むちゃくちゃなヲチ
一応リアスとは昔からの知り合いである。
向こうが私をどう思っているのかは知らないのだけど、私としてはリアスという存在は―――まあ、『悪魔としての隣人さん』程度の認識だ。
いえ、もっと言ってしまえば私にとって悪魔や肉親にかけての認識は『単なる同族』でしかない。
何故なら現存する悪魔のほぼ全てと私は種族の括りでこそ同じなのかもしれないけど、中身というか精神が全くの別種であるのだ。
そして私にとっての同種――いや同類は同族である悪魔でも肉親でもなく、堕天使であるアザゼルやコカビエルや天使であるガブリエル。
人と悪魔のハーフであるヴァーリ君も、純人間である曹操の子孫である神牙君も――そしてイッセーなのだ。
種族も違えば年齢もバラバラ。
されど私達は確かにお互いを『同類』だと思っている。
つまり、その枠ではないリアスはただの同族であって同類ではない。
腹が立つ程のタイミングでイッセーを眷属にした事に関してだって、本音を言えば今すぐにでも感情の赴くままに激昂してケジメをつけさせてやりたいと思っているのに、あの女はそれを知らないからこそ私にとっての『地雷』を悉く踏んでくれる。
今回もそうだ。
新たに僧侶として眷属にした女をイッセーの実家に住まわせたせいでイッセーが私ともとへと来てくれる―――いいえ、『帰って来てくれる』日を減らしたばかりか、あの女はまたしても私の地雷を――いや、核弾頭のスイッチを押してくれたのだ。
「夜中にイッセーの部屋へと無理矢理押し掛けたばかりか、『私を抱きなさい』ですって?」
「………………」
「ふ……ふふ……! くっくっくっ……! まったく、ハエの分際で私をイライラさせるのだけはうまい女ね……」
あの女は何をトチ狂ったのか、イッセーを――私のイッセーに向かってそんな戯言を吐きながら迫ったらしい。
心底沈んだ様子で、それでも私に嘘は言いたくはなかったのであろうイッセーが言いづらそうに昨晩の事を打ち明けてくれたその瞬間から、私はついつい口調が荒いものへとなりつつ、全身に漲る激情を押さえ込もうと割りと必死だった。
笑おうとしても顔がひきつってしまって上手く笑うこともできない。
ああ……きっと鏡で見れば今の私は凄い顔になっているのだろう。
「俺もつい反射的に窓の外に向かって蹴り入れそうになってしまったところに、メイド服着た銀髪の女の人が現れましてね……」
「ああ、グレイフィアさんね。
リアスの兄で魔王の一人であるサーゼクスさんの妻だわ」
「その人が部長さんを連れ帰ってくれたので未遂で済みましたよ。
もっとも、部長さんが急にトチ狂った真似をしてきたのには理由があるんだと思いますけど……」
「見当はついているわ。
けれど、どんな理由があっても私は当分あの女を許すつもりはないわ」
「…………すんません」
困ったわ。
ここまで誰かを本気でこの手で殺してやりたいと思ったのは初めてかもしれない――と思ってしまう。
あの女がイッセーと私の関係を知らないからある程度は仕方ない――と、頭では分かろうとしても、私の『精神』は一切の納得はしないからこその怒りだ。
「俺の両目を潰してくれ……ほんの一瞬でも他の女の裸体を見てしまった俺が今センパイに出来る誠意はそれしかないっす」
イッセーも迫られた際にリアスの――私はただただ無駄な贅肉ぶら下げただらしのない身体を一瞬でも見てしまった事への罪悪感から私に自分の両目を潰して欲しいと言っているけど、私は当然イッセーが悪いだなんて一切思わない。
あの女が『自分にとっての嫌な事を回避する為に眷属を利用した』だけの事であってイッセーは悪くなんてないのだから。
「目を潰してしまったら私の事が見えなくなるからそんな事はしないわ。
大方あの女が自身に差し迫った『状況』を回避する為にイッセーを都合よく利用しようとしたのでしょうしね」
「………」
「だから、どうか私が落ち着くまで傍に居て欲しいの。
アナタに止めて貰わないと、今すぐにでもあの女を殺してしまいそうだから……」
いえ、このままでは私は感情の赴くままに己の『
「センパイ、やっぱり俺達の関係を言いません? 言った後に部長さん達がどう言おうとも俺はセンパイから離れるつもりなんて無いですから……。これ以上隠しててもメリットなんて………」
「……………」
