色々なIF集   作:超人類DX

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前回の軽い続き。

ダイジェストよろしくにやる。


無神の滅殺龍帝

 彼は決して完璧では無い。

 

 彼は決して無敵では無い。

 

 彼は決して最高では無い。

 

 

 彼は力を求める獣であり、他人を食らい尽くす事に疑問も罪悪感も持たない壊れた男。

 故にアイデンティティを無くした彼は取り乱し、そして抗う。

 

 力がなければ生きられない……肉親に捨てられた時からそう思い続ける限り、彼が他人と繋がる事は永遠に無い。

 

 切っ掛けであるあの日まで……。

 

 

 

 

 

 

 力任せに潰す戦い方をある程度変えた一誠。

 種族としての力を主軸にしてしたのをある程度変えたリアス。

 一誠からの提案で互いの技術を吸収し合えた二人は日常会話程度なら交わし合える様になり、その力も別ベクトルに成長を見せる様になった。

 

 

「本日はお集まり頂き、誠に有難うございます。

これより、リアス・グレモリー様とライザー・フェニックス様によるレーティングゲームを開始させて頂きます。

本日のゲームとなる会場は、リアス様がご贔屓にされる人間界の学舎――駒王学園のレプリカです」

 

 

 そして迎えるは己の未来を決定付ける勝負の日。

 勝てば自由、負ければ結婚……リアスにしてみれば天国と地獄である負けられない戦いであるのだが、今の彼女に不安は無かった。

 

 

「出来る限り駒の封印を解いてみたけ……どう?」

 

「0に何掛けても0……つまりそういう事」

 

「そう……」

 

 

 対戦相手であるライザー・フェニックスとの軽い口頭での攻防混じりの挨拶を終え、会場本陣であるオカルト研究部の部室にリアス達は結集し、戦いの前に一誠の中に埋め込んだ八つもある兵士の駒の封印を出来る限り解放する仕込みを終える。

 

 だがしかし、一誠の中に元からあった全ての力は封印を解除しても尚戻ることは無く、半ば予定調和だとばかりに鼻を鳴らして手首を振ってる一誠にリアスは申し訳なさそうに目を伏せた。

 

 

「覇龍――いや、せめて禁手化が出来れば即本陣を乗っ取ってやれたが、これじゃあ無理だな」

 

「覇龍……って、前なら出来たの?」

 

「ドライグ――いや、赤い龍曰く『完全な亜種』らしいけどな」

 

 

 一向に力の戻る気配の無いまま、戦闘方法を変える事で代わりにした一誠の全盛期の力の一端にリアス……いや、朱乃も小猫も祐斗も戦慄する。

 

 

「ドライグの声も聞こえない。

加えてすぐにバテる程に体力も落ちてる……くく、捨てられた直後の餓鬼の頃だなまるで」

 

「………」

 

 

 唯一アーシアだけはキョトンとしていたが、全盛期の力を誇れば単騎で世界に喧嘩を売り飛ばす事の出来るまでの力を内包していたからこそ、失ったショックはあれほどに大きかったのか……。

 無理して笑ってる様にしか見えない一誠に対し、ますます申し訳無くなるリアスだったが……。

 

 

「いたっ……!?」

 

「今じゃ無いがその内戻すんだ、だから戦いの前に一々テンションを下げるな」

 

 

 そんなリアスの額を軽く指で小突いた一誠の……初めてのフォローは心を軽くした。

 そう……どうであれ今は自分の進退が掛かった大勝負。

 その為だけに此処まで足掻いてきたのだ……。

 

 

「えぇ……そうね!」

 

 

 自分の頬を両手で叩いて気合いを入れ直したリアスはネガティブ思考を止め、椅子から立ち上がる。

 目の前の勝負に勝つために……。

 

 

 

 

 部長の望まない結婚を賭けたゲームが始まった。

 魔王様や、悪魔の有権者の皆様が見ている中開始されるゲームは、初めての感覚でもあるので戦車として不様な姿を見せるわけにはいかない。 

 

 

「………………………」

 

「………………………」

 

 

 そんな私、塔城小猫は今リアス部長の指示の下、チェスで云う所のセンター位置に属する場所の制圧の為、体育館の入り口まで足を運んでいた……そう、イッセー先輩と。

 

 

「…………………………。誰も居ない――訳じゃないみたいです」

 

「………………」

 

 

