色々とあったが、イッセーを騙して今までの旅に付いてきて貰ったという事実がある以上、1000発くらいは殴られる覚悟はしていたし、そうなってもオレは絶対に抵抗はしないつもりだった。
けれどイッセーは涙を流しながら俺に『騙しやがったなはっつぁん! 酷いぞ!』と怒るだけで殴りかかろうとはしなかったし、旅の同行を辞めるとも言わなかった。
今は偶発的にイッセーの血に適応してしまった先生に『力の制御』を教える為に一旦シアとイッセーの二人と別行動をとることになったのだが、その間は人の姿に変身しているイッセーの相棒であるドライグと、そのドライグにズタズタにされて以降、ドライグにひっついている竜人族のティオが同行することになった。
「イッセーがお前に騙されたからと言って旅を止めるだと?」
「ああ、シアは違うが元々イッセーがオレ達の勧誘を受けたのは女で釣った訳だしな……」
「それはそうだが、アイツは抜けるつもりは無いだろうな」
「……それは何故?」
「簡単な事だ。
お前達の旅とやらに付いていけば自然と『命の危険が伴う敵と戦う機会』に恵まれるからだ」
ウィルという探し人の回収も済み、後はフューレンまで送り届けるだけとなるその道中、一時的に自分が抜ける代わりに同行をさせたドライグにイッセーがオレ達の旅から抜けないのかという疑問を訊ねてみると、後部座席で腕を組ながら座っていた赤髪の男――つまりドライグは理由と共に抜けることはしないと返す。
「今のイッセーとオレは二年前のイザコザにより力の大半を失ったまま未だに取り戻せては居ない」
「「………」」
「イザコザ?」
「それは一体――あきょ!!?」
オレ達がこの世界に召喚されるよりも更に三年程前から、召喚とは別のプロセス―――ドライグやイッセー曰く、『元の世界で誰彼構わず喧嘩売りまくってはカツアゲしまくったせいで世界から追い出された』という理由で流れ着き、偶然出会ったシアとシアの一族達と共に生活をしていた――というのは既に聞いていたので運転席で運転するオレと助手席に座るユエは知っている。
そこから一年程経過した後に起こった『イザコザ』を生き残った代償で力の殆どを失ってしまった事も……。
それを知らないのは後部座席に座るドライグの隣にちゃっかりと座っている新参のティオと護送中のウィルだけだ。
「取り敢えず聞かれたらまずそうなのでウィルには寝て貰う……。
よし、話して良いぞドライグ」
取り敢えず聞かれたら面倒なことになりそうだったので、ウィルだけを手刀で首をひっぱたいて気絶させたオレは話の続きを促すとドライグは静かに語り始めた。
「オレ達を世界から追放した『神』の悪足掻きなのか、それともシアを含めた兎人族をこの世界から『存在しなかったこと』にしようとした神――エヒトとやらに抗った事へのくだらん嫌がらせなのかはわからんが、本来なら失った所で半年も鍛え直せば取り戻せた筈が、未だオレもイッセーもこの様だ」
「そういや、二人は一度神と戦った事があるんだったな……」
「エヒトとやらとはシア達の存在を消そうとするだけで姿を見せなかったので戦わなかったがな。
オレ達が戦ったのはオレ達を世界から追いやった神だ」
エヒトの他にも存在したとされる神について初めて聞かされたティオは驚愕に目を見開いているのがミラー越しに見えるが、正直言ってオレもユエも前に一度聞いてはいたものの未だに信じられない。
ましてや直接自分達を殺しに本気で来た神と、シア達の存在を抹消しようと動いたエヒトの実質二つの神を相手取って生き残っているのだから。
「エヒトとは別の神がこの世界に現れていたなんて……妾達はその気配すら感じられなかった……」
「この世界の神がエヒトとやらだとするなら、オレ達を消しに来た神は、オレ達が生きた世界の神なのだろう。
……もっとも、オレ達の生きた世界は神を自称する連中がそこかしこに居た訳だが……」
「「「…………」」」
改めて聞いてみれば、オレ達が元居た世界と、イッセーとドライグが生きていた世界は文明レベルは近いようだが生態系ぁ根本的に違うらしい。
例えるなら今居るこの世界とオレ達が元居た世界をミックスさせたような世界というべきか。
「話が大分逸れたな。
つまり今のオレ達の目的はお前の旅に同行し、強敵と相対しながら力を完全に取り戻す事だ。
そもそもの話、お前がイッセーを釣ったとされるブラフが本当だったとしてもアイツのあの口説き方だ――さっさと拒否されるかシアが邪魔でもしてご破算になるに決まっている。
だからお前が気にする事は何一つない」
