今回はレイヴンとユーリが話をしているところ~です。
・・・
レイヴンは街の衷心より少し離れた場所にいた。そこへ、ユーリがやってくる。ユーリは先にノードポリカに行ってもいい、という事を伝えに来たようだ。自分たちの都合のせいで新月を過ぎてしまい、手紙を渡せなくなったらいけないだろう、と。
だが、レイヴンはまだ新月まで時間があるから大丈夫だと告げる。さらに、1人でさばくと洞窟を抜けるのも嫌だ、途中で殺されて手紙が届かないと、
そんなこんなでひとまずは仲間のもとを回るユーリだった。そのころ、飛鳥はというと。レイヴンにつかまっていた。木陰で休もうかと思って来てみれば、レイヴンが居たのだ。
「よぉ、アスカちゃん」
「ん、あ、レイヴン」
「――記憶、戻ったのよね?」
「うん。戻ったよ、全部ね」
「大丈夫?」
「あの頃の自分が、ダメになってたなって事はわかる。でも、今は大丈夫。もう、あんなことには、ならないよ。まぁ、〝トリガー〟を引いちゃったら、ダメかもしれないけど」
「……〝トリガー〟?」
「うちは、一般人以下の出来損ないだから。まだ、本当の意味で過去を受け入れて前には進めない。本当はもう、器には入りきらない。だけど、入りきらないのに放っておいたらまたアレになっちゃうから、器を広げると同時に、入りきらない部分は、まとめて別の器に入れておいとくの。いつか、本当の器に入れられるように」
飛鳥の言葉に何も言えない。自分を、偽っている、ということだろうか。記憶がすべて戻ったというなら、ダングレストでの日々も思い出したはずだ。だけど、それを思い出しても、前のように錯乱しない。自分に暗示をかけているのだろうか?
「大丈夫、もううちは、“帰れない”。二度と、ね。だから、“
「帰れない?」
「うん。自分が生まれた場所ってこと。うちが、本当に生まれ育った場所。そこには、もう二度と帰れないんだ。でも、いいの。だって、あそこに居てても、暴力と悪口と存在否定。居場所なんてなかったから。どうせ、妹もいる。それならあの人達には十分でしょ。うちよりも、ずっとずっと優秀で聞き分けの良い子がいるんだから。うちを散々、要らない子って言ってたんだ。居なくなって清々してるよ」
「!!」
本気で、もういいと思っているのだろう。でなければ、微笑みながら、話す内容ではない。生みの親に存在否定をされていた。どういう経緯でダングレストに来たのかはわからないが、元の場所にいてても、そんな扱いをうけるなら。
「アスカちゃん君は――「大丈夫」」
「だって、あの人達はもういないから。何もされないし言われない。だったらそれでいいんだ。どっちみち、どこにいても、うちの居場所なんてない。だけど、いいんだ、それで。それに、使命を果たすまでだろうしね、この世界にいてるのなんて。それが終わったら、あとは消えるだけ。あぁ、その時はうちの記憶は全部消してほしいなぁ。うちなんて、本当は居ない奴だし」
「アスカちゃん!!」
レイヴンは、飛鳥の両肩を持って揺さぶった。飛鳥が、本気でどこかに行ってしまいそうだったから。本気で、消えてしまいそうだったから。飛鳥は、本気で自分の存在がどうでもいいらしい。使命を、果たさなければいけないらしいが、それが終われば。
あぁ、本当に。何を背負っているというのか。優しい子なのに。何を背負って、抱えているのだ。核心はわからないし、聞いても答えてくれない。こうやって、無意識に限界だ、助けてくれってサインをだしているのに。
「………大丈夫、壊れないよ。だって、とっくに壊れてるんだもん。これ以上、壊れないよ。治せもしないだろうけどね。クス、わかってるでしょ。うちが、これだけ面倒な奴だって。だから気にしなくていいんだよ。とっくに“堕ちてる”から」
なんて、微笑む飛鳥。こういう時、彼女の名前を“呼んで”いたのが、ドンだった。ドンは何て言ってたか。あぁ、そうだ。
「ねぇ、“飛鳥”ちゃん」
「!!」
飛鳥は、目を見開いた。おかしい。どうして、レイヴンまで知ってるの?うちは、月城飛鳥、って言っていないのに。アスカ・ツキシロって名乗ったのに。あぁ。そういえば、ユーリも、知っていたような気がする。どうしてだ。この世界じゃアスカ・ツキシロでいなくてはならないのだ。月城飛鳥、ではダメなんだ。