 正直言ってしまえば、先輩と仲間ではあるけど仲が良いかと問われたら良いと返せる自信が無い。

 というか、修行期間でリアス部長がやっとイッセー先輩と淡々とした会話が成立出来るようになれたばかりか、イッセー先輩から自身の技術を提供して貰ったのがやっとなので、その他である私達なんてまだまだ会話すらまともに交わせません。

 

 

「どうします先輩?」

 

「………………………………」

 

 

 ………………。か、会話してくれない。

 取り敢えずチャンスだろうと思って、体育館内から感じる敵の気配に対してどうしようかと相談してみたけど、イッセー先輩は私をチラッと一瞥くれただけで再び入り口の扉から中へと視線を向けてしまった。

 

 どういう事なのか、リアス部長の滅びの力を扱うイッセー先輩に驚いた時も、流れで話し掛けてみたけど結局は一言も会話してくれなかったけど……やっぱり辛いものは辛いです――――っ!?

 

 

「グレモリー眷属! そこに居るのは解ってるから姿を 見せなさい!!」

 

 

 モヤモヤモヤモヤとする私の心の乱れのせいか、体育館内の中央に居た女性複数が入り口扉の影に隠れていた私達を睨みながら大きな声を出すのが聞こえた。

 バレた……人数は向こうの方が多くて、此方が不利ですし此処は大人しく相手の言う通りにしようと彼女等に自分達の姿を見せる為に中へと入る。

 それは先輩も同じ考えだったのか、此方を見ている相手の方々に向かってポケットに手を突っ込み、猫背気味な姿勢でのそのそと私の横を歩いています。

 

 

「ご機嫌はどうかしらグレモリー眷属のお二人さん?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……って、どっちも無愛想ね」

 

 

 中華服っぽい格好の女性一人、双子の少女と小柄で棍を持った少女……と、見事に女性ばっかりな面子が無言の私達に顔を顰めている。

 無愛想なのは否定しませんが、敵同士で馴れ合うのも逆に変なじゃないのだろうか……と思った私は悪くないと思うので、どうでも良さそうに猫背の先輩に倣って口を紡ぎっぱなしで居たら、ご丁寧に四人組さんは其々位と名前を名乗り、私には棍棒を持った女の人と戦車の中華服の人が、先輩にはチェーンソーを持った双子が襲い掛かって来た。

 

 

「「解体しまーす♪」」

 

 

 襲い掛かって来た二人の攻撃を捌きつつ、先輩の様子を見てると、チェーンソーを振り回しながら襲い掛かってる双子の人に対してイッセー先輩は――

 

 

「「え……?」」

 

「「ぐばっ!? 」」

 

 

 本当に……何かもう相手が可哀想な程に眼中無しを主張した顔をして先ずは双子のチェーンソーをイッセー先輩が蹴り飛ばすと、そのまま容赦無さすぎる拳を顔面にプレゼントしてました。

 

 

「ペッ……」

 

「「「……」」」

 

 

 殴った際に双子の顔というか鼻から嫌な音が聞こえ、前歯が床に転がってるからして……同性としてはかなり同情してしまう感じに顔がなっちゃってるのは多分見なかった事にしておいた方がいいのかもしれません。

 

 

「……。隙アリです」

 

「がば!?」

 

「ぎゃん!?」

 

 

 そして何故か唖然としてた残りの二人に私も一撃で見舞って沈める。

 よく解らないけど、あの双子が一撃で沈められた事が意外だったらしいのですが、リタイアのアナウンスと共に四人は仲良く消えてしまったので知る手立ても無いまま、微妙な空気を残して無事に体育館を制圧する事に成功しました。

 

 

「王様、体育館の制圧を完了した」

 

『アナウンスで聞いていたわ。小猫もご苦労様』

 

「あ、いえ……。

先輩が一撃で沈めた隙を突いたら上手くいっただけなので……」

 

 

 何かこう……もっとタッグ戦っぽくしてみたかった感は否めませんでしたが、取り敢えず通信機を使って部長に成果の報告を終えると、私はこの場所の護衛を任され、イッセー先輩は祐斗先輩と同じく可能な限り相手の戦力を減らす為に一人出て行くのを見送りました。

 

 

「……………。会話、したかったな……」

 

 

 結局一切会話の無いままというオチを残念に思いながら……。

 

 

 

 

 チッ、取り繕ってもこの程度か。

 まずいな……体力もカス以下になってるのに、このままの配分でやってたらすぐバテちまう。

 

 

「一人で乗り込もうなんて嘗められたものね兵士クン?」

 

「チッ……」

 

 

