俺達はただ自由が欲しがった。
好きな時に寝て、好きな時に起きて、好きな時に好きなもんを食って、笑って、時には喧嘩して……。
ただ俺達はそんな生き方をしていたかっただけだった。
だけどこの世の中はそんな願望を叶えてくれる程甘い世の中ではないらしい。
だから俺達はその自由を掴む為に走り続けた。
走って走って……時には転げ落ちたりもしつつとにかく走りまくって……。
「おっふ……これは酷い」
「少し暴れ過ぎたな……」
気づいたら世界が崩壊してしまったとさ……あはははは。
最近よくありがちな話に『転生』等という概念があるが、よもや自分がその転生をリアルに体験するとは思わなかった―――と、転生前はただの女子大生だった少女は、転生前に画面の前でなら見覚えのある『キャラクター』と同じ容姿であることを鏡でしげしげと確認しながら思う。
「しかもよりにもよってこの顔……というかキャラって」
生前の記憶はあれど名前を忘れてしまった少女は、かなり豪華なベッドに寝そべりながら現状を確認する。
(ここ……というかこの世界って多分前世でプレイしていた乙女ゲーの世界だ)
前世の記憶を頼りにこの世界が何なのかを理解していく少女だけど、同時に割りと絶望もする。
何故なら今の自分の姿と名前は――
(所謂悪役令嬢的なキャラなんだよなぁ……)
そう所謂主人公によって破滅させられる未来が確定してしまっているキャラとして転生してしまっていた。
恐らくこのままこのキャラの人生をそっくりそのまま歩めば主人公の少女を虐めるよくありがちなキャラ――からまさかの裏ボス化してオワタとなる。
だが彼女は転生した記憶を持つ故に考えた結果……
(なら関わらなければ良いだけだ。
別に主人公に恨みなんてないし、虐めなんてしたくもないし……。
ただ、主人公がラスボスを倒すのを遠くからみているだけ……無理なら私がさっさと瞬殺してしまえば良い。
このキャラは裏ボス化可能なポテンシャルがあるし、鍛えれば不可能ではない)
彼女は取り敢えず普通に生きる為の人生プランを考える事にした。
そうすることで主人公達に破滅させられる未来を回避する為に。
(よーし……!)
幸い訳ありキャラであり、今居るこの実家もお金には困らない程度の貴族の家であり、ある程度の自由がある。
そうと決まればと考えた少女はこの世界に存在する魔物と退治してみて今の自分がどれだけの力を持っているのかを確認する。
(おおっ……魔法が使えた。
闇属性の……!)
狩ることで力を扱える事を知り、狩ることでこの世界に存在する概念であるレベルが上がり、少しずつ自信を付け始めていく少女は来る日までのノルマを達成する為に、割りと強力なモンスターが蔓延る『ダンジョン』という場所へと入り込む。
その中に蔓延る魔物を狩ることでこれまたメキメキとパワーアップを果たしていく少女。
だが少女は少女が前世の記憶には存在しない者を知ってしまう。
「こ、子供? しかも女の子だと?」
『驚いた。あの胡散臭い神を八つ裂きにしていたら妙な場所に飛ばされたとは思っていたがまさか人間と会うとは……』
見ただけで、感じただけで何をどうしても『勝てない』と一瞬で悟らされる程の凶悪な『オーラ』を垂れ流しにする今の自分とそう変わらぬ年齢の少年……。
(い、いやいやいや!? 驚いた顔してるけど驚きたいのこっちなんだけど!? ここダンジョンだけど!?)
当然少女は驚いた。
外見がポーカーフェイス気味なので顔には出してなかったものの、全くの想定外の遭遇に少女も驚いたし、なにより少女の前世の記憶には目の前の少年がキャラとして登場している記憶はなかった。
「だ、誰……?」
「あ、言葉は通じるのか……。
寧ろ俺の方こそキミが誰なのか聞きたいっつーか、そもそもここはどこなんだ?」
そんな互いの挨拶から始まった想定外イベント。
当初はただの迷子だと思っていた少女だったが、遅い来る巨大な魔物を文字通り指一本で叩きのめす姿を見たことで只者ではないと理解し、少女はこの目の前の少年の正体を知るつもりである程度の情報を与えつつ名前を尋ねた。
そして――
「名前? ああ、イッセー……兵藤イッセー」
「はぁっ!?」
少女は目の前の少年がこの世界とは全く無関係のアニメの主人公と全く同じ名前であることに面を喰らった。
何故なら少女はその名前を……そしてその物語を知っていたから。
なんなら異性への欲に100%正直なそのキャラがツボでちょっとしたファンですらあったから。
「と、ということはまさか……! あの、アナタはその……ドラゴンを宿しているの?」
「……。キミの説明に嘘がないのならここは俺を知らない世界な筈だよな? なのに何故俺の事を知っているんだ?」
だけどその性格はどことなく違っているように感じて……。
「答えてくれるよな? というか答えなければキミをここから帰さないぞ?
