生きる事は逃げないこと。
どんなに辛くても、どんなに理不尽でも、それでも生きてこそ逃げない事であると信じて生きてきた。
生きて生きて。
そして大好きだった人達と出会えた。
生きて生きて……。
これからも一緒だと約束した。
生きて生きて…………。
俺達は俺達の自由の為の道を切り開く。
確かに一度は自分の生まれた意味を自問自答したこともあった。
自分がこの世のカスでしかないのだと思った事もあった。
存在自体が邪魔だと俺を嗤いながら詰り、そして大切だった者を壊された事もあった。
けれど俺はもう迷わない。
例えこの世のカスであろうと。
そいつにとって邪魔な存在であろうと。
俺の進むべき道は決まっているし、歩みを止める事だってしない。
それこそが俺の見つけた『生きる意味』だから……。
遠い場所、どこかの世界に存在する小さく、そして慎ましく生きる人々達の居る小さな村には、村人達だけが知るある存在がある。
対価を……賃金を払う事でどんな仕事を請け負う何でも屋さん。
対価さえ支払えばどんな仕事だろうと行う便利屋さん。
村人達はそんな何でも屋に時折仕事の依頼をすることがあり、その縁もあってかその何でも屋を営む『年若き夫婦』がやって来る際は歓迎する――そんな争いとは無縁の小さな世界。
そんな小さな世界のとある天気の良い朝。
ここ最近村人達の厚意により店兼自宅を改装することになり、暫く休業中であった何でも屋夫婦の下に一人の少女が訪ねて来たのが始まりだった。
「お願いっ!」
「お願いって言われてもなー……」
しょっちゅう遊びに来ては時々何でも屋の仕事の手伝いをしたりする村の少女の来訪と手を合わせながらの『お願い』に、何でも屋の店主である青年は少し困ったような顔をしながら朝食のパンを齧る。
「うちのおばあちゃんも是非そうして貰いなさいって言ってたし、お金も取り敢えずこれだけ集めたよ」
「………」
そう言って青年の座る席のテーブルの上にかき集めたとされる金品を差し出す少女だが、もしゃもしゃとパンを食べる青年の表情は微妙なものを見る目のままである。
「え、もしかして足りない……?」
そんな微妙な顔をする青年に少女は足りないのかと不安そうな顔をするが、青年はそうじゃないと首を横に振る。
「足りるとか足りないの話じゃないんだよ。
仕事の内容がちょっと――いやかなり難しいってだけ。
春になったらキミはこの村を出て王国に言って王国の学校に通うって話は知ってるし、まあ不安なのもわからんでもない。
けど、その学校とやらに依頼として俺を付けさせるとなると――色々と柵が多すぎてな」
「むー……」
目の前の少女とは小さな頃からの知り合いであり、自分や一応周囲からは嫁さんと認識されている共同経営者である彼女にもよく懐いてくれていたし、最近はよく仕事の手伝いなんかもしてくれる。
という意味では青年としては力を貸せるなら貸してやりたい――とは思う。
だがしかし貸すにはまず色々な地位やら立場やらの柵をなんとかしなければならない訳で。
そういった立場や地位なんて持たない青年からしたら色々とややこしい話なのだ。
「時折様子を見に行くとかなら何とかなりそうだけど、四六時中キミの傍となるとなぁ」
青年からしたら折角掴めた自由を自ら放棄する選択は出来ないと、ちょっとした罪悪感を感じつつも少女の依頼を断わろうとした時だった。
「何年か前に向こうの王様からの依頼を受けた時に、借りを作ってたじゃない。
それを利用すれば上手くできなくもないんじゃないかしら?」
青年と少女の会話を聞いていただろう、女性がキッチンの方かティーポットとカップを乗せたお盆を持ちながら姿を現し、青年に数年前の事を話す。
「え、それって――」
キッチンから出てきた何時見ても目も覚める美貌を持つ赤い髪の女性の言葉に桜色の髪を持つ少女は目敏く反応しようとするが、その前に焦げ茶の髪を持つ青年が微妙そうな顔で口を開く。
「あれは多分単なる建前みたいなものだと思うし、あれから一度も会ってないんだぞ? 向こうだって忘れてるだろ」
「うーん、それはどうかしらね。
