このクロスネタをやるにあたり、最初期に没にしてたネタです。
どうして俺だけが生きているのか。
何故俺だけが死ねなかったのか。
その答えを知るものは誰も居ない。
あるのはただ――
「明日も頼むぜ財布くーん? ひゃひゃひゃ!!」
「…………………」
どこの世界もクソッタレの塊でしかないんだという事だけだ。
「…………………」
『また随分と派手にやられたな』
全てを無くしたあの日から、俺は死んでいないだけの無意味な生というものを嫌でも過ごしていた。
俺だけが死ぬことが出来ず、俺だけが仲間と同じ場所へと逝けず、俺だけが他の誰かに生まれ変わる。
何故俺だけなのかを考えることすら最早億劫となり、屈折した気持ちが表に出ていたせいか、今の姿に生まれ変わった俺は所謂苛められっ子というものに成り下がってしまった。
今だってそうだ。
通っている学校のクラスメートの男子複数から袋叩きにされた挙げ句、財布の中身を全部取られた。
『何故抵抗しない。
いや、今のお前でもあんな砂利共を叩きのめすくらい赤子の手を捻るよりも簡単な筈だろう?』
「……別に。
めんどくさいだけだよ……」
殴る蹴るをしてくるクラスメート達に一切の抵抗をしなかった俺に、唯一『本当の俺を知る相棒』が俺だけが聞くことができる不満そう声で訊いてくる。
確かに相棒の言う通り、あんな奴等なんぞ逆にカツアゲしてやれなくもない。
だがそんな気にすらなれなくなるほど、今の俺は生きる意味を見いだせない。
「はぁ……誰か終わりにしてくれないかな」
『…………』
俺の精神はあの時に死んだままなのだから。
全てを無くしても尚生き残ってしまった男が、別世界の少年として生まれ変わってから十数年。
生きる糧をも無くし、死にたくても死ねないという現実によって半ば『考えるのをやめた』状態として日々を無気力に、燃え尽きた状態で過ごしている。
「……………」
そんな無気力さがカモに見えたからなのか、彼は通っている学校におけるヒエラルキーの最下層に君臨し、一部の者達から苛め同然に絡まれる事が多々ある。
本来ならばそんな連中を『黙らせる』事は造作も無い。
しかし彼はそんな気力すらも失っており、今の今までを搾取される側に甘んじていた。
「………………」
そんな理由もあり、顔中を傷だらけにしながらも登校してきた少年をクラスメート達はひそひそと後ろ指を指す、先日袋叩きにしてカツアゲしてきた生徒はそんな少年の姿を影からニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら嘲笑するが、少年からすればそういった他人からの感情すらも無関心だった。
「南雲、その顔はどうした?」
「またどこかで転んだのか?」
「……………」
そんなクラスメートの中には少年に直接話しかける者が何人か居るのだが、少年はそういった声にすら関心を示さずに暇潰しに購入していたライトノベルを読んでいると、話しかけてきたクラスメートの男子の一人がその本を取り上げる。
「返事くらいしろ南雲」
「またラノベか?」
「…………………」
ライトノベルを読むからオタクだと浅い解釈を勝手にしてくるヒエラルキーの最上位に位置する男子生徒二人とは友人になったつもりもない少年は、ゆっくりと席を立つと……。
「返してくれるか? そしてそこに突っ立ってられると邪魔なんだけど」
「「!」」
ヒエラルキーの最上位に位置する男子生徒達に一言通り道の邪魔だとだけ言って道を開けさせながらラノベを取り返すと、他のクラスメート達から決して良いとは思えない視線を受けながらさっさと教室を出るのだった。
「………」
『おい、すぐに授業が始まるのではないのか?』
(面倒だから一限目だけサボるわ)
