本日の駒王学園は球技大会で、ほぼ丸1日を使って行われる予定だったが、午後からの雨により中止となってしまった。
とはいえ、午前中のドッジボールで大いに盛り上がったので、不完全燃焼であるということでも無かった。
「「死ね兵藤!!」」
味方である筈の元浜と松田が一誠の顔面にボールを当てようとすれば……。
『お前も死ねエロコンビが!!』
オカルト研究部に入ってる事に嫉妬しまくりな一般生徒が二人を狙う。
ぶっちゃけドッジボールというよりは、単なるばか騒ぎにしか見えない酷い光景だが、盛り上りに関してはかなり盛り上がったという……。
「ハッ、雑魚が……テメー等が死ねや!」
「「ぶべっ!?」」
壁殴りをしたくなる程にレイヴェルとイチャコラしながらも、ほぼ一人で相手チームを全滅させた一誠が今年のMVPだったらしいが……。
「危ねっ!? お、おい木場」
「ん、なんだい?」
「なんだい? じゃねーよ! オメーさっきからボーッとし過ぎなんだよ!」
「あー……うん、ごめん」
その球技大会中……いやそれよりも更に前から、一人の少年と……。
「……………」
「朱乃? どうしたのよボーッとして……祐斗もそうだけど……」
「………。あ、いえ……何でもありません」
一人の少女が心ここにあらずだったらしかったが……。
予めおじさん聞いていて良かった……。
でなければ多分、その時点で動揺してバレていたかもしれなかった。
それくらい、知ってたとしても衝撃が強かったから。
「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及びプロテスタント側、正教会側に保管・管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われた」
「奪ったのは『
「……。コカビエル、ですって?」
……。本当にやったんだおじさん……。
彼等を引きずり出す為に、こんな回りくどいことをして……。
「何故彼が? それに確か、コカビエルは
コカビエル――つまりおじさんの名前は三大勢力の中でも有名な方だ。
そして、リアスもまたおじさんの名前を良く知ってる。
私が悪魔に転生する理由となった元凶……と、ネガティブな意味で、今もコカビエルの名前にピクリと反応してから後ろに控えていた私に目配せをしている。
「そうだったな……確かに元だ。
とある事件により立場を追われたらしいからな」
「………」
リアスに言われて訂正する天界側の使いの人間二人がフードを外して素顔を露にする。
「ぬほ!? どっちも美少女!」
「スゲー!」
すると案の定というか、元浜君と松田君が自分が悪魔である事も気にせずに、二人の使いに鼻を伸ばし始めた。
まあ、彼女達は無視してるけど……。
「二人とも静かに」
はしゃぐ二人にリアスが一声で静めさせる。
おじさんみたいな人は中々世の中には居ない。
「それで? そのコカビエルが聖剣を強奪してこの街に潜伏している話だけど、その時点で追撃はしなかったの?」
「当然した……が、流石は元幹部だ。
向かわせた神父や悪魔祓いの悉くをわざと『重症に』して送り返してきたよ」
「嫌味ったらしくね」
「……………」
そう言いながら怒りの表情を浮かべる使いの二人だけど、私は嫌味でそんな真似をしたとは思わない。
おじさんの目的はあくまで……自業自得で大火傷を負った私の為の報復……つまり、フェニックス家のライザーを引きずり出す事だ。
それと……たまにおじさんが口にする『人外の女とその分身と後継者』との死闘。
「コカビエルにしては珍しいわね。誰も殺さなかったの?」
「あぁ、精々全身の骨が砕かれた程度だな。恐らく我々への挑発だろう」
忌々しそうに顔を歪める青髪で少し緑のメッシュが入った女の子は言うが、それは違う。
おじさんは確かに容赦なんてしないけど、必要以外は無駄な殺生はしない。
そりゃあ元々おじさんは戦闘狂な所があるけど、恐らくその人外と分身と後継者じゃ無い限りは今は殺しをしない筈。
おじさんがリベンジしたい相手……まあ、それが誰なのかあのライザー・フェニックスとの件で大体の予想はしてるし、対峙したら一気に本気になるんだと思うけど。
だからうん……貴女達程度じゃおじさんは相手にもしない。
「我々から悪魔に対しての願い――いや要求は一つ。
私たちと堕天使のエクスカリバー争奪戦にこの街にいる悪魔が一切介入しない事、つまるところ事件に関わるなだ」
「随分なな言い方ね。
私たちが堕天使と手を組んで聖剣をどうにかしようとしているとでも?」
天使側の要求に対してリアスの表情が厳しいものに変わった。
リアスからすれば堕天使と手を組むなんてありえ無いのだから仕方ない……私は――かなり複雑だけど。
「可能性がないわけでもないと本部は思っているのでね」
「私たちは堕天使と手を組んでどうこうしようなんてまったく思ってないししないわ。グレモリーの名に懸けて、魔王の顔に泥を塗るようなことは決してしない!」
信用してないと言われてリアスが激昂する。
しかし目の前の二人は淡々としていた。
「上は悪魔を少しも信用してないのでね。
『堕天使コカビエルと手を組めば例え魔王の妹だろうと消滅させる』と上司は言っている」
消滅か……。
ねぇ、おじさん……私が今此処でおじさんとの関係をバラして彼女達に消されようとしたら……助けてくれる?
