ストライクウィッチーズ 続・影のエース戦記   作:軍曹

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SurfacePro買いました。
初めての投稿なのですが、意外とタッチペン使いやすかったり……


第十四話

 あたり一面に広がっているのは、燃え盛る大平原だった。

 

 周囲には爆撃を受けて空いたと思われる大穴や、戦車などの残骸、黒こげになった兵士達の遺体が転がっている。

 

 そんな中、ひどく場違いな一人の少年が、その中心にうずくまっていた。

 

 時折聞こえてくる声。まだ息がある兵士が助けを求めるが、それを救う者は誰もいない。

 

 この景色はわかる人には忌まわしき記憶と共に甦るだろう。その記憶とは扶桑海事変――部隊の約6割が壊滅した地獄の戦場である。

 

とはいえそれは過去の話、この世界は少年の記憶から作られた仮想の世界、彼を閉じ込める檻なのだ。

 

 ――あれから七年間、少年はこの世界に閉じ込められたままだった。

 

『――よお、“相棒”』

 

 不意に、少年に近づいてくる人影。ゆっくりと近づいてくるのは上坂啓一郎。しかしいつもの彼とは何処か雰囲気が違う。歩き方といい表情といい……少なくとも彼は上坂啓一郎(・・・・・)ではない。

 

 上坂は少年の前に回り込むと、彼の前で胡坐をかき、相対する。だが、少年は動かない。

 

『ったく、こっちに顔くらい見せやがれ』

 

 そう言うと上坂は少年の頭を掴み、無理やり顔を上げさせた。

 

『――やれやれ、こりゃあひでぇな』

 

 少年の顔を見るなり、ため息をつく上坂。少年の顔――それは紛れもなくあの頃の上坂。彼の右頬には大きな傷があるが、それよりも異様なのが彼の瞳。目には光が宿っておらず、表情にも一切感情というものが浮かんでいなかった。

 

 ――ここは上坂の記憶の中。そしてこの少年こそが上坂啓一郎という精神であり人格(・・・・・・・・・・・・・・・)。上坂がここに来るのは二回目。“相棒”が戦闘中に負傷し、気絶した時以来である。その時は“相棒”の体を乗っ取った。その時初めて“相棒”の精神に触れたのだ。

 

 本来精神というのは肉体の成長と同時に成長し、人格も形成される。しかし、上坂啓一郎の精神は少年のまま。表面的には成長していた彼だったが、心はあの時からほとんど成長していない――そう、扶桑海事変の時から。

 

『こんなガキが俺の“相棒”だとは……まあいい。おい』

 

 上坂――否、“彼”はため息をつくと上坂少年の肩を揺らす。しかし、彼はまったく動かない。自分の殻に閉じこもってしまったままだ。

 

 上坂啓一郎(・・・・・)は扶桑海事変の後からずっとこの世界を彷徨っていた。もがき、苦しみ、打ちのめされ、それでも立ち上がり――そして今、彼は全てを諦めてしまった状態にある。この地獄で見た微かな希望を追いかけ、掴みかけた瞬間――打ちのめされたのだ。死という二度と這い上がれない絶望と共に。

 

 それでもなお、“彼”は声をかけ続ける。

 

『おい、本当にいいのかよ。このまま終わってしまって』

 

 “彼”もまた、内心自分の行動に驚いていた。自分がここまで上坂に執着していることを。別に彼でなくても構わない。他の人間を新たな相棒にする方がはるかに簡単なのだ。それにもかかわらず、“彼”は上坂に語りかけている。

 

『――ちっ、反応なしか……しょうがねぇ』

 

 “彼”は立ち上がると、どこからともなく漆黒の刀を持ち出し、軽く横一閃――すると上坂がどんなにもがこうと決して壊れることのなかった世界があっさりと崩壊する。ガラスが割れたような音が響き渡り、あたり一面真っ白な空間へと変わった。

 

『……なあ“相棒”。思い出してみろ。お前の傍にはいつも仲間がいただろうが』

 