 さっきのくだらん奴等は不意撃ちして何とかなったが、そう何度も思う通りにはならないだろう。

 只でさえ捨て駒の兵士は俺だけしか居ないし……クソが。

 

 

「くっ……!」

 

「ほらほら、避けてるだけじゃ勝てないわよ!!」

 

 

 そんな俺は向こうの本陣の偵察に向かう最中、奴等に見つかって只今戦闘中だ。

 さっきの不意打ちが響いたのかは知らないが、俺一人に対して何人もの女だらけの下僕共が俺を囲んで襲い掛かってる訳だが、これがまたテメーのしょうもない体たらくさを自覚させられて余計にイライラする訳で……。

 

 

「退けぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

 

 ペース配分無視で力を解放して蹴散らす事には成功した。

 本来なら本陣に忍び込んで王を襲撃する予定だったんだが、派手にかましたせいで全部台無しの手前――

 

 

『リアス様の戦車・騎士・女王……リタイアでございます』

 

 

 最悪な事に此方の戦力が終わってしまった感じになったという状況。

 それでも相手方の戦力の半分以上を減らしたのには変わり無いが、女王と僧侶と騎士が向こうが健在な以上、これ以上出し惜しみしてたらマジで負けちまう。

 

 

「お前の声は聞こえないけど……行くぜドライグ」

 

 

 やるしかない。

 カス以下のカスとなってる俺の今持てる全てを出して奴等を道連れにすれば、後はリアス・グレモリーが相手の王を倒せる筈。

 だから俺は腕に相棒を纏わせ……気配の多い運動場へと翔ぶ。

 

 

「龍帝・グレモリーモード……大劣化ver」

 

 

 ふふ……落ちぶれる所まで落ちぶれてみると、恥も何も感じなくなるのは本当っぽいぜ。

 

 

 

 

 観戦者は魔王を含めて驚愕した。

 リアス・グレモリーが赤龍帝を獲得したという情報は知ってはいたが、まさかその赤龍帝が――

 

 

「驚いた……。

ライザー・フェニックスの眷属を倒した力――まさに滅びの力ではないか」

 

「何故人間がバアル家の力を……?」

 

 

 リアス・グレモリー……そしてその兄であり魔王であるサーゼクス・ルシファーの力である滅びの力を行使していた映像にただただ驚いた。

 

 

「これはどういう訳だ? 血族でも無い彼が」

 

 

 それはサーゼクスも驚くに値する事実であり、悠然と歩く少年をモニター越しに凝視しながら呟いているが……真実は本人から聞かなければ解らない事だらけだった。

 

 

 

 そんなこんなでレーティングゲームは続いていく訳だが、所詮フルメンバーではないグレモリー眷属達に長期戦は不利であり、時間の経過と共に形勢は一気にライザー側へと傾いた。

 

 

『リアス様サイドの戦車、騎士、女王……リタイアでございます』

 

 

 道連れにしたとはいえ、手駒のほぼ全てを無くしたリアスは王である自分と非戦闘員の僧侶……そして力を失い、更には疲弊により弱っていた兵士だけしか残っていなかった。

 

 

「クソ、あのチビも駄目だったのか――ぬおっ!?」

 

 

 残ったライザーの下僕達が疲弊してるイッセー一人を囲って蹂躙する。

 

 

「一人を囲うのは趣味じゃないが、これも勝利の為!」

 

「卑怯とは言いませんよね?」

 

「………」

 

 

 スタミナすら失っているイッセーはそれを防いで誤魔化すしか出来ず、どんどん追い込まれていた。

 

 

『Boost!』

 

「ウォラッ!!」

 

 

 さりとて一誠も殺しに対する経験だけは残っている。

 躊躇の無い心、相手を倒すという執念の大きさだけが今の一誠の身体を突き動かし、己を囲む敵を一人一人叩き潰さんと、基本に立ち返った己の神器とリアスから猿真似して獲た滅びの魔力を武器に戦い続ける中、赤龍帝の籠手で限界まで倍加させた一誠の一撃が女性騎士の顔面と腹部に甚大なダメージを与える事に成功する。

 

 

「がふっ!?」

 

「カーラマイン!?」

 

「このっ、往生際の悪い!」

 

 

 赤龍帝である事の発覚、そしてリアスと同じ滅びの力の行使。

 ある意味得体の知れない存在へと昇華した一誠は、いくら斬られても、爆撃されても、焼かれようともゾンビの如く立ち上がり、只一人で僧侶、女王、騎士を相手に立ち回っていた。