怒りで震える私を後ろから抱き締めてくれるイッセーもこれ以上隠してもなんのメリットは無いと言う。
そう、そうなのよ。
そもそも隠す意味なんて確かにないのよ。
あの女とその眷属達や、私の眷属達にも今まで隠してきたのだけど、このまま隠してもデメリットしかない。
「生き残るのは、この世の真実だけ……」
真実を突きつけてやった所で……その真実に対して連中がどう思って、何を宣おうが最早関係ないわ。
「真実から出た誠の行動は決して滅びはしない」
ある意味でこれまで以上に燃えまくりな夜を開き直るように過ごしてから明くる日。
最早周りに隠すだけ無駄であるし、ストレスしか無いと判断したイッセーとソーナは自分達の繋がりを知らしめてやろうと行動を起こす決意をした。
「なん……ですって……?」
「なん……だと……?」
『…………』
そうと決まった時の二人の行動は凄まじく早かった。
それまで表では完全に他人のフリを貫いていた二人が仲良く恋人繋ぎをしながら、リアス達やソーナの眷属達――果てには一般人の生徒達が驚愕に固まるのを無視する形で登校から始まり。
誰かがその状況を問いただす間も与えず平然と校内でイチャついたりしながら一日を過ごし……。
そして放課後となれば当然の顔をしながらソーナと手を繋ぎながら部室にやって来たイッセーとソーナは、ついてきたソーナの眷属達やリアス達や何故か居るグレイフィア――そしてリアスの婚約者を名乗って登場する予定であったライザー・フェニックスの前で堂々と自分達の隠していた関係と繋がりをカミングアウトしたのだ。
「そ、そんな……イッセーとソーナが……」
「う、嘘ですよねイッセーさん?」
「そ、そうですよ会長? だって今まで兵藤とは一切の関わりが無かったじゃあないですか……!」
「学園に居るときは他人のフリをすることにしていたのよ。
けれど、イッセーがリアスの兵士にさせられた事で、これ以上隠していても、勘違いをしたリアスにイッセーが良いように使われてしまうと思ったから話すと決めた―――それだけの事よ」
『…………』
新人の転生悪魔が純血悪魔のシトリー家の次女と関係を持っていた―――それだけでも冥界におけるスキャンダルになりかねない事実には、流石の魔王の嫁であるグレイフィアも驚き、ライザー・フェニックスは心底不思議そうだった。
「ソーナ嬢、キミだってシトリー家の純血悪魔だ。
それが転生悪魔の下僕と関係を持つのは些か不可解なんだが?」
「それはアナタ達のような『ただの悪魔』の価値観でしかありませんよライザー殿。
私は幼少の頃にイッセーと出会ってからずっとこの気持ちを変えたことはありません」
「い、イッセー? これは私達を驚かせようとしてるだけなのでしょう?」
「逆に嘘だと思うんですか?」
「だ、だって昨日の夜だって――」
「それはアンタが勝手に押し掛けて勝手にやり始めた『茶番』の事でしょうか? 正直ね、あの時アンタを窓の外に向かって本気で蹴り飛ばしたかったっすよ」
「」
明らかにソーナとイッセーの様子が違う事に全員が戸惑う。
「誰が何を言おうと、俺はソーナちゃんが大好きだ。
その為に俺は生きているようやものなんだ。
決して部長さん―――アンタの為なんかじゃねぇ」
皮肉にも、リアス達からすれば初めて見せられる『意思の強い目』を前に、リアスも眷属達も、ソーナの眷属達も、グレイフィアも誰もが何も言えない。
「へぇ……?」
そんな中、割りと蚊帳の外状態だったライザーだけがどこか面白いものを見つけたような声を出す。
「………なんすか?」
「この面子を前にそこまでの啖呵が切れる奴なんて珍しいと思ってな。
それだけに何故リアスの下僕になっているのかが不思議なくらいだ」
「…………。間の悪さが重なってこうなったんですよ。
お陰で本来の力の大半を失うわ、無駄に弱点増えるわで……」
「ま、待ちなさい! 今なんて言ったの? 本来の力ってどういう……」
「堕天使のレイナーレに不意討ちされたあの時、別にアナタが悪魔に転生させずともイッセーは自力で生還できたのよ。
それをアナタが勝手に勘違いしたのと、イッセーに宿る神滅具に目を付けて転生させたものだから、それが枷になって今のイッセーは本来の万分の一の力しか引き出せなくなっている」
「なっ!?」
「そんな……まさか……」