「そもそもコカビエルを見くびっているのはソッチよ。
話に依れば貴女達たった二人で別れた聖剣を集めようとしているらしいけど、コカビエルと出会したら即死ぬわよ」
「私達は聖剣の奪還であってコカビエルとの戦闘ではない。
それにこれは主に与えられた使命なのだ……逃げるなぞありえんな」
「そういうこと」
「相変わらず正気の沙汰とは思えない狂信っぷりね、教会の人間は……!」
やっぱり私……おじさんの事好きだ。
私の為にこんな真似までしなくて良いのに――ただ一緒に居てくれるだけで良いのに……。
分かったわおじさん、やっぱりこの騒動を利用する。
おじさんと私がこの騒動で死んだ事になれば……私達は誰にも邪魔されずにずっと一緒だもんね? そうしたら今度は私がおじさんの為に何でもするから……待っててね?
「む、何だキミは?」
「僕の事は知らないだろうし、用は無いよ。
けどキミ達の持ってる聖剣には用がある!」
それにはまず、ライザー・フェニックスをこの騒動に引きずり出す事。
その為には、そう……彼との繋がりがあるあの二人に密かに接触しよう。
「やめなさい祐斗!」
部室に来てなかった祐斗君が、殺意に満ちた形相と共に現れ、魔剣を大量に出現させて教会の二人に宣戦布告している中、私もまた……おじさんとの時間を守るために密かに動く決心を固めた。
「おじさんにとって邪魔になるのだろうけど、ごめんなさい……私はやっぱりおじさんが大好きだから……」
何処かのホテルの一室。
比較的高級なこのホテルの最上階の部屋にて、男は初老と白髪の少年神父を前に、弱くて飲めもしない酒を無理して煽りながら、無駄に威圧的にソファに座って口開いた。
「この街に聖剣使いのガキが二匹入り込んだらしい。
どうやらミカエル達が寄越したらしいが、これは逆にチャンスだ。
まずフリードは聖剣の一つを持ってその二匹から残りの聖剣を奪え」
「りょーかい!」
「そしてバルパーは儀式の準備だ」
「勿論だ。
フッ、それにしても流石だなコカビエルよ。
貴方のお陰であれほど求めた理想がこんなにも早く近付けるとは……」
「……。貴様と利害が一致したに過ぎん、俺の目的はあくまで戦争だ」
「分かってるさ、聖剣が再び一つとなった時、貴方とこの聖剣が中心となって戦火は上がるだろう」
「…………」
聖剣を求める狂気の男、バルパー・ガリレイとそのバルパーによって連れてこられた狂気のはぐれ悪魔祓い、フリード・セルゼン。
この二人の人間を利用し、戦争目的の行動を隠れ蓑に朱乃の抱える自分を含めた全ての柵から解放する。
自分と朱乃の繋がりを悟られず、朱乃を傷付けた分身……そして己自身のリベンジの為に後継者と人外を打ち倒す。
「ならば始めろ」
それがコカビエルの抱く最後の贖罪であり、最期の役割。
「了解した、行くぞフリード」
「はいな~」
「…………」
二人を部屋から出し、雨の降り頻る空をホテルの窓から眺めるコカビエルは覚悟を決める。
「バラキエルとの仲が戻った瞬間を見たかったが……ま、仕方ないな」
唯一例外で人外による手を振り払い、リベンジへの道を選んだ後継者の対となる男の……覚悟を。
「朱乃……俺はお前思ってるような『おじさん』じゃない。
あの女に負けてから拘ってるだけの……只の身勝手な堕天使だ。
だから……俺の事は気にせずお前は必ず幸せになれ」
一誠の前任者になる予定だった男の覚悟は止められない。
木場祐斗の復讐戦は、その心の在り方により二人の悪魔祓いにより徹底的な敗北により終わった。
止めようとしたリアスを振り切り、全てを洗い流す鎮魂歌の雨となって降る中を一人走り去った後、事情を知らない二人の新人に祐斗の過去を教えた。
「……そ、そんな事があったんすか」
「へ、ヘビーっすね」
「そうね……あの子は今もまだ聖剣が憎い。
それを止められなかった私もまだ駄目ね……」
その過去が元浜と松田の祐斗に対する認識を変えるのは必然だった。
そして……そんな祐斗とは別に、只自身の慕う男の為に動く決意を固めた少女が此処には居た。