 

 

「撃破だボケ」

 

『ライザー様の騎士……リタイアでございます』

 

 

 その内、カーラマインと呼ばれた騎士を踵落としで沈めた一誠は、そのアナウンスの間に今度は女王であるユーベルーナの腹部に掌底打ちを見舞い、立て続けに撃破する。

 

 

「撃破ァ!」

 

『ライザー様の女王……リタイアでございます』

 

「な、何ですって……!?」

 

 

 既に疲弊していた一人の兵士に騎士と女王がやられた事に、残った僧侶である金髪の少女はただただ驚く事しか出来なかった。

 

 

「テメーで最後、だな……ぜぇ、はぁ……」

 

「……!」

 

 

 獲物を食い殺さんとばかりの形相は、ボロボロの姿が後押してより迫力のあるものとなっており、金髪碧眼で縦ドリルな髪型の少女はほんの少しだけ目の前の少年に気圧されるのを一誠は見逃さない。

 

 

「黒神ファントム!!!」

 

「ぐふっ!?」

 

 

 渾身の黒神ファントムが一誠を音速へと変えて僧侶の少女の全身を叩く。

 

 

「ま、まだそんな力を……残して……ぐふ!」

 

「一発限界だよクソッタレ……ぎ、ぃ……!」

 

 

 着ていた服の胸元から腹部に掛けて円を描くようにして破かれた少女は、今までにない強い一撃に崩れ落ちる様にして倒れ込むと、更にボロボロとなりながらも立っている少年を霞む瞳で見つめ――

 

 

「天然の金髪は嫌いじゃねぇ……。

だから優しくしてやったから感謝しろこの餓鬼」

 

『ライザー様の僧侶……リタイアです』

 

 

 意味の解らない言葉を最後に、目の前をブラックアウトさせた。

 

 

「ぜぇ……はぁ……後は屋上か……」

 

 

 小猫、祐斗、朱乃が取り零した敵は全て排除した。

 残りはリアスが今屋上で戦ってると思われる王の首のみ。

 掟破りの黒神ファントムの反動で更に限界の淵まで立たされた一誠は、一人嗤いながら屋上へと歩きだす。

 

 

「あーちきしょう……借り物がでかすぎるぜ」

 

 

 

 

 

 その頃、王であるリアスは、ライザーにより追い込まれていた。

 

 

「っ!? また消え――ぶば!?」

 

「くっ、しつこいのよ!!」

 

 

 互いの眷属がほぼ全滅となり、王同士の一騎討ちへとなった訳だが、リアスの戦闘力はライザーを逆に上回っており、撃退程度なら簡単にできていた。

 

 

「無駄無駄!」

 

「くっ……!」

 

 

 しかし相手は不死の血族……与えたダメージを瞬時に回復させる事で徐々にリアスを体力面で追い込むライザーはついにリアスに膝をつかせる。

 

 

「チェックメイトだぜリアス……。

強くなったのは認めてやるが、特性の差が此処で出てきたな」

 

「はぁ……はぁ……くっ……!」

 

 

 スタミナがとうとう底を尽き、息を切らすリアスに勝利を確信したライザーが笑みを深めるが……。

 

 

「じゃあ援軍投入の時間だ」

 

「イ、イッセー……!?」

 

「ほう、その様で俺の下僕をはね除けたのか?」

 

 

 その間に割って入るは、道連れ覚悟で残りのライザー戦力を削いで来た一誠だった。

 

 

「カーラマインとユーベルーナとレイヴェルを倒したのは褒めてやるが、吹けば飛びそうって様子じゃないか――いや、実際に飛んでるが」

 

「っ……!」

 

 

 けど、見るからにボロボロの一誠では最早どうする事も出来ず、ライザーの炎の渦に吹き飛ばされてしまう。

 

 

「っ、体力が無いことが此所までうざったく感じるとはな」

 

 

 だが一誠は皮膚が焼き爛れようと、ボロ雑巾になろうと、何度吹き飛ばされようとも嗤いながら立ち上がり、リアスを庇う様にライザーの前に立ちはだかる。

 

 

「い、イッセー……」

 

「リザインしたらぶん殴る」

 

 

 そんな一誠の姿にリアスは堪らず降参を考えるが、それを見透かすように『したら許さない』と宣う一誠に口を紡いでしまう。

 

 

 

『Boost!』

 

「俺はまだ死んでねぇぞクソが!!」

 

「ぐばっ!?」

 

