特に親しくもなければ、別に気にもならなかった悪魔の下僕に転生した訳だが、何て言うか思っていた以上に縛りがあるものなのだなぁと最初に思った感想だ。
転生悪魔としての雑用というか仕事って奴があるのだけど、物凄く簡単に言えば人間を相手に対価を払わせて色々な契約をする的な仕事があるのだけど、単にチラシ配りをするだけでは契約は出来ない。
なので一応契約数という名のノルマを達成する為に俺は色々と考えて実行した結果、ノルマを達成することが出来たんだ。
けど、どういう訳か俺は名目上は主である部長やそのお仲間さん達に白い目で見られつつ怒られてしまった。
「えー、今回はね? 決して怪しい話じゃないんだけどね? えーちょっとだけね? 耳をね? 傾けてくれたら嬉しいでっす!」
「……………」
「えー、今回はね? 冥界にあるディアボロシステムって……あ、いきなりディアボロシステムって言われてもわからないよね?」
「…………」
「えー要はね? トップクラスの悪魔契約システムな訳よ? 新しい契約システムなんだけど興味あるかな?」
「……………………」
「えー、その契約に関するニューシステムについて説明させて貰うとね? このグローバル・グレモリー! グローバル・グレモリーって会社が資本金80億で契約システムの運営権を買い取っちゃったのよね? わかんないかな? それならまずシステムの説明しちゃうんだけどー?」
「……………」
「要はね、人間なら誰でも願望があるでしょう?『成功したい!!』 『頑張りたい!』ってな願望を叶えるそういう石を作っちゃったのがこのグレモリーストーンって奴なの。
この石は冥界の山でしか全然取れないのね? その山を丸々グローバル・グレモリー社が買い取った訳! それで少しだけお裾分けしてこの石頂いたんだけど、これをウチ等だけで独り占めしても仕方ないじゃん? だから皆で幸せになろうと起こしたのがグローバル・グレモリーなわけ?」
「…………………」
「…………。とまあ、チラシ配りだけじゃ全然来ないから、一件一件回って直で勧誘したんだけど、何故か無茶苦茶部長さん達に怒られちゃいましてね? 何か問題とかありますかね?」
「……………。無駄に声が甲高いし、マルチ商法の勧誘人みたいな胡散臭さ全開ね」
なので、同じ悪魔であるソーナ先輩にどこに怒られる要素があるのか、実演を交えながら聞いて見たところ――どうやらマルチ商法の勧誘人みたいな胡散臭さしか感じなかったらしい。
……そんなつもりは全く無く、勧誘に辺り確かに2~3個話を盛ったかもしれないが、別にマルチ商法の勧誘をしたつもりは無かった俺としてはちょっとだけショックだった。
「悪魔の契約を完全に勘違いしてるわよ。
あくまで私達は望みを持つ人間に対して対価を貰ってその願いを叶えるという流れなのよ。
別にねずみ算式に契約人を増やすとかではないのよ」
「あ、そうなの? てっきり新聞屋の契約みたいな感じで増やすのかと思ってたわ……。
昨日だけで8件くらい契約取れたのになぁ……。
しかもその内の一件は教会のシスター見習いだったし」
「ある意味快挙に近いわよそれ……」
先日迷子になってたシスター見習いの女の子もこのやり方でそこら辺で拾った石を渡して契約させたってのに、このやり方は本当にダメだったらしい。
したっぱ悪魔ってのは中々に面倒なんだなー……。
基本的にイッセーという少年はソーナの自宅に毎日入り浸る。
一応両親には同性の友人の家に居ると誤魔化している訳だが、運悪くリアス・グレモリーの眷属になってしまった今現在はそのリアス達の目も盗まなければならない。
別に本人としてはバレても良いのだが、先日のその迷子のシスターをマルチ商法じみた手段で勧誘したという話をした途端、二度とそのシスターには近寄るなと言われたので、ソーナとの関係性を知られたら余計煩く言われるように感じたイッセーは引き続き黙っていることにした。
もっとも、ソーナに関して口を挟むようなら、どんな手を使ってでも良いですと言わせるか、永遠に黙らせるつもりではあるのだが……。
「今日センパイんちに来る途中、昨日言ったシスターの女の子とまた出くわしましてね。
それに絡まれたせいで遅れました」
そんなイッセーは今日もリアス達の目を誤魔化してソーナの自宅に上がり込み、それこそ自分の家のように寛ぎながらここに来るまでにあった事を話すと、対面に座って話を聞いていたソーナの顔が若干ムッとなる。