王国を襲撃した大量のドラゴンの群れを一人で退治してのけたって出来事は忘れるにはインパクトが大きいんじゃない?」
「いやいや別に俺一人じゃないし……」
常に命を狙われる事のない、今現在の平々凡々過ぎる生活で満足している青年からしたら、王国だなんだといった種の話には極力関わりたくないと思っているせいか青年にしては珍しく保守的な態度だ。
「確かに忘れてるって可能性もあるでしょうけど、忘れる程度の認識しかないのなら、あの時わざわざアナタに爵位を授けてでも国内に留まって欲しいと懇願するかしらね?」
「………」
「えー!? そんな話が陛下とあったの!?」
「ええ、まあこの人は即答で断ったけどね。
向こうよりここでの生活の方が気楽だからって」
「そ、そうなんだ……」
微笑みながら当時あった話をする赤髪の女性からお茶の入ったカップを受け取った少女は驚きつつも青年らしい回答に少し笑ってしまう。
「まあだから、この人がその気になればアナタのお願いが結構簡単には叶いそうなのよねー?」
「…………」
そう言って無言でお茶を飲む青年をチラリと見る赤髪の女性と、期待のこもった視線を一切やめずに見つめる桜色の髪をした少女。
「キミが一緒に来ないと俺は受けないぞ――リアスちゃん?」
結果、そんな二人の視線に根負けする形で……されど条件を付ける形で引き受けると言ってしまう青年に、桜色の髪をした少女の表情は明るくなり、リアスと呼ばれた赤髪の女性は満足そうにうなずきながら微笑む。
「わかってるわ。
私だってそのままアナタを一人で送り出す気なんてないもの――イッセー?」
「と、ということは……?」
「オーケー、一応引き受けるよアリシア」
こうして何でも屋を営む『若き夫婦?』はこの世界では希少とされる性質の魔力を目覚めさせた故に都会(王国)の学校へと通う事になってしまった少女の依頼を引き受ける事にしたのだ。
これはもしものお話。
主人公とヒロインであることを棄てた青年と女性との出会いにより飛翔してしまっている主人公兼ヒロインのお話。
レベルという概念があるこの世界において――
『ユ、ユミエラ・ドルクネス……レベル99』
『!?』
(まー……そうなるわよね)
憑依転生をした裏ボス候補の少女がその知識を駆使して無双せんとしつつ主人公を警戒しようとして―――
『アリシア・エンライト、レベル―――へ???』
「あれ??」
『れ、レベル鑑定の水晶玉が砕けた……だと……?』
「????」
(なん……だと……?)
本来はレベル1と鑑定される筈のイベントと思いきや、触れた瞬間粉々に砕ける様を見てしまったり。
「ちくしょぉぉぉぉお!! カメラが無いのがこんなに悔やまれるとは思わなかったぞ! リアスちゃんのメイド姿……!」
「陛下が覚えてくれていたお陰で上手くアリシアの使用人として入り込めて良かったけど……」
その元凶カップルはマイペースにやっていたり。
「…………………………」
(な、なんか凄い見られてる……?)
本来なら関わることを避けようとしていた裏ボス候補にガン見されたり。
「はぁ……」
「あらおかえりアリシア。
どう? お友達は――やっぱり難しいかしら?」
「他の人達が貴族の方々の中、私だけ庶民だからねー……。
ただ、一人凄い見てくる女の人が居て……」
「あら、気になるなら話し掛ければ良いじゃない?」
「それが話し掛けようとすると逃げるように行っちゃうものだから……」
姉のように……それでいて色々な意味でライバルだと思うリアスとガールズトークをしたり。
「? あれ、そう言えばイッセー君は?」
「イッセーなら学園長さんと話をしに行ったわ。
色々と口裏を合わせるって」
既に扉を開いている主人公は、裏ボス候補の少女の思惑の遥か外に鎮座する。
「む……」
「!? (な、なんなのこの主人公!? へ、下手したら私より強い……!?)」
(ユミエラさんだっけ? 確かレベル99だったみたいだけど、99となるとやっぱり強いなぁ……)
実戦授業でユミエラが戦慄するほどの強さを身に付けているアリシアだったり。
(一体何故彼女があれだけの力を? しかも原作攻略対象とは殆ど関わらないし……)
(また見てる……?)