俺はトモダチには優しくをモットーに生きているが、敵と断定した人間にまで優しくできるほどデキてないんでな?」
完全なる殺意を剥き出しに、既に30レベルは越え始めた少女に不敵な笑みを溢しながらも殺意を放つ少年に、少女は少しのショックを受けつつも説明した。
自分が前世の記憶を持っていて、この世界がゲームの世界であること、そして少年自身はこの世界に存在する筈のない世界の主人公であったことを。
「つまり、キミは元は違う人間だったと?」
「え、ええ……まさか全く関係のないラノベの主人公と会うなんて思わなかったけど」
「俺が――俺達が創作物の存在ね……」
『気に食わんな』
下手の事を言えば殺される。
それ程までの差を感じた少女は何もかも正直に話した。
心の奥底で、自分の事を知って貰いたいという気持ちを僅かに抱きながら。
「一応キミの話の半分は納得することにするよ。
それで? キミはここで何してたんだ?」
「いやあの、私のこの姿の人って後々主人公と敵対する裏ボス敵なキャラだから……」
「ほほー? 殺されたくないから逆に殺してやろうって?」
「そ、そうじゃなくて、関わらない為に力を持とうかなって……」
口調からなにから自分の記憶する彼とは思えない程にあらんでいるなと思いつつ、自分の目的を話す。
「そっか、じゃあ精々死なないように頑張るんだね」
しかし途中で興味を失ったのか、イッセーは少女に背を向けて去ろうとするので少女は思わず呼び止めた。
「ま、待って!
本当にアナタがあの兵藤イッセーだとしたら、行く宛とかあるの? ここは別世界だし……」
「そんなものあるわけないだろ。
お前の話がマジだとしたら、この世界とやらに戸籍なんてありゃしないんだし。
ただ、少し遠くではあるが『トモダチ』の気配は感じるから、取り敢えずソイツと合流でもしてから今後の傾向と対策を――」
「え!? そ、そのトモダチって誰!?」
「? ああ、ヴァーリっつー……」
「ヴァーリも居るの!?」
「お、おお……?」
イッセーの言うトモダチが宿敵の少年だと知って驚く少女はこの時点でこのままイッセーと別れるという考えは消えているので、若干引き気味の顔をしているイッセーに提案をする。
「イッセーとヴァーリの生活の保証をするから、私を鍛えてくれたりして欲しい……かも」
「は?」
『アホなのかこの小娘は?』
この時点で少女が頭の中で浮かべていた人生プランは投げ捨ててしまっており、とにかくこの推しであった少年との関わり――いや繋がりを持ちたいと必死だった。
「俺は魔法なんて使えないぞ?」
「し、知ってるわ。
イッセーは赤龍帝の籠手をメインに戦うんでしょう?」
『本当に色々と知ってるなこの小娘は……』
そんな……別世界の主人公によって鍛えられたら、もしかしたら確実に死なないで済むかもしれない。
そんな打算も少しあった転生者の少女だけど、なにより――
(だってあのイッセーよ? 本物のイッセーよ? 実際向かい合ったら余計確信出来たわ。
イッセーの声も顔も何もかもがストライクなのよ!?)