淡々と――ちょっと刺のある口調でイッセーが悪魔の駒のせいで弱体化していると語るソーナに、リアス達は再び驚愕していると、再びライザーがどこか興味深そうにイッセーを見る。
「その面構えからして嘘ではなさそうだな。
なるほど、段々とお前に興味が沸いてきたぞ? お前、名前は?」
「………イッセー」
普段人間を下に見る言動が目立つライザーとは思えない言葉に、リアスはおろか、グレイフィアですら少々驚くが、ライザーはそんな視線に気づくこと無く小さく名乗った少年の名を面白そうに復唱する。
「イッセー……イッセーか」
「すいませんね、アナタは別件でここに居るのに……」
「いいや構わないよ。
リアスの件はすぐに終わるような話だからな」
「っ!? 私はアナタと結婚するつもりはないわよ!?」
思い出したようにいきり立つリアスの言葉にライザーは鼻で笑う。
「そう言うだろうと思っていたよリアス。
だが勘違いするなよ? お前が俺との結婚を拒否したいように、俺もお前と結婚しようとなんて思っちゃいない」
『!?』
「な、なんですって……!?」
意外な展開にリアスはそれはそれで腹が立つのか、優雅に足を組ながらソファに腰かけるライザーを立ったまま睨むが、ライザーの視線はイッセーに向けられている。
「イッセーと言ったな? ソーナ嬢との関係性から察するに、リアスの下僕悪魔である事を辞めたい――だろう?」
「……ええまあ」
「っ!? イッセー! なんてことを――」
「お静かに願おうかリアス・グレモリー? 俺は今このイッセーと話をしている」
あっさりとリアスの眷属であることから抜け出したいと答えるイッセーにまたしても激昂しようとしたリアスだが、ライザーから放たれるうもはも言わせない謎の威圧感に他の眷属悪魔共々身体が硬直してしまう。
「俺ならお前に埋め込まれた悪魔の駒を命を失う事無く取り除ける……」
「え……?」
「まさか……そんな方法があるわけ――」
「普通はない。
が、俺はある『裏技』を知っていてね」
不敵に笑いながら言い切るライザーにはソーナも流石にブラフを疑うも、もし事実ならある意味現魔王の一人が生み出したシステムを越えている事になる。
「俺はお前に興味がある。
だから俺の出す条件をもし飲めたら、お前から悪魔の駒を取り除いてやっても良いぞ?」
「………」
「何を勝手に!!? 第一アナタごとぎがそんな事できるわけ――」
「別に俺は信じて貰わなくても結構だが?」
「………………条件は?」
ブラフの可能性はあるにせよ、思いがけないチャンスでもあると踏んだイッセーはわめくリアスを無視して条件を聞く。
するとライザーはニヤリと笑みを深めると……。
「簡単だ。
俺と俺の妹とソーナ嬢とお前の二人とが戦うことだ」
「「…………はい?」」
ライザーとその妹とやらと戦い、そして勝つことが出来たら駒を取り除く。
そう不敵に笑いながら言ったライザーにイッセーとソーナな思わず互いに顔を見合わせてから再び視線を戻すと、負けた場合はどうなるかを問う。
「負けた場合はどうなるんですか?」
「別に命を取るとかではないから安心しろ。
なに、ささやかなお願いを聞いてくれたらそれで良い」
「お願い?」
いったい何をお願いされるのかと思いながらライザーを見つめるイッセーに、ライザーは言った。
「ちょっと俺の妹と結婚してくれたらそれで良い」
「「…………あ?」」
『……は?』
別の意味での爆弾を放り込むようなその発言には誰もが固まった。
「いや、なんなら俺の妹と結婚してくれるのなら戦わなくてもお前の中の駒を取り除いても良い。
ほれ、ちなみにこれが妹――レイヴェルの写真だ」
「「………」」
『』
「あ、勿論お前がソーナ嬢と好き合っているのは承知している。
だからソーナ嬢を正室にしてレイヴェルを側室にするという形でも全然構わないぞ?」
こうして開き直った事で、あまりにも展開が斜めに行きすぎてしまったソーナとイッセーは、ライザーに渡された写真に写る、金髪碧眼の――ちょっと気の強そうな美少女を見るのだった。
「お前のような『一切ブレない男』がレイヴェルのタイプでな? 会ったら即落ち2コマレベルで惚れるだろうから、そこは安心しろ?」
「「…………」」
終わり
補足
しまった……これではタイトルが◯◯イッセーとシトリーさんと鳥さんになってしまう……。
その2
チャラいんだけど、なんか違うライザーさん。
その妹は―――――