紙一重で負けたユミエラがその強さの秘密を知ろうと完全にアリシアをストーキングし始め……。
そしてユミエラは一目で気づいてしまう。
「うー……また負けちゃった」
「流石に追い抜かれるにはまだ早いぜアリシア?」
左腕に赤き龍の帝王の籠手を持つ、彼女の生前の記憶に今尚深く刻み込まれた青年の存在を。
「なん……で………」
ショックを受けるユミエラは隠れる事を忘れて、優しく笑いながらアリシアに手を差し伸べ、そしてその手を当たり前のように取るアリシアを呆然と見ていた。
そしてこの日からだろう……。
「あ、あの……」
「あ、えと……ドルクネスさん……」
「ゆ、ユミエラで良いですよ? それであの……ひとつ聞きたいことが……」
あからさまにガン絡みをし始めるようになったのは……。
「き、昨日偶々……そう偶々! アナタが見知らぬ燕尾服を着た男性と居たことを見てしまって……。
だ、誰なのかなぁ……と」
「? イッセー君の事です――」
「名前まで一致すんのかぁぁぁっ!?!?」
「ひぇ!?」
「お、お願いします! どうかその人に会わせて頂けますか!? この通り床に額も擦り付けますから!!」
「ちょ!? や、やめてくださいよユミエラさん!?」
結果、その正体を知った瞬間に、彼女が生前から持っていたミーハー心が大爆発してしまい、困惑しまくりなアリシアに気付く事もなく、そして人目を憚らず土下座をして懇願し……。
「――と、言うことがあって、このユミエラさんがどうしてもイッセー君と会いたいって言うから連れてきたの」
「ふーん……。キミ、俺とどこかで会ったか?」
「会ったことは無いけど知ってるんだって」
「ゆ、ユミエラ・ドルクネスですわ! しゅ、趣味は修行で! 好きな食べ物はデザート全般! スリーサイズは――」
「お、おいおい……? よくわからんけど落ち着けよ」
消えたと思っていたミーハー心が天元突破する形で……。
「あら、お客さん?」
「ああ、アリシアのクラスメートの子で、なんでか知らんけど俺に用があるとか―――」
「居るのかよぉぉぉぉっ!?!?!?」
「「「!?」」」
されど当たり前のように『悪魔』である彼女が居て絶望したり。
「なるほど、大体わかりました」
「ち、違うのよアリシアさん? わ、私は別に……」
「いえ、寧ろ気持ち的にはわからなくもありませんよ? ご覧の通りあの二人の間に付け入る隙なんて皆無です。
けど……まあ……ね?」
「え……ま、まさか貴女も――」
「まー……ああもブレ無さすぎる姿を小さい時から見てると……」
こうしてもしもの物語は始まらないのだ。
簡易人物紹介
アリシア・エンライト
この世界の主人公。
そしてベリハードな世界から流れてきた剥奪された主人公とヒロインと出会った事でのっけから人生が変わった。
入学時点でレベル測定不能という庶民出で光魔法を扱うという事もあって早速ボッチになってしまったが特に本人は気にしない。
ユミエラ・ドルクネス
憑依転生した元女子大生。
闇魔法で髪の色からなんやで魔王の生まれ変わり疑惑を持たれている悪役令嬢(嘘)。
あまりにも知識とはかけ離れたレベルのアリシアを当初鬼のように警戒が、その背後に推しキャラが居る知った瞬間消えていた筈のミーハー心が大爆発した。
しかし、メインヒロインことリアスが傍に居ること、聞いてる限りハーレム王への願望がないどころか嫌悪感すら示していると知り凹む。
イッセー&リアス
ベリーハード世界から脱出し、静かに生きていた