいーちゃん指導の抽選を当てるなんて。

 

 

「凄いっすよ部長! ギルバさんから最初に指導して貰えるなんて!!」

 

「え、えぇ……う、嘘? ゆ、夢じゃないのね?」

 

「これはまた運命的ですね。私とリアスがそれぞれ最初なんて……」

 

 

 リアスちゃんとソーナちゃん達が騒いでるのが見える。

 サイラオーグちゃんが小さくガッツポーズしてるのが見える。

 

 

「……。手抜きはやめとくか」

 

「イッセーって子が絡んでるから?」

 

「あ? まぁね」

 

 

 何だかちょっぴり寂しいかも……。

 

 

「じゃあリアスは翌日から10日、ソーナさんは10日後から更に10日と10日単位で良いね?」

 

「あぁ、めんどくせ……」

 

 

 そんな訳でいーちゃんの直接指導の日取りも決まり、早速明日からリアスちゃんの指導をするという事で、サーゼクスちゃん達と別れた。

 抽選から外れた若い子達は残念がってたけど、チャンスが消えた訳じゃないとだけ言ったら取り敢えず意気揚々と帰って行ったけど、うーん、この分だと暫くいーちゃんは本当に公に出るって事になるんだよね。

 

 

「くぁ……もうめんどくせーから寝るかな」

 

「………」

 

 

 今まで気付かなかったけど、いーちゃんが忙しくなるって事は、いーちゃんとの時間が激減しちゃうって事。

 私とお話したりお散歩したりする時間が減っちゃう……。

 

 

「ね、ねぇいーちゃん?」

 

「んぁ?」

 

 

 わかってる、自分が望んだ事だってのも。

 いーちゃんと『契約』をした時から、それまであったいーちゃんの評判を覆そうとした結果だって私が望んだ事。

 

 だからいーちゃんが予想してたより若い子達から人気があった事だって喜ぶべき事なんだ。

 

 

「もう今日はお仕事も無いから……お散歩しない?」

 

 

 だからこそ、知った今は寂しい。

 いーちゃんが更に遠くなってしまう事が。

 

 

「やだ。パス」

 

 

 私からのお誘いは、いーちゃんの脱力した面持ちによって簡単に避けられた。  

 これは何時もの通りなんだけど、知ってしまった今、退きたくない。

 

 

「じゃあいーちゃんは寝ても良いから、それまでいーちゃんのお部屋に居ても良い?」

 

「それ、何の意味がある訳?」

 

「と、特に無いけど……」

 

 

 断られ過ぎて馴れたつもりだけど、こうして現状の危機感を覚えてから断られるのが酷く辛い。

 いーちゃんからしてみれば何時もの事なんだろうけど、私にとっては……。

 

 

「まあ良いか。居ても居なくても何がある訳でもねーしな」

 

「………」

 

 

 

 

 ギルバは普段表にでない。

 つまり、部屋の場所もセラフォルー以外には知られてない。

 例えレヴィアタン城に常勤している悪魔ですら。

 

 それもその筈だ。ギルバの部屋はレヴィアタン城の地下の地下に作った穴倉みたいな空間にあるのだから。

 

 

「悪魔を昔全滅させるつもりでしたー……とでも言ってみれば良かったかもな」

 

 

 特殊な転移魔法を発動する事で辿り付くギルバの自室。

 天然の光は存在せず、照明だけが頼りとなるギルバの部屋の構造は至ってシンプル。

 

 寝るためのベッド。

 人間界の電波を拾うラジオ。

 机、申し訳程度のクローゼット。簡易的なシャワールーム。

 

 シャワールームが無ければまるで牢獄の様な空間を好み、普段はこの部屋からまるで出てこないからこそ今まで行方がセラフォルーにしかハッキリと掴めなかったのである。

 

 

「娯楽物なんか無いぞ」

 

「う、うん……」

 

 

 クローゼットから出したジャージに着替えたギルバが、入り口でそわそわしながら立ってるセラフォルーにそう無愛想に告げながらゴロンとベッドへ飛び込む。

 セラフォルーから新しさを提供して貰うという契約を結び、悪魔を滅ぼすのをセラフォルーが生きている内の一旦は辞める事となったギルバこと一誠だが、悪魔全体と馴れ合うという意思はやはり感じられず、木の扉の前でそわそわもじもじしてるセラフォルーに、段々意味がわからずに苛立ち始める。

 

 

「何だよ? 言いてぇ事があるなら言えば良いだろ?」

 

