ストライクウィッチーズ 続・影のエース戦記   作:軍曹

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第十一話

――我が生まれたのははるか昔、我の天敵である人間がユーラシアと呼んでいた大陸だった。

 

 我は戦いたい――ただそれだけを求めて暴れまわり、対して抵抗もなかったそこに住む人間どもを陸地ごと海に沈めた。無論彼らも黙ってやられていたわけではない。だが我に対抗するには彼らはあまりにも弱すぎたのだ。

 

――つまらん。どこか我と対等に戦えるものはおらんのか?

 

 そう思っていた矢先、東の方角から莫大な力を感じた。この先にあるのは“扶桑”と呼ばれる国。その力は我すら恐れを抱くほど強大な物であった。

 

 ――ほう、面白い。

 

 だが我は向かった。我は強いものと戦いたい。心躍るような命のやりとりをしたい。その欲求だけが我を突き動かしていた。

 

 そして、そこには確かにいた。膨大な力を持つ、そこに住む人間が“巫女”と呼ぶ小さな人間に。

 

 ――ははははっ! これだっ! これこそが我の望んでいた戦いだっ!

 

 我と“巫女”どもの戦いは三日三晩続いた。“巫女”どもは弱いものから傷つき、斃れていくが、“巫女”は連携して我とずっと対峙し続けた。

 

 ――おもしろいっ! 人間どもも中々やるではないか!

 

 我は傷つくことも厭わずに戦い続ける。だが、流石にずっと対峙し続けていくうちに力を失ってしまった。

 

 そうして三日目。嵐が吹き荒れる中、我は最強の敵、“巫女”に討たれた。

 

 ――楽しかったぞ、我は満足だ。

 

 我は自らの欲求を満たせたことに満足し、最強の敵の刃に斃れた――

 

 

 

 

 

 ――なぜ、我は生きている?

 

 我は生きていた。敵の刃に斃れははずなのに、我は生きている。ただし体は以前のように巨大なものではなく、人間の武器である刀となっているが。

 

 ――なかなか洒落ているではないか。我が人間の武器になるとは。

 

 だが、我はそれを受け入れた。あの時斃れたはずにもかかわらず、こうして生きて、しかも戦の道具として生まれ変わっている。再び戦いに臨めるなら本望ではないか。

 

 ――さあ人間よ! 我を使え! 戦え! 我の力、全てを使わせてやる!

 

 我は“黒耀”。漆黒の刀にして、狂気の刀である――

 

 

 

 

 

 太古より人類の敵として存在してきた異形――

 

 それに名前が付けられたのはつい最近のこと。1939年、かれらの大規模侵略により始めたその姿が確認された地名より名付けられた。

 

 その名は“ネウロイ”――

 

 それはどこから、なんのために来たのか誰にもわからないが、彼らの攻撃によって多くの人々が命を落とし、生まれ育った町を、国を追われていった。

 

 そんな彼らに対抗できるのは“ウィッチ”と呼ばれる10代の少女達。彼女達は荒れ地を走破し、空を飛ぶストライカーユニットを身にまとい、ネウロイとの戦いに身を投じていた。

 

 ――1945年9月、ネウロイは欧州で全面攻勢を仕掛け、国家の垣根を越えて組織された人類連合軍はライン川をに防衛ラインを設置、一進一退の攻防を繰りひろげていた。

 

 それと同時期、欧州から約3000km南下したアフリカ戦線で、人類連合軍は“ファラオ作戦”を発動、大規模な攻勢に打って出た。

 

 目的は1940年以来ネウロイに占領され続けているスエズ運河の奪還。アフリカ戦線総指揮官エルヴィン・ロンメル中将はネウロイの大半が欧州に向かっているこの好機を逃さず、アフリカ全戦力でもって進軍を開始。ブリタニア、カールスラント、リベリオン、ロマーニャ、扶桑各国陸海軍の活躍もあり、スエズ運河の奪還成功した。

