白銀の証―ソードアート・オンライン―   作:楢橋 光希

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3話*《セツナ》再び

 

 

 

 

 

 

 

 

 放射光の嵐が過ぎ去り、接続状態の確認が終われば、《雪菜》から《セツナ》に変わる。セツナはゆっくりと目を開けた。視界の良さからバーチャルに来たのだと実感する。いつもプレイするALOとは違い、GGOはリアルタイムだと聞いていたが、時間のわりに空の色はすぐれなかった。空気は全体に重く、どこかスラムを思わせる。

 

 ─さて、肝心のアバターは…。

 

 なんだかいつもより頭が重い気がするが…。セツナは近くのガラス張りのビルの壁に姿を映した。

 腰まで伸びた長いウェーブの髪。背はいつもとあまり変わらず、メリハリも安岐ナース程にはない体。肝心の色は…

 

「…結局この姿からは逃れられないのかな。」

 

 一人ゴチた通りに、白銀の髪と赤い瞳。鏡ではないためやや不鮮明ではあるが、その事は確認できた。眼鏡の役人の思惑通りなのは気に食わないが不思議と落ち着くのも事実だった。

 

「しっかし…邪魔でしょうがないな、この髪。」

 

 セツナはウィンドウを開くとSAOでもALOでも使わなかった髪の毛のセット欄を探した。手元にアイテムは無くても結い上げることぐらいはできる筈だ。高く1つに結んだところで背中に揺れる感覚が気に入らず、更にその髪を三つ編みにした。

 

「うん…これならなんとか……かな。」

 

 髪型に満足するとセツナは辺りを見回した。同時にログインしたキリトも姿を見せている筈だ。しかしそれらしき人影は見当たらない。…と言ってもアバターはランダムのようなのでどんな姿なのかは分からないのだが。するとすぐ近くにビルのガラスにかぶりついているプレイヤーがいた。華奢な体に腰まであるストレートの黒髪。まさかとは思うが…。セツナは恐る恐る声をかけようとしたがその前にそのプレイヤーが叫びだした。

 

「なんじゃこりゃーーー!!!」

 

 それは辺りに響き渡るほどのボリュームで。もし木に鳥が止まっていたなら飛び立ってしまいそうな勢いで。俄に信じがたいが恐らくそうなのだ。セツナはその人に歩み寄ると、軽く肩を叩いた。

 

「…キリト?」

 

 振り返ると、くりくりとした黒目がちの瞳が主張した美少女だった。元々の顔立ちも線が細いキリトではあるがこれは…。気のせいか身長もやや低くなっているように感じる。目の前の美少女らしき人はセツナを上から下まで見ると大きな溜め息をついた。

 

「セツナは引きが強いんだな…。」

 

 名前が出てきたと言うことはキリトで間違いないと言うことだ。セツナはキリトがしたように上から下までその姿を眺めた。

 

「ホントにキリトなんだ…。ぷっ…あははは! そんなアバターあるのね。」

「セツナ……。」

 

 目の前で大笑いするセツナにキリトは残念な気分に輪がかかり、陰鬱な気分になってきた。何も望んで女の子のような姿になったのではない。背も低くなっているし、誰が好き好んで彼女の前でこんな姿になると言うのだ。

 

「いつもより視線が近くて話しやすいかもね。」

 

 ただセツナが覗き込んでそんな風に言うので、一瞬どうでも良くなった。当たり前だが、アバターだろうが表情の作り方が"雪菜"であるため、色彩も手伝って本人の顔とダブって見えた。

 

「…そう言うことにしておくよ。」

 

 何れにしてもアバターは変えようがない。開き直るより他ないのだ。

 

「でも…バグで本当に女の子になっちゃってたりしない?」

 

 キリトはセツナのその言葉に慌てて胸を押さえた。SAO以降性別は変更出来ないことになっているが、脳波パターンを元に識別するため、たまにあるらしい。筋肉の欠片もない薄っぺらい胸板にやや不安になり、ステータスを確認してようやくほっと一息ついた。

 キリトとセツナがそんなやり取りをしていると、背後から丸いサングラスをかけた、いかにも胡散臭いプレイヤーが声をかけてきた。

 