 

 そもそも部屋に来たいと言ってきた時点でよく分からないし、第一何をもじもじしてるのかもわからないとベッドに横になりながら問いかけるギルバだが、セラフォルーは『あー』だの『うー』だのと言うだけで何も言わない。

 

 

「んだよ、訳わかんねーな」

 

 

 嘗ての短気な一誠なら殴り飛ばしてた事を考えると、ギルバとなった今は随分丸くなった事が伺える。

 

 

「聞くだけ聞いてやるから言ってみろよ」

 

「えっと……そういう意味じゃなくて、その……一緒に寝たい……」

 

 

 だからこそ、もじもじと恥ずかしそうにしながら告白してきたセラフォルーの言葉に、口がポカンと半開きになるだけだった。

 多分これが昔なら怒り狂う事を思えば、相当悪魔に対してマイルドになったと言えるだろう。

 

 

「そんなしょうもない事を言う為にわざわざ付いてきたのか?」

 

 

 けどしかし、ギルバの表情は徐々に呆れたそれとなる。

 何を勘違いしてるのか、悪魔と隣合わせで寝るのを許すと思うのか? と一誠としての人生を知るセラフォルーに嫌味っぽい声で話した。

 

 

「だ、だって……明日からいーちゃんも忙しくなるし、そうなったら普段みたいにお仕事が終わったら二人で話す機会も少なくなっちゃう……。

そ、それにいーちゃんだって本性を晒せる時間が少なくなるし……」

 

「それは分かるが、テメーと寝るのと何の関係があるんだ?」

 

 

 ふざけた答えだったらマジで殴るぞ。

 そう言外に示しながら問うギルバにセラフォルーは普段の彼女らしからぬしおらしい態度で、こう言った。

 

 

「いーちゃんの事、好きだから……」

 

 

 好きだから。

 セラフォルーは面倒そうな顔をしていたギルバを真っ直ぐ見つめてそう言った。

 自分が悪魔である事は分かってるし、ギルバが悪魔を好んでない事だって百も承知だ。

 

 けれど、セラフォルーはそんな男に近づき過ぎてしまった。

 暴力的で、口は悪いし、何より殺そうとしてきた相手に嘗ては何度もぶちのめされた。

 

 けれど、それを繰り返し……何度も何度も立ち向かう内にセラフォルーは知ってしまったのだ。

 

 

「悪魔に好かれてもな」

 

 

 生き続けて孤独になって、大切な人達と別れてしまった寂しいその姿を。

 

 

「あ、あはは……だ、だよねー☆」

 

 

 そしてこの世界に居ても再会は叶わない事を。

 だからセラフォルーは代わりになんてなれない事を承知でギルバの傍に居たかった。

 

 

「ご、ごめんねいーちゃん? 私ったら今更分かりきった事なのに……。

あは、は……か、帰るね」

 

 

 例え報われずとも。

 それを覚悟した上でギルバとの契約を結んだというのに、今回知ってしまった予想以上のギルバの女性悪魔からの好かれっぷりにセラフォルーは少しばかり暴走してしまった。

 

 だが、今のギルバの抑揚の無い淡々とした台詞で目が覚めた。

 所詮、自分とギルバは契約した上での関係。それ以上は不可能だと。

 

 胸の中を襲う苦しさを誤魔化すかの様に痛々しく笑って部屋から出ようと決めたセラフォルーは、もう余計な事を言ってギルバが離れない様にしないとと思ったその時だった。

 

 

「はぁ……はぁ~ぁ。めんどくせぇな、オイ待て」

 

「………え?」

 

 

 大きくため息を吐いたギルバがセラフォルーを呼び止めた。

 

 思わず振り返るセラフォルー。

 

 

「現状、俺の主はテメーって事なら仕方ない。無駄な事だが聞いてやるよ」

 

 

 そんなセラフォルーに嫌々な顔したギルバがなんと軽くズレて場所を空けたのだ。

 

 

「え、っと……」

 

 

 ギルバのその行動にセラフォルーは困惑してしまう。

 しかしそこは長年の腐れ縁……ぶつくさと言ってるギルバの意図を徐々に理解したセラフォルーは、貫かれて傷付いた胸の中の痛みが和らいでいくのを感じ……。

 

 

「い、良いの? 私……悪魔なのに」

 

「テメーから言って置きながら今更だな。別に俺は良いんだぜどっちでも」

 

「あ、う、だ、だめ!」

 

 

