ネタが無いので引っ張り出したぜ。
ただの女子大生だった私が乙女ゲーの世界の――所謂悪役令嬢的なキャラとして転生した。
無論、原作ゲームの様に裏ボス的な存在になるつもりはまるではないけど、死にたくは無いので力を付けようとユミエラとしての今後の人生のプランを立てたのは昔の話。
何故ならそのプランは速攻で崩壊してしまったのだ。
この世界に絶対に存在しない筈の――別のライトノベルの主人公とバッタリと出会った事で。
私自身、そのライトノベルを読み漁っていたのと、その主人公のことがかなり好きなので抱いた困惑と疑問に関しては最初だけだったわ。
もっとも、その彼の性格は私の記憶するラノベの物語とは全く違う生き方をしてきたせいか、大分違っていたのだけど、それも最早関係ないわ。
結局、誰に対してもチンピラ狂犬ムーブをしようとなんだろうと、私にとって彼こそがイッセーなのだから。
私がこの世界で生きる意味は、もうただ単純に生き残る事ではない。
まだまだ先を歩くイッセーに追い付き、そしてずっとその傍を歩き続けることこそが私の生きる意味。
「新入生達が私達を見るなり泣きながら逃げるわ……」
「主にイッセーくんのこれまでの行いのせいなのかなぁ?」
「ほっとけほっとけ」
あまりにもチンピラ狂犬ムーブを噛ましすぎた結果、一国の王と直接『友好条約』を結び、庶民だった立場から『出世』まで果たす形となったイッセーの噂は、当然王立学園にこの度入学することになった新入生達の耳には入っている。
曰く、魔王の生まれ変わりかもしれない闇魔法を扱う女と、光魔法を扱う女の両方を下僕同然に従わせているだの。
魔王を越えた大魔王の仮の姿だの。
気に入らない奴等はもれなくぶん殴るを地で行くような生活をしてきたせいで、すっかり魔王を裏から操る黒幕疑惑を持たれたが故にイッセーは、常に後ろからついてくるユミエラ、アリシアを含めた『化け物三人組』として新入生達には恐怖の対象なのだ。
「ああ、そうだ。
例の学園長が、俺個人の寮部屋をくれるんだとよ」
「「……は?」」
そんなイッセーも、気付けば爵位持ちの地位まで成り上がった事で、学園長に拝み倒される形で生徒となった訳だが、今まではユミエラ専属の使用人という体であった事もあって就寝もユミエラの寮部屋だったのだが、この度一応正式に生徒となった事で個人部屋を与えられる事になった。
なので、今日よりその部屋に移るという旨を、食堂から失敬してきたケーキを食べながらイッセーが話すと、同じくケーキを食べていたユミエラとアリシアが固まりながら持っていたフォークを落としてしまう。
「つまり……どうなるのかしら?」
「今日から別の部屋になるってだけの話だよ」
「……どうして?」
「どうしてって、だから俺の部屋を用意したからだろ、学園長が」
どう見てもショックで動揺しているユミエラとアリシアをスルーしながらもしゃもしゃとケーキを食べ続けるイッセー
「「………」」
そんなイッセーを前にユミエラとアリシアはお互いに顔を見合わせながら一分程無言となり、やがてそのまま頷き合うと、両者共ワイルドに首の関節を鳴らしながら席を立つ。
「わかったわ、今すぐ学園長を抹殺――じゃなくて説得してくるわ」
「『イッセーくんは今まで通りで良いです』ってお話してくるね?」
今まで散々イッセーに死んだ方がマシな目に逢わされたというのに、どちらともイッセーが好きすぎるが故に、余計な事を言ったと思われるあの胡散臭い学園長を八つ裂きにしてやらんとするユミエラとアリシアに、イッセーの左腕に現れた籠手の意思であるドラゴンが呆れ気味に声を出す。
『よせ。
今更なのかもしれんが、一応お前らは女だろうが』
「本当に今更よドライグ」
「そうそう! おっぱい揉んで貰う仲なんだから!」
このままでは最近ストレスで抜け毛が多いらしい学園長が抹殺されてしまうと、別にそんな義理は無いものの一応止めるドライグにユミエラとアリシアは憤慨するような声だ。
「イッセーだって別に今まで通りで困ることなんてないでしょう?」
「そうだよ。
イッセーくんが部屋を移動したら今まで通り私とユミエラちゃんのおっぱいを好きな時に揉めなくなるよ?」
どうにかして引き留めようとするユミエラとアリシアに、行儀悪くケーキを食べ、行儀悪くお茶を飲み干したイッセーがカップを置く。
「別に俺はどっちでも良いんだけど……」
「なら今まで通りで良いわよね!?」
「ほら! おっぱい揉んで良いから!」
「おう……」
イッセー的には別にどちらでも良かったこともあり、こうして引き続きユミエラの部屋となることになるのだった。
「なんか嫌がられたんで引き続きコイツの部屋に居ますわ」
