番外編的なディアベル→オリ主の話です。
ディアベルの確固たるイメージのある人にはおすすめできません。読まなくても他の話に影響はありません。…多分。
まさか自分より5個は年下だろう少女に思慕を抱くとは思ってもいなかった。
ベータテスト時からキリトとセツナと言えば
俺はベータ時代彼らが1層で言ったように初めはろくにレベリングも出来ず苦労した
…くやしかった。
だからこのゲームが始まったとき、今度こそ俺は強くなろうと思ったんだ。生まれ変わるつもりでベータのデータをリセットし、名を変え挑むことにした。デスゲームになった今《
《トールバーナ》の町で彼女の姿を目にしたとき俄には信じられなかった。生命の碑からkiritoとsetsuna、その名前を見つけアルゴから二人の情報は買っていたものの…セツナについてはろくに売ってくれなかったが、ベータ時代と寸分違わぬ彼女の姿。誰もが現実世界の姿へ戻されたはず、ならば答えは1つ。ベータ時代も有名な女性プレイヤーだった彼女の姿は現実のものだった、と言うことだ。あどけなさの残る絶妙なバランス。ネカマたちや他の女性プレイヤーのアバターはどこかアニメやゲームの影響を受けているせいか多くはリアルにしては完璧過ぎる容姿だった。それが彼女の場合良くも悪くもゲームにしてはどこか物足りない。それが妙な魅力につながっていたのだが。セミロングの少し癖のある毛先や大きく主張する赤い瞳はやや吊り気味。豊満な体つきではもちろんなくどこにでもいる女学生のそれ。作られたものにしてはあまりにも中途半端だった。そして容姿とそぐわない性格。色白で浮き世離れした肌はすぐに消えてしまいそうだと感じさせるのに実際は豪快で、頑固で、無鉄砲だった。儚さとは程遠い中身に初めこそ落胆したものだ。それもそのはず。道理を分かれというにはまだ少しだけ幼い年齢。高校生…いやヘタをすれば中学生…。大人にはなりきれない、俺から言わせればまだまだ子供だ。…と言う俺だって社会に出ている人間からすれば子供には違いないんだろうけれども。だけどその危うさ、アンバランスさにすぐ目が離せなくなった。強く敵を凪ぎ払う猛々しさに手を震わせながら汚れ役かをかって出る潔さ。そして人を率いる凛とした揺るがない姿勢に。
あの指揮権を彼女に移した時からおそらくは。
47層《フローリア》。アインクラッド屈指のデートスポットになるだろう。前線からまだ一層。攻略組以外はまだ疎らだが、層全体が花で被われているこの層はデスゲームとしてはある意味皮肉なほど美しい層だった。
「ここのモンスター気持ち悪いんだよね。」
待ち合わせ時間の5分前。彼女は転移門から現れた。そう、約束の1日パーティを組む日だった。俺のギルドは特にノルマも何にもないし…日頃から彼女に執心なことは隠してもいないから抜けることはそう難しいことじゃなかった。
「おはよう。今日はよろしく。キリトさんは?」
そして彼女はただ相棒が一人のいるだけのソロプレイヤーだ。相変わらずパーティをいつも組んでいるわけではなく、ギルドに入るわけでもなく、自由を貫いているようだった。
「おはよう。キリトは…さぁ、久し振りにクリームパンが食べたいとか言ってたから1層にでも行ってるんじゃないかな。」
彼女の普段のパートナー、キリトさん…おそらく彼も彼女と同じ年の頃だろうが、敬称をつけることを止められない。圧倒的な判断力、洞察力、そして剣技。誰もが素直には認めたくないだろうがあの少年は間違いなく最強の一画を担っている。初めは元ベータテスターであることの知識や経験を活かしていたこともあっただろうが、ここまで上り詰めたのは本人の資質にもあるだろう。…彼女が言うような呑気な性格とは到底思えないが。いや、今日はたまたまかもしれない。
「《逆襲の雌牛》ね。確かにあれはいいな。」
「ホント食べることばっかり。」
呆れて言うセツナ。多くのプレイヤーには聞かせない方がいい情報かもしれない。
「それより、どうしよっか。迷宮区のマッピングでもする?」
彼女の言葉にハッとした。今はキリトさんのことではなくようやくこぎ着けた彼女とのパーティを楽しむときだ。
「いや、せっかく天気も良いから外周を回ろう。そう難しくないフロアだったから見落としがあるかもしれない。」