 嬉しそうにはにかみながら、飛び込んだ。

 

 

「あは、あはは……夢みたいだよいーちゃん」

 

「安い夢だな」

 

 

 ギルバの性格の根に残るものが、長年ずっと裏切らなかったセラフォルーによりほんの少しだけ心を開かせたのか、嘗ては悪魔に身を弄ばれて嫌悪していた男が、悪魔を自分の真横に居ることを許可した。

 

 それは内に潜む龍も驚く結果なのはいうまでも無い。

 

 

「えへへ、いーちゃん……☆」

 

「てめ、俺の領域を奪うな!」

 

「くっついてれば広く感じるよ?」

 

「くっつく? テメーとか? やだ」

 

 

 この日、セラフォルーは自信を取り戻した。

 ギルバが更に遠くへと行ってしまう心配も消えた。

 

 

「いーちゃんは嫌いかもだけど、私……いーちゃんが好き。ずっと……好き」

 

「そーかい、俺はどうでも良いな」

 

「うん、分かってる。でも、好きで居続けて良いでしょ?」

 

「……………。とことん変な奴」

 

 

 ギルバとしての一誠を死ぬまで想い続ける。

 

 

「えへへ、いーちゃん♪ いーちゃんの匂い……いーちゃんの温もり……☆

大好きだよ……いーちゃん……」

 

「耳元でうるせー……」

 

 

終わり

 

 

 

シークレット

 

 

 当然何がある訳じゃ無かったけど、いーちゃんの近くで寝られる事になってから暫く経った時の事だった。

 隣で寝るという意味では別に何度かあったけど、こうしてくっつける程の距離というのは初めてなので、ドキドキしちゃって中々寝付けなかった私は、初めていーちゃんの別の一面を知ってしまう。

 

 

「く……う……! ぐぅ……!」

 

「いーちゃん……?」

 

 

 本当に何にもしてこないまま、さっさと寝ちゃったいーちゃんから苦しそうな呻き声が聞こえた。

 最初は只の寝言かと思ったけど、その苦しそうな声が止む気配も無く、また何時ものいーちゃんらしからぬ声だったので、私はただ事じゃないと思って身体を起こしていーちゃんの顔を覗き込み……息を飲んでしまう。

 

「あ……ぐ……ぐぁ……!」

 

 

 魘されている。何時でも不敵な笑みか、興味無さげに淡々とした顔のいーちゃんが、苦しそうに魘されていた。

 それは私にとって不覚にも初めて見る姿であり、思わず心配になっていーちゃんを起こそうと身体を揺するけど、起きる気配がしない。

 

 

「ど、どうして……」

 

『チッ、もう無いと思ってたら……随分久々だな』

 

「ド、ドライグちゃん?」

 

 

 揺さぶっても起きずに苦しむいーちゃんにどうしたら良いのか困惑してしまう私に、いーちゃんの左腕に出現した龍の籠手から声が聞こえた。

 

 いーちゃんが平行世界の未来の存在という証拠の一つである赤い龍の声は、いーちゃんのこの姿を知っているみたいで、忌々しげに舌打ちしていたので、私は一体どうしたんだと問い掛けてみる。

 

 

『一誠が昔、悪魔に転生させられた事は知ってるな? それによって俺を含めた力を封じられた時期があったことも』

 

「う、うん、それでいーちゃんは悪魔が嫌いになったって……」

 

 

 ドライグちゃんから語られるいーちゃんの昔。

 この世界とは別の世界でいーちゃんとして生きていた頃に経験した、いーちゃんが悪魔を完全に嫌う様になってしまった理由は私も知っていたので、魘される姿を心配しながら頷く。

 

 

『そうだ、当時でも既に最高クラスの進化を見せていた一誠がカスのガキ共に隙を突かれて転生させられ、あまつさえその進化の源を勝手に使われた。それ故に一誠は悪魔の類いを元に戻った際は容赦無く仲間の二人と共に皆殺しにしたのだ』

 

「………」

 

 

 平行世界の貴様もろともな。

 と、私の事を指しながら話すドライグちゃんに私はちょっとだけ複雑ながらも、それは平行世界の自分達悪魔の自業自得だと思う。

 結局の所、平行世界の私が壊された理由だって、単なる言いがかりと八つ当たりだったらしいし、この世界の私達は違うという確固たる気持ちもある。

 

 だからその事は良いとして、その話といーちゃんが魘される理由が私は知りたく、ドライグちゃんの話を黙って聞いている内に、私は決して短くは無い付き合いであるいーちゃんの知られざるお話を遂に知ってしまった。

