忙しい間になんかアニメ化してた……。
そろそろ潮時か
イッセーが授業に乱入した件についての痕跡は将来の義父であるアザゼルやエレノーラさん達の協力もあり、記憶ごと消し去る事に成功した。
「はぁっ!!」
「っ!?」
これでイッセー達の存在は引き続き知られる事は無いので一安心―――――という事でも無く、その流れで発覚したイッセーの自覚無き女性遍歴の件について、きちんと把握しなければならなくなった。
というのも今まで私はイッセーの言葉をそっくりそのまま信じていた訳だが、どうにもイッセーの自称する『一切モテなった』という言葉そのものが怪しくなってしまったのだ。
「まだまだぁ!!」
「くっ!?」
そんな事もあって、今現在集中力が無くなってしまっているせいで、日課のトレーニングにも支障が現れてしまっている私は、トレーニング相手となってくれているアリシアの猛攻に対して防戦一方だった。
「ぐふっ!?」
私がイッセーに鍛えられてきたように、アリシアはヴァーリに鍛えられてきた。
私がイッセーから徹底的に敵をぶちのめす術を叩き込まれたそ様に、アリシアもまたヴァーリから徹底的に敵を粉砕する術を叩き込まれてきたらしく、実力の差はほぼ無いのが現状である。
しかし今日の私は何時もの集中力を切らせてしまっていることもあって、呆気なく敗けてしまった。
「ふぅ、私の勝ち―――でもないかな? 今日のユミエラちゃんはあまり集中できてないよね?」
「……やっぱり気づいてた?」
「そりゃあ入学してからは毎日こうやって手合わせしてきてるんだもん。
やっぱりイッセーさんの事?」
ヘビー級ボクサーから受けたような腹部への鈍い痛みと共に膝を付いていた私に手を差し出しながら問い掛けてくるアリシアは、私は先日発覚したイッセーの自覚無き女遍歴のせいでトレーニングに集中できずにいることを見抜いていたようだ。
「ええ……」
「そっか。
あんまり慰めにはならないかもだけど、大丈夫だと思うよ?」
「だと良いのだけどね……」
差し出されたアリシアの手を取って立ち上がる。
確かにアリシアの言う通り、そこまで心配をする必要はないのかもしれない。
だけどやっぱり、先日の事を思い出すと不安だ……。
『ミッテルトと塔城小猫以外に関わった女性は?』
『思い返してるけど、本当に居ないんだよ』
『関わるという意味ではレイナーレもカウントされるんじゃあないか?』
『それとセラフォルーの妹なんかも該当するだろうな』
アザゼルとヴァーリから発せられたイッセーの元の世界において割りと深めに関わったとされる女達を今一度詳しく聞こうと先日改めて聞いてみた私は、原作知識とは違う人生を生きてきたということで楽観視していた事もあって、イッセーが関わったとされる女子の多さに軽く目眩がしてきた。
『最早二度と聞くことも無いだろうと思ってた名前がチラホラ出てくるとはね……』
本人は本当に自覚はしていないらしいが、少なくともアザゼルとヴァーリ目線では『フラグ』が立ってしまっている可能性が高いのだから。
……それも、私の知識とは剥離した女性達と。
『まさかの名前で少し驚いたけど、
『ソーナ・シトリーだ』
『ソーナ・シトリーだぁ? …………あー、多分思い出したかも。
俺の記憶が正しければ、あの貧乳の眼鏡悪魔女の事か?』
ヴァーリとアザゼルが口に出した名前は私も知っている。
何の因果かどちらも黒髪の女であるのだが、レイナーレという堕天使の女に関してはその名前を耳にした瞬間、嫌悪に顔を歪め、ソーナ・シトリーという女悪魔のことは貧乳眼鏡呼ばわりしている。
『思い出しはしたが、ただ単に何度か会ったってだけだからなぁ』
『お前はそう思うだけかもしないが、少なくともレイナーレ以外に出てきた女達は違うんじゃあないか?』
アザゼルの一言にイッセーはアホらしいと鼻で笑う。
『そんなのはただの憶測でしょうよ? その人等からすれば迷惑な話でしょうしね』
元の世界でそこそこ関わりが多かっただけの人たちだよときっぱり言い切るイッセーに嘘は確かに感じられない。
『第一、堕天使のミッテルトはまだ話す機会もあったけど、あの猫チビと眼鏡貧乳は悪魔でしょうが
そりゃあ人間界に出てナンパしようとすると、何故か『偶然見掛けた』と抜かしては邪魔ばっかしてきたけど……』
しかしイッセーはそう思っていたとしても、アザゼルの言うとおり今出てきたレイナーレ以外の人達がイッセーをどう思うのか……。
