しかしテクニックまで無くしたなんて誰が言った?
勝てば自由。負ければ奴隷。
解釈は微妙に違うのかもしれないが、俺にとってはそれに近い状況であるのは多分間違いない。
しかしこれは思ってもないチャンスでもある。
俺とセンパイの関係性をカミングアウトしただけのつもりが、思ってもない話が舞い込んで来たのだからな。
まあ……その話をいきなり持ちかけてきたフェニックスとかいう悪魔の言ってた事をそっくりそのまま信じるつもりは無いにせよ、要は勝てば良いんだ。
フェニックス達の実力がどれ程のものかはわからないし、今の俺は笑けてしまうくらいに弱くなっているとしても、勝たなければならない。
勝って、ここ暫くの間起き続けている鬱陶しい状況をまもとめて精算してやるんだ。
『勝負の日取りは追って連絡する』
そう言ってから、リアスとの婚約の話云々の全てをせずに、割りと困惑しているグレイフィアと共に冥界へと戻っていったライザー・フェニックスによってもたらされた思わぬチャンスをモノにせんと、イッセーはソーナと共に力を可能な限り取り戻す為に行動を起こそうと立ち上がる。
「待ちなさい……!」
が、そうは問屋が降ろさないのは当然の流れであり、ライザー・フェニックスとの婚約話が有耶無耶なまま――しかもライザー本人から『元々お前には興味もない』と言われてしまったリアスからすれば、己のプライドを著しく傷つけられた事もあるし、何よりもイッセー自身が己の預かり知らぬ秘密を持っていた事が、ぶつけようのない怒りを増幅させるのだ。
「なんすか? こっちは出来る限り本来のパワーを取り戻す為のトレーニングをしたいんですが?」
「アナタとしても良かったじゃない? 私もライザー・フェニックスのことはあまりよく知らないけど、あの様子じゃあ黙っていてもアナタとの婚約とやらを解消してくれそうだし?」
「そういう問題ではないわ! まずイッセーとソーナの関係性についてよ!? アナタ達は何時からそうだったの!?」
さっさと部室から出ていこうとするイッセーとソーナを眷属達に囲ませながら呼び止めるリアスは、見たこともない薄ら笑いを浮かべながら皮肉を飛ばしてくるソーナを睨み付けながら、二人は何時からの関係なのかを改めて問う。
その質問はリアスの眷属達だけではなく、ソーナの眷属達も同じく気になっていたらしいのだが、約一人を除いてどこか冷静な表情だった。
「えーと、何時からだっけ? たしか俺が4か5才くらいの時に初めてセンパイ―――いや、ソーナちゃんと会ったからその時くらいからだよね?」
「ええ、大体10年以上の付き合いね」
センパイ呼びからちゃん付け呼びに訂正しながら何時からの付き合いであるかを話すイッセーと、それに頷くソーナにリアスは思っていた以上の時間だった事に絶句する。
「イッセー、アナタは私達が最初に悪魔であることを話した時に驚いていたわよね?」
「ああ、そういったリアクションしとけば大体誤魔化せると思ったんで。
それに、ソーナちゃん以外の悪魔と直に会うのは確かにあの時が初めてに近かったですし」
「何故、その時言わなかったの……?」
「聞かれませんでしたから?」
「っ!?」
惚けた言い方のイッセーの返しに頭の中がカッとなるリアス。
「お陰で今まではソーナちゃんとは一々アナタ達の目を盗むなんて真似しなくて良かったんですがね……。
部長さんがそこのアルジェントさんを俺の実家に住まわせるなんて事を言い出してくれたお陰で、面倒極まりありませんでしたよ……ホント」
「…………」
「え、そ、そんな……イッセーさんは嫌だった……んですか?」
「正直に言って普通に迷惑だったね。
キミにも悟らせまいと気ィ張る必要もあったしな」
一切のタイムラグも無くアーシアに向かって無慈悲に返すイッセーに、一応流れとしてはイッセーに『救われた形』だったアーシアはショックで泣きそうな顔だ。
「私はイッセーさんにとって迷惑だったんですね……あは、あはははは」
「っ!? イッセー君! そんな言い方はよせ!」
「アーシア先輩が可哀想です……」
「可哀想? じゃあ何か? 俺にはただ黙ってキミ達のやることなすこと――そして命令をなんでもかんでも肯定して聞けというのか?
