ブラック・ブレット〜白の変革者〜   作:ヒトノミライ

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今更気づいたけど、お気に入りが100件を突破していた。
超嬉しいッス!


Beast.8 寂しさの中に

「……綺麗だね。こんな綺麗な星空、見たことないよ」

 

「キュゥ(人の作った光がないからな)」

 

世界樹の天辺。そこに一人と一匹が身を寄せ合いながら、夜空を彩る星空を眺めていた。

たまに現れる流れ星に、必死に願い事を三つ唱えようとする朱莉をルナは微笑ましそうに眺めていた。

流れ星が降る度に頭部に生えている三角耳が楽しそうにピクピクと動いている。

 

「キュォ(風邪引くから戻るぞ)」

 

「はーい」

 

朱莉がしっかりと掴まったのを確認し、一気に根元の方へと駆け下りていく。その風を受けて、朱莉がひゃー!と楽しそうな悲鳴を漏らしている。

 

根元から四.五メートル付近に空いた穴へと入る。ルナが世界樹をくり抜いて作った仮ハウスはもう完全な住居へと変わっていた。

世界樹は縦も長いが横にも長い。

その太さは周りを一周するのに、朱莉が十分近くかかったくらいだった。空けた穴にルナが入ってもまだまだ余りあるスペースができるほどに。

 

その中には食料を蓄えているスペースもあった。果物類は冷蔵庫も無いし、保存できる期間が長くないので置いてない。その代わりに燻製肉が結構な量蓄えられている。

ルナは燻製の作り方を知らなかったが、朱莉が知っていた。朱莉が言うにはよく作っていたらしい。

その所為あって非常用の燻製肉がたくさん置いてある。

 

基本毎日の食事は二人で取りに行く。最初は危ないからとルナ一人で行っていたが、朱莉は激しく抵抗した。一人は嫌だ、と泣くのを見てルナは一人で取りに行くという考えは消えていた。

 

 

 

あれから、二人でたくさんの話をした。この世界のこと、ガストレアのこと、呪われた子供たちのこと、今までの生活、そして、日本が五つのエリアに分かれてしまったこと。

色々なことを二人で話した。楽しかったこと、悲しかったこと、嬉しかったこと。

そうやって二人で話をし、寄り添うのがルナはすごく楽しく、嬉しかった。

 

心の奥底でルナは思っていたのかもしれない。寂しい、と。

この世界に生まれてからずっと一人で、アラガミであるから会話も出来ない。仕方ない、しょうがない、と割り切っていても奥底では寂しかったのだ。

 

だから、ルナにとって朱莉の存在はどんどん大きくなっていった。

もう離れたくない、ずっと一緒に居たいと思うほどに。

その思いは、ガストレアのことを詳しく聞いてから増していった。

それもそうだろう。ルナはいい。アラガミであるからそう簡単には死なない。なにせアラガミはアラガミにしか傷付けることは出来ないのだから。

だが、朱莉は違う。ガストレアの牙が、鋭い爪が、朱莉に触れただけで消えてしまうくらいに、か弱い命だ。

 

「…あったかい。おやすみ、ルナ」

 

「キュウ(おやすみ、朱莉)」

 

 

 

ルナは決めていた。この子を絶対に守り抜くと。この子に降り注ぐどんな理不尽も振り払い、守り抜いてやると。その力が、自分にはあるのだから。

自分の尻尾に抱きついて、幸せそうに寝ている朱莉を見て、ルナはそう誓った。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「キュォォ(戻ってみたい?)」

 

「うん。……だめ、かな?」

 

「キュウ……(別にダメじゃないが……)」

 

首にしがみつき、上目遣いで聞いてくる朱莉にルナは渋い表情を浮かべる。いや、別に表情とかあまり変わってはいないが。

お願い、と言ってくる朱莉にルナは深いため息を吐いた。

 

 

 

 

 