 真っ白になった空間に、ぽつぽつと人影が浮かび上がってくる。

 

 穴吹智子、加藤武子、江藤敏子……扶桑海事変で共に戦った仲間――

 

 ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ、ライーサ・ペットゲン、加東圭子、稲垣真美……アフリカ戦線で肩を並べた仲間――

 

 笹本拓也、池田翔平……戦う場所は違えど、同じ男性ウィッチとして信頼しあう仲間――

 

 そして、第501統合戦闘航空団。共に笑い、共に泣き、時に迷惑を掛けながらも家族のように接してくれた仲間――

 

『こいつらだけじゃない。お前には他にもたくさんの仲間がいるはずだ。違うか?』

 

「――――」

 

 上坂は、微かに動く。相変わらず目には光が宿っていないが、彼は周りにいる仲間達を見渡し――一人の少女の所で止まる。

 

 ゲルトルート・バルクホルン――

 

『いいのか? このままだと娘っ子……死ぬぞ』

 

「――――!」

 

 体が震える。その動きは先ほどよりも大きい。

 

『人類のために戦っている? そんなお題目なんかどうだっていいだろ。お前はなんのために戦っている? なにを守るために戦っているんだ?』

 

「――――あ……」

 

 徐々に光を取り戻してく瞳。

 

『あとはお前次第だ。ここでくたばるのも、再び立ち上がるのも。……だが、立ち上がるってんなら少しくらいは手を貸してやるよ』

 

 そう言うと“彼”は音もなく消えた。周りにいたウィッチ達もいつの間にかいなくなり、上坂は一人真っ白な空間に取り残された。

 

――俺は何のために戦ってきた?

 

 それは死んでいった仲間のため。共に戦う仲間のため。

 

 ――俺は何を守るために戦っている?

 

 それは――

 

「……トゥルーデ」

 

 俺には好きな人がいる。不器用で堅物で、妹を溺愛していて強がっていて……とても優しい素敵な女性。

 

 上坂はよろめきながらも立ち上がる。何年も使っていなかったかのように足が震えているが、彼の目には意志が宿り、少年とは思えない力強さを感じさせる。

 

 ――七年前から止まったままの時計。その錆びついた針が動き出す。

 

「待ってろ……今行く!」

 

 再び時を刻み始めた瞬間、彼の視界が白く爆せた。

 

 

 

 

 

「うぉっ!」

 

 笹本は後方の施設が攻撃を受けるのを見て、咄嗟に地面に伏せた。

 

 途端、背中に襲ってくる爆音と爆風。マクデブルク基地の一角にあった格納庫はネウロイのビームを受け爆発、炎上した。

 

「大丈夫ですか、中佐!」

 

「大丈夫だ! さっさと防空壕に避難するぞ!」

 

 傍にいた兵士に告げると、さっさと立ち上がって走り出す。

 

 基地には今、航空戦力は無い。全てベルリン奪還作戦で出払っているため、基地を守るのは基地防空隊だけだ。

 

「弾幕を張れっ! ネウロイを寄せ付けるな!」

 

 基地各所に設置された高射砲や機関砲が空に打ち上げられる。そのうちの何発かはネウロイに直撃、または至近弾を与えて撃墜するが、100を超える大規模な攻撃の前にはその戦火も霞んでしまう。ネウロイの攻撃を受けて、ひとつ、またひとつと防空兵器が破壊されていった。

 

 ――やがて、基地の機能を失ったと判断したのか、ネウロイは引き上げていく。基地は各所で黒煙が吹き、建造物のほとんどが全壊、または半壊という有様。基地としての機能は人類側から見ても失われていた。

 

「ひどい有様だな、これは」

 

 攻撃が止み、防空壕から出た笹本は、各所から黒煙が立ち上る基地を見て嘆く。滑走路に置かれていた数少ない航空機も破壊され、完全に移動手段を奪われてしまった。

 

「派手にやられましたね、中佐」

 