俺が一般常識なんぞ語る資格なんてないのをわかってる上で言わせて貰うがな? 赤の他人の、しかもよくも知らない外人女子を家に住まわせるなんておかしいだろ?」
「「…………」」
「っ! よしなさい! それは私が――」
「そうですよ? アンタがいきなり俺に言った挙げ句勝手に俺の両親に話を通してくれた。
ホントにさ………昨日の事といい、女を本気で八つ裂きにしてやりてぇと思ったことはなかったよ」
「う……!?」
あまりにも辛辣な言葉に両手で顔を覆い、膝をついて泣き始めたアーシアには一瞥もくれずに吐き捨てるイッセーの表情は確かにこれまでのストレスを感じさせる苛立ちが見えた。
「彼女の件と、昨日アナタがやろうとしていた件についてはイッセーと同じ気分よ。
正直私は今すぐにでもアナタを粉々にしてやりたいくらいだわ」
「そ、そんなの……アナタだって隠していたのだからお互い様よ!」
「ええそうよ。
カミングアウトしたらこうやって五月蝿い事になるのはわかっていたから黙っていただけだもの。
だから私は改めてアナタに叩き込んで置こうと思って今日こうして来たの。
……まさかライザー・フェニックスからあんな提示をされるとは思わなかったけどね」
ハイライト気味のアメジスト色の瞳でリアスを見据えるソーナに、リアスは悔しげに歯噛みしながらぶつけようのない拳を力強く握る。
「隠してた――いえ、聞かれなかったから答えなかったけだけど、確かに私達のやってきた事も褒められたものではないという自覚はあるわ。
けどこうなった以上―――アナタが自分の我を通す為にイッセーを利用しようとした以上は言うしかないと思った。
この際だから言うわ、アナタ程度がイッセーを眷属にする? ――――――――身の程を知りなさいリアス・グレモリー」
「!!」
しかしそんな怒りをもソーナはそれまで肉親にすら隠し続けてきた『本質』という名の――それこそ魔王を彷彿とさせる異次元の覇気と魔力を以てして黙らせる。
(こ、この寒気のするような魔力――いや、威圧感は!? あ、あのソーナがこんな……!)
幼馴染みのような関係だった。
同い年の好敵手だと思っていた。
だけどリアスはソーナを知っているつもりで、何一つ知らなかった。
自分の遥か先の領域に――今の自分がどう足掻いても届かない場所にソーナは立っているのだと。
「アナタ達も、今まで黙っていて申し訳なかったわね」
「………。いえ、貴女の眷属になる際、貴女は名を口にすることはありませんでしたが、ある程度は話していましたよ。
まさか兵藤君の事とは思いませんでしたが……」
「そう……。
でも今後に関しては貴女達の判断に任せるわ。
元々私は誰かの上に立つような器ではないもの」
「変わりませんよそこは。
会長が本当は眷属を持つつもりがないのをわかった上で、私達は会長の眷属になったのですから……」
「む、寧ろ会長と兵藤君がどこまで進んでいるのかの方が気になってきちゃったり……」
威圧に硬直して動けなくなってしまう事も含め、その興味もない態度やソーナとの圧倒的な差にショックが大きいリアスは、なにやら携帯の画面を見ているイッセーに向かって口を開きかけるのだが――
「あ、ねぇソーナちゃん。
ヴァーリと神牙から連絡返ってきたぞ?」
「あら、二人はなんて?」
「ある程度こっちの事情を伝えたら、会いに来てくれるみたい。
俺のトレーニングにも付き合ってくれるっぽいな」
そのイッセーも最早リアス達には無関心だと言わんばかりに携帯を弄っている。
「思いきり今のイッセーを見たら大笑いされそうだけど、二人を相手にトレーニングをする為だと我慢するのよ?」
「わかってますよ。
……戻れたら一発くらいシバいてやるけどね」
「本当に、私達には最初から興味もなかったのね……」
「イッセーさん……」
眷属にした時から、ドライな面を感じていたが理由を知った今、ある程度納得してしまうリアス達は、ふと同じように真実を知ったソーナの眷属達が次々と今までと変わらないと宣言をしていく中、ただ一人――嫉妬と憎悪といった負の感情を凝縮させた形相をしていた兵士の男子に気づく。
「彼は確か最近ソーナの兵士として転生した……」
他の者と同じくショックを受けていると同時に、これでもかと負の感情の表情を浮かべている少年が、イッセーと同時期に兵士となった事を思い出すリアスは、その形相のままイッセーへと拳を握りしめながら近づいていくのを見て『あ……!』という声を出すが、携帯を見ていたイッセーは気づく事無く、その兵士の少年の助走のついたパンチを思いきり顔面に叩きつけられ、部室の家具を盛大に破壊しながら吹き飛んだ。
「ふー! ふー!! フーッ!!!」
「ちょ、さ、匙君!!?」
突然の状況に誰もが目を剥く中、負の形相のまま拳を握り締め過ぎて血がボタボタと流れている匙という少年は数秒ほどじめん地面にひっくり返った後にゆっくりと身体を起こすイッセーを、それこそ親の仇を前にするかのように睨み付けている。
「いてて……急になんだよ?」
殴られた箇所を真っ赤に腫らせながら冷めた目で匙を見上げるイッセーに、匙は激昂する。
