マジでただの閑話休題的な話
もしものベリーハードからの精々シリーズの更にもしも。
転生者云々はあれど一夏や箒達が転生者を知らずに育ち、また出会いもなかったら。
そして少年の運命を変える出会いが無く、世界を超えた先に出会いがあったらなば。
復讐を果たす為に親代わりでもあった相棒の龍と共に地獄のような世界を爪を研ぎながら生き抜いてきた少年は、自分の運命すらも変える出会いがなかったせいか、戦いに敗れて死ぬ定めのはずであった。
しかしその尽きる筈だった命運は奇跡と共に拾われたのだ。
とある世界のとあるご自宅の中庭に文字通りボロボロの状態で降るという形で。
本来ならば絶対にあり得ぬ出会いが、復讐だけを人生の糧にしてきた少年の心を少しずつ本来の少年へと揺り戻し、やがてその出会いにより愛を知った。
此れはそんなもしもの話。
薄汚い人間の少年が救われたあの日、少女の運命が変わっていったという小さなお話――のオマケ話。
その1・『狂犬』
イレギュラーによりその後の人生をねじ曲げられた者も居れば、イレギュラーによって人生――というよりは価値観をねじ曲げた者も居る。
織斑一夏はまさに後者に該当する少年であり、イレギュラーである神崎マコトとの出会いと共に過ごした月日により、彼の価値観の中心はマコトとなっている。
故に一夏はマコトと姉――そして協力者である幼馴染みの姉以外への態度は全て『押し並べて平等』であり、早い話が興味をまるで持たない。
マコトや心を許した者以外には一切懐かない野良犬。
自身のテリトリーを土足で踏み込もうとする者には誰彼構わず敵意を剥き出しにする狂犬。
それがイレギュラーによって価値観が変わっている織斑一夏という少年なのである。
そんな織斑一夏にとって兵藤イッセーという男は、一学年先輩であることは踏まえた上でとても気に入らない男だった。
自身にとって命よりも優先する親友のマコトが懐いているのもそうだが、あの男はISの操縦技術こそ恐らくは自分と互角であるが、生身の戦闘力が自分の上であるのが気配でわかってしまうのだ。
故に一夏にとって一誠という男は気にくわない以上に、様々な意味で今後乗り越えなければならない壁でもあるのだ。
「一夏! 今日は休みだし、街に遊びに――」
「悪い、オレ今日は用事があるんだ」
「よ、用事だと!? 私達よりもその用事とやらの方が大事だというのかお前は!?」
「そうだが? それがどうした?」
一誠、そして謎の赤い鎧を纏う何者かと白い鎧を纏う何者か。
一誠はともかく、正体すら未だ掴めぬ両者とはこの先どこかで再び会うことになるという予感を持っていた一夏は、本来なら圧されがちになる『友人達』の誘いをあっさりと拒否する。
「だ、だったらその用事を教えてください! 私達も一夏さんの用事に付き合いますわ!」
「結構だ」
「何故だ!?」
「キミ達が居ると邪魔になるから」
『』
それでも食い下がろうとする女子達に、どこかの天災博士を彷彿とさせる辛辣な言葉で切り捨てると、財布と携帯を持って部屋を出ようとする。
「あぁ……。キミ達がまさか尾行だなんだとつまらない真似をするだなんて思わないけど、もしもしたら―――――オレはキミ達の記憶を消し飛ばす為なら何でもやってしまう自信があるし、二度とオレの前に現れなくしてしまうかもだから」
『』
念入りに釘を刺して……。
さて、徹底的にラブコメの波動フラグを自らぶち壊す一夏が向かった先は珍しくマコトのもと―――ではなかった。
一夏は先日行われたISのタッグ戦での経験により『今のままではダメだ』と己の弱さを再確認する事で、徹底的な鍛え直しと更なる力を求めるようになった。
(兵藤先輩、そして更識姉妹や布仏姉妹――そしてマコト。
悔しいが今のオレではこの人達の足元にも及ばない)
モノレールを乗り継ぎ、目的の場所へと向かう中、一夏はモノレールの窓から見える景色を見つめながら己の力の無さを素直に認めている。
ISとは違う、漠然とした感覚でしかないが、なにか違うモノを持つ者達。
姉とはまた違った強者の気配を持つ者達を先日の件で知った一夏は姉の親友がSF映画を観て適当に編み出した剣術だけでは到底届かないと悟った。
だからこそ一夏は頭の中に思い浮かぶ『強者達』と、その領域に居る『親友』に追い付き――いや、追い抜かんと、ただ学生生活を送るだけの日々を終わらせる事にしたのだ。
(待ってろよマコト、オレも絶対にそこに行くからさ。
そして兵藤先輩……! オレは必ずアンタを超える……!)
