予想はしていた。
ああ、どうせこうなるんだろうなとも思ってたよ。
「そうか……俺がラーメン王の旅(博多付近)に出ている間にそんな事があったんだな?」
「大変だったなイッセー?」
「おう」
今、俺の目の前には銀髪の男と、黒髪の男が居る。
この二人は俺にとっちゃあ数少ない――友達と呼べる者達だ。
「しかしイッセーがなぁ……?」
「ああ、他人に絶対に懐かないイッセーがなぁ……?」
「…………」
どちらも俺と同じく神滅具を宿し、俺と同等の実力を持つってだけの人外。
そんな二人の友人はとても―――
「「ブワーッハハハハハハハ!!!」」
性格の良い奴等だ。
思わず今の俺の状態に対してバカ笑いしまくるその顔面を一発ずつジャイアンパンチしてやりたくなるくらいにはな……。
「な、なにがどうなってそこら辺の悪魔の下僕になんてなったんだお前は!? ブワッハハハハハ!!」
「しかもソーナじゃないのが余計に笑える――がはははは!!!」
「……………………………………」
それが俺の友達……ヴァーリと神牙という気の良いバカ二人なのだ。
案の定イッセーがソーナではない他人の悪魔の下僕になってしまったという話を聞いた途端、イッセーとソーナの友人であるヴァーリと神牙はこれでもかとイッセーを笑いまくった。
「ひーひー!」
「ここまで笑ったの久々だぞイッセー――ぷっくくく……!」
暗めの銀髪に蒼い目を持つ少年ことヴァーリと、漆黒の髪に鋭い目付きをした青年こと神牙の顔を歪めながらの大爆笑はこうして暫く続く事になるのだが、元々自分の間抜けさが招いた事でもあるのだという自覚を嫌でもしていたイッセーはとにかく堪えていると、それを見兼ねたソーナが口を開く。
「そこまでにしておいて欲しいわ。
あまり虐めるとイッセーが泣いちゃうでしょう?」
そう言いながらイッセーに腰の辺りに腕を回されて抱き枕にされるソーナの機嫌は良かったりする。
「くっくっく……!
あ、あぁ分かってるよソーナ。
俺達も先に話を聞いた時は笑わないようにと思ったのだが……」
「イザこうして本当に弱くなっているイッセーを見てしまうと……くくくくく!」
「良いさ、予想してたんだ。とことん笑えよ俺を……」
「もう二人も笑わないから大丈夫よイッセー」
少しは落ち着いたらしいヴァーリと神牙は改めて転生悪魔になってしまった事で大幅にパワーを落としている状態の――今はソーナのお腹辺りに顔を埋めて不貞腐れているイッセーを見つめる。
「しかし実際問題ここまで弱くなっているイッセーを見ていると、転生悪魔になるだけでここまでの弱体化するのか。
逆を返せば悪魔の駒とやらはかなりの拘束力を持つことになるな」
「本来なら転生させた側の力量が足りなければ転生なんて不可能なのよ。
ただイッセーの場合は間の悪さが重なってね……」
「俺も大概だが、お前もとんだ不運だったようだなイッセー?」
「………あぁ、面白ネタをお前らに提供できたみたいで良かったよ」
笑われた事を根に持つような言い方に、ヴァーリと神牙は気安そうに引き続きソーナを抱き枕にしながら顔を埋めっぱなしのイッセーの背中をバシバシと叩く。
「悪かったよ。
もう笑わんさ……」
「ああ、それに聞いた話が本当ならその状態で居るのも後少しなのだろう?」
「ええ、本当かは別にしてもね……」
「……」
ソーナとイッセーから予めある程度の話を聞いていたヴァーリと神牙が自分の席に戻ると其々用意していたラーメンとハンバーガーを頬張りながら頷く。
「そのフェニックスとやらとの喧嘩に勝てばの話だったな? 本当に信用できるのか? 一介の悪魔が仮にも四大魔王の一角が開発した悪魔の駒のシステムを抜き取れるとは思えんぞ」
「わかっているわ。
どちらにせよ悪魔の駒のシステムに関してはアザゼルに頼む予定ではあったもの。
けれど喧嘩を売られたからに買わないといけないでしょう? ……今のイッセーでは勝つのは難しいけど」
「ああ、だからその為のトレーニングの相手をしろというのだろう? 勿論引き受けるさ。
笑いはしたものの、イッセーには元に戻って貰いたいのは本当だからな」
「……………。おう、悪いな」
こうしてフラフラとしていた親友二人を呼び戻したイッセーは、ライザーの指定した期日の間の全てをトレーニングに費やす事になるわけだが……。
「先ずは取り敢えず今のイッセーが出せる全力がどれ程のものかを確かめたいな」
「よし、ならば俺が相手をしよう。
イッセーと俺は『同じタイプ』だからな」
「ならば神牙君には私のお相手をお願いしましょうか。
少しでも腕にこびりついた『錆び』を落としたいもの。
ほらイッセーそろそろ……」
「あと1分」
「も、もう……。