「うるせぇ! テメーが会長とだなんて信じられるか!!」
『…………』
早い話、匙は真実を突きつけられた事でその嫉妬心を爆発させてしまったというだけの話であり、そのわかりやすさ故に匙をよく知らないリアス達ですら一瞬で察するほどの感情を爆発させる匙だが、イッセーは至って冷静に服についた埃を手で払いながら立ち上がる。
「別にお前なんぞに信じて貰う必要なんてないな? …………ただの『他人』がよ?」
一見澄ましてるようだが、妙に刺々しい言い方をするイッセーに匙は反射的に匙の心臓を貫こうとしていたところを全力で眷属に止められていたソーナを見る。
「会長! 俺は信じませんよ! こんな平気で仲間を裏切る野郎と会長がだなんて!」
「………………言いたいことはそれだけかしら?」
「大体、今日の朝から会長はおかしかった! そうだ! きっとこの野郎が会長の弱味をチラつかせて言いなりにさせている! それとも洗脳のような―――」
「「………………………………あ゛?」」
『……………』
匙からすれば確かにソーナがいきなり変わってしまったと思うし、その理由を考えれば突然沸いて出てきたイッセーが何かをソーナにしたからと考えてもおかしくはない。
しかしその発言は、イッセーとソーナからすれば自分達の繋がりを否定されたと同義であり、思わず揃って獣の唸り声のような声が出る。
「俺は認めねぇ! テメェをぶっとばして元の会長に戻してやるんだ!!」
「………………………………………………」
(あ、地雷踏んだ……)
それに気づかない匙は、捕らわれた自分のヒロインを助けるヒーロー的な発言をするのだが、冷静に見ていたリアス達やソーナの他の眷属達は今のその発言が完全にソーナの地雷を踏んだと頭ではなく心で理解してしまう。
「やっぱり、アナタを眷属になんてするんじゃあなかったわ。
……元々他の子達と違って、何故かアナタは自分の方から私を『悪魔』と知った上で眷属にしてくれとしつこく言ってきた訳だけど……」
完全に自分の邪魔になると認識したソーナが、殺意を放ち始めるが、その殺意は後ろから肩に手を置いたイッセーによって止められる。
「良いよソーナちゃん」
「イッセー……」
殴られた事で口の中を切ったイッセーが口の端から流れる血を
拭いながらソーナの前に立ち、殺意をむき出しにする匙に向かって口を開く。
「俺がムカつくのか匙? はは、奇遇だな……俺もお前がソーナちゃんに向けてる目が死ぬほど気にくわなくてな。
―――何度ぶっ殺してやろうかと思ったくらいだぜ?」
イッセーもイッセーで中々な発言をしながら嗤えば、またしても匙が殴りかかろうと血に染まった拳を振り上げる。
しかしそれよりも素早く匙の懐へと接近したイッセーは先程の意趣返しとばかりにその顔面に拳をめり込ませる。
「ごばっ!?」
「わ、私達の部室が……」
同じように盛大に吹っ飛んだ匙がまたしても部室の備品を破壊しながら床に転がるものだから、リアスの眷属達は部員として頭を抱える。
しかしイッセーはと言えば完全にスイッチが切り替わったのか、それこそ誰にも懐かない狂犬のような形相でひっくり返りながら悶絶している匙の胸板目掛けて自身の膝を叩きつける。
「キィッ!!」
「がはぁっ!?」
何かが砕ける嫌な音と共に匙は目を見開きながら夥しい量の血を吐く。
「ひぃ……はっ……!」
「転生悪魔になったせいで弱くなったなは確かだがな、勘違いすんなよ? 全体的な出力は笑えるほど落ちたとはいえ、喧嘩のやり方まで忘れた訳じゃあないんだよ……」
「が……ぁ!」
そう言うイッセーの瞳は爬虫類を彷彿とさせる縦長に瞳孔が開いており、匙の髪を掴んで無理矢理立たせると、そのまま部室の壁に向かって何度も後頭部を叩きつけ始める。
「ぐが!? ぎへっ!?」
「匙君よォ? 俺が知らないとでも思ってるのか? お前がソーナちゃんの事を盗撮しまくってるとかなぁ。
これでも我慢してたんだぜ? ホント……俺のクラスメートの元浜とか松田に金握らせてソーナちゃんの着替えの盗撮させたのを知った時からこうしてやりてぇって何回もよォォ……!!!」
「え……」
「さ、匙君?」
「アナタそんな事……」
「……………。最悪だわ、本気で気づかなかったわ。
私に悟らせなかったイッセーのクラスメートの力量を褒めるべきかしら……?」
「い、いやいやいや!? 確かに驚くべき話だけど止めないわけ!? い、イッセーがこのままでは匙君を……」
「別に構わないわ。
私ってイッセーと私にとっての『友達』以外に興味ないもの」
まさかの匙の所業にドン引きする女子達を背に、匙の後頭部を壁に何度も叩きつけ続けたイッセーは、とどめとばかりに奇声と共に手刀を叩き込んで匙を床に再び沈めると、追い討ちは終わりではないとばかりにその脇腹を全力で蹴りつける。
「ゴボェ!?!!」
「洗脳だ? 笑わせんなよ。
そんな小賢しいものでソーナちゃんの精神が揺れるわけがない」
「が、ふ……!」
「俺の『本質』を最初に理解して、その上で受け入れてくれたのがソーナちゃんだ。
肉片になった姿になっても、好きだって感情が変わらなかったのはソーナちゃんだけだ……!