「「………………」」
その無気力な背中を他とは違う目で見つめる者には気付かず……。
宣言通り、一限目をサボる事になり、一人学校の屋上で事前にコンビニで買っていたパンや飲み物を片手にライトノベルを読む少年。
『お前がその手の読み物に興味を持つとはな……』
「いや、この本の内容が昔の俺達にちょっと似てる気がしてな。
主人公とか……ヒロインの子とか」
基本的に無気力となってからは何に対しても興味を持たなくなってしまった少年が最近唯一興味を持ったのがライトノベルであり、その理由もライトノベルの内容がかつての自分の人生に近かったからという理由だった。
「ま、俺はこんなに耳が遠くはなかったけどな……? ははは」
『イッセー……』
ライトノベルの主人公の鈍い描写を読みながらカラカラと笑う少年に相棒が悲しげに少年の真の名を呼ぶ。
友を失い、大切な仲間を失い、それでも尚自分だけが別世界の南雲ハジメという少年として生まれ変わって生き残ってしまった。
その理由は今は南雲ハジメとして生きるイッセーも、相棒であるドラゴンもわからない。
「南雲くん……!」
「?」
誰にも明かせない真実を抱えながらこの先も無駄に生きなければならないと思えば思うほど嫌になってくるハジメは、この際だからこのまま家に帰ってしまおうかと考えながらライトノベルの頁を捲ると、今の時間は誰も立ち寄らない筈の屋上の扉が開くと同時に今の自分の苗字を呼ぶ声が耳に入る。
その声に反応してライトノベルへと落としていた視線を上げてみると、そこには二人の黒髪の女子生徒がこちらに向かって手を振りながらやって来るではないか。
「よかった……! もう帰っちゃったのかと思った」
「勘が当たってよかったわ」
「……………」
片方は長い黒髪の美少女と言える可憐な容姿の女子生徒。
片方は長い黒髪をひとつに結んでいる凛とした女子生徒。
どちらもハジメのクラスメートであり、先程自分に絡んできたクラスメートの近くに居た筈だが、どうやら授業が始まっても戻ってこない自分を探していたらしい。
「何の用だよ? 授業はどうしたんだ?」
「それはこっちの台詞よ? どうやら完全にサボってるみたいだけど」
「あはは、南雲くんを探す為に私達もサボっちゃった……」
自分を探す為にサボったと言い出す二人の女子生徒にハジメは無愛想に『あ、そう』とだけ返し、そのままライトノベルの続きを読む。
「あ、さっき教室で言おうと思ってたけど、南雲君が今読んでるそれってカレッジD×Dだよね?」
「ああ、昨日新刊出てな……」
「私も今読んでるんだよ。
今どこまで読んでるの? そういえば近々アニメ化もされるんだよね?」
「らしいね」
そんな無愛想な極みと化しているハジメに対して特に気分を害した様子も無く、寧ろ二人してハジメを挟むように隣に座り始める。
「………。なに? ちょっと近いんだけど……」
「その様子からして授業に戻るつもりはないんでしょう? だったら私と香織も一緒にサボる事にするわ。
これで共犯よ南雲くん?」
「ちゃんと雫ちゃんと言い訳は考えたから大丈夫だよ南雲くん。
えへへ、サボるのってドキドキするねっ?」
「……………」
『…………』
ヒエラルキー最上位の女子とは思えない台詞にハジメは微妙な顔をしつつもまだ開けていなかったパンと飲み物をそれぞれ雫と香織と呼ばれた女子生徒に渡す。
「買いすぎたからそれやるよ……」
「わあ、所謂早弁ってやつ?」
「早すぎる気がするけどね」
ハジメから貰った菓子パンを嬉しそうに食べる香織と雫という女子生徒の意図はイマイチわからないが、何故か普通に絡んでくる数少ない存在という意味ではハジメの記憶に刻まれている。
『……。一切めげない小娘共だ』
(は?)