それが……
「お願いします……コカビエルの狙いは恐らくアナタ達です。
だから……願わくば私とコカビエルを死んだと見せかけて逃してください」
姫島朱乃という少女だ。
コカビエルを死なせない為に、直接交渉に赴いたこの場所は……兵藤一誠とレイヴェル・フェニックスの自宅であり、顔を見るや否や玄関先で額を擦りながら懇願する朱乃に、二人は少々ながら困惑した。
「ちょっと待ってよ、唐突すぎてワケわからんのだけど……」
「というか、今姫島先輩はコカビエルと仰有いましたか?」
「………」
玄関先で土下座をかます、二人にしてみれば普通に先輩である朱乃に取りあえず土下座を止めさせて中に招きつつ、コカビエルの名を口に出す彼女から事情を聞くだけ聞いてみる事に。
「コカビエルって……え、マジかよ。
俺のコカビエルってあのおっちゃんだよな?」
「間違いないでしょうね……唯一安心院さんの誘いを完全に突っぱねた、一誠様と同じ
「……。彼は、私がおじさんと慕う人です」
「わぉ……俺、あのおっちゃんに1勝1敗してんだけど、ぶっちゃけ一戦目はマジでボコボコにされたんだよな……」
「姫島先輩と繋がりがあったとは……意外でしたわ」
その結果、どうやら一誠とレイヴェルもまたコカビエルの裏を知っているらしく、二度戦った事のある一誠は渋い顔を……レイヴェルはただただ素直に朱乃と繋がりがある事に驚いた。
「もしもコカビエルが
「自力で完全神越えしたんだろ? マジでスゲーよあのおっさん」
殆ど誰にでも口の悪い一誠が、ちょっと悔しそうにしながらも誉めている態度に、朱乃はほんの少しだけ意外そうに目を開く。
「その、詳しいですね。
やっぱりおじさんの言っていた『分身』と『後継者』というのは……」
「一誠様が後継者で、私はしがない分身で間違いありませんわ。
それで姫島先輩……貴女とコカビエルを死んだように見せ掛ける工作に協力して欲しいというのは、どういう事なのでしょうか?」
この二人でほぼ間違いない。
おじさんがリベンジを誓う存在……それは恐らくライザー・フェニックス――いや、フェニックス家全員もまた分身という存在なのだろうと確信した朱乃は、レイヴェルからの質問に対して隠すこと無く自分の思いを話した。
自分の王や仲間にも内緒であったコカビエルとの繋がり、そしてコカビエルに対する死んで欲しくないという思いを……。
「……。マジか、あのおっちゃんとアンタが繋がってたとはな」
「お兄様に傷付けられて激怒……。
少々話が大きくなってしまいましたね、まさかのあのコカビエルが動くとは」
「おじさんの目的は、私を傷付けた存在への復讐。
それこそ自分の命を省みずに道連れにしてまでアナタ達にリベンジをすると思う。
けど、私は今のままじゃおじさんがアナタ達に殺されてしまうと思ってる……だから、おじさんを殺して欲しく無い」
「それは解りましたけど、何でアンタとコカビエルを死んだように装うんですか? ぶっちゃけ追い払ってしまうだけでも良くないか……と思うんですけどね」
それ故に一誠とレイヴェルは解せなかった。
何故コカビエルと朱乃を死んだ様に装わなければならないのかを。
正直、最後に一戦交えた時ですらかなりの激戦でお互い死にかけたのだ。
それから確実に進化をしてるだろうコカビエルを殺すなんてやろうと思っても相当難しいと、同じように鍛練を重ねて更なる進化をし続けている一誠は思っている。
だから何とか追い払うだけで十分では無いのかとレイヴェルと共に疑問に思って質問してみると、朱乃は途端にその瞳に光を消しながら口を開いた。
「おじさんが私の事でこれ以上罪を感じる事なんて無いし、おじさんは元々何にも悪くなったのに、私が八つ当たりしたばかりに……。
だから今度は私がおじさんに謝る番……おじさんを私がずっと守る。
世間的に死んだ事にすれば、おじさんと堂々とずっと一緒に居れるから……」
「お、おう……」
「……。コカビエルに依存しまくってますわね……」
