コンセプト―――何されても揺れない。
イッセーくんとシトリーさん(確定済みモード)
縁と出会いに恵まれているから今を生きていられると俺は思う。
それが偶然だったにせよ何にせよ、俺はこの繋がりだけは大切にしたいと思う。
この繋がりを守る為なら、それこそ人には言えない事だってする覚悟もある。
少なくとも、俺にとってのこの繋がりはまさしく命よりも大事なんだから。
とんだ偶然により、思わぬ足枷がついてしまった事で、唐突ながら俺ことイッセーは転生悪魔というものになってしまった。
転生悪魔というのは呼んで字の如くであり、ある手段を使うことで人間が悪魔になるというものなのだけど、正直に言えば俺自身それになることを別に望んでいたわけではない。
切っ掛けは、とある堕天使の女が人間に化けた姿で俺に絡んできて、何度も断っているというのにしつこくデートだなんだと食い下がってきたので仕方なく一日だけ付き合ってみたら、不意を突かれて堕天使の生成した光の槍に心臓を貫かれたというのが始まりだった。
普通の人間ならまず間違いなく死ぬであろう状況であるわけだが、俺はある理由があってその程度なら暫く意識こそ失うことはあれど死ぬことはない筈だった。
なので貫かれて意識を失う直前に、なんか堕天使の女が自分の正体を晒しながらしたり顔でなんか語っていたのも割りと滑稽に思ったのだけど……。
まさかそのタイミングで悪魔が現れるとは思わなかった。
堕天使に殺された――と、思ったらしいその悪魔が俺の事情を知らずにそのまま悪魔の駒とやらで俺を悪魔として転生させて生き返らせたせいで俺は見事に転生悪魔とやらになってしまった。
曰く、俺が堕天使に狙われた理由は、俺の中に宿る神器という力のせいだと俺を転生させた悪魔は他の転生悪魔と共に、『何も知らない俺』に説明してくれた訳だが……。
すまん、アンタ達からしたら偶然神器持ちの人材を手駒に出来てラッキーだという感覚なんでしょうけど、割りと真面目にありがた迷惑なんだよね。
そもそも俺は最初から悪魔だ堕天使だといって非人間種族のことは知っていたし、自身の神器についても解っていた。
何よりその悪魔の眷属になってしまったせいで、煩くなるトモダチが数人居る訳でね……。
特に俺を悪魔に転生させた方の悪魔―――リアス・グレモリーと同じランクのもう一人の悪魔にそれを知られた時なんか……。
あのまま止めなかったら本気であの人は俺を転生させた悪魔を殺りかねないくらいマジギレしてたからなぁ。
まったく、転生悪魔になったせいか、嘘みたいにそれまでの積み重ねが無かったことにされたせいで止めるのにかなり苦労したもんだよ……。
間の悪さがあまりにも重なる形で転生悪魔の兵士にさせられてしまったイッセーという少年は、一応自身の宿る神器の力に目を付けた形であるとはいえ、悪気は無いのは解っていたので、敢えてその者達には素人を装って新人悪魔としての活動を行う事になった。
しかし、自身を悪魔に転生させた悪魔であるリアス・グレモリーとその眷属達は素人で新人であるイッセーに色々と教えているつもりなのだが、その実イッセーは悪魔についてはある程度把握している。
それはリアス・グレモリーですら把握していない秘密の繋がりがとある悪魔との間にあるからで……。
「よく今のリアスの力量でアナタを転生させられたわね……」
「なんか、兵士の駒をよ8個使ったとか言ってましたけど?」
「8個だろうが800個だろうが、本来ならばリアス程度ではアナタを転生させられる訳がないのよ」
「堕天使の女に不意打ち喰らって意識飛んでたからじゃないっすか? それしか理由が見つからないし」
兵藤イッセーは通っている学校の――それこそクラスメートの友人や悪魔としての主となったリアスにも知らせていないある秘密がある。
それは転生悪魔となって数日が経った今も、未だに納得が行かないとぼやきながらイッセーと向かい合って座りながら蜜柑の皮を剥いている眼鏡を掛けた黒髪の少女との関係性だ。
「別にリアスがどうだって訳じゃないのよ。
ただ、アナタがどこの誰とも知らない輩に顎で使われると思うと腹が立つのよ」
「そこまで顎では使われてないですよまだ」
「しかもいきなり気安くアナタを名前で呼ぶのも気にくわないわ」
「寧ろ俺は名前の方が呼ばれ慣れてるんですけどね……」
彼女はリアス・グレモリーと同じく眷属を持てる側の悪魔であり、そして彼女の眷属ですら知られていないのだが、イッセーという少年との付き合いはそこそこ長い。
それこそ、今こうして二人が向かい合って座りながら蜜柑を食べている部屋は彼女の自宅であり、その自宅に簡単に入れる程度には互いに気心が知れている関係だ。
「こんな事になるのなら、さっさとアナタとの関係を話して牽制すべきだったわ。
匙とかいうアナタと同学年の男子を眷属にしている場合じゃなかったわ」
「その匙ってのとは話した事ないですけど、本人が聞いたら泣いちゃうんじゃないですか……?」
「私にとっての全ては、アナタと
そもそも眷属を持っているのだって、実家が煩いから体裁のつもりで持っただけでしかないの」
「今の発言を先輩の眷属さん達が聞いたらバチギレても文句言えないだろ……」
「大丈夫よ。
予め眷属にする際は前以て今のような説明だけはしておいてるから」
チビチビと蜜柑を1房ずつ食べながら、何気に酷い発言をする悪魔の少女に、イッセーは『だとしても本人達には聞かせたらいけないな』と思いつつも、ある程度は同意できてしまう。