「お姉ちゃんたち! 二人して珍しいねぇー。そっちの黒髪のお姉ちゃんはF1300番系、白髪のお姉ちゃんはF9000番系! 運が良いねぇ滅多に出ないんだよ。」

 

 興奮気味に言う男に、キリトとセツナは顔を見合わせる。どうやら二人のアバターの話をしているらしい。しかしお姉ちゃんたちと言うことはやはり女性に見えていると言うことだ。

 

「…悪いけど、俺男なんだ。」

 

 先程まで意識していなかったが、出てくる声までいつもより高いことにキリトは辟易した。

 そんなキリトに男は更に興奮する。

 

「じゃぁM9000番系かい!? 二人とも9000番系なんて見たことないね。是非売ってくれ! 1人5メガ…いや、白髪のお姉ちゃんは6メガ出しても良い!!」

 

 身を乗り出してくる男をセツナは片手で制止すると首を横に振った。

 

「悪いけど二人ともコンバートなの。お金には変えられないわ。」

「そうかぁ…白髪は人気なんだけどなぁ…。」

 

 肩からガックリと項垂れる男。二人は再度顔を見合わせた。アカウントが売買されていると言うことはアバターは完全ランダムで、アイテムや課金での変更も利かないのかもしれない。

 

「白髪…ね。」

 

 何がどうしてそんなに人気なのかセツナには理解が出来ない。すると目の前の男は首を捻りながら答えをくれた。

 

「俺は知らないんだが数年前までMMOに白髪赤目の上位ランカーがいたんだってよ。お姉ちゃんなんかあと髪がもうちょっと短ければ完璧さ。」

「ははは……。」

 

 まさか、恐らく本人です、とは言えないセツナは乾いた声を出した。眼鏡の役人の思惑通り、妙な神通力は顕在のようだ。昔どれだけ色んなゲームをやり込んでいたのか、我ながら狂っている。

 

「それじゃぁせめてプレイ時間を教えてもらえないか? 噂じゃその手のレアアバターはコンバート前のゲームのプレイ時間が長ければ長いほど出やすいらしいんだ。」

 

 そう言われてセツナの脳内は自然に計算を始めた。SAOのβテストが2ヶ月、SAOクリアまでが約2年…。ALOにいたのが約1ヶ月。単純計算で27ヶ月×30日×24時間で…。

 

「いちま……んぐっ。」

 

 そしてばか正直に答えようとしたセツナの口はキリトによって塞がれた。

 

「いっ…1年ぐらいだよ。…たまたまじゃないかな。俺たち同じゲームから同時にコンバートしたし。」

「そうかぁ。まぁ気が変わったら連絡してくれ。」

 

 そんな二人のやりとりに疑問を抱くこともなく、男は名刺だけ押し付けるとアッサリと去っていった。

 キリトはセツナの口を塞いだまま、通路の端へと移動すると、周りに人がいないことを確認してから小声で怒った。

 

「セツナ…SAO生還者(サバイバー)ですってゲロってるようなもんだぞ。」

「だからって…。今のはちょっと荒っぽ過ぎるんじゃないの?」

 

 ナーヴキアが発売されてまだ3年程。丸々2年以上プレイしているプレイヤーなんて元SAOプレイヤー以外にいたら只の廃人である。SAO生還者に対しての評価や印象は様々であるからバレないには越したことはない。分かるが首根っこ掴まれて引き摺られたような行為はセツナも素直には受け取れなかった。

 

「それは悪かったよ。」

現実世界(リアル)でやったらブっ飛ばすからね。」

「………………。」

 

 思いっきり睨み付けられ、キリトはやや怯む。繊細な容姿に反して中々激しい性格なのは重々承知している。そんなキリトを見てセツナは満足したように視線を街へと移した。

 

「それより行こう。悠長にしている暇はないわ。」

 

 セツナが歩みを進めようとすると当たり前のように手をとるキリト。セツナは隣に立った男を再び上から下まで眺めた。

 

「…キリト。悪いんだけどこの格好では止めた方が良いと思う。只の百合にしか見えないわ。その辺の男共が変に喜ぶだけよ。」

「ゆっ………百合!?」

 