『ちくしょうめ、思い出してきたらムカムカしてきたぞ。
あのチビ猫といい貧乳眼鏡といい……人のナンパ邪魔するだけに留まらず、別に行きたくも無いファミレスに連れていかれては奢らされて――ムカつくぜ』
悔しいことにイッセーが大好きである私だからこそ解ってしまうのだ。
『まあ、そんなのは所詮昔の話でしか無いし、向こうも俺の存在なんてとっくに忘れてんだろうし、今更ユミエラを裏切るかってんだ』
その言葉に嘘偽りは一切無いとわかっていても、不安になってしまう……。
『ユミエラを裏切るくらいなら死んだ方がマシだ』
その意思が本当だとしても……。
取るに足らぬ案山子だ。
その黒髪と異様な強さが故に殆どの者達から白眼視されていた彼女の雰囲気は寒気を覚える程に冷たかった。
『彼にはこれ以上要らない心配と、誤解をさせたくはないので、敢えて貴方の記憶だけはそのまま残します。
今回の事を誰かに喋りたくば構いませんが、その時は私が直接貴方をこの世から消すことを覚えておいてください』
心底どうでも良いものを。
道端に落ちた雑草でも見るような黒い瞳をしたユミエラ・ドルクネスの言葉を聞いた事で、初めて彼女の『本心』を知ったパトリック・アッシュバトンは、その言葉の通り、先日の授業で起きた出来事を全て覚えていた。
『ほら行くぞユミエラ』
『あ、ちょっと待って。
敢えて記憶を残すことで私に関わらないようにさせる為には、もう少し脅しておかないと……』
『それで十分だ。
これで聞き分けないってのなら、今度は俺が直々にぶちのめす―――いいや、殺してやる』
魔王の生まれ変わりだと周囲から揶揄され続けていたクラスメートのユミエラの傍に居る謎の男の事も、その男の発する圧倒的な殺意も。
『我ながらイタイ性格していたんだなと今更自覚させられたけど困った事に変える気は全く起きないんだなこれが。
お前がただの親切心でユミエラに接しようとしているのだとしても―――――俺はそれを見る度にお前の腸を引きずり出してその口の中に捩じ込んでやりたくて仕方なくなるんだ』
その男の発する狂暴性に、パトリック・アッシュバトンは徹底的な『挫折』を突き付けられてしまったのだ。
「実は最近王子様とそのお友だちに話しかけられるのだけど……」
「エドウィン殿下にですか? 凄いじゃありませんか」
「何か不満でもあるの?」
「不満というか、光魔法を扱う私がユミエラさんと仲良くしているのが良くない――とか思ってるみたいで」
「それはまた見事な偏見ですわねぇ……?」
結局その後あの謎の男の姿は学園の何処を探しても発見することは出来ず、ユミエラに直接聞こうにも、あの件以降話しかける事が出来ずに居たパトリックは、入学直後からやたら仲が良い光属性の魔力を持つ庶民出のアリシアや、最近いつの間にか話すようになっていたヒルローズ家の娘と会話をしている姿を遠くから見ていることしかできずに居た。
(俺以外の人達はこの前の授業の記憶が消えていた。
曰く、その理由はユミエラが闇魔法を駆使して記憶を改竄したかららしいが…)
思い出す度に恐怖が蘇る謎の男から向けられた殺意。
それこそ直接対峙した事は無いが、まるで魔王そのものだったとパトリックは苦い表情を浮かべながら、女子同士で話をしているユミエラをひたすら見つめ続ける。
(ユミエラは間違いなくあの男を知っていた。
一体彼は何者だったんだ? 学園の生徒ではないことは間違いなかったが……)
『私を哀れに思うのでしたら、それは間違いです。
私は貴方に憐れに思われる程孤独でもありませんし、こう見えて幸せな毎日を過ごせてますから。
なので変に絡まないでください―――少しでもこの先の人生を長生きしたいのでしたらね』
心底自分を迷惑がるような台詞だったユミエラに、少なくはないショックを受けたのは記憶に新しいし、その理由は間違いなくあの男にあるだろうとパトリックは考えた。
しかしそこまで一方的に拒絶される謂われも無いのではないかと考えてしまうからこそ、自分の中で理解するよりも『納得』を優先する。
「……………」
その納得を優先した結果、端から見れば遠くからユミエラをストーキングする不審者に見えてしまっている事にパトリックはまだ気づかないのだ。
そんな選択をした結果、パトリックが軽いストーカーとなってしまっていることをまだ知らないユミエラはといえば、最近王子とその友人達に絡まれてしまっていると悩むアリシアの相談に乗る為に、エレノーラと共にお茶会をしていた。