言い方からしてわかりにくいが、つまりドライグはオレに『騙していた事に対する罪悪感は別に持たなくても良い』と言ってくれているようだった。
「妾が思っていた以上なのじゃ。
神に打ち勝つドラゴン……」
「勘違いをするな砂利。
オレ一人ではない、イッセーとオレだ。
二人で一人の赤龍帝としてだ」
「勿論なのじゃ。
そんなお方の奴隷――じゃなくて下僕になれるなんて妾はきっと貴方様に会う為に生まれて来たとハッキリと思えます」
「砂利が。
オレは貴様を下僕にするつもりはない」
「はぅ!? そこら辺の枯れ枝でも見るような蔑んだその目……。
あぅ~ もっと妾をメタメタに詰って欲しいのじゃあ……!」
「……。チッ、こんなのが下級とはいえドラゴンだとは世も末だな」
ドライグに何を言われても悦ぶティオにはオレとユエも微妙な気分にしかならないが、一応改めて聞いておこうか……。
「おい、ドライグに詰られて悦ぶのは勝手だが、本当にお前も付いてくるつもりなのか?」
「うへへー……おっと、うむ。
旦那様―――えふんえふん!! ドライグ様の下僕となった以上僭越ながら妾はお主達の力になろうと思う。
お主達のお陰で洗脳から解放して貰えたことじゃしな」
世界が滅亡してもドライグに仕える的な宣言をするティオにドライグは割りと本気で嫌そうな顔をしているが、ティオ自身の力を考えたらこの先の目的を果たす為の戦力は必要だ。
なのでドライグには悪いが、オレとユエはティオを旅の仲間に加える事に了承する。
「わかった」
「これからよろしく……」
「うむ!」
こうしてティオを加える事になったという流れで話は終わったオレは気絶中のウィル――はそのままにしてフューレンに向けてジープを走らせる。
その間は適当に四人で今頃ウルの町に残って先生に力の制御を教えているであろうイッセーとシアについての雑談をしていた訳だが、不意にティオがこんな質問をドライグに訊ねる。
「こうしてお話を聞いていると、イッセーとドライグ様の関係はとても深く思えるのじゃ」
「アイツが生まれたその瞬間にオレはアイツに宿ったからな。
オレを宿し、そしてアイツ自身が持って生まれた気質を理由に肉親から拒絶されてしまってからは生きる為の術を叩き込んだからな。
……それなりのやり取りくらいは出来るさ」
「………イッセーが言ってたけど、ドライグは親みたいなものだって」
「オレから見てもドライグはイッセーの親父みたいに見えるぞ」
「ふ……そう見えるか?」
ちょっとだけ嬉しそうに表情を緩めるドライグもイッセーの事はただの宿主とは見ていないのがわかる。
するとそんな反応を見ていたティオが暫く神妙な顔で何かを考え込む素振りを見せると、突然後部座席から身を乗り出し、ドライグには聞こえないようにオレとユエに神妙な面持ちのまま問い掛けてきた。
「のう、素朴な疑問なのじゃが。
もしもの話、ドライグ様が妾の旦那様になった時はイッセーは妾の義息子になるのかの?」
真面目な顔なのに言っていることが色ボケてるティオにオレは若干しょっぱい気持ちになりつつも『そうなるんじゃねーの』と返しておく。
「やはりそうなるのか……。
うーむ、後に合流した時にイッセーに『義母上』と呼んで貰えぬかと交渉してみたいのぅ……。
そうすれば妾は……にょほほほほ!」
「変な笑い声……。
でもイッセーを懐柔できてもドライグが鬼門かも……」
「砂利だの餓鬼だのと完全にお前のことを子供としか見なしてないからなドライグは」
「しかし妾は見ての通り成熟はしておる。
それこそドライグ様となら町が起こせるだけの子供を産める自信もあるのじゃ」
今にして思えばテンション高めだったあの時のドライグにズタズタにされた事で頭のネジが何本か抜け落ちたような事を宣うティオ。
というか、ヒソヒソ話のつもりなんだろうがバッチリドライグに聞こえてるんだけどな……。
「オレは枯れてるつもりなぞないが、貴様のような餓鬼相手に盛る程飢えてもない。
冗談はその間抜けなツラだけにしておくんだな砂利が」
「き、聞こえて居たのですか!? む……む……! し、しかし妾の一族では己を打ちのめした男と契りを交わすべしという掟があるのです。
そうでなくてもドライグ様の龍としての雄々しきあのお姿と力強さに妾はすっかり虜になってしまったのです! 寝ても覚めても貴方様のことが頭から離れないのです!」
「イッセーが餓鬼の頃の時点で超えたグレートレッドどころかオーフィス――そしてアルビオンにも遥かに劣る下級竜に興味なぞオレは持たん」
