──暗い……ただ暗い
目が見えなくなり、体の感覚もなくなり、ただ真っ暗な場所に放り出されて理解した……俺は死んだのだと…
しかし、死後の世界というのも悪くはない……呼吸をする必要もなければ、苦しい事もない、そして、なぜか暖かさを感じることができる……
死後の世界とは何もなく、何も感じない所だと思っていたが、なぜか感覚は死ぬ直前の時よりは、はっきりと感じる…。
もしかすると本当に天国はあるのではないかと思う、そうでなければ死んだ後に暖かさを感じることなど無いだろう
そんなことを考えていると、すぐ近くに大きな光が見えた……。
時間がたつにつれて、その光が近づいてきているのが分かる。
そしてその光の中にたどり着いたと思うと……
「───!」
「────!!」
大きな声が聞こえ、いきなり俺の目の前にいたのは、二人の男女だった。
男の方は俺のような黄色人種と似ていて、褐色色の肌と黒目、黒髪をしている。
女の方は逆に、俺のような黄色人種とは違い、フランス人のような白い肌をしていて、銀髪、青目をしている。
「おぎゃあ!(誰だ!)」
俺の知り合いにはこんな人は居らず、ましてや顔すら見たことも無い人間を信じられる訳もないので、警戒し、そう声を上げる。
「おぎゃ?(えっ…?)」
声を上げたが、うまく呂律が回らず言葉を発する事が出来ず、赤ん坊のような声しか発する事が出来ない………って!?赤ん坊!?
「おぎゃああぁぁ!!!?(ええええ!!!?)」
赤ん坊になったという事実を未だに飲み込む事が出来ず、俺はただ驚きの声を上げる事しかできない
(え?なに? 俺、赤ん坊になったの……?)
信じられる事ではないが、信じるしか無いだろう、そうでなければ自分の体が赤ん坊のように小さくなっている事の説明がつかないからだ
「────!」
「─────────!」
俺が親であろう男女の顔をじっと見つめていると、親二人が、俺の目を見て騒ぎだした……。
(また、捨てられるのか……)
目を見て騒ぎだしたということは、前世と同じように俺の目に何か異常があったという事だ、そうでなければ目を見て騒いだりしないだろう。
つまり、俺はまた『悪魔の子』などと呼ばれて捨てられるのだろうと……そう思った
「────!」
「────!」
…だが、この親は捨てるような素振りは見せず、それどころか俺をおもっいきり抱きしめ大きな声を上げる。
抱きしめられている横目で親を見ると、親の頬はだらしないというほど緩んでいて、ニヨニヨなんていう効果音がつきそうな程、幸せな笑みを浮かべていた
(あれ………?)
俺はこの親の反応が思ったものと全く違ったので、困惑していたが、捨てられないという安心感もあって目蓋が重たくなり、襲ってくる睡魔に逆らうことなく、俺は眠った…
◆ ◆
「寝ちゃったか…」
『ジーナ・ドラゴニア』は先程生まれた赤ん坊を抱いて、そう呟く。
「生まれたばかりなんだ、そんなものさ」
そのジーナの呟きに答えるように、小さく笑いながらそう言うのは、ジーナの夫であり、今抱いている子供の父親である、『フォウス・クリファ』だ。
だが、そんなものとフォウスも言っているが、やはりまだ、ジーナと同じように自分の子供のあどけない表情や動きを見ていたかったのだろう、フォウスは小さく笑って見せていたものも、顔は多少残念そうにしていた
「ふふっ………」
「………………」
二人はジーナの腕の中で眠っている赤ん坊みて、これまただらしなく顔を緩める……。
端から見たらそれは変な笑い方、気持ち悪い笑い方というように見えるだろう……だが、その笑顔には確かに愛があった…
「でも、この子の目はどうしよう?」
少しの間の静寂を破ったのは、ジーナの不安げな声色をした言葉だった。
ジーナのその言葉は、先程生まれてきた赤ん坊の目の色を心配してのことだ、子供の目は赤色であり、赤目は、昔の〈魔族(イヴェルズ)〉との戦争時に、魔族の中でも大きく力を持って、それでいて、とても残虐な思考をしていた8人全員の目が赤い事から〈魔王の目(イビルアイ)〉とも呼ばれ、世界中で敬遠され、あまり良いようには思われていない……。
その上、ジーナ自身とフォウスとの結婚は両者の親の反対を押し切ってのものだった、その矛先がこの子に向かわないとは言えないだろうし、何よりもこの子は混血だ。
混血というのは、ジーナとフォウスのように種族が違うもの同士が結婚して生まれた子供の事だ。
この世界の種族は7つあり、ジーナはその7つの種族の中の一つ〈竜族(ドラゴノイド)〉というもので、〈竜族(ドラゴノイド)〉とはその名の通りドラゴンと人がくっついたような容姿をしている。
その中でも、大きな特徴といえば人間とは違い、爪が著しく長いこと、鋭い翼が背中から生えているということ、そして腰から固い鱗で覆われた尻尾が生えているといった、この3つが大きな特徴である。
対して、フォウスは7つの種族の中の一つの〈人間〉である。
人間とは大した特徴はなく、強いていうなら他種族よりも器用であるという事位か……
まあ、ジーナやフォウスの種族の特徴うんぬんは今は置いておこう。
そして、何故混血が敬遠されているのかという、その理由はと言うと、昔どこかの偉い人が『種族とはそれが一つ一つの個性であり、他種族に犯されてはいけない大切で純粋な物なので、大事にしましょう』と伝えたという簡単な物で、その言葉がずっと今まで伝えられて、いつの間にか混血は悪いものという認識が定着してしまったらしい。
つまり、ジーナは〈魔王の目(イビルアイ)〉や混血と言った、世間の殆どから敬遠されるような物を二つも抱えて、愛しい息子は辛いことをされたりしないだろうかと、心配をしているのだ
「うーん、大丈夫だろうよ、何たって俺とお前の息子何だからな!」
フォウスはジーナが悩んでいることなんか気にするな、と言ったような笑みを浮かべ、自信満々にそう言う
「そうよね、あなたと私の息子だもの、きっと強く育ってくれるわよ、それに辛いことがあっても私達が慰めてあげればいいんだしね」
あーだこーだ悩んでいたジーナも、フォウスのその一言でなぜか一気に不安が消し飛び、開き直ったようにそう言って笑う
「ま、何はともあれ無事に生まれて良かったよ」
「本当ね…」
こうやって話している内に、赤ん坊が生まれた時からの緊張が解けたのか、フォウスとジーナはほっと息を吐く
「あーあ、ホント疲れたー……」
「ふふっ、じゃあ今日は一緒に寝る?」
フォウスが木製の椅子にドカッと座り込み、口を大きく開けて上をみる。
ジーナはフォウスがなんとなく呟いたその言葉に、誘惑するようにそう言い、色っぽく唇に人差し指を当てる
「寝る!」
フォウスも、自分の好きな女からこんな風に誘われて悩むほどヘタレではない、フォウスはその魅力的な提案に考える間もなく、すぐにそう飛びついた
「じゃあベッドに行きましょう、今日は始めて息子と寝るから楽しみだわ」
「俺も楽しみだよ」
ジーナとフォウスはベッドのある寝室に、そんなたわいない話をしながら向かう
「そんなこと言って、どうせすぐにエッチなことする癖に」
「いやいや、赤ん坊が生まれた日には流石にやらないって……」
そう言ったはいいものも、その夜には寝室から、ギシギシと言った音が鳴り止まなかったそうだ…