 

 ネウロイは欧州の戦力を引き抜き、再侵攻を目論んだものの、奪還成功により士気がうなぎ上りになっていた人類連合軍はこれを撃退。これに呼応するかのように各戦線でも反撃ののろしを上げ、欧州での全面攻勢で疲弊していたネウロイは各地で敗走していった。

 

 ――そして1946年3月。

 

 人類連合軍はネウロイをカールスラント首都、ベルリンに追い詰めるまで至っていた……

 

 

 

 

 

 1946年3月19日、カールスラント、マクデブルク郊外――

 

「ようやく、ここまできた……」

 

 8日前に第501統合戦闘航空団司令の任に就いたミーナは、急造の作戦指揮所の一角にある司令室の窓からベルリンの方角を眺めていた。

 

 視線の先には漆黒の渦雲。ここから約100km離れたベルリン上空には、今もなおネウロイの巣がその地を占領するように居座っている。

 

「いよいよ明日だな」

 

 ソファに座っていた坂本が、不意に口を開いた。

 

「ええ。いよいよ明日、長かった大戦も終わる」

 

「ああ、ようやくだ」

 

 大戦が始まって7年目。大戦初期の頃から戦いに身を投じてきた二人にとって、明日の戦いはずっと待ち望んでいたものだった。

 

「それにしても大丈夫なのかミーナ? もう20歳を過ぎているのに」

 

 ――8日前、3月11日にちょうど20歳の誕生日を迎えたミーナ。本来なら“上がり”を迎え、戦線から身を引く立場にあるのだが、彼女は明日の作戦に参加するのだ。

 

「ご心配なく。あなたと違い、私のシールドはまだまだ大丈夫よ」

 

 ミーナは笑みを浮かべる。

 

「そうか、少し羨ましいな……」

 

  今は中佐となり、在ブリタニア駐在武官の任に就いている坂本だが、かつて坂本自身が20歳になった時、シールドを満足に張れなくなってしまった。だがそれでも飛ぶことは出来たので、扶桑に伝わる秘技“烈風斬”を習得し、翌年までなんとか前線に立つことが出来た。もし仮に烈風丸を使用していなければ、ウィッチとしての寿命はさらに延びていたのかもしれないが、その時は前線ではなく教官かテストウィッチとして働いていただろう。そう考えるとミーナの魔法減衰率を羨ましく思ってしまうのも無理はない。

 

「美緒……」

 

「……まっ、過ぎたことをいつまで悩んでいても仕方ないがな」

 

 坂本は、しかし静かに首を振り、笑みを浮かべる。それにつられてミーナも笑った。

 

「……そうね。美緒には501の補給をしっかり行ってもらわないと」

 

「心配するな。私は私にできることをするだけだ」

 

「ええ、よろしくね」

 

「そういえば……」

 

 坂本はふと思い出し、尋ねる。

 

「確かバルクホルンも明日誕生日だったな。あいつはどうなんだ?」

 

「トゥルーデも私と同じく問題ないわ。まああの子の場合例えシールドが張れなくても作戦に参加するでしょうけど」

 

 それに、とミーナは続ける。

 

「いざとなったら啓一郎が守ってくれるでしょうしね」

 

「上坂が? なんでまた?」

 

「あら、知らなかったの? 二人とも好きあっているって事」

 

「…………はっ?」

 

 坂本は寝耳に水と言わんばかりに間抜けな声を出す。

 

「えっと……ちょっと待ってくれ。バルクホルンが? 啓一郎のことが好き?」

 

「ええ、ついでに言うと、恐らく啓一郎もトルゥーデのことが好きみたいよ」

 

 ミーナの言葉に、坂本は少し時間が立ってから喋り出す。

 

「……それは本当なのか?」

 

「ええ、といっても私くらいしかわからないと思うけれど」

 

 二人の関係は普段から一緒にいる501の隊員ですら見極めることが難しい。というのも二人ともお互い接し方がどこか固いのだ。他の隊員からはただの事務的な付き合いとしか見ることはできない。

