メインではなくなってしまったヒロインさん……
ある程度の『勘』は戻りつつある――と思いたい。
これなら地上に戻って何をするにせよ、簡単にはやられないと思うので、八重樫と白崎―――っと、何でか知らんけど名前で呼ばないと怒るんだったな。
雫と香織と相談してそろそろ地上へと戻る――前にこのオルクスの迷宮とやらの最下層とやらを目指す事にした。
というのも俺達が現在拠点にしている階層はほぼ全て調べ尽くしたわけだが、更に下の階層に続く階段を発見したのだ。
地上に戻った後の生活の為にも、この迷宮のあちこちに落ちてるであろう稀少アイテムは多く持っていくべきだと考えた俺達は、どの道下への道はあれど上への道が無いので、そのまま下の階層へと降りるという方向に定まった。
ある程度は二人も闘えるようにはなれたことだしな。
雫は元々剣を嗜んでいたということもあり、木場とゼノヴィアの力を其々ある程度は使いこなし始めている。
対して香織は元々の天職も含めてアーシアの力は前線向きではないのだが、フェニックスの魔力を宿している。
だから俺は最後に一度だけ本気でレイヴェルが戦った時の姿を思い出しながら魔力の扱い方をなんとか教えつつ、今後の事を考えて武器をひとつ作ってあげることにした。
というのも、勘を取り戻すと共に錬成の特訓も並行して続けていた事で新しく得た技能によって最近発見したある鉱石が、レイヴェル―――いや、レイヴェルの魔力を継いだ香織との相性がとても良かったのだ。
「よし……やっと成功だ」
燃焼石という、文字通りの鉱石と今まで見つけて来た中では一番頑丈だったタウル鉱石を材料とした武器。
多量を密閉した場所で使えば大爆発を引き起こす燃焼石を火薬代わりにして、弾丸に加工したタウル鉱石の中に詰め込む。
そして同じくタウル鉱石を加工して作成した自動拳銃型の拳銃に装填すれば――
「よし……!」
ご立派な拳銃の出来上がりだ。
数百以上も失敗を繰り返したが、やっと満足の行く強度の拳銃が仕上がった事を、テストで100発程適当に撃ってから確認した俺は、同じ型の拳銃をもう一つ作成してから香織を呼び寄せる。
「ほれ、香織の武器だ」
「え、け、拳銃?」
「ずっと錬成の練習をしていたのかと思っていたけど、武器を作っていたのね?」
「おう。
昔レイヴェルが白音と何故かガチ喧嘩した時に使ってたのを思い出してな」
「え、レイヴェルって人は銃で戦う人だったの?」
「メインは炎だよ。
作成した二丁の拳銃を受け取る香織に、俺は昔の記憶を頼りにその使い方を教える。
フェニックス家の中でも『太陽レベルの炎』を扱えるレイヴェル・フェニックスのメインウェポンの一つ――
「
後方支援なのに前線もバリバリやれちゃう最強ヒーラーの誕生ってな。
本来拳銃をメインウェポンとするのが南雲ハジメなのだが、彼は南雲ハジメであって南雲ハジメではない。
彼の戦い方はあくまでも相棒の龍の力を主軸とした完全な徒手空拳タイプだ。
故に彼はその武器を共に奈落に落ちた仲間の一人である白崎香織の武器として与えたのだ。
熱くなりすぎて憤怒のような炎を操る後輩の少女の魔力を受け継いだ香織に……。
「凄い……! 素手で放つより段違いの威力になったよハジメくん」
「弾丸に魔力を吸い込ませ、圧縮して一気にぶっぱなすってカラクリだからな。
魔力の込め具合によっちゃあ俺のドラゴン波レベルだろうよ」
「香織がその魔力を受け継いだレイヴェルさんという人もこうやって戦っていたの?」
「一回だけ見た限りじゃあな。
他にも両手と額に炎を灯して超高速で空飛び回りながら戦ってたっけか……」
三人の中では攻撃力に乏しかった香織が、ハジメから貰った二丁の拳銃により一気に二人と肩を並べる攻撃力を獲得に成功することで、三人は意気揚々と更に下の階層へと歩を進める。
「うん、確かにその記憶が見える。
そう、こんな感じかな? ―――――