ここ数年、マコトとの日々だけに満足していたことですっかりぬるま湯に浸っていたと猛省する一夏は、その心に年相応の情熱の炎を灯らせながら、協力者であり――師でもある彼女のもとへと向かうのだった。
天然の規格外と揶揄される女性にとって、親友の弟である一夏は、笑えてしまうほど価値観が似ていた。
自分にとって色のある存在以外は押し並べて平等にゴミ――という価値観を教えた訳でもなく持っていた一夏は、自分とは違って器用な方ではない。
だからこそその危うさも理解していた篠ノ之束は、妹よりも誰よりも親友である神崎マコトの為だけに生きようとする一夏を影ながら手助けをしてきた。
その事実は親友の千冬も、そして妹の箒も知らない。
もしも知れば千冬も箒も良い顔はしないだろうし、箒に至っては自分を恨むだろう。
それを承知の上で、束は一夏という――皮肉にも世界の誰よりも『お互いに理解し合えてしまう同志』の来訪を迎え入れた。
「やっほー、この前ぶりだねいっくん?」
「っす、今日はお願いします」
「まっかせなさーい! じゃあ早速白式を見せて貰おうかな?」
とある片田舎の山奥にひっそりと建っている小屋。
外見こそ寂れた山にぽつんと打ち捨てられた小屋という見え方だが、その中身は束自身が改装と改造をした立派な小型ラボであり、一夏と束の密会場所でもあった。
「この前見たばかりだから特に目が付くような成長はないみたいだね」
「……。訓練機に乗った兵藤先輩に危うく負けかけましたからね……」
「うん、箒ちゃんと組んだ『更識のわんころ』でしょ? いっくんはそいつを超えたいんだっけ?」
「ええ、ISに関してはともかく、あの人は恐らく『向こう側』に立っている。
あの人だけじゃなく、更識姉妹もその従者とやらの姉妹も……」
「規格外を超えた超越者がそんなホイホイ出てこられても困るんだけど、直接やりあったいっくんが言うんだから多分そうなんだろうね」
白式のコアの様子を見つつ機体メンテナンスも同時にこなした束が、待機状態に戻した白式の腕輪を一夏に返すと、特に一誠への対抗心に燃えている様子の一夏と向かい合うように座る。
「結局あれから赤い奴と白い奴の姿は見つけられないし……。
ちょっと余所見してる間に世の中も変わったもんだ……」
「……。奴等を覆ってたあれはやっぱりISじゃないんですか?」
「うん、それだけは間違いない。
でもどこかの国がISに対抗した兵器を作り出したって感じでもないし、ホント面妖な奴等だ」
お土産として持ち込んでいた飲み物とお菓子を食べながら話す束に一夏は難しそうに眉間を寄せる。
「ま、考えても解らない以上やれることをやるしかないんじゃない? この束さんが後手に回んなきゃならないってのはムカつくけどさ?」
「そうっすね……。
じゃあ束さん、準備が出来たらお願いします」
「ん……それにしてもこうしていっくんのお相手してるなんてちーちゃんや箒ちゃんに知られたら祟られちゃうかもねー……」
「千冬姉は話せばわかってくれます。
妹さんはよく知りませんけど、ガタガタ言ったところで無視ですよ無視」
「束さんへのいっくんの優しさをそのまま箒ちゃんにも分けてあげて欲しいんだけどなぁ?」
「嫌ですね。
彼女の事は暫く見てましたけど、こっちが下手に出ると付け上がるタイプですから。
束さんが彼女を大事に思っているのは重々承知していますけど、こればかりはどうにもできません」
一夏にとって箒とは、六年くらい前に別れた師の妹という認識からまるで変動が無く、そればかりか最早最近は名前すら呼ばなくなりつつある。
「彼女は昔からマコトを嫌ってましたからね。
いや、別に嫌いなら嫌いで構わないんですよ? 人には誰しもどうしても合わないと思う相手も居ますからね」
「あー……」
それはマコトを不動の頂点とした一夏の持つ好感度が、ここ最近になって束と直接会う機会が増えた事で、元から千冬並みに高かった好感度に変動が発生したからだった。
「それと同じです。
