【トリップ】それでも、私は生きている   作:月乃夜桜

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研修しんどすぎるんじゃー

今回は砂漠の街~です。


40戦目

・・・

 

話に出てきた砂漠の中にある街というのは、洞窟を抜けて割とすぐのところにあった。慣れない砂漠で思った以上に短い距離でも疲れたりはしたが、魔物に襲われることなくたどり着けた。その街の名は、マンタイクというらしい。

 

街の中は静かだったが、流石砂漠。街の中に入ったところで暑さは変わらない。そして驚いたことにここにも帝国の騎士が居たことだった。ジュディス曰く、少なくとも前に来た時はいなかったとのこと。

 

ひとまず自由行動になり、日が落ちるあたりで宿屋で待ち合わせることに。飛鳥には考える時間というものは要らないなぁ、なんて思いつつも日陰で過ごす。

 

―ここら辺、全く記憶ないからどうなるのかさっぱりだ……でも、だからと言って気ぃなんて抜いてらんないし……

 

なんてぼうっとしていると。レイヴンがやってきた。どうやらレイヴンも涼みに来たらしい。

 

「よっ、元気?嬢ちゃん」

 

「ん、レイヴン?見ての通り、ダレてるから元気、じゃあないかな」

 

「あら、ダメじゃないの」

 

「うちは元から動くのはそんなに得意じゃないっていうか、嫌いなんですぅ~」

 

なんて他愛もない話をしていたのだが。

 

「で、嬢ちゃん。イエガーの事、知ってったっぽいし、何より記憶も粗方ってことは全部じゃないってことでしょ?」

 

「――……なーんでそう、鋭いのかなぁ……でもま、そんなもんか。そうね、うちはある程度色々知ってる。けど、言えない。何があっても絶対」

 

いきなり、真剣に話出した。多分、こっちが本題なんだろうな、と思いつつ、これはある程度言わなきゃダメな奴だな、とも思った。

 

「!」

 

「最初の記憶がないのも、今は好都合。あったらきっと、うちは今もう死んでるよ。だから、まだ身体が思い出すこと拒否ってる」

 

「嬢ちゃん……?」

 

レイヴンは、何故かゾクゾクした。うすら寒いとでもいえばいいのか。そして、恐怖。初めて、レイヴンは飛鳥の事を怖いと思った。飛鳥本人はその様子だと覚えていないようだが、初めて会った時は、もっと諦めた顔で、生気もなく目に光もない。ただ、言われたことを淡々とこなすだけの感情がない人形。時折感情が戻ったかと思えば発狂するか錯乱する。

 

そんな状況だったが、飛鳥の事を怖いとは思わなかった。頭がおかしい人間を怖いと思わなかったのだ、レイヴンは。しかし、今の飛鳥の事は怖いと思った。この差はなんだ。今のほうが精神的にも落ち着いているし、戦い方だって上達した。もう生気がないなんてこともなかった。

 

なのに、何故。どうして、こうも怖いと思うのか。

 

「うちは死にたい。それは、前も今も変わらない。だけどね、死ねない。まだ、使命があるから。あぁあと。どんなにうちに問い詰めても知ってることは話さないから。誰にも話さない」

 

「その情報の中にドンが不利益を被る事があるかどうかも?」

 

「あぁ、もちろん話せない。力づくで聞き出そうとか、思わないでね?あと、拷問とかも。もう“耐え方”ってのを知ってるから無駄」

 

「嬢ちゃん、本当に嬢ちゃん?」

 

「クス、おかしなこと聞くなぁ……うちはうちやで?まぁ、とっくの昔に“壊れて、狂ってる”。もう、世界に希望とかそういうのもないし。あ、あとね。うちはさっきも言ったけどいろいろと知ってる。だから、一方的に皆の事知ってる。言いふらすとかそんなのあらへんけどな。面倒やし」

 

「!!」

 

その言葉に、レイヴンはわかってしまった。そうか。自分と似ているのだ、と。世界に絶望し、生きる意味が見いだせない。あぁでも。知っていることが何のか、聞き出さねば。

 

「だから、レイヴンが本当はシュヴァーン・オルトレインであり、ダミュロン・アトマイスでもあるってことも知ってる」

 

「!?」

 

驚きの連続で、言葉が紡げないレイヴン。そこまで言っておいて、知っておいて、誰にも言わないらしい。しかし、どこでそんな情報を仕入れてきたのか。

 

「嬢ちゃん、本当に……何者……!?」

 

「さぁ?うちはただの、狂って壊れた、何もできない出来損ないや」

 

その言葉だけが、レイヴンの深いところに突き刺さった。

 

・・・

 

そして、宿屋に集まった皆。いきなりエステルから報酬として換金できる物をもらったが、飛鳥がため息とともに言ったのだ。

 

「自分で決めてたし、フェローに会いに行きたい。でももうわがままにみんなを振り回せない。そう思うのはいいけど、だったらさ。どうしても会いに行きたいなら、頼めばいいじゃんか。改めて」

 

「え?」

 

予想外の言葉に聞き返すエステル。

 

「自分が何故世界の毒なのか。それを知っているであろうフェローに会いに行きたいから、ついてきてくださいって頼めばいい。寄りかかった船でもあるのに、ここでさよなら、とかこっちの目覚めが悪いっての」

 

「で、でも……」

 

「じゃ、うちの個人的な依頼にしようかな。カロル、フェローに会いたいのはうちもだから、同じ目的のエステルも一緒に連れて行ってもいい?」

 

「え、ア、アスカ!?」

 

「うちも、フェローに世界の調和を崩し者って言われてんの。何のことだかサッパリだっつーの。いきなり現れてそんなこと言われて、狙われて。ふざけんなって話よ」

 

嘘ではない。フェローに会いたいというのは。だが、おそらく世界の調和を崩し者というのは、あの黒い魔物をこの世界に呼び寄せたか、召喚してしまったから。新種の魔物を、それもユーリ達では攻撃が通らない魔物。そんな奴を1体ならまだしも、複数現れる原因を作ったのだ。

 

だから、そういわれるのも、仕方のないことではある。だけど、腹が立つ。言われっぱなしで、おまけにその黒い魔物を知っているのなら、ユーリ達でも攻撃が通るようにはならないのか、とか。聞きたいことはある。

 

「優しいですね、アスカは。……ありがとうございます」

 

「や、優しくない。目的が一致してるならわざわざ離れていくことないって言いたかっただけ!んとにも~」

 

―まぁ、まず。エステル1人でなんて行かせたらフェローに会ったとしても殺されるっての。この時点でのフェローは人間嫌いだし、攻撃的だし。

 

先の事を考えつつ、飛鳥はもう1度、ため息をついた。




という事で今回もちょっと短め!

ついにおっさんに問い詰められた飛鳥さん。

ま、そこは譲れない気持ちとユーリ達にはまだ話せない、という確信から飛鳥の粘り勝ち。

飛鳥自身、状況が変わって、先を話さなければいけない状況下になれば話す気ではいます。

が、それまでは絶対に口を割りません。

次回は砂漠の中央部~になります。

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