俺はデートのつもりなのに迷宮区に隠るなんてもったいない真似はできない。しかし…彼女の姿はいつも通り紺色のケープに青みかかったシルバーのブレストプレートにレザーアーマー。そして袴のような群青のボトムス、悲しいほどいつも通りだ。見慣れぬものと言えば胸元に下がる結晶アイテムだった。
「…それは。」
興味が言葉に出ると彼女もそれを聞き逃さず、ペンダントを手に取る。
「あ、これ?サチが…友だちが作ってくれたみたい。」
嬉しそうにそれを見詰める彼女を見て誰に貰ったか気付かない俺ではない。
「キリトさんから?」
「ま、ね。」
その感情がどのような種類のものかまでは分からない。ただ彼女からキリトさんへ向かう思いは他とは違う。信頼、尊敬、友愛、はたまた恋慕か。
「…よく似合ってるよ。」
いつも一緒にいるだけはあって見立ては完璧だと思った。華奢なデザインの金細工が紺に映える。
「そんなことよりも行きましょ!日が暮れちゃう!」
そう言ってズンズンとフィールドの方へ歩き出す。頬が紅く染まってるのを見逃さない。全く素直じゃない。
ボス攻略では何度も見てきたがこんなに間近で戦闘を見るのは初めてだった。前線から2層の、この層の敵をいとも簡単に倒していく。マナー違反と分かっててもどれだけのマージンをとっているのかと聞きたくなる。あまりにもあっさりHPを奪うもんだからここが中層かと勘違いしそうになるぐらいだ。
大剣と見まごうかのような刃の長い槍を慣れた手付きで振り回し、叩き斬る。武器の旋回スピードが早いため《早さ》重視のビルドかと思いきや、試しに持たせてもらうとかなりの重さで…筋力値寄りのステータス配分をしている俺でも十分に重い。聞けば本人はバランス型ビルドで武器は基本重めが好み。それを《早さ》を強化することで今の取り回しと破壊力を生み出しているそうな。確かに衝撃は早さと重量を突き詰めれば大きくなるがやっていることが全くめちゃくちゃだ。通りで
迫力の槍技。攻略組の中でもスピードはトップクラス。切っ先がようやく見えるくらいか。彼女より早いと言えば
「ゴメンゴメン! ついついソロ戦闘の癖が。ちゃんとスイッチするね。」
周りのモンスターを狩り尽くすまで気付かないとは中々どうして戦闘狂。初めての一面を見て思わず吹き出した。
「いや、良いんだ。好きなように戦ってくれて。」
彼女が楽しく過ごしてくれることが一番だ。
「そう? じゃぁもういっちょ行きますか!」
一面花畑なのだからもうちょっと女の子らしいリアクションを期待したかったところだが、彼女らしい、と言ったところか。嬉々としてモンスターを探しに花畑へと入っていった。
「ここは?」
小高いその丘は小道を脇に逸れたところにあった。《おもいでの丘》このフロアの情報収集…もちろんデートの事前準備ぐらいするものだろ、をしている際にNPCから聞き付けたものだった。
「ここは《おもいでの丘》。俺たちには関係ないけど、《プネウマの花》という使役モンスターの蘇生アイテムが手に入る場所らしい。」
ただしそれは想いを通わせたモンスターではなくてはならず、死亡したモンスターの"心"が残っていることが必要だと言う。
「絆が試されるのね。何もないけど。」
「俺らはビーストテイマーじゃないからね。」
緑の繁る台座は何も反応することはない。
「でも、素敵な場所だわ。」
小高い丘は風が強く、セツナの白銀の髪を揺らした。花に囲まれているフロアの中でここは緑に溢れ、静謐な雰囲気が漂う。
「立ち入ったことを聞いてもいいか?」
日の光を乱反射する彼女の髪を見て、口をついてでた。それはずっと気になっていたことだ。
「ものによるけど。」
肩を竦めるセツナに続きを促される。
「その容姿は…現実のもの、そうだよな。」
一層の頃からキャラ作りのためにアイテムで髪を染めていた俺とは違い、そのようなことをする性格ではない。それなのにずっとその白髪も赤い瞳もあの頃から変わることはない。
「アルビノって知ってる?」
それが肯定の言葉だった。
「あぁ。」
確か、メラニンを生成する遺伝子の欠損の病だと記憶している。
「気持ち悪いでしょ。この血管の透ける肌も、色を持たない髪も、血の色の瞳も。」
俺からすれば桃色の肌は美しく、神秘的な容姿をしていると思うが、当人にすればそうではない。その言葉は蔑まれてきた者の証拠だ。