「おお、坂本。無事だったか」

 

 他の防空壕に退避していて無事だった坂本がやってくる。

 

「しかし、前線で戦いが起きているはずなのに、なぜ後方の基地にまで……」

 

 通信機器は破壊され、現在他の基地と連絡が取れない状況にあるが、通信が途絶する直前、あちこちからネウロイの大規模攻撃を受けているとの連絡が入っていた。恐らく他の基地も大なり小なり攻撃を受け、被害が出ているのだろう。

 

「わからん。前線からの情報も入って来ていないからな……」

 

 そうつぶやいた笹本は、基地の一角に視線を向けるなり目を剥いた。

 

「どうかしましたか……!」

 

 訝しげな坂本も視線を移すなり、驚愕する。

 

「おい! 大丈夫か!」

 

「担架だ! 早く担架を持ってこい!」

 

かつて病室があった建物は破壊され、近くには人だかりが出来ており、中心には瓦礫にもたれかかる一人の男性がいた。

 

「だい……じょうぶ……だ……」

 

 男は息絶え絶えながらも、自力で呼吸し、二度と聞けないと思っていた声で答えている。

 

「上坂!」

 

 二人は叫んだ。――上坂啓一郎の名を。

 

 

 

 

 

 ――体が焼けつくように痛い。

 

 上坂は本能に従い、酸素を求めるべく荒い呼吸を繰り返す。ネウロイの襲撃によって上坂のいた病棟は破壊され、彼は吹き飛ばされた。その衝撃の影響かは知らないが、再び心臓が鼓動し始め、呼吸が再開された。

 

およそ半日振りの呼吸――活動を停止していた細胞が酸素を取り込み、再び動き始めるのを感じる。頭に痛みを覚え、体は震えている。だが、彼は生きている。彼は生き返ったのだ。

 

「かみ……さか!」

 

 まだ完全に機能を取り戻していない耳が笹本の声を拾う。薄目を開けると、驚いた表情の笹本が自分の顔を覗き込んでいた。

 

「ささもと……さん?」

 

「大丈夫か、上坂!」

 

「しっかりしろ!」

 

 笹本だけでなく、坂本の声も聞こえてくる。

 

(生き……てる?)

 

 二人の顔を見て、ようやく自分が生きていることに気付いた上坂。そして己の成すべきことを思い出し、立ち上がろうとした。

 

「お、おい!?」

 

「ぐ……」

 

 だが、体が思うように動いてくれない。足は生まれたての小鹿の様に震えてバランスが取れず転倒しかけるが、笹本と坂本に抱きかかえられ、なんとか倒れることだけは避けられた。

 

「と、とりあえず横にさせるぞ!」

 

「担架はまだか! 急げ!」

 

「ま……て……」

 

 上坂は、それでも立ち上がるのを止めようとしない。先ほどの攻撃で吹き飛ばされ、その衝撃で生き返ることが出来たが、その代償として体は傷だらけ。体が小刻みに震え、今にも倒れそうな状態。だが、上坂は立ち上がった。歩き始めたのだ。

 

「俺も出撃する……ストライカーを……」

 

「無茶言うな! そんな体で飛べるわけないだろう!」

 

 笹本は必死に押しとどめる。だが上坂は歩みを止めない。格納庫へゆっくり進んでいく。

 

「行かなきゃ……行かなきゃいけないんだ……俺は」

 

「格納庫は既に破壊されている! 予備のストライカーもない!」

 

 そうしている間に格納庫前まで来たが、やはりネウロイの攻撃を受け、無残にも破壊されていた。

 

「…………」

 

「大丈夫だ。ネウロイはお前の仲間が何とかしてくれる。今はゆっくり休め」

 

 笹本はへたり込む上坂の肩に手を乗せ、宥める。いくらウィッチとてストライカーが無ければ空を飛べない。彼もこれでおとなしくしてくれるだろうと安堵した。

 

「おい! 見てみろ!」

 