 

 一体何がそこまで一誠を駆り立てているのか。

 リアスを守るため? ノン

 リアスが好きだから? 更々ノン。

 

 

「き、貴様……この俺の顔に……!」

 

「ゲハハハ! 前より男前じゃねぇか大将?」

 

 

 全ては負けたくないから。

 力を失っても尚残る一誠のアイデンティティが負けることを拒んでいる。

 

 

「いい加減にしつこいんだよ!!」

 

「ぐあっ!?」

 

 

 故に一誠はゾンビの如く立ち上がってはリアスの前へと庇う様に立ち続けた。

 焼かれても、飛ばされても……何をされても屍の如く起き上がっては、もうやめてと叫ぶリアスを庇い続ける。

 

 

「私なんかどうでも良い! もう良いからイッセー!」

 

 

 リアスは知ってる。 

 一誠は決して誰の為にも戦っていない事を。

 力を取り戻すためだけに自分達と共に今は居るだけなのも。

 だからこそ、意固地になって……もはや戦う力も無いのにライザーへと向かっていく姿をリアスはもう見たくない。

 ライザーの炎により顔半分と左腕を焼かれ、吹き飛ばされて地面に転がる一誠に駆け寄り、頼むからもう負けにしようと懇願したリアス。

 しかし一誠は尚もリアスを押し退けながら立ち上がりながら言うのだ。

 

 

「アンタに借りを返せねぇままくたばりたかねぇんだよ……俺は!!」

 

 

 全ては借りの為。

 不貞腐れた自分に痛い程気を使ってくれた。

 人格を否定しなかった。

 逃げなかった。

 疎ましく思わずに根気よくバカな自分とまともに接してくれた。

 

 

「く、はははぁ! まだ終わってねぇぞ鳥野郎!!」

 

 

 その借りを返す為に、今一誠は戦っている。

 既に左半分が炭になってるにも拘わらず尚も立ち上がって盛大な啖呵を切った一誠は、弱々しくも執念を感じる巨大な何かを見ている全ての悪魔に植え付けている。

 

 

「こ、の……!」

 

 

 それは不気味であり、ライザーの気に入らない気分を刺激するものであり……。

 

 

「いい加減に邪魔だァァァっ!!」

 

「がっ!?」

 

 

 激昂したライザーの炎を纏った手刀が一誠な胸元を貫いた。

 その瞬間、意固地になっていた一誠の身体から全ての力が抜け……

 

 

「イッセェェェェッ!!」

 

 

 リアスの悲痛な叫びを最後に目の前に広がる光を失った。

 

 

『リアス様の兵士……リタイアです』

 

 

 王と……避難させていた僧侶を除いた全ての戦力を失ったリアスにもはや勝ち目は無い。

 レプリカ世界に響く一誠の敗北アナウンスに今度こそ敗けを悟ったリアスは、ぽっかりと胸に風穴を開けたまま倒れる一誠を抱き抱えながら震えていた。

 

 

「クソが……。だがこれで終わりだぜリアス」

 

「い、イッセー……イッセー……!」

 

「チッ、下僕ごときに……」

 

 

 イッセーが息をしていない。

 崩れ落ちたイッセーの身を抱き寄せたリアスはただ涙を流しながらその場を動こうとしないのを見たライザーはイライラしながらリアスに手を伸ばそうとした。

 

 

 

 今にして思えば、これが覚醒の引き金(トリガー)となることを知らずに。

 

 

 

「…………え?」

 

 

 イライラした気分を抱きつつも、これでリアスは自分のものだという事実に些か気分よく、ボロ雑巾の下僕からリアスを引きはなそうとしたライザー・フェニックスは、今自分の状況に理解出来ずにポカンとした声をだしてしまう。

 何故なのか……それは――

 

 

 

 

 

 リアスへと伸ばした自分の腕が、手首から先が無くなっていたからだ。

 

 

「え……」

 

 

 次に何かに気付いたのはリアスだった。

 それはライザーの手首がごっそり消えていた事では無く、丸焦げで、息をしていない一誠の様子が徐々に変化している事に、リアスは気付いたのだ。

 

 

 

「う、うぉぉぉぉっ!?!?!?」

 

 

 手首から噴水の様に流れる鮮血がライザー自身の精神をグチャグチャにする。

 何があった、何が起きた、どうしてこうなった!? リアスは何故こんな状況になっている自分を見向きもしない!? ライザーは激痛に顔を歪めながらパニックになるが、その答えは直ぐに解った。

