色々とやっちまってる感……
乙女ゲーが原作であるこの世界にユミエラとして転生してからの私は、ただ自分が裏ボスとなることを回避する為に。
何よりも死にたくはないという気持ちだけで必死に、自分なりに自分を鍛えた事でこの世界の人類にとっては最高峰のレベルへと到達した。
そう簡単には殺されないという自負の下、後は主人公との関わりも無く、ひっそりと生きる事ができればそれで良いと思いながら立ち回ろうとしたのは今は昔。
私は現在がっつりと……私にとっては天敵になりえる力を持つその主人公と関わっている。
いや、なんならあらゆる意味での『同志』として結構仲良くなっている。
それはレベル99である私と全力でやりあえる力を入学時点で既に保持していたからであり、そして何故それだけの力を既に持っているのかを――彼女の背後に居る者達を知ってしまったからだ。
この乙女ゲーの世界とはまったく無関係の筈の……本来ならば存在することすらあり得ない悪魔である彼女と――龍を宿す彼の存在が、最早忘れかけていたユミエラとしてではなく、前世における単なるそこら辺の女子大生だった私としての心に燃えるような情熱を甦らせた事で……。
何度でも宣言しよう。
私は前世の頃から読んでいたラノベの主人公だった彼が好きだ。
確かに洒落にならない犯罪レベルのドスケベさだし、人によってはやっかまれるタイプなのかもしれないけど、きっと彼が現実に居たらとても楽しいのだろうと何度夢見た事か。
そんな夢見た彼がこの世界に存在していた事を知り、直に向かい合ったあの瞬間の幸福は今でも――そしてこれからも永遠に忘れることは無いだろう。
それが例え、私の知る原作の彼とは違う人生を歩んだ事で、少々お堅くなっているのだとしても、その中身は紛れもない彼自身なのだから。
『まだくたばってなかったのか――とでも言いたそうな顔だな?』
『私達は死なないわよ、アナタから『自由』を取り返すまではね……!』
自分のような転生者によって人生を狂わされた本来の主人公とヒロインが、堕ちた奈落の底にて運命的な出会いをすることで、互いに支え合い――そして何時しか地の底から這い戻るという、私の知らない物語を歩んだとしても……。
『この男にひとつ教えてあげましょうか? ………イッセー!』
『おう!!』
絶望なまでに全てを思い通りにしてしまえる力を持った転生者に二人で立ち向かうその姿はまさに私の夢見た龍の帝王なのだから。
そんな事もあるので、王城に呼ばれてから一週間が経過した今……。
「申し訳ございません。
私はそういったことに興味がございませんので……」
まことに迷惑な話だが、私はあらゆる意味でモテモテになっていた。
「ユミエラさん、今度お茶会でもいかがでしょう?」
「お誘いは大変喜ばしいのですが、これから鍛練がありますので……」
王城での話が貴族の間に伝わったのだろう。
ここ最近の私は高位貴族の子息に絡まれることが多くなったし、中にはストレートに結婚を申し込まれもした。
もっとも、向こうからすればレベル99である私を取り込もうという算段があるからなのはわかりきっている。
ならばアリシアはどうなのかと聞いてみれば、特にそういった話は無いらしい。
これは多分紛いなりにも私は貴族の娘だからだろうけど、私にしてみれば迷惑な話でしかない―――と、思うのと同時にこうも露骨に貴族の子息連中に声をかけられるようになってから思う。
(イッセーからすれば私はこの貴族の坊っちゃん連中のようなものなのでしょうね……)
私自身、最近の露骨なる環境の変化にうんざりすることを思えば、イッセーも同じ事を私に感じているのだろうと思うとちょっとだけ罪悪感を覚える。
とはいえ……。
『イッセーくんは寧ろうんざりさせるくらい押さないとダメだよ、前に押して駄目なら引いてみよと思って一週間くらい会わないようにしたら、そのままほったらかしにされちゃったし』
『もう少し心を開くと結構お喋りだし、面白い人なのだけどねぇ……』
(引いたその瞬間に敗北確定だという情報を得ている私に死角は無しだわ)
アリシアとリアスさんの言う通り、原作とは別の人生を歩んだ結果、ハーレム願望を持たないリアスさん一筋男となっているイッセーに押して駄目なら引いてみろ戦法は悪手であることは、アリシアの体験談からからして間違いない。