「それで? 記念すべき悪魔としての初仕事はどうだったの?」
「チラシばらまいて引っ掛かった客の所行って契約とやらをする筈だったのが、何故か人生相談になってしまいましてね。
部長さんに呆れられはしましたけど怒られはしませんでしたね……」
「そう……はぁ。
本当なら私がやりたかった役目なのに、リアスに全部横から取られたわ……」
余程イッセーが他所の悪魔の眷属になったのがショックなのか、最後の一房を食べ終えた少女はこれでもかとため息を吐くので、イッセーはそんな彼女への詫びの意味も込めて緑茶を煎れてあげる。
「まあでもこれで俺が学校でソーナ先輩と話せる口実みたいなのは出来たんじゃありません? ……あ、センパイって学校じゃあ支取って名前で通してたんだっけ? 間違えて呼ばないように気を付けないといけませんね」
「下手な詮索をされるのが嫌だったから学園の時は他人のフリをしておきましょうなんて私がアホな事を言ったせいだわ。
あー、私のバカバカ! 周りの目なんて一々気にする事もなかったのに!」
貰ったお茶を一口飲み、そのまま後悔するようにテーブルに突っ伏すソーナと呼ばれた少女の頭に、イッセーは手を伸ばし、サラサラとした黒髪を撫でる。
「でも俺から仮に何時もの調子でひんぬーセンパイなんて呼ばれるのも嫌でしょう?」
「……。中学生くらいの時は嫌だったけど、こうなるくらいならそれでもよかったわ」
「そこまでなんですか? じゃあアレっすね、さっさと悪魔として出世を目指しますよ。
たしかそれなりに出世すれば独立できるんでしょう?」
「……。それなりの功績を積み上げないと難しいわよ? それに今のイッセーは転生悪魔になったことで今までの力の大半が……」
「そんなの必ず戻してみせますよ。
センパイにそこまで言われちゃあやるしかないっしょ?」
サラサラとしたソーナの髪を撫でながら笑みを溢すイッセーの発言にソーナは軽く顔を上げると、小指を向ける。
「約束よ……? 私も協力するし、こうなったら彼等も呼び出すわ。
多分私並に彼等もアナタのその現状と理由を聞いたら怒り狂って暴れるかもしれないけど」
「……。揃って後先考えないバカだからありえるな……。
でもどちらにしても戻すのは戻すよ――約束っす」
そんなソーナに応じるようにイッセーも小指を差し出し、互いに絡ませながら指切りをする。
「嘘ついたら――
「ハリセンボン呑ます―――
「「指きった!」」
これは偶然、特に親しくはない悪魔の眷属になったことで唐突にスタートした悪魔街道の記録。
「………それで? リアス達を見てどう思ったの?」
「? どう思ったって?」
「………。私と比べるまでもなく大きいとか」
「………………ああ、別にセンパイと比べちゃいませんが、あの部長さんと副部長さんは胸にメロン仕込んでんのかってくらいデカいとは思いましたねー?」
「ふん、どうせ私はあの乳バケに比べたら貧相なまな板よ」
「ぷっ、そんなにひんぬー呼ばわりされてるの気にしてんすか?」
「主にアナタのせいでね……! お陰で気になって仕方ないのよ」
「そんな顔しないでくださいよ。
くく、大丈夫っす、俺はそういう可愛いとこあるセンパイが好きですよ?」
「慰めの台詞なんて要らないわ! ふーんだ……!」
ただし、少年の想いはどこまでもブレず。
どこまでも区別主義者で……。
「はぁ……でも、何を言われてもやっぱり嫌いになれないのよね。
寧ろ大好きよイッセー?」
「奇遇だねセンパイ? 俺もだよ」
「じゃあ……証拠をちょうだい?」
どこまでも深い繋がりを持つが故に確定しているお話。
「イッセー朝よ、ほら起きて?」
「ん……んん……?」
「ああ、程好い怠さが心地好いわ……。
あら、胸がイッセーにつけられた跡だらけ……ふふふ」
「うげ、センパイやべーっす。何故か部長から鬼伝が……」
「は? リアス? 何故よ?」
「………。チッ、どうやら部長達が俺の実家に居たらしいっすね。
で、俺が帰ってこないからどこに居るかって……」
「この部屋には特殊な結界を張っているから、リアス達が眷属のアナタを完全に見失ったからね。
いっそこの格好のままツーショットの写真を撮ってリアスに送り付けてあげましょうか?」
「どうなんでしょうね? 凄まじく話がややこしくなりそうな……。
ていうか、なんであの人等は俺の実家に……?」
「確かにそうね。
大方アナタを眷属にしたから、その家族への挨拶といったところでしょうけど……」
終わり
補足
例えるならベリーハードシリーズだとかブレなし風紀委員シリーズ並にソーたんしか見えてないイッセーくん。
それこそソーたん以外からの色仕掛けが一切通用せず、ひんぬーソーたんのひんぬーにしか興味もない。
逆を言えばそれ以外が果てしなくドライであり、下手すりゃあ目の前で困った顔した日本語喋れないシスターが居ても素通りする可能性があったり、部長さんと火の鳥男の小競り合いも寧ろ『拍手とかしたらいいんすか?』と言ってしまったり等々、兎に角『他人』への対応がドライ過ぎて反感買うタイプ。
その代わり、ソーたん他約二名の友人に対する想いは半端ではなく、その三人の為なら平気でそれまでの『仲間』すら簡単に裏切るし、必要なら殺すことも躊躇いません。
特にソーたんに火の鳥的な話が出てくればバーサーカー状態になって堂島本部を壊滅させた覚醒嶋野の狂犬ばりに暴れ散らかす程度には腕白です。