「妙に縁があるようね、そのシスターとやらと?」
「らしいっすね。
一応この前の方法での契約っつーか、背景の陣営的な問題で契約は不可能だって言われてたので、彼女には契約の事は聞かなかったことにしてくれとだけは言ってそれで終わりの筈だったんですがね。
なんか勝手に名前を名乗り始めまして……」
「ふーん?」
イッセー本人は心底そのシスターに対して興味がなさそうに話すが、ソーナの機嫌はどんどん落下していく。
「アーシ―――なんだっけ? そんな名前だったかな? 殆ど適当に相槌して聞き流してたんで正確な名前は覚えちゃないんですが……」
「…………」
「まあ、そんなのはさておき、センパイが俺が悪魔に転生したほぼ同時のタイミングで眷属にした男子……えと名前なんでしたっけ?」
「匙よ。彼がどうかしたの?」
「いえね? 生徒会って体でいるセンパイをバレない程度に見てたんですけど、あの男が何度かこっそりセンパイに触れようとしてるのを見ちゃって色々と大変でしたよ」
「なんでよ?」
「危うくマジでブチ殺してしまいそうだったって意味で」
とはいえ、イッセーもイッセーで割りとエグい思考回路をソーナに対して向けているのでどっこいどっこいであり、危うくソーナが最近眷属にした男子生徒に対して弱体化中であることを忘れてスイッチオンしかけたと吐露している。
「その匙って奴、多分センパイに対して好意持ってますよ」
「私を? 女王の椿姫とかじゃなくて?」
「間違いない。
俺がセンパイのことを好きだからわかってしまうんですよね……」
苦々しい顔で言うイッセーにソーナは他人事のように『ふーん』とだけ言う。
「それが事実だったとしても私には関係のない話ね。
私自身は彼に対してそういった感情なんて皆無だもの」
あっさりと、そしてどこまでも他人事のように言い切るソーナにとって他人からの感情なぞ、悪意だろうが、好意だろうが、その他であろうが『等しく平等に』無価値で無関心なのだ。
それが例え己の眷属であろうとも……。
「あ、そっすか……」
「私を貧乳だひんぬーだまな板呼ばわりする割りには嫉妬してくれるのね? ふふ……」
「ちっさい頃初めてセンパイと会った時から……。
そして互いに『打ち明けた』あの瞬間から俺はセンパイの事が好きで好きで仕方なくなってしまいましたからね」
「初めて出会ってからもう10年経つわね……」
「巨乳であろうと貧乳であろうと俺には関係ねぇ。
俺はソーナって女の子が好きなんだ……悪魔だなんだなんてそんなのどうだって良い」
「ふふ、今日はいやに素直なのね?」
要するに二人は似た者同士なのだ。
その感性も、『精神』も。
「力は必ず取り戻す。
いや、転生悪魔という枷も糧にして更に先に進んでやる」
「その意気よ。
その病的なまでの『欲』があってこそのイッセーだわ」
目的の為ならば人殺しだろうが、己の人間性を捨てることすら厭わず自分の目標を達成しようとする強固な意志――漆黒の意思を宿す者として。
「その目よ。
シトリー家としての私ではなく、ただのソーナとして見てくれるイッセーだから私も大好きなの。ふふ……おいで?」
「…………。む、ちょっと待ってください―――――げ、また部長からか……」
「………………貸して」
「あ、俺の携帯……」
「はい、電源は切ったわ。
これで邪魔されないわ……ほら、おいで?」
ソーナが微笑みながらイッセーを抱き寄せ、そのまま数分程抱き合い、やがてその唇を重ね合わせながらゆっくりとひとつの影となって倒れ込む。
「ごめんなさいイッセー。
本当の事を言うと、私もアナタに他所の女が近寄るだけで、その女を殺してしまいたくなるの……。
アナタの気持ちはわかっていても、不安になってしまうのよ……」
「……。ごめんセンパイ」
「ふふ、謝らないで? でも、今日は何時もより強く愛して欲しいな?」
誰であろうと邪魔を許さない、二人だけの時間はこうして過ぎていく。
「ね、やっぱり私って小さい?」
「あー……もうこの際がら言いますけどね、俺がセンパイをひんぬーだなんだ言うのって、言うとセンパイがムキになるからなんですよね。
………我ながら中々にクソ野郎なのはわかってんですけど、そういう反応するセンパイが可愛いからつい……」
「もう……イッセーのいじわる」
終わり
補足
向いてる方向が両者一貫しまくってるので、横入り不可能。
入ろうものなら全力で排除にかかる程度にはブレがない。