前世の記憶がフィーバーしてミーハーしてしまっていたからこそ、ここでお別れはあまりにも惜しかったと少女は思ったのだ。
「………」
『どうする? この小娘は魔法とやらを扱うにせよ、一応カテゴリ的には人間ではあるぞ』
「わっ……この立○ボイスはまさか赤い龍?」
『それに……不気味な程俺達を知っているようだしな』
主人公の相棒の渋い声に感激する少女を明らかに不審がるイッセーだが、その相棒の龍の指摘通り、確かにこの世界ではなんのコネも無い。
ましてやこの少女は訳ありの少女で、何故か自分の事を知っている。
となれば……
「まずはヴァーリと合流して事情を話してからだな……。聞く感じだと結構金持ちそうだし……」
「なんなら一生私のヒモになっても良いわ!」
「ひ、ヒモて……」
『無表情なのに目がイッてる……』
暫くこの少女の財力とやらに寄生しよう。
「一応このダンジョンの魔物は倒せるわ」
「ほーん……なら試すか。
ビッグバン・ドラゴン――」
「え、そっち!? その技ってドラゴソボールってドラゴンボールのパチもんみたいな――」
「な、なんかやりにくい子だな……」
こうしてあり得ぬ出会いとなった二人の『外からの迷い人』は、密かに世界の片隅で手を取り合うことになるのだった。
「ヴァーリに会ったんだけど、合流はしないらしい」
「え、どうして……?」
「なんか飛ばされた先が小さな村で、その村人さん達に助けて貰ったから、恩を返したいんだとさ」
「そうなの……。
ということはイッセーのマンツーマン……」
「……」
『無表情なのに赤い顔をしているのがシュールだ……』
「ぎょへ!?」
「言ったろ? その闇魔法ってのには慣れたって。
魔法ばかりじゃなくて生身も鍛えろ」
「ギエピー!?」
『まだまだ貧弱だな』
自由を掴む為に親友と切磋琢磨した個とで到達した領域の織り成す超鬼畜トレーニングによってメリメリと力をカンストさせまくる日々。
「なぁなぁ、本当に大丈夫なのか? どこから来たかもわからない奴をいきなり専属の使用人にするなんて言っちゃって?」
「全然、寧ろ私は幸せで飛べそうなくらいよ。
それに、何となくわかるでしょうけど、私はこの家では腫れ物みたいに扱われてるし……」
「魔王を思い起こさせる髪の色って奴でか? 嫌な話だぞ」
「ある程度は割り切ってるから大丈夫よ。
それにイッセーはこの髪の色に偏見なんて持たないでしょう?」
「単にキレーな黒髪してんなぁとしか思わないぞ?」
「……………………」
「え、どうした?」
『………お前の言葉に対して歓喜のあまり立ったまま気絶をしているぞ』
「え、えぇ……?」
密かな推しだった(スケベさ加減がちょっとグレードダウン気味)主人公との生活に楽しさを感じる日々。
「ああ、事故って死んでこの姿に生まれ変わって良かったわ……」
「そんな大袈裟な……。
そもそも怖がる要素ゼロだろ。
俺達からしたら魔王なんぞガキの頃にぶちのめしたしな」
「え!? よ、四大魔王の事よね……? イッセーってその……悪魔の眷属じゃあ……」
「? それはキミの記憶の中での俺の事か? だとしたら違うぞ? どっちかと言うと堕天使のアザゼルさんに仕事貰って生活してたし」
「なんと……。(つまり原作女キャラとは誰とも関係がないのか……)」
こうして外様同士は少しずつ少しずつ……。
「明日から学校だからなのかもしれないけど、一度も顔すら寄越さなかった親からの手紙だぞ」
「ええ、ありがとう。
まあもう卒業後はこの家の姓を捨てるつもりだから、なんならそのまま顔なんて合わせなくて良いのだけど……」
「それやっぱ勿体なくないか? 割りと遊んで暮らせるっつーのに……」
「遊んで暮らすよりも、貧困でもイッセーと一緒に生きたいから……」
「え……?
お、おぉ……ちょっと嬉しいぞ?」
破滅を回避する為に歩んでいく。
「入学式のレベル鑑定で99だったわ。
そしたら凄く騒がれちゃって……」
「え、寧ろまだ99程度なの?」
「99という数値がこの世界での上限だからじゃないかしら? ………って、もしイッセーとヴァーリが鑑定したらあの鑑定の水晶玉は粉砕しちゃいそう」
バグの塊化しながら……。
没話、悪役令嬢キャラと自由人な赤龍帝。
「あ、あのっ!」
「ん? ………あれ!? キミは確かヴァーリが世話になってる村に住んでる子だよな?」
「は、はい! ヴァーリ君からよくアナタの事を聞いていたので、ご挨拶をしようと思いまして」
「それはそれはご丁寧に……。
で、ヴァーリはどうしてるかわかる?」
「えっと、それがその―――」
「あ、イッセー…………―――――!?!?!?」
少女の専属使用人として学園に居るイッセーが、少女にしてみたらかなり関わりたくはない少女と楽しげに会話をしている場面を見てしまって変な誤解が生まれたり……。