 

 

『一誠は転生させられて力を奪われていた時期、その悪魔の雌共から虐待されていたんだ。

理由は今の一誠を見れば解るだろうが、当時からコイツは気にくわない相手にはとことん噛みつく。

だから転生させた悪魔共に殺意を常に向けて言うことなぞ絶対に聞かないでいた……それが悪魔共には気に食わなかったのだろう……徐々に一誠の力を独占したいという欲も手伝って……」

 

「いーちゃんを虐待、したの?」

 

『あぁ、内容は暴行から始まってな。小娘、お前もガキでは無いのだから解るだろ?』

 

「……。う、うん……わかっちゃうよ」

 

 

 悪魔から受けた仕打ちは知ってた。

 けど内容までは知らなかったので、私はいーちゃんが受けた暴行という真実に胸が苦しくなった。

 そして同時に思った……いーちゃんが悪魔の――特に女の子の悪魔を嫌ってた理由が。

 

 

『俺達で悪魔を絶滅させてから、イリナとゼノヴィアが死ぬまで残ってたものが今更になって出てきたのは俺も予想外だ』

 

「でも、その後は魘される事も無かったんでしょ? なら何で……」

 

『俺と一誠だけになってからは気を張っていたからだと思う。

イリナとゼノヴィアが居た頃は、その弱さを二人がカバーしててそれに甘えられていたからな』

 

 

 ドライグちゃんから話されるイリナとゼノヴィアという嘗ていーちゃんが全幅の信頼を寄せていた二人の仲間。

 今でも二人の話をするいーちゃんの顔は優しくなり、所詮契約上での関係でしか無い私では立ち入る事すら出来ない絶対的な位置にその二人は居たのは私はよく知ってる。

 

 

「でもどうして今更……?

その二人が居なくなってからは無かったんでしょ? 私も何度か寝てる所を見たことあるけど、魘されるなんて……」

 

『……。一誠には言わないつもりだし、これはあくまで俺の予想だが……』

 

 

 今になって魘されるなんて、絶対に理由があると思う私にドライグちゃんが言う。

 

 

『小娘……お前が理由だ』

 

 

 私が原因だと。

 

 

「それは……私が悪魔だから?」

 

 

 ハッキリとドライグちゃんに言われ、グサリと何かに胸の中を刺された感覚を覚えた。

 そんな過去を持ちながら、悪魔を隣に眠れば確かに再燃したっておかしくは無い。

 結局私の我が儘でいーちゃんが魘されてしまったと考えれば、辻褄が合う……合ってしまう。

 

 

『それもあるだろうが、恐らく違うな』

 

「へ?」

 

 

 けれどドライグちゃんの言いたい事は微妙に違ったらしい。

 

 

『コイツには致命的で結局克服してない弱点がある。

それは、一度でも情を持った相手には決して勝てないというものだ』

 

「情……」

 

 

 気休めになれたらと思って魘されるいーちゃんに触れながらドライグちゃんから、弱点となる話に耳を傾ける。

 

 

『そして情を持ってしまった相手には弱味を見せてしまう。

解るか小娘? 恐らく一誠は全力で否定するだろうが、お前が傍に居るという状況になってる事で、今コイツは押さえつけていた弱さを無意識に出してしまってるんだ』

 

「いーちゃんが、私に……?」

 

『意識のある状態なら絶対に否定するだろうがな』

 

 

 そう言い終えるドライグちゃんの言葉に、私は苦しそうな顔をするいーちゃんを見つめる。

 いーちゃんが私に隠していた弱さを見せていて、その理由が情を持っているから。

 

 ……。不謹慎だけど、その話が本当なら……嬉しい。

 

 

「二人はどうやっていーちゃんを落ち着かせてたの?」

 

 

 なら……二人には本当の意味で敵わないと思うけど、今の私が出来る精一杯でいーちゃんの事を助けてあげよう。

 そう思って私は、いーちゃんの仲間の事を聞いてみる。

 

 

『イリナとゼノヴィアはこの状態の一誠を抱いて落ち着かせてたな』

 

「抱く……こう?」

 

 

 怒られても良い。

 その覚悟を下にドライグちゃんから聞き出した私は、言われた通り魘されるいーちゃんの身体を正面から抱き締める。

 

 

「く……うぅ……」

 

 

 苦しそうな声と共に微かに震えているいーちゃんの大きい筈の身体が、今は小さく感じる。

 

