【トリップ】それでも、私は生きている   作:月乃夜桜

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前回からまたかなりの時間が経ってしまいました……すみません(--;)

今回はゾフェル氷刃海〜になります


62戦目

・・・

 

ゾフェル氷刃海にやってきたユーリ達。相変わらず吹雪いていて、芯から凍りそうな程の寒さだ。エアルクレーネで試したいことがあるとリタが言っていたのもあり、来てリタから説明されたものの、中々に理解が出来ないでいた。

それは、アスカも同じで、物資とエアルの中間のようなモノがマナだと言う。アスカは、そのマナから精霊が生まれると知っている。だが、知っていても実際、目の当たりにするのとでは全然違うとも、これまでの経験から分かっていた。

 

そして、エアルクレーネに着いて早々。準備をしたリタ。だが、中々思うように進まない。リタのやりたいことは分かっていても、そのやりたい事を実現するために、エステルの理解が必要だ。しかし、エステルは何度説明を聞いても、分からなかった。それは、現実世界で何度か動画を見て、説明を見ているアスカでさえ、分からないものだった。

だが、ユーリ達の手伝わせろ、という意見にリタはついに折れて、ユーリ達でも手助け出来る方法を伝えるのだった。

 

(ここも、うち抜きで達成してる。うちなんか居なくたっていーんだけどなぁ……あーでも、またイレギュラーが、発生すんのかな)

 

そんな事を考えるアスカは、それでもそれを顔には出さず、指定された位置に足を運ぶのだった。そして、魔術が発動した途端、身体の中から何かが、ごっそりと持っていかれる感覚がする。流石のアスカも(アスカ以外のメンバーもだが)、呻いた。そう何度も、こんな経験をしない為に、中々慣れないのだ。

 

リタは上手いことやったようで、エアルがちゃんと蒼穹の水玉(キュアノシエル)に流れているようだった。だが、急にエステルに異変が現れる。システムの暴走かと思ったが違うようで、勝手に蒼穹の水玉(キュアノシエル)の再構築の術式が組み上がっているようだった。

 

そして、その能力から力の影響を受けやすいアスカは、エステル以上だろう苦痛に苛まれていた。

ズキン、ズキンと脈に合わせた痛み。その原因は心臓だった。いつもそうだ。何かしら異常があって、身体が悲鳴を上げると、痛くなるのは、心臓だ。痛くて痛くてたまらない。だが、アスカはこれ以上に辛い痛みを、苦しみを知っているが故に、顔色を変えないのは流石に無理だが、表情を変えずに居れるのは、出来る。だって、痛みも、イタミも、慣れているから。

 

そうして耐えていると、ふと苦痛から開放される。同時に膝をついたアスカ。足に、力が入らない。氷の上だ。冷たい。早く、立たなくちゃ。そう思うのに、力が抜けきってしまい、中々立てないでいた。

いつもなら、そんな状態になったアスカをユーリ達の誰かしらは気付く筈だが、今は気付かなかった。なぜなら、精霊が目の前にいたから。

 

(なんか、最近はコレに弱くなったなぁ……次は、立っていられるようにしなきゃ。コレする度にこんなのじゃ、心配かけるし)

 

そう思いながら、アスカは何とか立ち上がる。すると、ユーリ達と話していたはずのウンディーネと名付けられた精霊が、アスカへと語りかける。

 

「異界の子よ、その力、モノにしたようじゃな?」

 

「え?……あー、うん。多分、やけど」

 

「じゃが、随分と無茶をする。そなたの体で生命力を使えば、どうなるか、知らないわけじゃなかろうて」

 

「まぁ、そりゃそうだけど、さ。うち1人だけが、やらないってのも嫌じゃん?」

 

「アスカ……」

 

「そうか、やはりそなたは()()()()()であるのじゃな」

 

ウンディーネの言葉を理解した者は果たして、いたのか。リタでさえ、頭を捻っていたのに、だ。だが、アスカはわかったのだろう。まだ生命力を持っていかれたダメージが回復していないだろうに、困ったように笑って見せたのだ。

 

「あー、まぁね……選ばれちゃったからには、しゃーないでしょ?だって、うちは、()()()()()居るんだから。うちからソレを取っちゃったら、何が残るってーのさ?」

 

先程とは打って変わり、自嘲気味に笑うアスカ。まだ、アスカ自身の事をあまり知らないユーリ達は、会話の意味がわからなかった。だから、何も言えなかったのだ。アスカが、使命を持ってここに来たのは、知ってる。異界から来たことも(そして、それが恐らく一方通行であろう事も)。そして、世界の修正力とやらに、狙われていることも。その、修正力とやらは、アスカの存在を異物だと認識しているから、襲ってくるのだということも。だけど、そこまで知っていても、今の会話が理解出来なかったのだ。

 

「ねぇ、アスカが選ばれちゃったから、狙われてるの?あの黒い魔物に」

 

ふと、カロルが質問をした。確かにその質問は間違えてはないのかもしれない。アスカは、その問いにイエスと、そう答えることが出来た。だが、答えたくなかった。ユーリ達は優しいから、きっとその狙われてることも、何とかしようと、そう言い出すに決まっているから。だから、アスカその質問に答えるのを躊躇っていると、ウンディーネが代わりに答えた。

 

「そうじゃな。異界の子はどうやっても、異界の子である事に変わりはない。本来なら、ここにいるはずの無い存在。故に、世界には異物だと認識されているのじゃ」

 

「そんなっ!アスカは何も悪いことしてないのに!?」

 

「前も言ったでしょ?うちは、存在してるだけで罪だって。咎人だって。もう忘れちゃったん?」

 

「忘れてなんか、ないよっ…!でも!!」

 

「カロル。うちの事は気にしないの。今は、星喰みを何とかするのが先決でしょーが」

 

「気にするよ!!」

 

カロルの怒りに、驚いたアスカ。どうしてなのだろう。なぜ、ここまで怒る事があるのか。アスカには理解ができなかった。

ユーリのように皆を導く力もなければ、リタのように魔術も使えない。エステルのように特別な力もなければ、ジュディスのように戦う力もない。パティのように、目的に向かって全力という訳でもない。

レイヴンのように、自分の力を使いこなし、使い分けている訳でもない。ラピードのように、主人だと決めた人を助け、守るほどの力もない。ましてや、カロルのように、真っ直ぐ自分の夢に向かって頑張っている訳でもないのだ。

更に言うなら、フレンのようなカリスマや自身の考えを持っている訳でもないのだ。なのに、どうしてなのだろう。

 

「どうして?わかんない。うちには、わかんないよ。だって、うちの事はどうでもいーじゃん。ほっといたって、別に何か変わる訳でもあらへんやん。それよりも星噛みを何とかする方が先でしょ?」

 

「あんたねぇ……!!」

 

「だってうちなんかの為に、そこまで怒ってくれるのも、何とかしようとしてくれるのも、全部。全部、わからへん……!」

 

「異界の子は、この世界に呼ばれたイレギュラー。じゃが、悪しきものでもない。それは、わらわも知っておるぞ」

 

ウンディーネは、そう言い残すとそのまま消える。否、正確にはエステルの中に入り、力を制御しているようだった。喜ぶ一行だが、急にザウデが崩壊し、星喰みの力が溢れるのを目にした。そして、バウルから星噛みの眷属が現れ、カプワ・ノール港を襲っているとの知らせが入り、ユーリ達は急いで向かうのだった。




というわけで、ついにザウデが崩壊しちゃいました。

次回はカプワ・ノール〜です。

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