 その時、格納庫の瓦礫の中を探索していた一人の兵士が声を上げた。それを聞いた他の兵士達が一斉に集まる。笹本も坂本に上坂を預けて駆け寄り――再び驚いた。

 

「おい、これは……」

 

 そこには瓦礫によって小さい隙間が出来ており、その中に上坂の愛機、キ84四式戦闘脚「疾風」が殆ど傷もなく収まっていた。

 

 兵士達は慎重にストライカーを取り出し、状態を確認する。

 

「……機体、エンジン、異常なし。ストライカー使用可能です!」

 

「本当かよ……」

 

「奇跡だ……」

 

 口々にそうつぶやく兵士達。笹本はしばらく黙り込んでいたが――

 

「――上坂、行ってこい」

 

「え……?」

 

「お前のやる気もストライカーもある。どうせ止めてもお前は行くだろう。なら後腐れなく送り出した方がいいだろう」

 

「笹本さん……」

 

 笹本は上坂の肩に手を置く。

 

「――必ず生きて帰ってこい。俺が送り出したことを後悔しないために」

 

「――はい」

 

 上坂は、静かにうなずいた。

 

 

 

 

 

「うわっ!」

 

「きゃあっ!」

 

 ベルリン上空では、激戦が続いていた。

 

 第501統合戦闘航空団を中心としたウィッチ隊に襲い掛かるのはこれまで見たこともない数のネウロイ。それも小型から大型まで、今大戦で出現したネウロイ全てがこの戦場に集結していた。

 

「各員に告ぐ! 僚機と連携して対処せよ!」

 

『そんなこと言われても……!』

 

『自分を守るだけで精一杯ですわ……!』

 

「くっ……!」

 

 ミーナは乱戦の中、隊員達に命令するが、反応は悪い。ミーナはなんとか僚機であるハイデマリー少佐と連携が取れているが、他の隊員達は無数のネウロイから攻撃を受け、僚機との連携を取るどころか自分を守るだけで精一杯な状況である。眼下でも地上部隊と陸戦部隊が死闘を繰り広げていた。

 

(ネウロイは明らかに数に物言わせて各個分断を行っている。軍隊として機能させないつもりね……)

 

 ミーナは近づいてきた小型ネウロイを墜としながら、離れた空域にいる良子――否、“人型ネウロイ”を睨みつける。

 

 軍服を着、腰に刀、右手に銃、すらりと長い髪を風になびかせる姿は間違いなく人のそれ。しかしストライカーユニットと使い魔の耳に当たる部分は間違いなくネウロイ。キメラともいえるそれは虚空の瞳で周囲を見渡している。恐らくネウロイ達に指示を飛ばしているのだろう――ということは恐らく彼女がマザーネウロイ。

 

(とはいえ、そう簡単には近づけない)

 

 彼女との距離はそれほど遠くないが、その間には無数のネウロイが滞空しており容易に近づくことが出来ない。例え近づけたとしても彼女自身が非常に強いと思われるため、一人では対処できないだろう。

 

(長引けば長引くほどこちらの被害が大きくなる。でも近づくことは難しいし、最低でも二人がかりじゃないと恐らく倒せない。どうしたら……)

 

 ミーナの表情に焦りの色が見え始めた時だった。

 

『トゥルーデ!』

 

 無線から聞こえてきたエーリカの叫び。見れば僚機だったバルクホルンが人型ネウロイに向かっていくところだった。

 

「トゥルーデ! 戻りなさい!」

 

 ミーナは叫んだが、バルクホルンは返事すら返さない。

 

 彼女の目に映るのはただ一人、上坂を殺したネウロイ(良子)

 

(お前だけは絶対許せない……私は……貴様を倒す!)