「エドウィン王子もいい加減その妙な偏見をお止めになって貰いたいのですがねぇ……」
「そういえばエレノーラさんは殿下とお話されたりはしないのですか?」
「特にお話をする理由も話題もございませんわ。
なんというか……ちょっと殿下達は子供っぽいので苦手ですし」
「あら……」
原作におけるアリシアの攻略対象であるエドウィン達を子供っぽいと評して苦手だと言い切るエレノーラに、ユミエラは苦笑いだ。
「あのアザゼルと比較してしまえば、誰でも子供っぽくなりますよ」
「実年齢だけで考えたらアザゼルは私の祖父母よりも更に年が上ですから―――っと、今はアザゼルの話ではなくてエドウィン王子達のことですわ」
「誰かが私の事を聖女の生まれ変わりだって噂したせいみたいで……」
「私は魔王の生まれ変わり呼ばわりするのに、アリシアのことは聖女ね……」
どうやらアリシアを聖女の生まれ変わりであると見てるからこそ、ユミエラと親しくしていることを危惧しているらしいエドウィンだが、そんな理由で人の繋がりにケチをつけられたら、いくら温厚なアリシアとてムッとなる。
「ヴァーリさんはなんと?」
「『あまりにしつこいのなら言え、オレが黙らせてやる』と言ってはくれたけど、この前のイッセーさんの事もあるし、ヴァーリくんもヴァーリくんで結構後先考えないから……」
「下手したら永遠に殿下達が『黙る』可能性があるわね」
「それだけお二人が大切に想われている証拠ですわ」
出来れば自力でなんとかしたいと話すアリシアに、納得しかないユミエラは頷き、エレノーラは少し羨ましそうだ。
「もう暫くは聞き流すようにしてみようかな」
「アリシアも大変ねー……?」
「いやいや~ユミエラちゃん程じゃないよー?」
取り敢えず暫くは言わせておくだけに留めるという流れで話は纏まり、お茶を飲む三人の会話はやはり恋愛のそれに変わる。
「ユミエラちゃんこそパトリックさんにトラウマを植え付けた後のイッセーさんとはどうなったの?」
「今のところは特には……。
強いて言うなら実家から送られてきた使用人の目を盗んでイッセーの抱き枕になりながら一緒に眠るようになったくらいかしら?」
「相変わらず進行が早いですわね……」
最早恋人としか思えないやり取りをしていると話すユミエラに、エレノーラとアリシアは少し羨ましげだった。
「エレノーラさんはどうなのですか?」
「まだまだ小娘扱いですわ……。
イッセーさんとヴァーリさん曰く、アザゼルは昔相当の女性を泣かせていたようですが……」
「あのビジュアルですからねぇ。
嵌まる女性は多そうではありますね」
「ええ、現に実家に居る女性の使用人の殆どはアザゼルに………はぁ」
「皆似たような悩みがあるんだね。
ヴァーリ君も割りと年上の女の人からの受けがよくて村に居た時はしょっちゅう誘われてて……」
「「「……はぁ」」」
エレノーラ・ヒルローズの人生は、貴族の娘としてある程度『決まっていた』ものであった。
それに何の疑問も持たずに居た彼女にとって、異界から来たと名乗る男の在り方はまさに自分の生き方と対極そのものだった。
見たこともない技術力を持ち、見た事も聞いたこともない発明品を次々と作り上げる変人男というのが、まだ幼かったエレノーラから見えたアザゼルだった。
『オレが居た世界の人間界より科学文明のレベルが低いが、替わりに魔法という概念が一般人にまで浸透しているか……少しばかり『新しい』気分だ』
だがそんな変人男をめずらしがって召し使いとして傍に置き、共に時を経ていく内にエレノーラは少しずつ、背に六対の黒い翼を持つ堕ちた天使を知りたいと思うようになっていった。
『この世界のどっかに居るイッセーとヴァーリと同じように鍛えろだ? 急にどうした? 温室育ちの小娘が吐く台詞とは思えないが?』
この男の立つ、自分だけでは決して手の届かない場所から見えるものとは一体どんな景色なのか。
時折彼が話す、イッセーとヴァーリなる血の繋がらない子がかつてアザゼルの背を見て抱いた気持ちと同じモノが、エレノーラの心に宿った事で、彼女は己の敷かれ人生のレールから自らの意思で抜け出したのだ。
『この世界の力についてはある程度把握させて貰った。
先に言うと、お前が俺等側の力を獲たところでレベルには反映されないという事だけは覚えておけ』
