……くだってる
学園の上空にブラックホールを出現させて周囲をドン引きさせたその晩にはイッセーから片手でのされた翌日。
私は国王陛下と謁見する為に王城へと赴いていた。
「中に入れ」
「………………」
城に来た辺りから城に居る兵や何やらからの―――まあまあ予想できていた視線を受けつつ王の間へと通された私は、玉座に座る陛下と王妃に頭を垂れる。
「頭を上げよ、ユミエラ・ドルクネス」
玉座に座る陛下の言葉に従うように頭を上げた私は、陛下と王妃の視線が他の人達とは大分違っていて、私のこの黒髪に対する悪感情は感じられないので一先ずは安堵する。
「まずはここまで足を運んでくれて感謝する」
いや、それどころか急に呼び出した事に対して頭を下げられた私は、その様を見て動揺している兵と同じ心境であり、思わずテンパってしまう。
「い、いえ陛下が頭を下げる事などございません」
「そうか……。
そう言って貰えると私としても安心だユミエラ嬢。
さて、何故ここまで足を運んで貰ったのかについてなのだが……」
何故呼び出されたかについて理由を語ろうとする陛下だが、理由なんてほぼひとつしかない。
「私のレベルについてでしょうか?」
「うむ。
入学の際のレベル鑑定で99を計測したと聞いた時は驚かされたものだ」
「……?」
驚かされたという割にはどこかリアクションが薄いような気がしてならない陛下に私は違和感を感じると、その違和感の理由をあっさりと知ることが出来た。
「庶民の出ながら学園に入学したアリシア・エンライトの事は知っているな?」
「はい……クラスも同じですし、最近は仲良くさせて頂いております」
「ふむ……。あの『二人』の言っていた通りか……」
陛下の口からその名前が出て来た事で、昨日聞いた通り陛下は既にアリシアの事を知っていて、あの二人と名前こそ出さなかったものの、その背後に居るイッセーとリアスの事も認識しているらしい。
「ユミエラ嬢はあの二人の事は知っているのか?」
「はい……。
あのお二人に徹底的に鍛えられた事で、アリシアさんが私と同等――いいえ、戦闘経験値の差を加味すれば私以上の強さを持っている事も知りました」
「うむ。
しかし、だからこそ私は疑問なのだ。
話から察するに、ユミエラ嬢はあの二人と知り合ったのはここ最近ということになる。
だからこそどうやってそこまでのレベルに至ったのか……」
なるほど、その二人とは無関係に自力で99に到達したからこそ陛下は気になったらしい……。
「先ずはその力が本物なのかどうかを確かめたい。
ここに居る兵達も私も、アリシア嬢という前例を知っているとはいえ、やはり華奢に見える令嬢が99というのはどうにも信じがたいのだ」
「つまり?」
言われてみれば確かに疑われても仕方ないと思いながら、さて何を言われるのかと陛下を見上げていると、徐に陛下が手を挙げる。
するとちょうど私の方からは見えなかった玉座の後ろから剣を携えた青年が姿を現すと、私の前に立つ。
「我が騎士団の団長であるアドルフに真偽を確かめさせたいと思う」
「…………」
なるほど、そう来るか。
アドルフ団長は原作ゲームだと確かレベル60程で、この王国においては最強と呼ばれる騎士だ。
これもあくまで原作ゲームでの話だが、魔王戦での適正レベルが最低でも60であったことを考えたら文句無しの強さである。
なんてアドルフ団長を見ながら過去を思い返していた私だったが、いつの間にか剣を抜いているではないか。
「アリシア嬢と同じく、人類の限界の壁の前にまで到達した事へ敬意を払い、私の全力の一撃を披露しよう……!」
そう言いながら地を蹴って肉薄してきたアドルフ団長なのだが、私はどうしたものかと考える。
どうやらアドルフ団長の前口上から察するに、アリシアも以前似たような経験をしているようだけど、アリシアはどうやって凌いだのだろうか。
多分だけど反撃とか魔法は一切使ってはないと見ても――――っ!?