妙に口数が少ないのも、リアスさん曰く私をそこまで『信用』していないらしいし。
逆を言えばもし信用をしてもらえさえすれば………ふふふ。
「お嬢様、旦那様からお見合いの写真が届いてますが……」
「必要ないわ。
私はもう心に決めている
「左様でございますか……。
まあ、わかってはおりましたが……」
だからモテモテとか本気で不要なのよ。
多少環境は変われど、最早ユミエラの精神は別の意味で覚悟を完了してしまっているが故に鋼のように固く、今日も元気にすっかり仲良くなってしまったアリシアと楽しく学園の授業を受けている。
「今日は私のお部屋に泊まってよ? 明日は授業もお休みだし、リアスお姉ちゃんとイッセーくんが稽古をつけてくれるって」
「当然行くわ」
闇属性持ちと光属性持ちが、端から見たら実にゆるふわな空気を醸し出しながら楽しげにお話をしている―――ように見えるのは彼女達の一見すれば人畜無害に見えなくもない容姿によるものなのかは別にして、どちらも99という怪物パワーを持つ事を既にクラスメート達は知っているせいか、二人の会話に割り込もうという者はほぼ居ない。
「ユミエラ嬢にアリシア嬢、少し良いか?」
だがほぼ居ないという通り、極一部の者はそんなユミエラとアリシアに話しかける猛者は存在する。
その一部の猛者とは、二人と同じクラスであり、この国の王子と幼馴染みの男子二人であり……。
「殿下、それにウィリアムさんにオズワルドさん……?」
「どうも……」
ユミエラ自身普通に忘れていたのだが、本来は主人公であるアリシアの攻略対象の男子達だった。
しかしアリシア自身はユミエラと同じく99疑惑を持たれていたことで周りから敬遠されていたことと、本人が最初からイッセーとリアス以外への関心が薄かった事もあって、モブキャラに降格してしまっていたのだが……。
「失礼ながらキミ達の会話を聞いてしまった。
…………放課後にあのお二人から訓練を受けるというのは本当か?」
「「…………」」
エドウィン・バルシャイン。
ウィリアム・アレス。
オズワルド・グリムザード。
原作における攻略対象のメインキャラというだけあって、毛色の違う美少年達もまたユミエラの知らぬ所でイッセーとリアスを知ることで『変化』している者達であることを知ったのは、ユミエラが王との謁見が終わった後だった。
「えーっと……」
「頼む、アリシア嬢! その訓練に私達も参加させてはくれないか!?」
「オレからも頼む!」
「どうか……!」
まずこの三人は会話こそここ最近まで一度も無かったものの、既にアリシアの事は知っていたらしい。
そしてそのアリシアの強さの秘密についても把握している。
そして突然三人が頭を下げて懇願してきた通り、彼等もまたイッセーとリアスを知っているのだ。
フラリと現れ、国を襲った危機を救い――王と王妃から感謝されている一部の貴族しかその存在を知られていない影の英雄を。
「断れるものなら断りたいのですが……」
「「「な、何故だ!?」」」
そんな三人もまたユミエラ自身も驚いた事に、実は入学の時点でかなりの高レベルである判定を叩き出したとの事だった。
流石に99目前までに到達しているアドルフ団長には劣るものの、原作ゲーム基準ではこの三人が各自ソロで魔王を倒せる程度のレベルだ。
しかしそんな三人に対してアリシアは割りと無遠慮に嫌そうな顔をする。
「お三方が来るとイッセーくんを怒らせるじゃないですか」
「……怒らせる?」
嫌そうなアリシアがその理由を話すのだが、初耳であるユミエラはどういうことだと訊ねる。
「先に言うとこの人達とは4年前の件でイッセーくんとリアスお姉ちゃんを知る数少ない人達なのだけど、まだユミエラちゃんとそんなに仲良くなれてなかった時――つまり入学式の直後にイッセーくんを怒らせたんだよ」
「なんと……」
どこか呆れた顔をしながら三人がイッセーを怒らせたのだと説明するアリシアに当時今後どう立ち回るかで頭が一杯で周りがあまり見えていなかったユミエラは素で驚きながら三人の男子へと視線を移す。
「ち、違う! 怒らせたのはオレとオズワルドじゃなくてエドウィンだろう!?」
「そうだそうだ! エドウィンが暴走したせいで……」
「わ、私だけのせいにするんじゃあない!」