試運転も兼ね、道を阻む魔物達の相手を香織一人に任せているのだが、その香織も自身に宿ったレイヴェルの魔力から見えるレイヴェル自身の記憶を頼りに二丁の拳銃から高濃度に圧縮された炎をレーザーのように撃ち放ち、飛びかかる魔物達を次々と撃破していく。
「耐久性に問題は無さそうだな」
「うん! 全然反動とかも少ないし、スゴく扱いやすいよ!」
「香織に意外な才能があったわね。
全部外していないわ」
気づけば、これまでのサバイバル生活とハジメ式鬼畜トレーニングによるステータス上昇と戦闘における『精神』もあってか、某デビルハンター宜しくに無駄にスタイリッシュに飛び回りながら魔物達を一撃で仕留めている。
「jackpot!(大当たりだ!)……なんちゃって♪」
「へぇ? デ◯ルメイク◯イやってたのか? ダ◯テの決め台詞だろそれ?」
「初代から5まで
当然、所謂名◯ンテ呼ばわりされてるアレもやったわ」
「マジか。
前から思うんだけど、なんでそんなに俺と趣味趣向が合うんだ?」
「今だからカミングアウトするけど、初めてアナタを知った時から香織と二人で散々アナタの趣味趣向を調べて、こうやって会話が盛り上がればと思って勉強したのよ」
「…………………………えぇ?」
「ちなみに私は勿論バー◯ル推しよ……!」
「お、おう」
『こいつら、自分でストーカーであることを吐露したぞ……』
然り気無くストーカーをしていたことをカミングアウトされつつも、特に苦戦らしい苦戦も無く下へ下へと降り続ける三人は辿り着く。
「明らかに今までとは違う気配を感じる扉だわ」
「取り敢えず門番だと思われる魔物は倒したけど……」
今まで見た中でも異彩を放つ扉を。
「そろそろ進展が欲しいんだけど、ここにあれば良いな」
その扉を守る門番的な一つ目の魔物は既に排除済みであるハジメ達は、そろそろ地上へと戻る為の手懸かりがあることを願いながらその扉を開け放つが……中は真っ暗でなにも見えない。
「「「………………」」」
取り敢えず中を確認する為に香織が指先に魔力の炎を放出して辺りを照らすと、そこは迷宮の中とは思えない程度には小綺麗な空間だった。
「妙にさっぱりとしてるな……」
「何だろう、聖教教会で見たことがあるような気がする場所かも」
「二人とも、前を見なさい。
…………何かあるわ」
まるでここだけが迷宮とは別の空間のような感覚すら覚えるハジメと香織に、部屋の奥へと目を凝らしていた雫が小さく言うので、二人が視線を移すとそこには確かに黒い壁のような何かがある。
いや、それだけではない……。
「だれ……?」
「「「!?」」」
魔物でない、人の言葉を話すなにかがその黒い壁に埋まっているのだ。
これには大抵の事では動じなくなりつつあった三人も驚いて目を見開き―――
「「だめっ!!」」
「のわっ!?」
そのまま左右から雫と香織にハジメは目を塞がれてしまった。
「な、なんだよ急に!?」
「ハジメくんは見ちゃダメ!」
「女の子が裸で壁に埋まっているわ! だから見てはダメよ!」
「なに!? 裸!? ちょっとくらい見てみたい気が………」
「「だめ!!」」
「わ、わかったからわざわざしがみつくなっ!」
見た限りは少女と思われる何者かが裸の姿で壁に埋まっている―――という状況をハジメよりも早く察知した雫と香織が必死にハジメの視界を塞ぎながら大騒ぎだ。
「あ、あの……?」
少女からすれば、自分に近い姿形をした何者かが三人も入ってきたかと思えば、目の前でじゃれ合い始めた訳で。
暫く呆然としていた少女はこんなチャンスはもう来ないと声を出す。
「あ、あの! お願い……! ここから出して……!」
「取り敢えずちゃんと後ろを向くから離れ――お、おいどこ触って……!?」
「見るなら私と雫ちゃんの裸だけにして!」
「ええ……アナタと生活をするようになってわかったけと、素のハジメくんは割りと浮気性の疑いがあるわ」
「浮気ってなんの――お、おいこら! どっちか俺の変なトコ触ってないか!?」
「は、話を聞いて!!!」