「くっ!?」
取り敢えず反撃はせず、アドルフ団長の一撃はお辞儀をして回避してやろうと、それまで剣の軌道含めた団長の動きを完全に目で追えていた私だったが、私に迫るその一瞬だけ完全に見失ってしまい気がつけば団長の刃が私の首を狩る寸前だった。
お辞儀で誤魔化すもへったくれも無く、私は思わず全力で上体を反らして回避することは出来たのだが……。
「…………」
「宣言通り、私は全力で首を刎ねるつもりでしたが、ユミエラ嬢は見事に避けて見せました。
今の一撃に対応したのはあの三人以外には居ないということを考えればやはり99で間違いはないかと……」
そう剣を収めながら陛下に報告するアドルフ団長だけど、私は心底安堵していたのと同時に驚かされてしまったし、確信した。
「すまなかったなユミエラ嬢。
騎士として不意打ちは恥ずべき事だったが、陛下のご命令には逆らえないのでな……」
「い、いえ……」
間違いない、この人レベル60の強さではない。
多分90は越えていると思う……。
「ふふ、あの時を思い出す。
あの時の敗北以降徹底的に己を鍛えたつもりだったが、やはりまだまだなようだ」
それはきっと過去にイッセーとリアスさんと知り合ってその強さを知ることでレベルにインフレをもたらしているからなのだろう……。
こうしてみると、魔王の強さもそれに乗じてインフレ化しているのかもしれない。
「見事な身体能力だったユミエラ嬢。
次は魔法を見せてくれるか?」
「! はい……」
そんな嫌な予感を感じつつも今は陛下からのご命令通りにするのが先決だと思った私は、言われた通り闇属性の軽い魔法を見せる。
「報告通りだな。
闇魔法とは珍しく、以前見た光魔法とは対照的な禍々しさだな……」
他の兵士達がどよめき、陛下がぽつりと呟く通り確かに見慣れない人達からすれば禍々しい魔力なのかもしれない。
「宮殿魔導師長。
闇属性に危険性はあるのか?」
他の兵達から嫌な目で見られ始めている中、陛下に魔導師長と呼ばれたローブを着た老人が咳払いをしながら魔力の属性について説明をする。
「どんな波長を放っていようとも、闇属性もまた四大属性や光属性と同じく、ひとつの属性にすぎませぬ。
闇属性は光属性に弱く、四大属性には強い。
光属性と対となる強力な属性と言えましょうが、危険かどうか他の属性同様は使い手次第ですじゃ」
魔導師長さんの説明にちょっと安心する。
ここで危険ですじゃなんて言われたらかなり困った事になるし、魔導師長という肩書き通り客観的に属性について語れている。
「だが闇魔法は高位の魔物が扱うと聞いたが?」
「四大属性は勿論の事、文献では光魔法を操る魔物も確認されておりまする。
そもそも闇属性の使い手は珍しい故、見た目と共に悪いイメージが付ける者が多かったということですな」
「ふむ……?」
「それに、陛下もご存じでしょう? この世には四大属性や闇と光のどれにも属さぬ魔力を扱う者が居ることを……?」
「………!」
闇属性だからって危険な訳でないと説明する魔導師長さんに内心感謝しながら耳を傾けていた私は、その言葉にぴくりと反応をすると、陛下も覚えがあるような顔をしている。
「儂も4年前この目で見ましたが、彼女の扱う魔力は間違いなくどの属性でもない全く未知の魔力でした。
あのような例外がある以上、闇属性を扱う人間は多少珍しいだけで危険なわけではないという事ですじゃ」
魔導師長さんの言葉に陛下は確かにと頷く。
未知の魔力を扱う者……それは間違いなくリアス・グレモリーの事だろう。
確かに彼女の扱う魔力は悪魔のそれだし、母方の生家であるバアル家の消滅の魔力だから、どの属性でもない。
私の闇魔法ですら一瞬で消し飛ばせる事から、多分どの属性の魔力に対してアドバンテージを取れると思う。
ともあれ、この問答のお陰で私に対する警戒は一気になくなったし、99に到達した過程を話してドン引きされたりはしたものの、然り気無く99になった後の目標を話す事で私の今後の『平穏』はある程度保証される運びとなったのは、あの二人のお陰なのだと心に刻むのだった。
「そ、そうか……。
しかしユミエラ嬢? その目標というのは何と言って良いのか……」
「解っています。
しかし私は諦めたくはないのですし、私が勝手に好きなだけですから」
「……………。彼も――イッセーも罪な男だな」
それ以上に私の人生の目標を語ったら生暖かい顔をされちゃったけど。
まあ仕方ないわよね。
陛下達もあの二人とは知り合いらしいし、きっと二人の仲も解っているから私にそういう目をするのでしょうし。
しかしさっきから陛下はどこを見てるのだろう? 私――ではなくて私の後ろを見ているような……?