流石にこんなに見られてる前でそんな犬みたいにくんくんされるのは恥ずかしいのに……」
「本当に、ソーナにだけはシベリアンハスキーみたいに懐く奴だ……」
「そろそろ子供が出来たと言われてもあまり驚かない自信があるぞ……」
そんなやり取りを経てソーナ成分を吸収したことで機嫌も戻ったイッセーが三人と共にトレーニングをしようとした時にそれは起きた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」
実はこの会話はイッセーの自宅のイッセーの部屋にて行われていたのだが、この四人の他にもメンツは居たのだ。
それが、会話の最中完全に眼中に無いとばかりにスルーされていたリアス・グレモリーと愉快なお仲間達であり、さっさとトレーニングをしようと外に出ようとするイッセーとソーナ――そしてリアスからしたら初対面である青年二人を呼び止める。
「………なんすか?」
「今からトレーニングをするのだけど、なにか用でも?」
そんなリアス達の困惑した様子に対して、イッセーとソーナは最早赤の他人だとばかりな塩対応である。
「わ、私達も手伝うわ。
その……イッセーのトレーニングを……」
「「「「…………」」」」
ライザーの婚約話を突っぱねようとした事から始まった今回の件は、気がつけば完全に蚊帳の外に飛ばされてしまったリアス。
自分を置いてけぼりに勝手に話が進んだ結果、棚からぼた餅的に婚約話が解消された彼女としてはラッキーだとほくそ笑むべきなのだが、それはそれとしてまだ一応は眷属である筈のイッセーが、どんどん自分達を放置してソーナやら見知らぬ者達と先に行ってしまう事にとてつもない不安を感じたらしい。
「せめてそれくらいはさせて欲しいのよ……」
なので今後イッセーが自分の眷属を辞める辞めないの件は今はさておき、紛いなりにも自分達の代りにライザーと戦う事になっているイッセーの手伝いをしようと眷属達と共にイッセー宅へと押し掛けて声を上げたのだが……。
「キミ達がイッセーのトレーニング相手になるだって?」
「…………。その赤髪とグレモリーという名で思い出したが、君はサーゼクス・グレモリーの妹だったな?」
「そ、そうよ? だからイッセーのトレーニングの相手くらいなら私達にも出来るわ」
「「「「…………」」」」
イッセーよりも早くヴァーリとと神牙が、トレーニングの相手を申し出たリアス達を数秒ほど見つめる。
「本当に不思議だ……」
「な、なによ?」
「キミ程度が何故イッセーを眷属にできたのかだよ。
どこからどう見てもキミ達からは『普通』のモノしか感じられない」
基本的に言動がナチュラル煽りになってしまう神牙と、天然故に思った事をそのまま言ってしまうヴァーリの言葉にリアスはムカッとしてしまうも、ぐっと堪える。
「ああ、キミ達がイッセーに対して何を思うかは知らないけど、その申し出は断るよ」
「正直キミ達では実力不足なのでね」
『………』
寧ろイッセーのトレーニングの邪魔になるだけだとハッキリ言うと同時に、二人の言葉に反応して殺気立ったリアス達の背後に一瞬で回り込むヴァーリと神牙。
『っ!?』
「ほら、この程度の速度に反応できない時点でキミ達ではイッセーのプラスには成り得ないな」
「ソーナから聞いたのだが、例のライザーとやらはキミの婚約者だったのだろう? それが今回の件でその話も立ち消えになったのなら大人しくしておけば良い」
親友を偶々眷属にしただけのただの他人が入ってくるな。
そう言外に話した二人の怪物にリアス達は動くこともできず、そして何も言い返せない。
「で、でも私はイッセーさんに命を救われました。
だからそのお返しをしたいんです……!」
そんなリアス達の中から、先日思いきり辛辣な言葉を送られたアーシア・アルジェントが声を出すのだが。
「それ昨日も言ってたけどさ、俺は別にキミの命をなんて救った覚えなんてないよ。
偶々あの女堕天使にカチコミかけたらキミが神器引っこ抜かれて死んでたってだけで別にもなんとも思ってなかったし。
命を救ったってんならそれは部長さんの方だろ?」
「…………」
イッセーは心底興味のない目をしながらアーシアを見やり、全く以てときめかない言葉を返す。
「そんな言い方……。
じゃああの時、どうしてレイナーレを倒しに行こうとしたんですか?」
そんなあんまりな言葉にアーシアは泣きそうな顔をしながら俯き、それを見た白髪の少女こと塔城小猫が非難めいた目をしながらイッセーに抗議する。
「理由? 簡単簡単、ただの八つ当たりだよ。
俺をこんなザマにしてくれてどうもありがとう! お礼にぶっ殺す! ってな」
「……………」