時折優しげに微笑みつつコカビエルへの想いをぶちまける朱乃だが、目がハイライト過ぎて逆に恐怖だった。
一誠はそんな朱乃にどう返したら良いのか分からず、思わず変な声を出し、レイヴェルはほんの少しだけ彼女に共感の気持ちを抱くが、コカビエルの性格を思い出すと二人は頷けなかった。
「あのー……先輩さんがコカビエルを慕いまくってるのは分かるんですけど、あのおっちゃんの性格的に、死んだ様しても大人しくしてるとは思えねぇんですがね……」
「本当に兄が申し訳無いことをしました」
コカビエル。
安心院なじみをぶちのめすとずっと言ってる生粋のリベンジャー
そのスキルも彼女に対する挑戦心と復讐心を爆発させる事で生まれたものであり、安心院なじみはそうでも無いが、コカビエルは彼女が超嫌いとまで言ってる。
故に下手に余計な真似をすへばますます彼の復讐心を刺激してしまい、喩え話朱乃の目論見が達成されたとしても、即座に生存を主張するに決まってる――と二人は考えていた。
「それにだぜ、アンタさっきから自分の主を裏切ってる言葉を連発してる自覚あるのかい?」
「……。ありますよ、手紙を貰ってからずっと悩んでました。
けど、それでもおじさんの事は忘れられない――だからいっそ私も死んだ方が後腐れも無いと思って……」
「……。難しいですわね。話に依れば既に聖剣を強奪されているとの事ですし、私達が説得しても寧ろ逆効果でしょうし……うーん」
ほんの小さな行き違いで大きな亀裂となる。
なまじコカビエルを知っているだけに『そんな事知るか』と突っぱねられず、またコカビエルの意外なる一面を知って妙な親近感を抱いてしまったが故に、ほんの少しだけ朱乃の意思を汲んでも良いんじゃないかと感じてしまっていた一誠とレイヴェルは――
「おじさん……おじさん……!
独りは嫌なのに、もっとおじさんと一緒に居たいよぉ……」
「学園二大お姉様って言われてる人が子供みたいになっちゃってるぜ……。
相当に あの激強なおっちゃんが好きなんだな」
「なまじ共感してしまうので……何とかして差し上げたいですわ」
「あぁ……まぁな、あのおっちゃんは多分『余計な事なぞせずさっさと殺し合うぞ!』と言うだろうけど」
難しい状況に巻き込まれるのだった。
「……。いっそお兄様をコカビエルと戦わせましょうか」
「それで止まるか? 俺流石にライザーの兄貴がもしも殺られそうになったら止めるぞ」
「………」
複雑な関係が絡み合うのは何とも面倒だ。
この時ほど二人はそう思ったのだった。
補足
おじさんの前ではほぼ朱乃ねーちゃん化する。
実の所、たまーに悪人顔の男とスゲー嬉しそうに腕を組ながらお買い物をしている姿を目撃されてたりするが、朱乃さんがその悉くを消したのでバレてません。
故に、その想いが今回で完全に爆発し、おじさんを色んな意味でお世話したい願望が表に出てきた。
ぶっちゃけ、バラキエルさんが知ったらショック死じゃ済まされないけど、文句は正直コカビエルに言えない。
何せ、立場すら平然と捨てて娘の為に文字通り何でもやってるという、返せない恩がありすぎて。
その2
シリーズ恒例ガブリーさんですが……。
今回全くその様な関係も繋がりもございません
※と、思ってますが、実は迷ってる
故にコカビエルさんに浮いたお話もまるでない。
娘みたいな少女に最近会う度に変にベタベタされるけど、小さい頃からのおじさんなので何にも思わない。
強いて言うなら、一々下着を買うのに自分を女性用下着売り場に引っ張った挙げ句、これはどう? とかこれは似合う? とか聞かれても困るのと、派手なのは基本駄目だろと思っている。
あと、見てみぬフリをしてるものの、ご飯を作ってくれて食わせてくれるのはありがたいが、自分の使った箸を隠れてちゅぱちゅぱしないで欲しい。
突っ込みをどう入れたら良いか微妙悩むから。
……と、打ち解けてから時間を経る毎に将来が心配になる友達の娘さんに、さっさと男の一人でも作ってくれと切に願うコカビエルおじさんなのだった。