俺生きる意味こそがソーナちゃんなんだよ……! 誰にも渡さない――俺からソーナちゃんを奪うってんなら――神でも魔王でも殺す!!!!」
『…………』
狂気の形相でソーナへの重すぎて気持ち悪い感情を剥き出しに動かなくなっている匙を何度も蹴り潰していくイッセーに、初めて知ったリアス達とソーナの眷属達は戸惑いながら言われてる本人であるソーナを見るが、そのソーナ自身が『ほら、嘘じゃないでしょ?』とばかりにドヤ顔をしているので、全員しょっぱい顔になるしかなかった。
「そういう事よアルジェントさん? アナタがイッセーに恩義いがいの何を感じたのかは敢えて聞かないことにするけど、最初からアナタに脈なんてなかったのよ」
「…………………」
「そ、そんな言い方……」
「寧ろこの程度で済ませてあげてるだけ感謝してほしいわね。
本当の事を言えばイッセーの周りに飛び交う『蚊』なんて残らず退治したいくらいなのよこっちは?」
こうしてカミングアウトと共に『本質』すら剥き出しにし始めてしまった二人の人外により、本来の歴史から外れに外れまくる道を歩む事になる。
「ほら、そろそろそれくらいにして私に家に帰るわよ?
ふふ、こんなに血で汚しちゃって……私がお風呂で洗ってあげるわ?」
「ぺっ! クズがァ……………っと、わかったよセンパイ。
でもセンパイに洗って貰うと色々と弊害が……」
「なに言ってるのよ? 我慢できなくなったら遠慮なくシテ良いの。
ここまで来たからには私の両親達にもカミングアウトしなければいけないでしょうしね。
いっそ妊娠させて欲しいくらいよ」
「へへ、照れるなぁ?」
『……………………』
終わり
オマケ
燃える火の鳥兄妹
適当に言ってグレモリーの娘との婚約話を無かったことにしようと実は企んでいたライザーだったが、そこで出会った『精神が良い感じにブレない少年』と出会うことで思わぬ収穫を得た。
そして早速その少年を携帯のカメラで撮った写真と共に、『異性への理想が高すぎてこのままでは将来独身喪女コースまっしぐら』な妹であるレイヴェルに少年についてを話す。
「……。このお写真だけではそこら辺の人間の男としか思えませんが」
「そう思って、俺が帰った後の様子を眷属達に隠れて撮るように命じたぞ。
あのイッセーという奴とソーナ嬢の関係性について必ず揉めるだろうと思ってな」
写真だけでは微妙だと言うレイヴェルに、それならばと事前に見越して仕込んでいたカメラを使って、自分達が去った後の部室の様子を見せるライザーに、あまり乗り気ではないものの一応見ることにしたレイヴェル。
そこに映るのは、先程の写真の少年とソーナ・シトリー。
そして兄の婚約者だったらしいリアス・グレモリーであり……。
『キィッ!!』
『がはぁっ!?』
喚いていたソーナの眷属の一人を殴り抜き、容赦なく追い討ちをするイッセー
『ひぃ……はっ……!』
『転生悪魔になったせいで弱くなったなは確かだがな、勘違いすんなよ? 全体的な出力は笑えるほど落ちたとはいえ、喧嘩のやり方まで忘れた訳じゃあないんだよ……』
「が……ぁ!」
その瞳を爬虫類を彷彿とさせる縦長に瞳孔に変化させ、ソーナと眷属の少年の髪を掴んで無理矢理立たせてそのまま部室の壁に向かって何度も後頭部を叩きつける姿だったり。
『ぐが!? ぎへっ!?』
『匙君よォ? 俺が知らないとでも思ってるのか? お前がソーナちゃんの事を盗撮しまくってるとかなぁ。
これでも我慢してたんだぜ? ホント……俺のクラスメートの元浜とか松田に金握らせてソーナちゃんの着替えの盗撮させたのを知った時からこうしてやりてぇって何回もよォォ……!!!』