オレにとって彼女はどうしてもその他の人という感覚なんですよ……。
まあ、束さんの妹さんだからある程度は友達をさせて頂いてますがね」
「困ったことに、その気持ちがわかってしまうんだよなぁ……」
マコトと姉と束以外の全てがどうでも良い――仮にも箒の姉である束にすら堂々と言ってのけてしまう一夏に、束はどうしてもその気持ちがわかってしまうばかりに困ったように笑ってしまう。
「だから、マコトや千冬姉と同じく――今は半人前の半端者なオレだけど、必ず束さんを守れるような男になります」
その反面、自身が受け入れている相手へは果てしなき献身性を示し、それこそ己の命すら簡単に捨てる。
「ねぇ、それわかってて言ってるの?」
「? 勿論わかってて言ってますけど?」
「あ、そ……。
あのさ、1分くらい束さんの顔見ないでくれるとひじょーに有りがたいんだけど……」
「え、なんで……」
「……。顔が熱くて仕方ないの。
それ以上そんな顔と目して言われたら爆発しそう……」
「は……はぁ」
その残り二人だけにしか向けない献身性をよりにもよって自分に向けられる束は、親友の弟相手にここ最近乱される心をまた乱されながら、両手で顔を覆いながら首を傾げる一夏に背を向けて丸くなってしまうのであった。
(し、心臓がばっくばく鳴ってるし……。
あーもう……! なんで私なのさ? いっくんのおバカ……!)
「あのー、具合が悪いとか?」
「わ、悪くなったんだよ! 今いっくんのせいで!」
「え……」
その2・空色の花嫁
ある意味で運命的な出会いにより、お互いの運命が変化した二人の少年と少女ことイッセーと更識刀奈は、周囲の誰が見ても互いに好き合っているのがわかる。
だからこそ学園のクラスメート達(イッセー以外女子)はそんな二人を生温い目で見守る訳で……。
「更識一誠かぁ……」
「急にどうした……?」
「いえね? もしイッセー君が婿入りした場合は更識姓になるなと思って……」
そんな――どちらも実は若干ヘタレでもあり、割りと初な面のあるペアは学園の寮の部屋も一緒というのもあり、何時でもどこでも行動を共にしている。
この日も休日ということもあって、日課のトレーニングを終わらせた後、部屋でのんべんだらりとしながら他愛のない会話をしている。
ぬぼーっとした顔でソファに座っていた一誠の隣に刀奈が座り、頭を一誠の肩に乗せながら。
「この前、どっかの権力者の息子が私を強引に婚約者にするって話があった時、イッセー君がバチキレてその権力者もろとも地図から消滅させちゃったでしょ?」
「あー……あったな。
あのボンクラ野郎が刀奈に触れた瞬間、ぷっつんしちゃってついな……」
「他の権力者もその話を聞いて、政略結婚は不可能だって理解して貰えたから全然良いのよ。
元々私にそんな意思なんて無かったしね。
ただ、そうなってくるといよいよイッセー君を本格的に捕まえなさいってお母さんが……」
「え、良いの?」
「寧ろ嫌だと思ってたの?」
今までの荒んだ人生故に、好きという感情すらここ数年前まで皆無だったイッセーにとって、初めて明確に好きだという感情を抱いたのが刀奈であり、刀奈もまた明確に好きだという感情を抱いたのがイッセーだった。
つまり変な所で似た者同士であり、似た者同士だからこそ実はお互いに対する独占欲が割りと強めだったりする。
「酷いわ……! 嫌だったらこうやってイッセー君に甘えたりしないのに……!」
「わ、悪い悪い! 寧ろ刀奈の方こそ嫌じゃないのか? 俺だぞ? それこそ他所から来た訳のわからん野郎だし……」
そしてお互いにヘタレな所があるせいで、一歩踏み込めてはいない――それがイッセーと刀奈の現状だった。
更識簪は更識刀奈の妹だった。
活発的な姉と比較すれば、どこか大人しい印象を受けるのが簪という少女なのだが、その中身はどこかおっさんじみていたりいなかったりする。
そんな簪は自身の姉と近い内にマジもんの義兄になる予定――いや、なって貰うので確定しているイッセーのヘタレ具合にヤキモキさせられる事が従者共々多々ある。