 

「私の方がもどかしく感じるくらいのんびりだけど、二人の距離は確実に縮まっているわ」

 

「私は色恋などわからんから何とも言えないが、よく二人の関係に気付いたな」

 

 坂本は二人の関係に気付いたミーナに感心する。ミーナは口元に笑みを浮かべ、寂しそうに笑いながら言った。

 

「わかるわ。あの二人、以前恋していた私にそっくりだったから……」

 

「ミーナ……」

 

 ――かつて、ミーナは恋をしていた。

 

 その相手は1940年のパ・ド・カレー撤退戦時命を落とし、二度と会うことはできない。

 

「……以前の私なら、例え嫌われようとも二人の恋を認めなかったでしょうね」

 

 彼を失った後、ミーナは他のウィッチが自分と同じ目に合って傷つかないよう男性兵士との不必要な接触を禁ずる規則を作った。そしてミーナの部下となった上坂は彼女の気持ちをくみ取り、少なくともブリタニアの時はよほどのことがない限り、他の皆から一歩引いた付き合いをしていた。

 

「でも、最近思うの。人は出会うことで――恋することで変わっていくんだって」

 

 バルクホルンと上坂。最初はただの戦友だった二人だが、いつしかお互い惹かれあい、時に傷つきながらも成長していった。

 

そして、二人はさらに強くなった。力も、心も。

 

「あの二人は強いわ。そしてまだまだ強くなれる。だから私はあの二人を応援するわ」

 

「……そうか」

 

 坂本は微笑む。

 

「なら、私も二人を応援してやらんとな」

 

「ええ」

 

 二人は静かに笑った。

 

 

 

 

 

「――間もなく奴らの哨戒ラインに到達する。注意しろ」

 

「ああ」

 

 カールスラント、ベルリン近郊――

 

 第501統合戦闘航空団隊長の上坂とバルクホルンは、間もなくネウロイの勢力圏内に差し掛かろうとしていた。

 

「それにしても……ネウロイに占領されていたわりには街がきれいに残っているな」

 

 遠くに見えるネウロイの巣(マザーネウロイ)。その下にはカールスラントの首都、ベルリンがあるが、双眼鏡から見る限りあまり被害を受けていないように見える。

 

「驚いた……てっきり他の街のように破壊されているものだとばかり思っていたが……」

 

 上坂もバルクホルンも、驚きを隠せない。ネウロイに占領されていた街はそのほとんどがネウロイによって破壊され、無残な姿を晒していたからだ。

 

「ベルリンにはネウロイにとって何か必要ななにかでもあるのか? それならば妙な撤退には説明がつくんだが……」

 

 昨年9月から始まった人類大攻勢。その一大攻勢はそれまでの苦戦が嘘だったかのように快進撃を続け、ネウロイに奪われていた国土の大半を奪還するに至った。

 

 しかし、実際の所は西部戦線以外のネウロイはただ撤退していったに過ぎない。大激戦が連日のように続いていた西部戦線と違い、東部戦線と後に合流したアフリカ戦線では散発的な戦闘しか起こらず、カールスラント領内に差し掛かってきたころから抵抗が大きくなってきたのだ。各国はこの不可解な行動に首をかしげたが、誰もその答えを見つけ出すには至らなかった。

 

 作戦の前日だというのに上坂達がこうして偵察に赴いたのも、作戦直前までネウロイの動向を探るためだった。

 

「……まあネウロイの考えている事なんてわからないからな。それに、確認する限りネウロイの動きもなさそうだ。明日の作戦が成功すればベルリンの首都機能は早期に回復するだろう」

 

「なんだかうれしそうだな?」

 

 バルクホルンは上坂の表情が僅かにほころんでいることに気付く。それを指摘すると、彼は顔を赤らめ、恥ずかしそうに言った。

 