「この世界では、これでも"普通"でいられるけど、現実はそうじゃないもの。」
そう言った彼女の横顔は寂しげだった。もし、俺たちが黄色人種でなく白人ならば目立ちすぎることは無かったかもしれない。日本人には異質な姿。そして島国の民族性か異質なものを排除するきらいがある。それを思うと彼女がどんな扱いを受けてきたか想像することは難くなく、
「せめて瞳がヘーゼルなら、髪だけでも黒ければ。」
目を伏せてそう続けた。"気持ち悪い"そうずっと蔑視されてきたのだろう。
「なら、どうしてベータ時代からその容姿だったんだ?」
忌避してやまないだろうその容姿、あえてバーチャルの世界にまで持ち込む必要はない。ここでは本来自分が好きなように、いかようにでも姿を変えられた。
「…そっか、ディアベルはベータの私を知っているんだね。ベータだけじゃないよ。他の、どんなアバターの作れるゲームもそうしてきた。」
その目は遠くを見据えこちらを見ようとはしない。やや少し上を向いて見えるのはこぼれ落ちる滴をせき止めているのかもしれない。
「…こんな私の姿をどこかで受け入れて欲しかった。私は普通なんだって思いたかったから…かな。」
ごめん、暗い話でとセツナは無理に笑って見せた。話させたのは俺で泣かせたい訳じゃなく、ただ彼女のことを知りたかった。それだけだったのに。
「ありがとう。」
辛うじて返せた言葉は謝辞を含んだお礼の言葉。
「なんで、お礼なんか。私も…きっと誰かに聞いて欲しかったんだと思うから、ありがとう。」
次に笑った彼女の目尻にはもう涙は見えなかった。
「アインクラッドの夕陽はどうしてこんなにきれいなんだろう。」
楽しい時間は直ぐに過ぎる。《フローリア》へと続く小さな橋まで戻ってきた。彼女の視線を辿るとちょうど日が沈むところだった。
「はじまりの日も確かこの時間帯だったな。」
彼女が振り向き口許だけで笑った。もう一年を過ぎた。それでも割り切れないこともある。最近はこの世界で暮らすことにも随分と慣れ、戻った時につい右手でメニュー画面を出そうとしてしまうのではないかと思うぐらいだ。まだようやく半分に差し掛かろうと言ったところだからその心配はこのペースで行くと1年半は必要なさそうだ。
「毎日思い出す。あの日のこと。」
まっすぐに夕陽を見詰める彼女。その姿は気高く少し寂しげだ。
「…1層でのこと覚えてるかい?」
首をかしげセツナは続きを促す。
「俺の職業、《
「もちろん! 不覚にも私も笑ったもの。」
思い出してかクスクス笑う彼女。そんな風にも笑えるのかと嬉しくなる。
「君の専属になりたいって言ったらどうする?」
なるべく冗談に聞こえるように言った。
暫く目を見開き、考えてからセツナは口を開いた。
「…1層でのこと、覚えてる?」
彼女から出たのも同じセリフだった。 『あなたにはあなたにしかできないことがある。だからこっち側に来ちゃいけない。』1層でのボス戦、彼女に救ってもらったあとに貰った言葉だった。
「…もちろん覚えてるよ。」
それは元ベータテスターとして影を生きるようになるはずだった俺を支えた言葉。
「なら、話は早いわ。あなたには人を導く力がある。私なんかに構ってないで皆をクリアに辿り着かせるのがあなたの役目。」
大体自分より弱い
「手厳しいな。」
「どうしてもって言うならクリア後に聞いてあげる。」
イタズラっぽく言うセツナ。彼女の
「結婚を申し込まなくて正解だったな。」
本当はそうしたかったけどしなかったのは予防線を張りたかったからだ。
「けっこ…!?」
しかしその台詞に真っ赤になった彼女が見れたからそれはそれでよしとしよう。冗談だよ、と言うと頬を膨らませて抗議された。
そうして彼女との1日パーティは終了した。得難い情報も手に入り―売ったらオレンジになろうと殺すと脅されたが、誰が売るなんて勿体ないことをするもんか。キリトさんすら知らない彼女の暗部を知っているなんてそれだけで優越感だ。いつかこのゲームが終わるとき、今度は
ようやくオリ主のトラウマが少し書けました。
思ったよりディアベルが湿度高くてビックリです。
どこかで絶対書こうと思ってたので取り敢えず満足です。出来はともかく。
イメージを崩された方、本当に申し訳ありません。