 そう言われてキリトは勢いよくその手を振りほどいた。

 

「……キリト。」

 

 そんなキリトにセツナは冷たい視線を送るも、キリトはそれどころではない。自分の姿はほぼ女の子。言われてみればそうなのだ。そもそも手など繋がなくても気付けば視線を集めている。男たちの無遠慮な視線。どこか冷やかすようでまとわりついて、気付いてしまえば心地が悪い。

 

「これっていつからだ?」

 

 じっとりと嫌な汗をかいているような気分になる。視線を泳がせるキリトにセツナは小さく溜め息をついた。

 

「気付いてなかったの? 初めからよ。このゲーム、女性プレイヤーが少なそうだから余計ね。」

「それはつまり……。」

「ALOは比較的女性プレイヤーが多いからこんなことはないけどね。」

「…SAOのころセツナやアスナがケープで顔を隠してた理由が今更ながら分かったよ。」

 

 特に危害を加えてくるわけではないが、ジロジロと見られるのは気分が良いものではない。女性プレイヤーと言うだけで妙なハンデを負うのだと今更ながらに思い知る。

 

「まぁ…女性プレイヤーってだけで目立つから、キリトもアバター(それ)嫌なんだろうけど、プラスに考えれば依頼はやりやすいわよ。」

 

 セツナは慣れたもので涼しい顔で堂々と道を歩く。そんなセツナの背中をキリトは慌てて追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、呆気なく道に迷った。空を飛べないにも関わらずこの街は上に下にと道が入り組んでいてダンジョン顔負けだ。

 

「だからメイン通りを行こうって言ったのに!」

「安い武器屋は裏路地のことが多いだろ?」

 

 そんな場合ではないのについつい責任の所在を巡って二人は口論していた。

 

「そんなセオリーなんて知ったこっちゃないわよ。でもしょうがない、道聞くしかないわ。」

「そうだな。」

 

 スタンドアローン型で無かったのが救いだ。誰かうまい具合にプレイヤーを見付けられたら聞くことができる。もしスタンドアローン型ならしらみ潰しに歩き回るしかないのが悲しい現実だ。

 キリトはマップを開き、近隣のプレイヤーを探した。すると運の良いことにすぐそばにプレイヤーはいた。

 

「あの、すみません…。」

 

 しかし何も確認せずに声をかけ、キリトは後悔することになる。

 

「なに?」

 

 背後から見れば髪は短かったが、振り返ったのはどうみても女の子だったのだ。きれいな空色の髪と同じ色の瞳が真っ直ぐに見てくる。

 視線を浴びてキリトはナンパと思われる…と、冷や汗をかくも、よく考えたらセツナが一緒なのだからその心配は無かった。おまけに…。

 

「どうしたの?」

 

 姿を認めて少女の表情は明らかに柔和になった。そう、キリトの容姿も女の子のようなのだ。完全に目の前の少女は女の子二人だと思っているに違いない。

 

「道に迷っちゃって。」

 

 キリトが1人苦心してるとは露知らず、セツナは渡りに船と少女に助けを求める。このまま女の子のフリをした方が都合が良いのか…。きちんと男だと告げた上で協力を仰いだ方がいいのか。

 

「どこに行きたいの?」

 

 そんな間にも二人の会話は進んでいく。少女の問にセツナはキリトをみる。ここが選択のし時のようだ。

 

「…どこか安い武器屋とー…総督府ってとこです。」

 

 少し高い声でいつもの違う口調。おまけにご丁寧に人差し指を唇に当てる徹底ぶり。セツナは目を疑った。

 

「いいよ。案内してあげる。」

 

 セツナのいぶかしんだ顔とは反して少女の方は何の疑問も抱いていないようで、実に親切だった。

 キリトはセツナの視線に気付くと、選択をすぐに後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




話があんまり進まなかった…?

やっぱりセツナは白髪赤目じゃないと。
セツナの容姿はフルメタルパニックのテッサの赤目版と考えると分かりやすいと思います。
…GGOの構想練ってた時に観てただけです。スイマセン。
誰か描いてくれたら創作意欲が…
ごめんなさい冗談です。

今後の更新。失踪が心配な方は活動報告をどうぞ 笑

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