 

「どけえぇぇぇっ!」

 

 進路上に現れるネウロイを両手に持つMG42で粉砕する。毎分約1200発で放たれる7.92mm弾の嵐――それも二つ――の前では小型はおろか中型ネウロイですら瞬殺される。バルクホルンは強力な火力でもって強引に道を切り開いていた。

 

「――――」

 

 そんな彼女の接近に気付いたのか、人型ネウロイは右手に持っていた銃を構える。

 

三八式歩兵銃――扶桑皇国が明治38年に正式採用したボルトアクションライフル。九九式小銃より一世代昔の銃は、しかし1938年当時では兵士の相棒として戦場にあった。

 

 人型ネウロイはバルクホルンに狙いを定め、引き金を引く。放たれたのは6.5mm弾――ではなく赤き閃光。

 

「なっ……!」

 

 接近し、攻撃してくるとわかっていたバルクホルンは一瞬驚くも、元々張っていたシールドにさらに魔法力を流し込み、それを防いだ。

 

 そして彼女は人型ネウロイに銃を向ける。

 

「このっ……!」

 

 7.92mmの弾幕を、しかし人型ネウロイは悠々と回避する。そして乱戦となった空域に入り込んだ。

 

「待てっ!」

 

 バルクホルンもその後を追いかける。

 

 ウィッチとネウロイ。前者はともかく、後者は小型、中型、大型と種類豊富なうえ無数の数。それらがひしめき合う空域は控えめに見積もって危険な場所だった。

 

 ネウロイの後ろにウィッチが付き、その後ろにネウロイ、その逆もまたしかり。横から銃弾やビームが飛んでくることなんて当たり前、ウィッチ達はまだシールドがあるためそこまで問題になっていないが、ネウロイは味方に誤射することもしばし。墜ちる数は圧倒的にネウロイが多いが、元々ウィッチ自体の数が少ない。一人が墜とされただけで戦力が大幅に落ちてしまうのだ。そんな中、人型ネウロイは綺麗にそれらを避けていく。一方バルクホルンは避けるのが精一杯といった状況だった。

 

(くそ……どんどん離されていく!)

 

 人型ネウロイとの距離が離れ、見失いそうになる。彼女はそうはさせまいと増速し、距離を詰めようとする。だが、速度を上げれば機動力が落ちるのは自然の摂理。乱戦空域を抜けるまであと少しというところで、目の前に中型ネウロイが立ちはだかった。

 

「邪魔だっ!」

 

 バルクホルンは乱射してそれを撃ち倒す。だが――

 

「――――!」

 

 白い破片となって舞うネウロイだったものの先には銃口を彼女に向ける人型ネウロイ。バルクホルンはそのまま銃口を向け、引き金を引いたが――

 

「――っ……!」

 

 MG42は高い連射力を誇るが、それと同時に弾薬の消耗も激しい。これまでの乱射で弾を使い切ってしまい、銃口から火を噴かなかった。

 

 彼女が己の失態を感じる間もなく、人型ネウロイはビームを放つ。それはあまりにも至近距離。シールドを張る余裕すらない。

 

『トゥルーデ!』

 

 無線から悲鳴が聞こえてくる。その声を聞いて、彼女は自分が死ぬんだと理解した。

 

(……ははは、なにをやっていたんだろう)

 

 バルクホルンは自分の人生を自嘲する。祖国を失い、祖国を守れなかったと仲間に、たった一人の妹に迷惑をかけた。

 

 そして両親を、好きだった人を殺され、復讐のために戦い続け――死を迎えようとしている。

 

 目の前に赤い光が広がる。

 

(啓一郎……)

 

 バルクホルンは静かに目を閉じる。その瞳から一筋の涙がこぼれた。

 

 そして衝撃が――いつまで待ってもこない。

 

「…………?」

 

 バルクホルンはゆっくりと目を開ける。

 

「あ…………」

 

 目の前にはたくましい背中。バルクホルンは目の前の人が誰なのかすぐに分かった。

 

 それは、もう二度と会えないと思っていた好きな人――

 

「大丈夫か? トゥルーデ」

 

「けい……いち……ろう……?」

 

 その人物は振り返り、彼女に微笑む。

 

上坂啓一郎が、そこにいた。

 


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