「……………」
「ぇ……?」
陛下の視線を辿って後ろを見た私は固まった。
何故なら私の真後ろには、恐らくバッチリと私の今後の目標を聞いちゃっていたであろうせいで絶妙に微妙な顔をしているイッセーが、サラリーマンのようなリクルートスーツ姿でそこに立って居たのだから……。
小遣いに釣られてバルシャイン国王に呼び出されたイッセーは、兵に案内される形で王の間に入ると、何やら語っているユミエラが居たので話が終わるまで黙って待っていると、どういう訳かユミエラは自分に関しての話をしている。
曰く、実質嫁は居るけど自分が好きすぎるだの。
曰く、イッセーがリアスしか見えてないのは解っていても好きだとか。
曰く、なんなら将来はドルクネス姓捨ててイッセーの住む村で暮らしたいだの。
とにもかくにもイッセーの事が好きなのだと語り尽くすユミエラに、実を言えばまだそこまでユミエラを信用していなかったりするイッセーは実にリアクションに困ったし、ユミエラの話を聞いていた兵や王やら王妃からの生ぬるい視線に居たたまれない。
「な、なな……!? ど、ど、どう……して……?」
「呼ばれたからとしか……」
「……………」
まさか真後ろで本人が聞いていたとは思わなかったこともあり、さすがのユミエラも茹で蛸のように顔を真っ赤にしながらアタフタとしている。
「そのやり取りからして、ユミエラ嬢とは知り合いのようだな?」
「まあ……」
「知り合ってそんなに間は無いのだろう? 随分と罪作りな事をしたようだな?」
「…………」
妙にニタニタ顔の国王に一瞬ドラゴン波をぶっぱなしたくなったイッセー
「う、嘘じゃないですから! 本当の本当に――」
「俺はキミをそんな目で見る気にはなれない」
「かびーん!!?」
その横でテンパるユミエラが開き直り気味に言いかけるのを一蹴する一言で切り捨てつつ、玉座に座る国王を見上げる。
「それで、何の用ですか?」
「あ、いや……本当にユミエラ嬢と知り合いなのかを確かめるつもりだったのだが……」
「……?」
「黒髪の筈のユミエラ嬢がお主の一言で真っ白になってしまったぞ……?」
「取り繕った言葉で無意味に希望を持たせるよりマシじゃあありませんか?」
まさに口から魂が抜けそうになっているユミエラがちょっと可哀想になった国王にイッセーはあっさりばっさりと言い切るブレなき男はまさに平常運転だった。
「ふ、ふんだ! そう言われるのなんて解ってたし。
別にそんな事言われても諦めないし……!
寧ろちょっと冷たくされるのもそれはそれで興奮するしー!」
「わかる! わかるよユミエラちゃん! 私も散々イッセーくんにされてきたもん!」
「私より確実にメンタルは強いわこの子」
「………」
「っ……! 今もこうしてイッセーにそこら辺に捨てられてる生ゴミでも見るような目をされるもアリだわ……! もっと私を蔑んでみなさい! なんなら圧倒的なパワーで叩きのめしてください!!」
「…………………」
「本当にイッセーのファンなのね」
「それはあの女の記憶の中にある物語としての俺の事だろう? 俺自身とは違うし、何度も言うが迷惑だっての……」
「んー……普通だったら嫉妬しちゃう筈なのに、どうもこの子達だとそうならないのよねぇ……。
寧ろ私と同じようにイッセーが大好きな者同士として仲良くしたいなって?」
「えぇ……?」
謁見も終わり、イッセーと共に学園に帰還したユミエラは早速アリシアとリアス相手にぐだまきを出来る辺り、リアスの言うとおりのメンタルをしているのは間違いない。
「あの冷めきった目を思い出すだけでも今晩は捗るし、なんなら既に下腹部が疼いて仕方ないわ……」
「ちょっとイッセーくんに触れられただけでビクンビクンしちゃうユミエラちゃんらしい敏感さだねー?」
「女同士でなんちゅう会話してんだ……」
終わり
補足
原作ゲームよりポツポツとインフレしてる箇所がある。
例えば騎士団長さんのレベルは94くらいある。
というか、イッセーとリアスと知り合った人達の一部はその強さを底上げしてる模様。