「あ……そう。
まあうん……そうなるかなぁとは思ってたけど、やはり男女が同室というのが他の生徒達に――」
「その他の生徒とやらが何か言うのなら私達が『平和的に』説明しますわ」
「『お話』は得意ですから!」
「……。切実にやめてくれ」
暇さえあればイッセーの後を犬のように付いていくか、生傷だらけの激しい修行ばかりの日常のせいで、地味に女子力的なものが低下しつつあるユミエラとアリシアの周りに近寄る人間はほぼ皆無だ。
いや、厳密には居るには居るのだが……。
「蹴り殺してやる……このド畜生がッッ!!!」
「ガッブバァァァッーー!!!?」
その厳密には存在する者の一人に関しては、的確にイッセーの地雷を踏むのだ。
「死ね! 死ね!! そして死ねぇぇぇ!!!」
「よ、よせぇ!!」
「これ以上は本当にパトリックが死んでしまう!!」
「大体理由は察したが、取り敢えず落ち着けぇ!!」
「じゃあかしぃわシャバ僧共ォ!!」
「うげぇぇぇぇッ!?」
この日も、何かしらの地雷を踏んだパトリックという男子生徒が鬼のような形相をするイッセーに内臓破裂確定の蹴りを喰らい、そのまま何度も蹴られ続けている。
それをすっかりお笑い三人組っぽい立ち位置にになりつつあるウィリアム、エドウィン、オズワルドが止めようとするが、軽いバーサーカー状態になっているイッセーを止められるわけも無く、何度か顔面に裏拳を喰らっては吹き飛ばされている。
「………。今度はなにをやらかしたのですかパトリックさんは?」
「えーっと、パトリックさんが私の部屋を訪ねてきました」
「女子寮にですか? それで彼が?」
「それが……ちょうど私とユミエラちゃんがお着替えしている最中でして……」
「……って、まさか返答も無しにパトリックさんが入ってきたと?」
「「………まあ」」
「それはそれは………」
既に顔面がボッコボコになっている三人から羽交い締めにされても構わず虫の息状態のパトリックの顔面を容赦無く蹴り潰しているという、貴族のきの字も感じられない光景を前に、少し離れた場所から何故こうなったのかの説明をエレノーラという、ユミエラとアリシアをあまり恐れない女子生徒にしている。
「確かパトリックさんはユミエラさんに近づくことを禁止にされていましたわよね?」
「その筈なのですが、何故か彼はそれを破ろうとするのですわ」
「……。それはまた」
「お陰でイッセーくんがああなっちゃいまして……」
「同情をすべきか絶妙に迷いますわね……」
気でも触れたのかとしか思えないパトリックの行動に、半目となるエレノーラに、ユミエラとアリシアは気まずそうな態度こそしているものの、内心はかなりウキウキしていた。
どうであれ、イッセーの行動が自分達の為の怒りであるので。
それ故にパトリックが殺されかけているというのに、彼への同情心は皆無なのだ。
「何といいますか、貴女達三人の常識外れさに慣れ始めている自分が居ますわ」
「え、そんなに仲良く見えます?」
「そんなぁ……照れますよぅ」
「………。軽い嫌味のつもりなのですけど」
どこをどう見てもユミエラとアリシアが、あの野蛮通り越して最早理性も知性も無い獣同然の男に対して好意を抱いているのはエレノーラでもわかっている。
「ぁ……ぁ……」
「ぺっ! クズがぁ……!」
「や、やっと止まってくれた、か」
「ぐぅ……止めたオレ達もボロボロだ」
「なんという力をしているのだキミは……」
エドウィン推しであるが故に、最初の頃は色々な意味で王子から注目されていたユミエラとアリシアに警戒していたのも昔のことのような気がしてならない。
「ギリギリで生きているようです」
「そのようですわね。
はぁ……折角の楽しいお茶会が台無しですわ」
「エレノーラさんも結構慣れましたね……?」
「慣れたくはありませんでしたわ。
アナタ達があまりにも常識外れ過ぎたせいです」
止めようにも、止められずに物陰で震えていた教師に『おい、汚いからさっさと片付けておけよ、このボロクズを』と、チンピラ通り越して蛮族みたいな台詞と共に、イッセーを止めるだけでボッコボコになってしまったエドウィン達には一応持っていた回復薬を渡す。
「流石に悪い。
頭に血が昇りすぎた」
「「「え……」」」
恐らく初めてイッセーから謝罪された三人は、思わずギョッとなりつつ慌てて首を横に振る。
「い、いやいや! き、気にするな! なぁ?」
「ま、まあ原因はやはりパトリックにあったらしいからな……」
「なんというか……キミに謝られると後が怖いくらいだ」
今までチンピラ的な対応しか彼はされてこなかったせいか、あわてふためく三人に、取り敢えずもう一度だけ頭を下げたイッセーは、エレノーラと取り巻き達と共に見ていたユミエラとアリシアの元へと歩く。