匙とかいう少年の粗相を喋りながら匙の後頭部を壁に何度も叩きつけ続け、とどめとばかりの奇声と共に手刀を叩き込んで匙を床に再び沈めると、追い討ちは終わりではないとばかりにその脇腹を全力で蹴りつける姿だったり……。
「結構苛烈な性格ですわね……」
「どうやらソーナ嬢の兵士との間に巻き起こった痴情の縺れという奴だな」
「一方的な気もしますがね……」
とにかくソーナの事が好きで好きで、ソーナに手をだす輩への暴力性が半端ではないというのは映像だけ見て理解するレイヴェルだが、別にだからといって心を奪われるものは無い―――
『ゴボェ!?!!』
『洗脳だ? 笑わせんなよ。
そんな小賢しいものでソーナちゃんの精神が揺れるわけがない』
『ご、ふ……!』
『俺の『本質』を最初に理解して、その上で受け入れてくれたのがソーナちゃんだ。
肉片になった姿になっても、好きだって感情が変わらなかったのはソーナちゃんだけだ……!
俺生きる意味こそがソーナちゃんなんだよ……! 誰にも渡さない――俺からソーナちゃんを奪うってんなら――神でも魔王でも殺す!!!!』
『…………』
「―――神でも魔王でも殺す……」
「大きく出たな。
ふふ、やっぱり俺の目に狂いは無かった――暑苦しい奴だな」
――――というのは最初だけであり、ソーナの為なら誰であろうと殺すと本気で宣うイッセーの姿にレイヴェルは既に目を奪われていた。
「お兄様……」
「わかっている。
見ての通り、イッセーという男の心はソーナ嬢のみに向いている。
そしてソーナ嬢もまたイッセーの気持ちを全面的に受け入れている」
「ええ、その様です。
ですが私――」
「気に入った……だろう?」
「ええ、この重過ぎるまでの相手への愛情。
ふふ……その為なら誰であろうと牙を剥く狂犬っぷり。
ふふふふふ……良い、良いですわ……悪魔の男には皆無なこの極端さ……! 確かにお兄様の言うとおりでしたわ!」
「ああ、だからイッセーには言っておいたぞ。
ソーナ嬢を正妻にして、レイヴェルは即妻でも構わないから貰ってくれとな………俺たちが二人との決闘に勝てば、だが」
ライザーの言葉にレイヴェルの額から虹のように輝く七色の炎が灯る。
「構いませんわ。
寧ろ私、彼――いいえ、イッセー様のペットとして生きたくなりましたわ……!
ふふ……罵倒されながら……えへ、えへへへへ♪」
(…………。ほらな、本当に即落ち2コマした。
それにしてももし上手く行けばイッセーは俺の義弟になるのか? むむ……悪くないかもしれんな)
特に周りに知らしめる理由は無いまますくすくと育ってしまった、フェニックスの人外兄妹はこうして『やる気満々』となるのだ。
「お兄様、決闘までの間のトレーニングにお付き合いください。
ご主人様――えふんえふん! イッセー様にがっかりさせられまんせので!」
「当然だ。
お前の天の7属性の炎と俺の地の7属性の炎を鍛え直すぞ!」
「う……!?」
「? どうしたのイッセー?」
「いや……何故か寒気が……」
「3時間くらいお風呂で洗いっこしたせいかしら?」
「まあ、洗いっこする度に色々と汚しちゃったからね……あはは」
「だってイッセーが犬みたいにペロペロばっかりするから……」
「すんません、悪のりし過ぎましたわ……。
感情が爆発したせいか、余計センパイが……」
終わり
補足
本来のパワーバランス(限界突破済みメンツ編)
神越領域
ガブリーさん(別世界の天使の極意を習得済み)
コカビーさん(別世界の破壊神の極意を習得済み)
アザえもん(別世界におけるゴールデンだブラックなパワーを発現済み)
この三人の戦闘力はほぼ互角。
神域領域
神牙
ヴァーリ
イッセー
ソーナ
この四人の力量はほぼ同等。