ある日、朱莉は突然東京エリアに戻ってみたいと言い出した。

朱莉の願いだ。叶えてやりたいが、あまり気は進まない。

それもそうだろう。朱莉が死ぬそうになった原因である“奪われた世代”が居る場所だ。行かせたくないと思うのは当然だ。

だが、嘗て一緒に過ごしていた子供たちにまた会いたいと言われたら断ることも出来ない。

別にずっと戻っていたいと言っている訳ではなく、生きていることを伝えたいらしい。

 

「それに、松崎さんにも会いたいから」

 

「キュォ(誰だそれは)」

 

「うーんとね。外周区で私たちみたいな子の面倒をみてくれる人、かな。燻製の作り方も教わったんだ」

 

戻りたい気持ちは分かった。

もうあれから一ヶ月近く経っている。それに加え、朱莉が他の子供たちと別れたのは俺と出会う二週間程前だ。心配もしているだろう。

その松崎という人が奪われた世代か、と聞いてみたがそうらしい。

だけど、松崎という人は彼女たちはなにも悪くないと、ガストレアの憎悪を彼女たちに向けるのは間違っていると言っていたようだ。

 

「キュゥ(他の大人たちとは違うんだな)」

 

「うん。松崎さんはいい人だよ。いろんな事を教えてもらったから」

 

ここまで言われたら断るのも酷というものだ。

 

「キュォ(分かったよ)」

 

「ほんとっ!?」

 

「キュキュゥゥ(だが、俺も着いていくからな)」

 

「うん。それは良いんだけど……どうやって着いてくるの?」

 

「キュッ(こうやってだ!)」

 

ルナは身を翻し、朱莉の足元にある影へと飛び込んだ。

その光景を見ていた朱莉は目を白黒させていた。

 

「え、えっ? な、なにがどうなったの……」

 

困惑している朱莉を見て、スイッと再び影から身を乗り出したルナ。

 

「キュッキュッ(こうやって朱莉の影に隠れるだ)」

 

「……す、凄いね。でも、これならバレないね」

 

あまりの出来事に理解が追いついていない朱莉だったが、当の課題であったルナを隠すというのはクリアできた。

 

「キュキュゥ(なら、今日はもう遅いから明日にしよう)」

 

「そうだね。あ〜、明日が楽しみだなぁ〜」

 

穴へと戻った朱莉は鼻唄を歌っている。そのメロディは聞いたことがある。だが、曲名が思い出せない。

ピョンッとジャンプしてルナに飛びつき、その首に顔を埋める。

 

「……ありがとね、ルナ。私のワガママを聞いてくれて」

 

「キュッ(あたりまえだろ)」

 

「…ふふっ。ありがとっ!」

 

 

 

朱莉がこうして笑ってくれるだけで、ルナは幸せに思えた。

あの時から、自分の中でどんどん大きくなった朱莉の存在に、ルナは気づいていた。

最初は一人でも生きていける、なんて思っていたけど、やっぱり人恋しくなってしまう。

一人では人は生きていけない。それを身を持ってルナは実感していた。

 

だがそれは、ルナだけでなく朱莉も同じだった。あの地獄から解放されて、初めて出会った頼れる存在。

それは、朱莉にとって初めての存在だった。親に捨てられ、頼れるものは己自身。誰かに頼ろうとしても、誰もが自分自身を守るだけで手一杯だった。

そこに現れた頼れる大きな存在。それに依存するなと言われても無理な話だった。

だからこそ、朱莉の中で、ルナの存在はルナと同じくらいに大きくなっていた。

朱莉は、この温もりがずっと欲しかった。

 

 

朱莉とルナは、穴から一筋の光を見た。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーどうか、この幸せが長く続きますように。

 

 

穴から覗いた流れ星に、一人と一匹はそう願いを込めた。

 

 

 

 

 

 

 




今回は主にルナの心情を描いた回でした。
この世界で初めて出会った朱莉に、異様なまでの依存心が芽生えるルナ。
やっぱりずっと一人だと、人恋しくなるもんです。

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