レイヴンは不思議そうに自身を見つめる飛鳥に、あぁ、と納得した。アスカ、ではないのだと。本当は飛鳥という名前なのだ、と。理由があってアスカと名乗っている。だからこそ、飛鳥という本当の名前に引っ張られるのだ。
1人納得したレイヴンはきょとんとしている飛鳥の頭をポンポンと撫でた。その際に、体をビクッと震わせたのは、無視した。
・・・
次の日、全員が街の入り口に集まった。これからどうするのか、という事だった。全員の目的を聞く中、ユーリは飛鳥に聞いた。記憶が戻った今、何がしたいのか。
「お前は?」
「ん、うち?……せやな、うちは皆についていくよ。やらなきゃいけない事はあるけどやりたい事はないし」
「お前の言う使命とやらは?」
「それは皆と一緒に行動することが一番の近道だから別に1人でもいいとは思うけど。色々方法はあるし。でも、その………皆がいいなら一緒に行動させてもらいたいな、なんて……」
「素直じゃねえな。言えばいいだろ。一緒に行きたきゃ行きたいって」
「!……いつか、ね」
なんていう飛鳥はどこか嬉しそうで。ともかく、全員の意見をまとめると、ノードポリカに行く、でいいようだ。というわけで、そのためにもマンタイクに戻ることになった。
・・・
道中特に何もなく戻ってきたユーリ達は、戻ってくるなりキュモールが住民に理不尽を働いているところに出くわす。そのため、理不尽事態をやめさせれない(表立って騎士団に楯突くと、いろいろと面倒)ため、カロルに協力してもらい、その場を後にした。
そして、その日の夜。皆で話し合う。その中で、飛鳥は。
「……まぁ、大方エステルの
「!」
「それでも、
「聞きたいこと?」
「あんの黒い魔物どもに、皆の攻撃が通るようになる方法ないかってね。フェローは黒い魔物の事知ってたっぽいし。それなら
「なるほど」
なんて話をし、就寝する。飛鳥はおぼろげながらも、思い出したことがあるため、就寝したフリ、をしていたが。そして、ユーリが抜け出すのを見届けてから、飛鳥も後をつけるように、出ていく。
そして、ユーリとキュモールの会話を近くの木の陰に隠れて見、何もないことを確認する。そして、その後のフレンとユーリの会話も。
(あぁ、何もない。よかった)
安心して見届ける。そして、ユーリが戻るのを見届けたフレンは。
「……もういいよ。出てきたらどうだい?」
「!」
どうやら今回はフレンにバレていたらしい。バレているのなら仕方ない。そう思って姿を見せる飛鳥。
「うちに何か用?隊長さん」
「……変わったね、前会った時よりも」
「!……それは多分ね、思い出したからだよ。全部」
「!」
フレンは驚いた。前会った時よりも、ずっと落ち着いた雰囲気で。何より目つきが変わった。どこか、光のない目だったのが、今はどうだ。覚悟を決めた目だ。
「騎士団にいたのは事実。でも、違う部署にいて。でも、理由は知らないけどナイレン隊長と一緒に少しだけ話して。そのあとすぐに、やめたんだ、騎士団。うちは、騎士になれるような、そんな資格ないから。あとは精神的に病んでたのが原因かな」
「!!………君、は……チャクラムを使う前は……槍使い、だったかい?」
「!……うん」
「そうか。髪型も違ったし、言葉使いも違っていたからわからなかった。そうか。君はシロノだったか」
「………うん」
そうだ。騎士団にいたころ、何故か偽名だった。確か、シロノ・クリム。そんな名前だったはずだ。きっと、自分の名前で呼ばれたくなかったのだろう。だってそうだ。今よりずっと病んでることには変わりない。だけど、今なら。一応コントロールが効く。だから、何とかなってる。だけど、あの頃は違う。まだ、コントロールも何もできなかった。
「変わったね」
「まーね。色々、覚悟決めた。うちはアスカ・ツキシロ。今はギルド
「あぁ、よろしく」
改めて、フレンと話した飛鳥も、そのまま、皆のところへと戻った。その後、解放された街はお祭り状態だった。そんな中。ユーリはフレンのもとへと向かった。
・・・
