アスカの技やら秘奥義やら……かぶらないようにするのは大変ですねぇ…
皆と別れたユーリはひとまず
「挨拶よりも先にすること?うーん……」
どうにもとぼけるようだ。しぐさ一つ一つが実に胡散臭い。
「ま、騙した方より騙された方が忘れずにいるって言うもんな」
「俺って誤解されやすいんだよね」
「無意識で人に迷惑かける病気は医者に行って治してもらってこい」
なんて言い合っていると、
「さっき物騒なギルドの一団が西北に移動するのも見かけたしね。騎士団はああいうのほっとけないでしょ」
なんて気になることを零したレイヴン。物騒と聞いて浮かぶのはあのラゴウの屋敷で一戦を構えた、あのギルドしか今のところ思いつかない。
「……物騒か、それって
「さぁ?どうかな」
「そもそも、おっさんあの屋敷へ何しにいったんだ?」
「ま、ちょっとしたお仕事。
割とさらっと答えてくれた。
「アスカの事か?別にどうもしねえよ。記憶喪失らしいからな。自分探しの旅ってところだろうよ」
「あぁ、やっぱしそんな感じなのね。あの時の反応見れば嫌でもそうなんじゃないかって思ってたんだけどね」
「なんだ、知ってんのか?」
「まぁね。お嬢ちゃんに伝えてくれる?『近くに来ることがあったらまた顔を出せ。待ってる』ってね。前に会った時はあんな感じだったし、何よりお嬢ちゃん怪我多かったからね。心配だわ」
「……わかった。伝えとく」
そんな風に話してると、カロルたちが追い付いてきた。特にリタは魔術を放たんばかりの勢いだ。急いでレイヴンは逃げ、ユーリはカロルたちが追い付くまで待っていた。そして、怪しいギルドが北西に向かったこと、それを追いかけることを伝えた。そしてユーリは飛鳥に
「あのおっさんからの伝言だ。『近くに来ることがあったらまた顔を出せ。待ってる』だとよ」
「え、―――っ!!」
それを聞いた瞬間。飛鳥は再び激しい頭痛に襲われる。立っていられない程で、思わずその場に座り込んでしまう。
「おい、アスカ!?ったくあのおっさん、次あったら問い詰めてやる」
「っ、う……!!あ、ぐ……!!!」
「アスカ!!」
痛みのせいで気を失ったのか、倒れてしまった。
「「「!?」」」
ひとまずユーリが運ぼうとして飛鳥を持ち上げる。
「さき、に……すす、んで……!すこ、し休んだ、ら……大丈夫、だから……」
目も虚ろで焦点が合っていない飛鳥。だが、意識がないわけではないらしく、ユーリに途切れ途切れにそう頼んだ。
「自分の状態を見てから言うんだな」
「っ、大丈夫だよ……こんな、の。だから、先に進んで。ほんとに少し休んだら平気、だから……」
ユーリは驚く。先ほどは途切れ途切れで、息も絶え絶え、と言う程だったのに。次の瞬間には、もうある程度回復しているではないか。いや、顔色を見る限りそうではないらしい。だが、今の一瞬のうちに何があったのか、目が虚ろなことは変わらない。だが、焦点はあっている。おかしい。
「……マジで無理になったら言えよ」
「はは、ありがと」
そういって目をつぶる飛鳥。だが、完全に意識を飛ばしたわけではないようだ。ともかく先に進んでと言われたので、ユーリは飛鳥をおんぶにしながら、歩く。
「アスカ、記憶が……」
「でしょうね。でも、あのおっさんからの伝言でこうなったんでしょ。やっぱり次会った時ぶっ飛ばす!」
仲間のそんな声を聴きながら飛鳥は思い出していた。頭の中に流れ込んでくる映像は、初めて自分がダングレストに来たばかりの記憶、そこでレイヴンと会った記憶。
そして、そこでしばらく過ごし、戦い方や身体の使い方を学ぶ自分。
最後に、見送られながら、どこかに旅立つ自分。そして、どこかの森――おそらくクオイの森で魔物にボコボコにされ、ぶっ飛ばされた挙句、木に強く頭をぶつけしばらく気を失ったこと、目覚めた自分が何も覚えていないことを知る。おそらく巨大な魔物だったため、ギガントと呼ばれる部類だろうか。しかし、その魔物は飛鳥の見たことのある、黒いヤツで。
そして当てもなくさまよい続けてユーリと会った、ということらしい。あぁ、なんだ。自分はそんな経験をしているのか。だからこんなに戦えるし、あの魔物も、倒せるんだ。そして、自分が
幼少の記憶は創られたものだろうが、きっと騎士団に入ってからの記憶は間違いなく、自分が体験した話なのだろう。だから、幼少の時の記憶と違ってしっくりくるのだ。あぁ、なんだ記憶喪失っていうのは本当だったのか。間違って、なかった。
すると、何故だろう。飛鳥は、自分の身体がどこか軽く、力が湧いてくるような気がした。もしかして
・・・
飛鳥が倒れてから、しばらく歩いていたユーリ達は、人のいない、地震で滅んだという街、カルボクラムに到着していた。
「こりゃ完璧に廃墟だな。アスカ、大丈夫か?」
「――うん、ありがと。もう、へーき」
声音からしてもう大丈夫だろう。そう判断したユーリは飛鳥を下した。どこか吹っ切れたように見える飛鳥。そして、仲間から心配される飛鳥は笑顔で、照れくさそうにしている。あぁもう大丈夫だ。すると。
「そこで止まれ!当地区は我ら『
その声の主にカロルは思い当たる人がいるようだ。
「これは無力な部外者に被害を及ぼさないための措置だ」
カロルは声の主の少女に声をかけるが冷たくあしらわれ、さらには
「少しはぐれた?よくそんなウソが言える!逃げ出したくせに!」
なんて言われてしまう。
「逃げ出してなんていないよ!」
「まだ言い訳するの?」
「言い訳じゃない!ちゃんとエッグベアを倒したんだよ!」
「それもウソね」
「ほ、ほんとだよ!」
「せっかく
「わああああっ!わあああああっ!」
「……ふん!もう、あんたクビよ!」
「ま、まってよ!」
「
それだけ言い残し、立ち去る少女。カロルは、ナン、とその少女の名を呼んだが、聞こえていなかったようだ。
―あぁ、ここか……いやぁホント面倒な……あんなやつと戦わなきゃなんないの……?
飛鳥は、先のことを考え、ため息をつくのだった。
ということで、ナンさん登場!
さて、次はカルボクラム探索~になります。