 

 

 

 

 

 

 

「ゲ………ゲゲッ!」

 

 

 

 

 絶命した赤龍帝が……リアスに抱き締められていた赤龍帝が……。

 

 

 

 

「き、貴様……どうして!?」

 

「イッセー……?」

 

 

 

 目を開け、むくりと上半身を起こし……手首を押さえているライザーを嗤いながら見つめていたのだ。

 貫かれた胸の傷は瞬く間に塞がり、焼き焦げた皮膚は巻き戻し映像の様に元へと戻り……これまでの傷による身体中の汚れも狐に化かされたかの如く綺麗に消え、ゲーム開始直前の姿へとなった一誠は、まるで『この瞬間を待っていたとばかりに』嗤い……言った。

 

 

 

「想定外のふっかーつ」

 

 

 意味がわからないとライザーは困惑した。

 不死の血を持つ訳じゃないのに復活? そんなふざけた事があるかと激痛に顔を歪ませながら叫びたい気分だったが、『何時まで経っても何時もの様に再生しない傷』がライザーの声を掻き消してしまう。

 

 

「い、っせー……?」

 

 

 そしてリアスはライザーとは別の意味でむくりと立ち上がった一誠の背を呆然と見つめ……そして今の一誠の違和感を覚えており、見ていた悪魔にも驚愕を与えながら――

 

 

「待たせたなドライグ」

 

『間抜け野郎。遅いんだよ』

 

 

 遥か彼方の次元から全てを押し潰す様な圧力を一気に解放した。

 

 

『こんな餓鬼にやられ放題なお前なんて見たくもなかったぞ』

 

「そう言うなよ……くく」

 

 

 その重圧は目の前のライザーを平伏させるに十分であり、モニターから見ていた魔王含めた悪魔達にすら影響を与えていた中……一誠は散々可愛がってくれた……今すぐ吐きそうな表情の青年に目を向けながら、塞き止められていた進化の異常性に身を委ねながら小さく口を開く。

 

 

禁手化(バランスブレイク)

 

 

 報復の二文字を。

 

 しかし――

 

 

「ストップだリアスの兵士くん。

レーティングゲームはライザー側の勝利で終わったというのに、今更何をする気だい?」

 

「お、お兄様……グレイフィア!」

 

「あ?」

 

 

 そこに待ったを掛けたのは、大量の滝汗を流しながら膝を付くライザーと、力を解放せんとしていた一誠の間に転移魔法と共に割って現れた紅髪の青年と銀髪の女性であり、二人揃って一誠に向かって牽制の意を込めた魔力を手に溜め込みながら淡々とした声を放つ。

 

 

「キミがリタイアした瞬間、リアスは確かにリザインをした。

つまりその時点でレーティングゲームは終了しているのだけど……キミは今ライザーに何をするつもりだったのかな?」

 

「サ、サーゼクス様……!」

 

 

 助かった。

 何がなんだか訳がわからないけど、サーゼクスの登場でこの場から取り敢えず逃げられると安心したのか、手首の再生を果たしたライザーがキッと一誠を睨み付ける。

 

 

「この者は敗北してゲーム参加の資格を失ったにも拘わらず、私に攻撃を仕掛けました!」

 

「うん、ライザー……それは見ていた。

そう……キミはライザーを殺そうとしたな?」

 

 

 そう鋭い目付きで、石の様に無表情な一誠を見据えるサーゼクスにライザーは内心『殺される訳が無いけどな』と呟きつつも、便乗するつもりで黙っている。

 するとそんな一誠の前に庇う様に立ちはだかったのはリアスだった。

 

 

「お待ちください! 彼はリタイア宣言の際に会場から転移されておらず、また自分がゲーム参加の資格を失った事を知らなかったのです!」

 

「………」

 

 

 傷だらけの妹の言葉にサーゼクスは目を細める。

 

 

「……。確かにそうだったね、良いだろう……じゃあこれでレーティングゲームはリアスの敗北で終わりということに――」

 

 

 勝敗が決してしまっている以上、無意味な話をしても仕方ないとリアスの言葉を聞き入れたサーゼクスは、改めてライザー側の勝利を宣言しようと声を張り上げようとしたまさにその時だった。

 

 

「負けたらこの女は確か結婚だったな……そこの男と」

 

 

 それまで沈黙を貫いていた一誠が突如として勝敗後の取り決めについて口にしだす。

 

 

「そうだが……それが何だい?」

 