 

「ごめんねいーちゃん? 二人じゃなくて私なんかで……」

 

「……っ」

 

 

 いーちゃんの頭を胸元で抱き締め、落ち着かせる様に撫でる。

 意識があったらまず投げ飛ばされて終わるだろうこの行為も、いーちゃんは拒絶しないでいる。

 

 

「大丈夫いーちゃん。私だけど、傍に居るから……」

 

『! 一誠が落ち着いたか……』

 

 

 震えた身体はやがて止まり、魘された声も落ち着いた寝息へと変わる。

 ドライグちゃんがホッとした様な声と共にいーちゃんの中へと戻っていった後は私が頑張る番。

 

 

「すーすー……」

 

「起きたら殴っても良い……だからこのまま寝よ?」

 

 

 弱さを知っても、やっぱりいーちゃんの事が好きなんだなと改めて自覚した私はそのままいーちゃんを抱きながら一緒に眠る。

 ………明日を覚悟して。

 

 

「おやすみ……いーちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 ……。良い匂いがする。

 花? いや違う? 兎に角妙に落ち着く匂いがして、心なしか柔らかい。

 

 

「ん……んぅ……?」

 

 

 そして全身に伝わる暖かさが自然と頭をボーッとさせる。

 どうやら俺の身体全部にそれがあるらしいが、正体なんざこの妙な心地よさの前にはどうでも良く、両腕で抱え込む。

 

 

「やわっこい……」

 

 

 一体何だろうか? クッションか? いやでも俺の部屋にクッションなんて――――あ?

 

 

 

「……………………」

 

 

 パッと意識が突然覚醒し、俺はやわっこくて良い匂いで温かったそれを手放して身体を起こし、その正体を眼前に固まってしまった。

 

 

「……。いや、無い」

 

 

 意識が覚醒するのと同時に、寝る直前の記憶が目の前のそれを見ることで鮮明に甦り、思わず否定するかの如く無いと呟いた。

 

 だってそうだろ。確かに見ててしょうもないからまぁ良いかでそうした訳だが、背中をこれに向けて俺は寝た筈だ。

 だから無いもんは無いんだ。

 

 

「ん……いーちゃん、おはよ……ふみゅ……」

 

「……………………」

 

 

 悪魔の女を、セラフォルー・レヴィアタンを抱き枕にして寝てました? はははは、無い無い。ありえませーん。

 

 

「? どうしたの?」

 

「……………いや、別に」

 

 

 コイツがまさかやったのか? そう思いたい。でなきゃ良い匂いなんて感想を抱いたテメーを殴りたくなる。

 セラフォルー・レヴィアタンは寝ぼけ眼で眼を擦ってアホ顔見せてるが、うんコイツのせいだ。

 

 

「……? あ、ねぇいーちゃん……」

 

「あ、あぁ? あんだよ?」

 

 

 そう、コイツが勝手にやったんだろう。だから一発投げ飛ばして解決――

 

 

「その……黙ってるつもりだったけど、痕になるまで私のおっぱい吸っても出ないよ?」

 

 

 してない……。

 何故か恥ずかしそうに、まるで俺からやりました的な上目遣いで見てきた悪魔女に俺は中の線が切れた。

 

 

「ドライグゥゥゥ!!! 禁手化だぁぁぁっ!!」

 

 

 あり得ない、ふざけろ。この俺が悪魔の女にそんな真似なんぞ死んでもするか! だからコイツはアレだ、偽物だとドライグを久々に使ってぶち壊してやろうと叫んだが……。

 

 

『やだよ、めんどくさい。というか、やったのはお前だからな?』

 

「ジィィザス!!」

 

 

 ドライグが淡々と現実を教えたせいで、絶望した。

 

 

「だ、大丈夫だよいーちゃん? ほ、ほら……いーちゃん寝ぼけてたし……私もびっくりしたけど嫌じゃ無かったし」

 

「な、何だよその顔。ふざけんな……あり得ねぇ……あり得るかよ!」

 

 

 セラフォルー・レヴィアタンは恥ずかしそうにゴニョゴニョとほざいてるし。

 最悪きわまりない朝とはこの事だった。




補足

難易度高めですが、一度でも情を抱いて貰うと悪魔であろうと何とかなるのかもしれない。

セラフォルーさん場合『折れなかった』のが一番大きい。


だから、本人は意図せず弱い場面を見せてしまい……あんなオチになりましたとさ。

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