「立ってないで座ったらどうだ」
その言葉で、ユーリは、フレンと背中合わせで座る。
「話があんだろ」
「……なぜキュモールを殺した。人が人を裁くことなど許されない。法によって裁かれるべきなんだ!」
「なら法はキュモールを裁けたっていうのか!?ラゴウを裁けなかった法が?冗談言うな」
「ユーリ、君は……」
ユーリは、フレンの前へ立つ。
「いつだって、法は権力を握るやつの味方じゃねえか」
「だからと言って、個人の感覚で善悪を決め人が人を裁いていいはずがない!法が間違っているなら、まずは法を正すことが大切だ。そのために、僕は、今も騎士団にいるんだぞ!」
「あいつらが今死んで救われたやつがいるのも事実だ。おまえは助かった命に、いつか法を正すから、今は我慢して死ねって言うのか!」
「そうは言わない!」
フレンは、ユーリの後ろに立つ。自然と、向かい合わせになる2人。
「いるんだよ、世の中には。死ぬまで人を傷つける悪党が。そんな悪党に弱い連中は一方的に虐げられるだけだ。下町の連中がそうだったろ」
「それでもユーリのやり方は間違っている。そうやって、君の価値観だけで、悪人すべてを裁くつもりか。それはもう
「わかってるさ。わかった上で、選んだ。人殺しは罪だ」
「わかっていながら、君は手を汚す道を選ぶのか」
「選ぶんじゃねえ。もう選んだんだよ」
「それが、君のやり方か」
「腹を決めた、と言ったよな」
「ああ。でも、その意味を正しく理解できていなかったみたいだ……騎士として、君の罪を見過ごすことはできない」
そこで、フレンが剣を握り、力を籠める。その時だった。
「隊長、こちらでしたか」
ソディアがフレンをみつけ、声をかけてきた。どうやら話があるらしい。
「どうした?」
「ノードポリカの封鎖、完了しました。それと、
「………」
「隊長?」
「わかった」
「はい」
そこでソディアは去っていく。それを見届け、フレンは後ろを振り返る。だがそこにはユーリの姿はなかった。
「ユーリ、君のことは誰よりも知っている。あえて
・・・
フレンの傍を離れたユーリはまだ湖の傍にいた。そこでエステルとラピードに遭遇する。どうやら、フレンとのやり取りを聞いていたらしかった。そして、そんなエステルに怖いなら、フレンと帰れ、という。だが。
「……帰りません」
「おまえ」
「……ユーリのやったことは法を犯しています。でもわたし、わからないんです。ユーリのやったことで救われた人も確かにいるのだから……」
「いつか、お前にも刃を向けるかもしれないぜ」
「ユーリは意味もなくそんなことをする人じゃない。もし、ユーリがわたしに刃を向けるなら、きっとわたしが悪いんです」
真っ直ぐ、ユーリをみて言うエステル。本気でそう思っているようだ。
「………。フレンと帰るなら、今しかねえぞ。急いでるみたいだったし」
「わたしはユーリと旅を続けます。続けたいんです。ユーリと旅をしているとわたしも見つかる気がするんです。わたしの、選ぶ道が……だから……」
エステルはそこで言葉を切って、握手を求めるエステル。これからもよろしくって意味だそうだ。その手を、ユーリは少し悩みつつも
「……ありがとな」
そう言って差し出された手を取った。
・・・
その後、宿屋で一晩過ごし、改めてノードポリカに行くことになった。しかし、騎士団が何やら動いているという事で、慎重に、という事も頭に入れてだ。そして、まずはカドスの喉笛に向かうユーリ達。しかし、途中で
ノードポリカへ続く道はすべて封鎖されているようだ。しかし、ここで引き返すわけにもいかず、ひとまずそのカドスの喉笛へ行ってみることになった。
(あぁ、もうすぐ、か……)
アスカは、先の事を考えていた。確か、ノードポリカでべリウスは……。そこまで考えてから何が起きるかはわからないが、高確率で原作と変わってしまっているだろうことは予測できた。もしかしたら、ここから先もすでにそうかもしれない。そう、カドスの喉笛の入り口を見て思う飛鳥だった。
色々暴露しちゃってますが、飛鳥的には持ち直しているような感じです。
多分また覚醒すると思われる。
次はカドスの喉笛~になります。