困ったことに、三人の中の誰一人として少女の声を聞いておらず、少女もこれにはちょっとキレ気味の声を出すのであった。
結局ハジメだけが後ろを向く体勢となって、久しぶりに大声を出したせいで若干声が枯れている謎の壁埋まり上裸少女の話を聞くことになった香織と雫だが、物凄く冷静に考えたらこんな地下深くに人が居ること自体あり得ない話であり、段々と罠を疑い始めるも、話を聞く限りでは少女にも事情があってこの部屋に封印されていたと知る。
「つまり、アナタは吸血鬼で、かつて故郷の為に戦っていたけど、戦いが終わったら用済みと言われて封印されたと……」
「……うん」
「酷い……」
少女は人ではなく吸血鬼であり、過去裏切られて封じられたらしい。
その話を聞いた雫と香織も流石に同情し始めるのだが、少女の視線はずっと後ろを向いたまま話を聞いていたハジメに向けられる。
「……なんで彼は後ろを向いているの?」
「彼だからよ」
「他所の女の子の裸を見るのは良くないでしょう?」
「……………そーいうことらしい。
しかしここに来てギャスパーみたいな子と会うとはなぁ」
「ギャスパー……?」
後ろを向いたまま、感慨深そうな声を出す『黒髪』の少年に首をかしげる少女だったが、直後彼をよくよく見つめ続けている内に、彼から感じる強大な気配にびくりとする。
「アナタは……なにもの? アナタの中にもうひとつ強大な気配を感じる」
『ほぅ? この吸血鬼の小娘、イッセーを介してオレに気づいたのか』
「ちょっと特殊な人生歩んだだけのしがない人間だよ。
それで? キミはどうして欲しいんだ? 出してだなんだって言ってたけど」
「…………。私をここから出して欲しい。
出してくれたらアナタ達の力になることができる」
疑問をはぐらかしつつ望みを聞くハジメに少女は思い出したかのようにここから出して欲しいと懇願する。
「その封印とやらを解いた途端、俺達に襲いかからないって保証は誰がしてくれるんだ?」
「ぜ、絶対になにもしない! さっき言った通り力になる!」
「それを信じろと言われてもね。
そもそも俺はキミの姿すら見ても居ないんだぞ?」
「そ、それならこっちを見れば良い……!」
「いやー……振り向くとそこの二人が怒るから……」
ここまで必死になられると、本当に自由になりたいだけなのだろうというのは何となく理解は出来たハジメはさてどうしたものかと雫と香織の二人に話しかける。
「どうする? 俺は別にどっちでも良いんだけど……」
「まあ、自由にしてあげるというくらいなら私も賛成ではあるわ」
「ハジメくん的には連れていく気なの?」
「へ? いや別に…? 俺は特にこの世界で目標なんて無いしな……」
「それなら自由にしてあげるだけ……だよね?」
何故か妙に少女を自由にさせた後の事を気にする二人に、別に連れ回すつもりはないとだけ返すと、雫と香織の二人はどこかほっとした様子だ。
「えーと、ここが壁か? 後ろ向きっぱなしとか難しいんですけど……」
「絶対に振り向いちゃだめだよハジメくん」
「今触れている箇所が封印の壁よ」
「…………」
「これだな? よーし……ドライグ」
『Boost!』
「&フルパワー錬成! 謎壁を粉々にしろぃ!」
こうして後ろを向いたまま少女を封じてる壁を破壊するという、端から見れば間抜けにしか見えないやり方で少女は解放されるのだった。
そして――
「あ、ありがとう……。
あの、今度は私の力をアナタに――」
「あ、そういうの大丈夫だから!」
「アナタはこれでもう自由よ。
それじゃあ」
「お、おいおい引っ張るなっての! ……えーと、まあ……サイナラ」
「えぇ……?」
封印が解かれた少女をそのままに、香織と雫に引きずられながらハジメは去っていく。
そのあまりの自分への無関心さに、少女は何故かととてつもない敗北感を感じるのだった。
終わり
補足
どこぞのマフィア組織の暗殺部隊のボス的な攻撃力を持った香織さん。
攻撃力のあるヒーラーになりましたとさ……