ただのエレノーラとしてこのまま生きていたら、きっといつかアザゼルと別れる事になってしまうことを危惧することで一歩踏み込む。
『それでも構わないというのなら、果たして異世界人がオレたちの世界の力の概念を会得出きるかという実験のついでに教えてやろう。
そうだな、手始めに世界初の人工神器の器になってみるか? もし適応出来たら……今後お前をただのガキ扱いしないことを約束してやる』
野蛮で下々の行うことだと鼻にもかけなかった『戦闘術』を知ることから始まり、両親等にも内緒にメキメキとその術と、アザゼルを知ることで己の中で燻っていた『
『最初の方は痛いだのキツいだのとびーびー泣き喚いていた小娘がここまで来るとは。
ふふ、その根性だけはウチの悪ガキ共と同じくらい据わってるなエレノーラ?』
これによりエレノーラはレベルこそ5であるのだが、その中身はこの世界の理を真っ向から引っくり返す事が出来る存在へとなったのだ。
『お前にはもうひとつの概念も教えてみたくなった。
オレ達が生きていた世界でも神器使いよりも『希少』で、オレとイッセーとヴァーリも持っているモノをな……』
そしてこの世界の誰一人として踏み込む事が無かった『別次元』の領域に到達したのだ。
『本当に此方側に踏み込んで来るとはな。
正直無理だと思ってたが……まったく、大した奴だよお前は……』
到達して見せた時に初めて彼が見せた、ニヒルな笑みとは違う……優しげな微笑みと共に撫でてくれたその瞬間から、エレノーラの『生きる理由』は決まったのだから。
「いっそ寝込みを襲ってみるべきでは?」
「もうやりましたわ。
額を小突かれて『10年早い』と言われてしまいましたわ……」
「うーん、イッセーさんとヴァーリ君のお父さんだし、抱き枕にする癖とかありそうだけど……」
「私がアザゼルを抱き枕にしたことはありますわ」
「思ってたよりも積極的なんですね……」
「お二人とは違って、アザゼルは実に淡白な反応ですけどね……」
続く
オマケ・・悪役令嬢はようやく『悪役令嬢』っぽくなる。
これは遠くない未来の話。
エンディングを迎えたユミエラの隠しシナリオのお話だ。
「初めまして、私はユミエラ。
ご覧の通りイッセーの妻です」
「「「……………」」」
イッセーの過去に絡み付いていた者達との仁義なき戦いという隠しシナリオの開幕。
「いきなり現れたかと思えば、訳のわからない事をほざくだなんて、中々頭がイッてる女っすねー……?」
「ええ、まったくです」
「大丈夫ですか? 良い心療内科くらいは紹介できますけど?」
当然、ユミエラの名乗りににこやかながら目が笑ってない『慎ましい戦闘力』の持ち主達だが、ユミエラは確実に目の前の女達より勝る戦闘力をわざとらしく揺らしながらドヤ顔だ。
「ふっ、そうやってイッセーに対してストレートになれないから相手にされなかった事に気づくべきでしたね。
おっと、そうではなくてその程度の
「「「………」」」
その一言に、ナイチチ会員達はぷっつんし戦争が始まる――のかは解らない。
「行方不明だったお前が人まさか間の小娘を引っ掛けてくるとはな。
いや、若い時もそうだったなお前は……」
「その極悪面で天使に逆レされてガキまで作ってるお前にだけは言われたくねぇぞコカビエル」
「夫がお世話になっています。
私はアザゼルの妻のエレノーラですわ」
「あらご丁寧に。
ふふ、アザゼルったらこんなに可愛らしい娘さんと……コカビエルの妻のガブリエルです」
「ヴァーリ君の世界は賑やかだね?」
「騒がしいの間違いだな」
終わり
補足
各繋がり方。
イッセー&ユミエラ
当初はユミエラさんの一方通行気味だったのだが、その一方通行さ加減のあまりのブレなさに、イッセーの心のATフィールドを破壊し、なんならイッセーの方こそめんどくさい事になっている。
具体的には、ユミエラさんに異性が近寄ろうものなら、速攻狂犬ならぬ狂龍スイッチが入るというーー全く違い意味でのスイッチ姫化している。
ヴァーリ&アリシア
一番平和でのほほんとしているペア。
とはいえ、互いの身を案じてるので、危険が迫れば全力で捻り潰す。
アザゼル&エレノーラ
アザゼルからすればエレノーラさんは正真正銘の子供なので現在も絶賛子供と認識しているのだが、その根性は完全に認めている。
逆にエレノーラさんはアザゼルの側に到達してその先を一緒に歩きたい事こそが生きる意味そのものとなっており一途通り越して他が見えてない。