それもその筈、この二人はハジメを中学のある日を境に常にどこかしらから見ている半ストーカー気質持ちなのだから。
そしてそんな二人に話しかけられるからこそ他のクラスメートの一部からやっかまれている事をハジメは一切しらないのだ。
そしてこれが始まり。
「…………」
『おい、またしても別の世界に来てしまったらしいぞイッセー?』
これは心の底から愛した者達に『託されてしまった』最後の赤龍帝が『己を取り戻す』物語。
「…………」
「どうしよう南雲くん……」
「あまりにも非現実的過ぎて理解が追い付かないわ……」
クラスメート全員が異世界に飛ばされ、そこで話を聞かされ、何故か勇者として魔人族との戦争に駆り出されることになり……。
「なんだ南雲のステータスは全部1かよ!? ひゃははは! こりゃあ真っ先に死ぬなぁ!」
「…………………」
『そこまで抑え込む事もなかろうに……』
(良いんだよ、騒がれる方がだるい)
苛めっ子に絡まれたり……。
「南雲くんのステータスなのだけど、その数値は全てデタラメなのでしょう?」
「……………。なんの事――」
「私達は本当は知ってるんだよ? 南雲くんがとても強いって。
でもその強さを誰かにひけらかしたりはしない人だって……」
『…………。前に一度気分転換でトレーニングをした所をこの小娘達に見られていたのか……』
しかし女子二人には見抜かれてしまっていたり。
「頼むから誰にもしゃべらないで貰えないか?」
「どうして? 本当の南雲くん強さを知って貰えればバカにされたりなんて――」
「それ以上に、俺はもう何もしたくないんだ。
誰かの為だとか、もううんざりなんだよ」
「南雲くん……」
しかし燃え尽きて灰となった少年の心の炎は未だに消えたままで……。
「うっ……!?」
「ま、まずい! か、香織がベヒモスに……!」
「香織!!」
「っ!? 危ない雫!!」
されど慣れない異世界生活をそれでも必死に生きようとする二人の少女に危険が迫ったその瞬間だけ……。
「…………………」
「な、南雲……くん……?」
「べ、ベヒモスを片手で……?」
完全に灰となった筈の心に火が少しだけ灯る。
「………ドライグ」
『ふっ、何年も待たせやがって。
こっちはとうの前から準備万端だイッセー!!』
それは二人の少女の想像を越え。
蔑んでいたクラスメート達にショックを与え……。
『Boost!』
「さぁ――始めようかァ……!」
敵に絶望を与える災厄にて最悪の赤龍帝へと戻るのだ。
「すまん、派手に暴れすぎたせいでキミ達まで巻き込んでしまった」
「い、良いよいいよ! 南雲くんと一緒に居られると思うと寧ろラッキーだなといいますか……」
「それよりこの階層の魔物は信じられないくらい狂暴だわ。
私達の方が南雲くんの足を引っ張ってしまって……」
「それなら別に良い。
ここから先はキミ達を絶対に傷つけさせねぇつもりだからよ……!」
「「…………」」
そして少しずつ、そして急速に『南雲ハジメ』を知っていく少女二人もまた……。
「そうか、白崎を選ぶんだなアーシア?」
「え………」
「で、木場とゼノヴィアは八重樫か……。
ふふ、確かに適正だな?」
「何を言って……というか誰?」
託された少年に宿る魂によって継承する。
「それが
アーシアが白崎によろしくってよ」
「うん…でもアーシアってだぁれ?」
「ああ、アーシアってのは――」
「ついでに木場って人やゼノヴィアって人、それと白音だのロスヴァイセだの朱乃だのギャスパーだのリアスって誰よ?」
「…………
「「ふーん?」」
「なんだよ?」
「そ、そのお仲間さんの中に恋人だった人とか居るのかなぁって……」
「……。残念ながら居ないよ。
居たら良かったなとは思うけど、まあ眷属の中じゃドしたっぱだった俺にそんな事思う人なんて居なかっただろうよ。
……てか、男の木場は置いておいて全員軒並み美少女だったしなぁ」
「「………へー?」」
南雲ハジメとしての
「去ってしまった人達の意思は、次に進めなければならないわ」
「だから私も雫ちゃんもこの先もアナタと先に進む……!」
「…………」
『お前の負けだなイッセー?』
前へと進む勇気を教えられる事で、止まり続けていた少年の魂もまた――
「へぇ? ハーレム王に俺はなる! ……かぁ」
「なんというか、色々あってやさぐれる前のアナタって割りと欲望に忠実な性格してたのね?」
「うっせーな、別に良いだろ? 夢くらい見たってよ。
それにあのままリアス部長の眷属として出世すりゃあ叶えられたかもしれなかったんだよ……! ……当時から相手は一人もいねーけど」
「それなら少なくとも今は叶ってるよね?」
「え?」
「そうね、少なくとも私と香織で二人居るし?」
「………は? え??」
「その代わり二人以上はちょっとダメかなー?」
「ええ、多情になられても困るもの」
「お、おぅ?」
「ユエやシア、それからティオにはちゃんと言っておかないとねー?」
「ええ……地味に怪しいものねあの三人は特に」
「……………」
『良かったな、一応叶ったぞ?』
「いや……なんか違う気がするし、思ってたのと違う……」
「という訳でアーシアさんの魂と私の魂がこう言ってるの。
ハジメくんに天井のシミを数えさせている間に全力で捕まえろって……!」
「同じく私の魂も言っているわ。
ほら、だから仰向けになって天井のシミを数えてなさい?」
「……………………………………………やっぱりなんか違う気がする」
終わり
補足
ね、没にして正解っしょ?