「む……!? そ、その名らしき者達は雌のドラゴンなのですか!?」
「気色悪い事を聞くな。
かつての宿敵共だ奴等は」
「グレートレッドとかアルビオンは初めて聞いたが、オーフィスってのはイッセーから聞いたぞ。
無限の龍神と呼ばれて、見た目は黒髪の幼女だったって……」
「ああ、イッセーと直接狩りに行った時はそんな姿だったな。
だがそれ以前は老人のような――」
「よ、幼女のような姿じゃとぅ!? ま、まさかドライグ様は妾のような雌より幼い姿の雌ドラゴンが好みなのですか!?」
「…………………食い殺されたいのか砂利が?」
オレが余計な口を挟んだせいで微妙にティオに勘違いされてしまったドライグが低い声でティオに殺気を放つも、あまり動じられてはいない様子。
「嫌じゃ嫌じゃ~! 食い殺されても良いからドライグ様のお嫁さんになりたいのじゃ~!」
「………………………」
「『こいつを今すぐにでも黙らせろ』って顔しながらオレ達の方を見られても困るぞ……」
「ドライグにだけティオってちょっとイッセーに似てる。
しぶとく食い下がろうとするところとか」
「イッセーにナンパされる女の抱く気持ちとはこうなのだと思うと、本格的に控えさせようと思いたくなって―――ええぃ、鬱陶しいぞ砂利が! 一々へばりつくな!」
「うー……ドライグ様に詰られたり冷たくされるのは嫌な気分にはならないのじゃが、夜になると寂しくなるのじゃぁ……。
こう、下っ腹が熱くなって……」
ドライグも永いこと生きてて初めてのタイプかもな……。
ましてや自分自身にとか……。
「んぁ? ドライグとティオの関係が怪しい?」
「ええ……ティオさんの方は色々な意味でドライグのお義父さんにド嵌まりしてますよ。
どうします? この後ハジメさん達と合流した時に、お二人がそんな雰囲気出していたら……」
「それは―――まー、良いんじゃね? 永いことドライグも神器として俺を含めた人間達の中を転々とさせられてきたんだ。
その封印が実質消えたんだし、羽目くらい外したってバチなんて当たらないだろ」
「意外と肯定するんですね?」
「まー……何故かあのティオってドラゴンさんは実質年上なのにそんな気になれないんだよねぇ――声とか聞いてると」
「声、ですか?」
「おう。
困っていたら助けたくなる声してるっつーか……。
昔どこかで聞いたことあった気がする声っつーか……」
その頃、ウルの町に残っていたイッセーとシアは意図せず力の壁を超えた愛子に制御の方法を教える鬼畜トレーニングの真っ最中だった。
「そもそも彼女が居なかったら一時的にとはいえフルパワーにはなれなかったからな。
しかも、どう見ても脈無しだったしよ……」
「…………へぇ?」
「一瞬だけあのメロンを……と、思うことも無くもないけど、シアがシアのスイカを触らしてくれるしねぇ……?」
「んぅ……♪ 現在進行形で私のおっぱい揉んで言うだけありますねー?
いえ、まったくもって構わないというか、寧ろそのまま私を押し倒して大人の寝技合戦に持ち込んで欲しいんですけどね?」
「一応まな板先生のトレーニングの途中だし……。
そのまな板先生は今シアにボコボコされて目ェ回してるわけだけどよ」
「きゅ~……」
「力はあるけど、戦い方を知らない典型ですねこの方。
ま、お陰でイッセーとの時間を邪魔されずに済みそうなんですけど……ふふふ」
シアが率先して愛子をシバき倒して身体に叩き込むというやり方で。
「この泥棒教師女にはみっちりと『序列』というものを解らせませんとね」
「……………。虫すら殺す事を躊躇ってたビビりが成長したもんだね。
おっぱいもだけど……」
「イッセーに身体の隅々まで叩き込ましたから? それにおっぱいに関してはこうやって揉んで貰ったからですねっ! さっきも言った通り、後はイッセーが私に寝技を仕掛けてさえくれたら良いんですけどねぇ? 父様も早く孫が見たいって言ってるし」
補足
何故かティオさんの声を聞いていると寧ろ純粋に手助けしたくなるらしいイッセー
……それは親友の主さんの声とクリソツだったからなのかもしれないけど、本人はそれを忘れている。
というわけで、このイッセーはリアスさん(と、その眷属のみ)に対しては寧ろ親友の主だったというのと死別後の対話もあって嫌悪感を全く持ってません。
その2
お察しの通り、年下ではあるので基本シアさんにはヘラヘラした態度なイッセーですけど、本人に危険が迫れば弱体化してようがなんだろうが全力で守ろうとするし、なんなら自分の持つ弱さを無意識にさらけ出して甘えることもあります。