「この前のイッセーの大暴れのお陰で、更識を知る連中は次期当主には既に男が居ると広まっている。
つまりお姉ちゃんを阻むものはなにもないって事なの、お分かり?」
「わ、わかってるわよ……」
故にヘタレな姉を時折呼び出してはぐいぐいと背中を押しまくる言葉を送っていたりするわけで。
この日も寮の部屋すら同じで就寝をも共にしているというのに、何時まで経ってもそこから何も起きなければ起こしもしない姉に発破をかける。
「知らないだろうから言うけど、ここ最近イッセーの評判が一年の女子を中心に良い意味で広まってるんだよ。
中にはお近きになりたがる人とかも……」
「えっ!?」
「だから、そうやって何時までもうじうじいじいじしてたら割りと本当に取られるよ? 嫌でしょそんなの?」
一年の女子達の何人かが、イッセーに対して好意的な目を向けていると煽る簪だが、簪自身はそんな声が出てもイッセーは絶対に靡かないだろうとは思っている。
だが、こうでも言わなければ何時まで経っても正式に付き合ってるのかいないのかもよくわからない関係のままなので、簪は敢えてそう言った声が上がっているぞと姉に発破をかける。
「ど、どうしたら良いの?」
案の定、イッセーに関する事ならなんでもかんでもチョロい刀奈が暗部の次期当主とは思えない不安そうな表情で訊ねてくるので、簪は内心黒い笑みを溢しながら姉に耳打ちをする。
「………!」
簪から耳打ちをされた瞬間、刀奈の顔は真っ赤に染まる事になるのだが、ナニを言われたかについては――お察しだろう。
―――――という話が前日にあり、刀奈は普段より若干勇気を出してのアプローチをすることになった。
例えばイッセーの入寮日初日に敢行したマジもん裸エプロン姿でのお出迎えをやってみたり、今のようにちょっとだけ何時もよりはスキンシップを多めにしてみたり等々、簪に言われた通りイッセーが獣にさせようと色々とやってみた。
「今度の帰省の時に、両親に土下座するか……」
「え、それってつまり……」
「うん……俺刀奈のこと好きだからさ。
結婚さしてくれーって………」
やってみた結果、刀奈的には一番イッセーから引っ張り出したかった言葉を聞くことが出来たので、思わず勢いで押し倒してしまう。
「私と本当に……いいの?」
「おう……」
「………ふふ♪」
何度も聞いてはその度に頷くイッセーに、刀奈は嬉しさと安心で頬を緩ませながら、押し倒したイッセーをそのまま抱き締める。
「嬉しい……。
あはは……大好きっ♪」
「お、おう……。あのよ刀奈? そんなくっつかれるともろもろが当たっててよ……」
落ち着かなさそうに身体を揺らすイッセーだが、刀奈は構わずその身体を抱き締め続け、やがてイッセーの手を自身の胸に押し当てる。
「ね、ねぇイッセーくん。
夫婦になるんだから、その……予行練習とかしない?」
「な、なんの?」
「え、えっと……プロレスごっこというか、寝技の掛け合いというか……。
え、えっちな事……」
「…………」
そしてそのまま勢いでイッセーを獣にさせようと頬を赤らめながら誘う刀奈にイッセーは――――――――
「「………」」
「おおぅ……これがリアルなバキS◯G◯現場って奴かぁ」
「なあなあ、何故丸めたティッシュが二人の部屋中に散らばってるんだ?」
「うーん、ラウラにはまだ早いかなぁ……? まずは保健体育の教科書でお勉強しないとね?」
「む、同い年なのに子供扱いするな」
「既にご実家には連絡済みです。
イッセー君とお嬢様は至急帰るようにと……」
「宴じゃー! やったねドラちゃん! 次は私達だね?」
『オレは肉体を持たん』
閑話休題・空色の花嫁
補足
この一夏こと主人公は信じられないくらいドライです。
転生者こと神崎マコトと姉と師でもあった束以外は基本石ころとしか見なしません。
だからここ最近の束さんは一夏の無自覚言動のせいで割りと脳が焼かれ気味。
その2
その頃、更識組はついにS◯G◯したヘタレコンビに宴していたのだった……