凄い速さの中で、周りに映る木々が次々と変わっていく。
前方に現れる木をスイスイと躱し、黒い海を泳いでいく。
途中、毒々しい程に色鮮やかな花々が咲き乱れる一帯に出ると、肉が腐ったような腐臭が漂ってきた。その一部であり、花が集中している岩のような物体がもぞもぞと動いたのを見て、鳥肌が立った。
暫くの間、次々と映り変わる風景を眺めながら泳いでいると、ふと視界に一瞬黄色いモノが映り込んだ。
まさかと思いながらも戻ってみる。
その一帯はまさに果物の森と言うべきものだった。
先ほど見た黄色いバナナを始めとして、スイカだと思わしきものや苺、葡萄、林檎、他にも色々な果物が其処ら中に実らせている。
(絶対に此処を縄張りにするッ!)
俺の心は一瞬で決まった。
◆◆◆◆◆◆
あの気色悪い姿をしたアラガミを綺麗に三枚におろし、料理人の才能を自覚してしまった俺は、メシを求めて森を影の中を泳ぎながら彷徨っていた。
途中までは走っていたが、一回試しに影の中に入り泳いで見た所、此方の方が疲れないことが分かってからはずっと影の中だ。
あのアラガミの所為で川の魚たちが全滅してしまったから、俺はこうしてメシを求めて森を彷徨っているのだ。まだ、上流の方に魚がいるかと探ってみたが見事に喰い尽くされていた。傍迷惑な奴だ。
それから数時間の間、ずっと森を彷徨い続けていたのが功を成したのか、果物の沢山実っている楽園のような場所に着いた。
なんでこんな所にバナナが、とかはこの際どうでもいい。喰べてみたら美味しかったから。
(よし、ここら一帯を
縄張りに名前を付け、愛着が湧いた所でもう一つやるべきことがあった。
(ここら一帯のアラガミは駆除しよう)
アラガミが周囲にいれば、この楽園はすぐさま消えてしまうだろう。
そんな事は許さない。俺が見つけたんだから。だからこその駆除。
(まずはこの近辺の駆除からだ)
気配を探り、もう暗くなり始めた森の中を音も立てずに走り出す。
走り出すと言っても影の中を泳いでいるだけだが。
(まずは一匹)
巨大な鰐ようなアラガミに影を十数もの鋭利な棘に変化させ、一気に串刺しにする。
鰐もどきは断末魔すら上げずにアッサリと死に絶える。
そうやって近辺のアラガミを一匹ずつ駆除していったが、中々に数が減らない。
(一匹ずつってのが効率が悪過ぎるんだ)
一気に駆除出来たら楽なんだなぁ、と思っていると一つの閃きが思い浮かんだ。
(大きな音でも立てれば集まってくるんじゃないか?)
アラガミも生き物だ。そして、なんでも喰べる性質もある。音を立てれば喰い物だと思って集まってくると予想した。
(なら、この俺が盛大に咆哮をかましてやろう!)
スウゥゥッと大きく息を吸い込む。
そして、
「ーーーGYEEEEEEeeeeYAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaッッッ!!!!」
森全体に響き渡る咆哮に、森が起き始める。山彦のように響き渡っていた咆哮が止むと、周囲からドシンドシンドシンッと地響きが聞こえてきた。
(あ、あれ? やり過ぎた?)
後悔先に立たず。
ふと脳裏をよぎったのは救いもないような諺だった。
既に見える範囲で百数十はいるアラガミの波が見え始めた。
(だ、だが、やってしまったことはもうしょうがない。なるべく楽園を傷付けずに駆除していこう!)
そうして俺の『
◆◆◆◆◆◆
(クソッ、すげー時間掛かったー!)
あれから駆除を始めておよそ6時間。
最後の一匹と思われる8メートルはありそうな恐竜のようなアラガミを17分割し終え、ようやくアラガミの波が止んだ。
斬っても斬っても湧いて出てくるアラガミの波に、思わず怒りの殺生石を使ってしまったが問題ない。
その所為で百体近くが一気に干からび、後から続いて来ていたアラガミの波に飲まれ塵になっていったが全く問題ない。
集まった生命力っぽい何かが俺に吸収されて、力が漲って腰部から生えているオラクルの炎がブースターのように勢いよく放出されているが、それすらも問題はない。
問題があるとすれば、その生命力っぽいモノの所為で腹が満たされたことくらいだ。
(体力的には問題ないが、精神的にすごく疲れたな……)
体力がまだまだ有り余るほどあっても、今の俺は精神的にお疲れだ。
もう深夜だし寝るか、と腰部のオラクルの炎を沈め、とぐろを巻こうとしたが何かの気配を感じ取った。
(さっきの残党か? いや、でも一体だけだし、気配があまりにも弱すぎる。これは、アラガミじゃ……ない?)
先ほど駆除した一番弱かったアラガミの足元にすら及ぶ可能性すらあるかどうかのレベルだ。
だが、油断は禁物だ。
既に疲れや眠気は吹き飛んでいた。
いつでも戦闘態勢に入れるように、十分に警戒する。
そして、ついにガサガサッと目の前の草木が激しく揺れ、何かが飛び出てくる。
(な、なんだ? し、少女…か?)
目の前の草むらから飛び出て来たのは紛れもなく人間だった。
いや、少しおかしな点はある。
(み、耳だ……。耳が生えてる……)
セミロングの茶髪の頭部から見える三角耳は明らかに動物の耳のようだった。
その少女は全身に浅くではあるが無数の切り傷を負っていた。
フラフラと足取りがおぼつかず、今にも倒れそうだった。
すると少女は俺に気づいたようで驚いて目を丸くした。
そして少女は、
「………かみ、さま……?」
そう言い残し、バタリとついに倒れた。
(放置しておくにもいかないか……)
倒れた少女を、俺は優しく影で抱き上げ、背中に乗せて
新キャラ登場。
彼女は一体何者なのでしょう。詳細は次回に。