「おいおい、まさか難癖つける気か下僕?」

 

 

 一誠の言葉に表情を曇らせたリアスを無視して一誠にそれが何だと宣うサーゼクスとライザー。

 ぶっちゃけサーゼクスにしてみれば妹の意思を無視した事なんて嫌だったが、これも悪魔の未来の為と敢えて冷徹に徹しており、今回のゲームにしてもリアス側に勝って欲しかった。

 しかし勝負は勝負……勝敗が決してしまった以上、約束は約束故にサーゼクスは何も言うつもりは無かったが……。

 

 

「そう……ふーん……そうか、負けたら結婚だから仕方ねーな」

 

 

 この……自分とリアスの力を平然と使い、赤龍帝でもある少年の挙動が警戒心を強くさせており、サーゼクスは急にニヤリと笑いだした一誠の動きを注意深く観察していると……。

 

 

「じゃあこの女拐うわ」

 

 

 少年は……先程までの危機感が無くなってる一誠はこれでもかという位に悪い顔しながら魔王、有権者の悪魔達が見ている中、平然と宣った。

 

 

「は?」

 

「え?」

 

 

 余りにも唐突過ぎる言葉に思わずサーゼクスもライザーもリアスも……というか全員が一致してポカンとしてしまう。

 今コイツは何て言った? この面子の前でリアスを拐う? 直ぐに捕まるのに? 馬鹿なのか? 様々な言葉が悪魔達の脳内を過らせている中、先程からずっと『変な』一誠は、目の前に立つリアスの手を結構乱暴に引き寄せると……。

 

 

「聞こえねぇのか間抜け。だからこの女、気に入ったから拉致るってんだよクソボケ」

 

 

 悪代官ばりの極悪顔で嗤いながら、盛大なる啖呵を切った。

 

 

「正気か? それを言って僕達が何もしないとでも」

 

「そ、そうよイッセー! わ、私の事なんてもう良いから……」

 

 

 一気に殺気立つサーゼクスを見て焦ったリアスが言葉を取り消すように懇願する。

 こんな所でイッセーを殺されるなんてあんまりだというリアスなりの優しさなのだが、一誠はといえばそんな二人の――いや悪魔達の声に対して言うのだ。

 

 

「正気であるし、まともでもある。それに……勘違いすんなよ悪魔共――

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきまでの俺は全部(フェイク)だぜ。

 

 

 左右の米神から天へと向けられる様に生えた鬼の様な角。

 反転した黒い目に金色の瞳。

 そして……世界をも破壊できるだろう圧倒的な覇気。

 

 

「イッセー……あ、あなたまさか……!?」

 

「っ!?」

 

「な、なんだと……!?」

 

「げ、ゲゲゲゲゲ!」

 

 

 それはまさに無限の進化の権化。

 それはまさに破壊の龍帝。

 

 それはまさに…………全盛期。

 

 

「死が引き金とは恐れ入ったよ……だが、これで俺は取り戻せた! さぁ……戻った記念に気に入った女を俺のモノにしてやるぜ……ヒャハハハハハ!!!」

 

 

 兵藤一誠は、破壊の龍帝へと今再臨したのだ。

 

 

 

 

 

 

 拐われるなんて思ってなかった。

 

 

「ま、待て!」

 

「待たねーよ魔王。

てか、その程度だとしたらとんだガッカリオチだなぁ?」

 

「貴様サーゼクス様に――ぐぎゃあ!?」

 

「あ? おいおい、俺は『何も』してないぞ? 何勝手に自爆してんだよ? ククク」

 

「…………」

 

 

 全盛期の一誠がこれほどまでに凄いとは思わなかった。

 

 

「イッセー先輩!」

 

「イッセーくん!」

 

「私達も行きます!」

 

「思っている事は一緒ですから!」

 

「小猫、朱乃、祐斗、アーシア……!」

 

 

 此処まで騒動が大きくなるとは思わなかった。

 

 

「ま、待て……リアスを何処に……!」

 

「さぁてな、アンタ等から結婚はお止めにしてくださいと頭を下げるまでは拐うよ。

あぁ、でも俺ゲスいからなぁ? 早くしないとエロい事とかしまくるだろうなぁ? アッハハハハハ!!」

 

 

 お兄様を楽々と殴り倒し、増援の悪魔達も殴り倒し、朱乃と祐斗と小猫とアーシアと合流して悠然と私を拐った一誠はどうしてこんな真似をしたのかなんて解らない。

 

 