レイナーレを倒しに動いた理由がただのお礼参りで、それ以上でも以下でもないと返すイッセーに小猫は幻滅したとばかりに顔をしかめた。
「ちょっとだけ、アーシア先輩の為に動いたと思ってた先輩の事、ほんのちょっとだけ良いなって思ったのに、幻滅しました……」
「あっそう。
俺からすれば、欠片も印象も無い小娘に勝手に期待されて勝手に幻滅されてるってだけの事だからな」
「……最低です、アナタは」
何を言っても自分達への無関心を貫くイッセーに今度こそ幻滅する小猫だが、そんな彼女の気持ちすらをも無関心に鼻で笑うイッセー
「ははは、勝手に人に期待して、テメーの思う通りの奴じゃないとわかって幻滅してるようなガキに言われたところでなぁ?」
「…………」
「まあ良いさ。
とにかく、アンタ等の眷属もそろそろ辞めるんだ。
とっととお互いに、お互いには無関係の人生とやらを歩めるようにしようじゃあないか?」
最早取り繕うことすら辞めてしまったイッセーがそれだけをリアス達に言い捨てると、神牙とヴァーリとソーナを連れて部屋を出ていく。
「……」
「部長……」
「本当に、僕達の存在は彼にとってそこら辺の石ころと同じなですね……」
「考えてみたら、最初からどこかドライでしたわね……」
「イッセーさん……」
「私はガキじゃない……! シトリー様に甘えてる先輩の方がよっぽどガキです……!」
残されたリアス達の胸中に残るものは、ただの空しさだけだった。
「それで? 本当にソーナの眷属の男がソーナを盗撮していたのか?」
「ああ、俺とソーナちゃんが通ってる学校のクラスメートを脅して裏取りしたよ。
そもそもあの野郎、ソーナちゃんに一目惚れして自分から眷属になろうとしてやがったからな……」
「まさかそうだとは思わなかったわよ私は? そうだったとしても私には興味無い話だし……」
「ソーナは結構そういうところが鈍いからな……。
それで? その男はどうなった?」
「ああ、可能な限り全身の骨を粉々にしてから、ホ○趣味のこ汚いおっさんに30円で売ったよ。
へ、今ごろ公衆便所でお楽しみなんじゃねーか?」
「弱くなってても本当にソーナ関連のことは容赦ないな……」
「当然だろ。
ちゃんとソーナちゃんの盗撮の依頼をされたクラスメートからはマスターデータとフィルムを強奪したしな」
開戦まで残り9日。
「ああ、貴女達とは初対面だったわね。
こちらに銀髪の彼はヴァーリ君で、こちらの黒髪の彼が神牙君。
この子達は私の一応の眷属達よ」
「ヴァーリだ。
ソーナとイッセーのトモダチってだけのただの白龍皇だ」
「神牙だ。
同じく、ソーナとイッセーのトモダチってだけのただの黄昏の聖槍使いさ」
『…………えぇ?』
終わり
補足
三バカ降臨。
基本的にフリーダムな人生歩んでるので、無駄に子供っぽさがある。
バチキレたイッセーにズタズタにされた彼は――――――まあ、はい。
その2
知らなかったイッセーとソーナの交遊関係にどうしたらわからなくなるリアス達。
挙げ句、取り繕うことを完全に辞めたイッセーの本質が『それ』か『それ以外』という極端思考過ぎて凹む。
その3
簡易人物紹介
イッセー
基本的に『それ』か『それ以外』の両極端でものを考える狂犬赤龍帝
親にすら言えなかった本質を初めて受け入れてくれたばかりか同じ気質だったソーたんに恋して早10数年。
確かにおっぱいフェチなのだが、その対象がソーたんのだけ。
というか周辺と比べたら不足気味であることを気にしてるソーたんにひんぬー言って怒らせる癖に、ソーたんのにしか興味無いという割りと歪んでる男。
ソーたんの見た目だけが好きなのかと中学時代に悩んだ挙げ句、ソーたんとお互いにバラバラのミンチになってみたりしたけど、その状態でも心が変わらなかったと歓喜しちゃうヤベー男。
ソーたんに近寄る野郎はトモダチと師匠達以外は基本死ねば良いと真面目に考える狂犬っぷりのせいで、これまで行方不明になった男は数知れず……。
その内、シスコンの姉とソーたんを巡ったガチの殺し合いをするフラグ乱立中。
ソーナ・シトリー
別にまな板ではないが、周辺の人材と比べたら足りない事をちょっと気にする眼鏡っ娘悪魔。
理由は中学時代にイッセーからひんぬー言われたからなのだが……。
その外見からして真面目そうな娘さんだが、彼女もきっちり歪んでるので中身はドロッドロの異常者。
幼少の頃の偶然の出会い以降、最早肉親すら関心を無くし、犬のように懐くイッセーと永久に共に生きながらデロンデロンに甘やかす事が夢。
レーティングゲームの学校? 興味無いですね――とは彼女の弁。
イッセーの過激さに隠れがちだが、彼女も彼女でイッセーに異性の影が出てくるだけでガッチガチに嫉妬するし、全力で消しにかかる程度にはアグレッシブ。