「行くぞ……って、なんだ遊んでんのか?」
「遊んでませんわ。お茶会です」
「井戸端会議ねはいはい」
「貴族のお茶会をそんな下劣なものと同一にしないでくださいまし! まったく……爵位を持ったのならアナタもそれなりの品位をですね――」
当然、エレノーラがそのイッセーの野蛮極まりない行動についての小言を言い始めるが、聞く耳なんてまるで持たないイッセーはさっさとユミエラとアリシアを抱えて立ち去るのだった。
ちなみに、パトリックはストレスで抜け毛が更に酷くなった学園長にしこたまキレられた後、通算四度目の謹慎処分となるのだった。
「本当にさぁ! なんでそうやってわざわざ彼を怒らせちゃうかなぁ!!」
「わ、私はただ―…」
「ただ……じゃないんだよぉ!! キミがいちいち彼を怒らせてくれちゃうせいで後で皺寄せくるのこっちなんでよねぇ!? 抜け毛と白髪が半端無いんだよねぇぇぇぇ!!!?」
「………」
形だけとはいえ、国王直々に大公の地位を与えられる事になったイッセーは、下手をすればユミエラの両親よりも高い地位に居る。
ユミエラ自身は何度かしかない手紙のやり取りしかしていない両親のことはよく知らないし、なんなら最早興味もないのだが、恐らく両親もイッセーの事は知っている筈だ。
「パトリックの事はこの際どうでも良いわ。
イッセーが手に入れた地位をどうにかして有効活用しないとね。
会ったことがない両親も今のイッセーとなら文句も無い筈だし」
「ふふふ、卒業が待ち遠しいねー?」
大公の地位ばかりか、現国王と個人的な友好条約を結んでいる男となら誰もなにも言うわけが無いし、なんなら重婚だって問題にもならない……と、アリシアと共に来る未来を想像しながら、今日も健気に豊胸マッサージをする。
「やん……♪ くすぐったいよユミエラちゃん♪」
「んっ……♪ アリシアこそ……」
「………………」
本来なら敵同士だったユミエラとアリシアが、バグの塊のような男を知った事で、最早親友通り越して姉妹のような仲へとなり、豊胸の為に互いの胸を揉み合っている――――という光景を微妙な顔をしながら見ているイッセー
「や、やだ……イッセーに見られると変なキモチに……」
「あぅ……お腹が熱い……」
「こっち見んな。なんもしねーかんな」
「「え~?」」
そんなイッセーの視線に気付いた二人がわざとらしく艶かしい声と表情をしながらモーションをかけるのだが、テーブルに肘を付いて頬杖をつくイッセーのノリは悪い。
「それ終わったらチビドラゴン達の所に行くぞ」
「「はぁい……」」
あまりのノリの悪さに、密かに酒でも飲ませてやろうかとすら思うユミエラとアリシアなのだった。
もっとも泥酔せずとも完全に眠りさえすれば―――
「も、もうイッセーったら……!」
「私もユミエラちゃんも出ないのに、ずーっと赤ちゃんみたいにちゅーちゅーするせいで、こんなに跡になっちゃったよぉ……困ったなぁ~?」
「…………………」
色々されるようにはなるわけで……。
何故か別々で寝ていた筈のイッセーが朝起きると、半裸状態で頬を紅潮させたユミエラとアリシアが其々左右から腕に組付いているのは――もれなく責任案件その3だった。
補足
簡単な人物紹介。
ユミエラ・ドルクネス
乙女ゲーの悪役令嬢キャラに転生した元女子大生。
静かに生きるを当初の目標にしたのだが、前世で読んでたラノベ主人公(後々原作とは違う人生を生きてたと知る)とあり得ぬ邂逅を果たす事で、元からファンだったミーハー心にファイヤーした。
原作以上の過酷かつ鬼畜トレーニングにより、さっさと99の限界値に到達したばかりか、関わりを避けるつもりだったこの世界の主人公とウマが合った事で色々と弾けとんだ。
結果、今の彼女はイッセーとアリシア以外は押し並べて平等に雑草という価値観になっている。
ちなみに胸のサイズはイッセー曰く、ゼノヴィアの半分以下
アリシア・エンライト
この世界の主人公だった女の子。
イッセーというバグの塊と、彼の持つ鬼畜パワーに魅入られてしまった悲劇のヒロイン――なのだが、本人は本音を語り合える姉妹のような親友を得られたのもあって割りとハッピー
イッセーが爵位を手に入れたことにより、ユミエラと一緒に貰われる気満々。
イッセー
色々あってチンピラ人生送ってた赤龍帝。
興味本位でユミエラ――そしてアリシアを引き上げると同時に情を抱いた疑惑浮上。
特に付き合いがなんやかんや長いユミエラに変な輩が近寄るものなら、比喩無しに八つ裂きにする。
それをユミエラは止めもせず、寧ろ束縛されたがりなものだから始末におえない。