ウィリアムとオズワルドが揃ってエドウィンを指差しながらこいつのせいだとばかりに責任を擦り付ける様に、エドウィンは身に覚えがあるせいかあまり強くは言い返せない様子だ。
「一体殿下は何を……?」
「それはねー……」
「や、やめろ! こんな所で言うんじゃあない!!」
イッセーを怒らせるとは相当な真似をしたのだろうと、理由が気になるユミエラにアリシアがため息混じりに話そうとすれば、慌てたエドウィンが顔を紅潮させながら止めようとする。
そんなリアクションもあってますます気になってしまうユミエラだが、その理由は約数時間後――三人に来るなと断ったのに押し掛けるようについてきた事で知ることになる――
「あら殿下……? オズワルドさんとウィリアムさんと一緒に暫くお顔を見せませんでしたけど……」
「あ……は、はい……」
主にリアスを前にした途端、普段は自信満々な態度であるエドウィンが借りてきた猫より大人しくなるという態度を見て……。
「…………………うっそだろ?」
「それが嘘じゃないみたいなんだよね……」
これにはユミエラもびっくり仰天だった。
まさかエドウィンがよりにもよってリアスに……。
「お、お願いだからエドウィンを半殺しにはしないでください」
「……………」
「いやホント、この前のような真似はオレ達も止めるんで……」
やって来たユミエラとアリシアの後ろにエドウィン達が居たと認識した瞬間、訓練の時ですら見せなかった赤龍帝の籠手を左腕に纏い始めてしまう辺り、大人気ないのかもしれないが、イッセーのマジさ加減がうかがえてしまう。
「我等三人は先日やっと85を越えました。
ですのでどうかリアス様の訓練を―――」
「喜べよ小僧。
死んだ方がマシだったと思える地獄を今から俺が見せてやるよ?」
「ふん、望む所だ。
貴様を越える為には常に死と隣り合わせでなければ意味など無い……!」
「えーと……?」
「待っていてください。
必ずこの男を越え、貴女を迎えに―――
『Boost!』
「きぃぃっ!!」
―――――――ぶべらぁ!?」
「あ、あのバカ……!」
「余計な事を言わないって約束したのに早速あの方の地雷を……」
「凄いわ! 生の赤龍帝の籠手の倍加だわ!」
「エドウィン王子が乱回転しながら吹っ飛んでるねー……」
皮肉にも、彼等を知ったメインキャラだった男達もまたインフレの世界に踏み込んで来ているのだった。
「ぐっ! 前はその一撃で情けないことに意識を手放したが、今度はそうはいかんぞ!」
「へー? そうかそうか……。
じゃあもう少し遊んでやるよ?」
「言われなくても……!!!」
「意外に凄い。
圧倒的に殿下がイッセーにボコボコにされても食らい付こうとしている……」
「99であるキミ達二人からすればまだまだに見えるんだろうが、エドの奴はリアスさんを前にすると謎に根性見せるからなぁ……」
「取り敢えずあの二人の喧嘩が終わるまで手合わせを願いたいのだが……」
エドウィンの暴走を止める係化しているせいで絶妙に苦労人の気配を醸し出すオズワルドとウィリアムの二人はリアスに対して敬意は持ってもエドウィンのような感情はないらしく、妙にテンションの高いイッセーにタコ殴りにされながらもなんとか食い下がるエドウィンの攻防が終わるまで、軽い模擬戦をするのであった。
「チィ、アリシアの時もそうだが、やっぱお前も本物だなユミエラ嬢……!」
「ウィリアムさんも結構やりますね……!(お世辞じゃなくて、レベル差でなんとかなっているけど、気を抜くと危ないわ……!)」
「アリシアに続き、ユミエラ嬢もまた僕達の壁となるか……。
しかし面白い……!」
「そう簡単には負けませんよ……!!」
補足
皮肉にもフラリと現れた二人組を『見た』事で『上の領域』を知り、そこから彼等もまた自己流で鍛えた結果、入学の時点でインフレ祭りに突入してたのだ。
具体的には
エドウィンくん――レベル88
ウィリアムくん――レベル87
オズワルドくん――レベル86
頑張れば国くらいなら余裕で落とせる程度にはなってます。
ちなみに……
ユミエラさん――99
アリシアさん――99(実質110)
その2
エドウィンくんがこんなんだから、エドウィンくん推しのお嬢様から鬼ほど嫉妬されてるとは知らないリアスさん。
イッセーも大人気なくタコ殴りにするのだが、皮肉にも耐久力がギャグ漫画レベルで高くなってたりなかったり。