「………。さっき学園の女子生徒と『楽しそう』に話をしてたみたいだけど?」
「? ああ、アリシアちゃんの事か? そういや言ってなかったっけ? 実はあの子――」
「あ、あり! アリアリアリアリアリアリアリアリィィィ!?!?」
「ど、どうしたんだ!?」
「アリシアちゃん!? アリシアちゃんんんんっ!?!!」
その相手が少女的には絶対関わりたくはないこの世界の真の主人公であったので発狂してしまったり。
「あ、ああいう子が好みなんでしょう!? そうよね!? 彼女と比べたら私は見た目からして陰キャっぽいものね!?」
「なんの話だ!? だからあの子は――」
「うわーん! イッセーのばかぁ!!!」
「え、えぇー……?」
『お前の事となると情緒がおかしくなるな……』
わんわん大泣きする少女(元女子大生)。
その後、少女の誤解はどうにかして解けたものの、それはそれで少女を不安にさせる要素ばかりだった。
「ぐすん……ごめんなさい。
まさかあの主人公がヴァーリと関わりがあったなんて知らなかったから……」
「まあ、なんやかんやでユミエラは2・3回しかヴァーリと会ったことなかったもんな。
ほれ、ちょっとは落ち着いたか?」
「………うん」
まさかの原作主人公がこっちの主人公のライバルと関わりを持っていた事を今になって初めて知ったり。
「で、ヴァーリもこの学校に居るみたいなんだ。
なんでもレアな属性の魔法を使えるとかで庶民だけど特別に入学をすることになったアリシアちゃんのボディガードみたいな感じで……」
「そうだったのね……ぐすん」
「それ説明しようとしたら大泣きするからびびったぞホント……」
「ごめんなさい。
イッセーが取られたかと思ったら感情が爆発してしまって……」
「いや良いけど……」
ぐすぐす泣くユミエラを割りと大きめな包容力で泣き止ませたり。
「明日改めて二人に会いに行こうと思うけど、ユミエラも来るか?」
「うん……いく」
好きが行きすぎて若干――いや結構重くなってしまっている裏ボス候補はこうして、何を言ってもヘラヘラしながら受け止めてはくれる推しの青年への愛情を深めまくるのだった。
「ずるずるずる。
キミの事はイッセーから……ずるずる……聞いて……ずるずる…居るぞ。
オレはヴァーリ。イッセーのトモダチであり、今はアリシアのボディガードをして……ずるずるずるずる……いる」
「こらヴァーリくん! 食べながらおしゃべりするのはめっ! だよ!」
「あ、やめろ! わかったからオレのラーメンを取り上げるのは勘弁してくれ!」
「……。イッセー、ヴァーリってこんな緩いキャラだったかしら?」
「敵とかあんまり親しくない相手にはキリっとするんだけど、気を許した相手だと天然なんだよ」
この世界には存在すら怪しかったラーメンを自作しては食べるラーメンキャラまっしぐらな白龍皇と、そんな白龍皇を母親みたいに叱る原作主人公に肩の力を抜かれたり。
「ユミエラさん……ですよね? ヴァーリ君が何度かイッセーさんがお世話になっている貴族の娘さんと聞いてます。
クラスも同じですし、どうかよろしくお願いします」
「え、ええ……こちらこそ。(あ、あれ? 他の生徒達は私の見た目も含めて引いてたのにアリシアは引いてない……?)」
その主人公は自分を前にしても特に引くこともなく笑みを浮かべてきたり。
「なんだとヴァーリ!? 俺のユミエラなめんなよ!? 脱いだら割りとスゲーだぞ!?」
「ふん、オレのアリシアの方が上だ」
互いに鍛えて来た少女のどっちが強いかで何故か喧嘩になってしまったり。
「お、オレのアリシアって……。
も、もう、ヴァーリくんったら……」
「……。天国だわ。私は今天国に居るに違いないわ」
天然でやらかす白龍皇と、モテなさすぎてやってることが刺さる人には刺さってしまう赤龍帝によって良くも悪くも人生をねじ曲げられた裏ボスと主人公の物語はこうして進むのだ。
「大好きなんですね、イッセーさんの事が……?」
「そりゃあもう……。
ここだけの話にして欲しいけど、卒業したらドルクネスの姓を捨ててしまうつもりだし……。
というか、もう既にイッセー以外の人のお嫁には行けない身体にされちゃってるし……」
気づけば目の前で天変地異レベルの殴り合いをしている男二人をのほほんと見守りながら……。
補足
チンピライッセーとの違い
一人じゃなかったので、性格がかなりマイルドである。
ユミエラさんからの押しの強さにちょっと負け気味になる程度には女性経験が無い。
重さに対して平然と受け止められるだけのよくわからん度量がある。
というか押されまくってるのと情に絆されてるので気付けばユミエラさんを普通に受け入れてる。
つまり、既にコンビとしては完成形だったりはするので、ここから先仮にユミエラさんに男のとのフラグが見え隠れしたら結構めんどくさいことになりかねない(狂犬スイッチ的な意味で)
続かない