「はぁ……なーにやってんだろ俺」

 

「あ、あの……ごめんイッセー」

 

「いや、アドレナリン的な意味合いで力を取り戻した際にハイになりすぎたわ」

 

 

 ただ、わかっている事は、イッセーの全盛期は容易に全てをねじ曲げられる程の力だということ。

 悪魔社会にすら簡単に楯突けるということ……。

 

 

「アンタは俺に無理矢理拐れた。

アンタ等はその際、無理矢理俺に協力を迫られた……という事にしておけば大丈夫だろ」

 

「え……じゃあイッセー先輩は……」

 

「当然、魔王の妹を拉致した世紀の犯罪者だな」

 

「そんな……!」

 

「いや考えんでもそうなるだろ。

何人かぶちのめしたし俺……」

 

「た、確かにそうだけど……って、結構喋るね今のイッセーくん」

 

 

 何かもう、傍に居るだけで安心できるくらいに大きいという事。

 正直、このまま拉致されっぱなしでも良いかもしれない……なんて。

 

 

「まあ、俺の事は良い。

取り敢えず向こうがへし折れるまで此処に居ろ。

結婚――嫌なんだろ?」

 

「う、うん……でもどうして? 力を取り戻したのなら私なんて切り捨ててしまえば良いのに……」

 

「言ったろ、アンタは『こちら側』のタイプだって。

正直、同類は殆ど見ないから俺としてもそれなりに仲良くはしておきたいのさ」

 

「は、はぁ……」

 

 

 イッセー曰く『自腹で買った』らしいお家に暫く滞在する方向になった訳だけど……どうしましょう、イッセーをどうしたら許して貰えるように出来るのか。

 今すぐ私が帰れば良いのかもしれないけど……。

 

 

「ところでイッセー……?

そ、そのぉ……私ってエッチな事とかされるの? ほら、お兄様にそんな事を言ってたから……」

 

「は? する訳ねーだろ、あれは只の建前だよ建前」

 

「ぁ……そ、そうなの……」

 

 

 ちょっとだけ……イッセーの自由の道を一緒に歩いてみたい。

 

 

「でもイッセー先輩、脅し目的だとしてもそれっぽくした方が良いと思います。

だから、リアス部長じゃなくて私になんてどうですか?」

 

「あ? 何を……」

 

「ですからエッチな事の百や二百を……」

 

「…………。え、俺をそんなにゲスにしたいの?」

 

 

 …………。乗り手は案外近くに多いみたいでうかうかしていられないし……。

 

 

「ギャスパー君を取り敢えず此処に連れてくるのはどうでしょう? あの子にも事情を説明しないと……」

 

「ギャスパー……?」

 

「あ、そっか、イッセー君とアーシアさんは知らないんだよね。

ギャスパー君というのは、もう一人の僧侶なんだ」

 

 

 何故でしょうね、ちょっとだけワクワクしてるわ今。

 

 

「先輩、先輩……」

 

「何だよ。

つーか急に何だお前……?」

 

「多分急に喋ってくれるようになったから嬉しいんだと思う。

前々から小猫ちゃんがよくイッセーくんとお話がしたいって落ち込んでたから……」

 

「それとこの餓鬼の距離の異様な近さがイコールに思えねぇな……チッ、鬱陶しいな離れろよ人質が」

 

「人質で良いです。あ、もしかして人質だからお風呂の時も監視とかしたりしますか? それか手足を縛られて、エッチな事とか……?

良いですよ……私は人質ですもんね? イッセー先輩の玩具ですもんね? 滅茶苦茶に弄んだり、ビリビリに服を引き裂いてベッドに組伏せて、愛も情けもなく無理矢理…………あははははは♪」

 

 

「…………………。え、こいつ頭おかしい」

 

「……ごめん、イッセー……私も予想外」

 

 

 小猫だけ予想以上にイッセーに対してアレだったけど、概ね……うん。

 




補足

結局どう足掻いても悪魔から良い印象が無いイッセー

違うのは、リアス達だけは別に嫌いじゃないという所でしょうか。


その2
ちなみに悪魔の駒はイッセーの中にあるまま。

つまり、転生悪魔として力を取り戻したという事ですが、駒は完全におかしな感じに変異ならぬ変態してます。


その3

実は誘い受けデレだったりした小猫たん。
イッセーが普通に会話に応じてくれたせいでタガがぶち壊れ気味であり、ベタベタとイッセーに引っ付く姿は別世界の黒猫お姉ちゃんを思わせる。



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