「――昔、姉さんが欧州で一番行きたい街はベルリンだって言っててな。この戦争が終わったら一度行ってみたいと思っていたんだ。ただそれだけだ」

 

「相変わらずだな、お前は」

 

 呆れるバルクホルンだが、そう言う彼女も妹に対する愛情は多少度を越していると思われる。

 

 上坂は懐かしそうに目を細めた。

 

「――まあな。両親を早くに亡くした俺にとって、姉さんはたった一人の家族だった。俺がこうして生きているのは姉さんのおかげなんだよ」

 

「――そっか」

 

 彼女も確かに両親や親族を大戦で亡くしたが、小さい頃の思い出はたくさん残っている。上坂は両親のことをほとんど知らない。だから彼にとって姉、良子は家族であり、母親の代わりでもあったのだ。

 

「さて、そろそろネウロイも気付くだろう。帰投するぞ」

 

「ああ」

 

 明日は大戦の終焉をかけた作戦。二人は英気を養うため、帰路についた。

 

 

 

 

 

「――そういえば」

 

 基地に向けて飛行中、バルクホルンはふと上坂に質問した。

 

「この戦争が終わったら、啓一郎はどうするんだ?」

 

「えっ? そうだな……一応しばらくは軍にいる予定だ。ウィッチとしてまだまだ飛べるし、それに……まあ深くかかわったからな」

 

 上坂はウィッチであると同時に扶桑の諜報機関、明石機関の諜報員でもある。いくら正体が露見したとはいえ、裏に属している以上簡単に軍を辞めることは出来ない。

 

「トゥルーデはどうするんだ? 明日には“上がり”を迎えるわけだが」

 

「わっ、私か!?」

 

 まさか質問を返されると思っていなかったため、バルクホルンは必死に考える。

 

「そうだな……教官をやってみないかと言われているから、しばらくは軍に残ると思う。その後はまだ……」

 

「そうか」

 

 二人はそのまま押し黙るが、意を決して話しかける。

 

「トゥルーデ」

 

「啓一郎」

 

 二人の声は見事に重なった。

 

「……トゥルーデからどうぞ」

 

「いや、啓一郎から頼む」

 

「そうか……」

 

 上坂は頬を染め、目を泳がせるが、意を決して告げる。

 

「……この戦いが終わったら、伝えたいことがある」

 

「……それって」

 

 バルクホルンは、なんとなく彼の言いたいことが分かったのか、頬を染める。

 

「それは……今は言えないのか?」

 

「今は駄目だ。明日の作戦がある」

 

「……わかった」

 

 バルクホルンは素直に引き下がった。

 

「……次」

 

「えっ?」

 

「トゥルーデも話したいことがあるんだろ」

 

「あ、ああ。私は……」

 

 自分も言いたいことがあったから話しかけたことを思い出し、口を開こうとした。その時――

 

「――ん?」

 

 バルクホルンはこちらへと向かってくる飛行物体に気付いた。

 

「ネウロイ?」

 

「この空域に飛んでいる味方はいない。なら十中八九敵だろう……とはいえたった一機だ俺達だけでやれるだろう」

 

 遠く離れているためよくわからないが、大きさはどう見ても小型ネウロイクラスしかない。これなら通常型戦闘機でも普通に倒せる相手だ。――ましてや今はウィッチが二人。臥龍一触で片づけられる。

 

「――んっ?」

 

 待ち構えてる二人だが、徐々に近づいてくる飛行物体に違和感を覚える。それの大きさは今までのネウロイに比べると非常に小さく、色も特徴的な黒に赤い六角班というものではない。そして何よりシルエットがどう見ても人間にしか見えなかった。

 

「人型……ネウロイか?」

 

「久しぶりに確認されたな。去年のヴェネツィア以来だ」

 

 人型ネウロイ――

 

 初めて確認されたのは1940年スオムスで、その次は大きく飛んで1944年ブリタニア。これには501が大きくかかわっており、特にバルクホルンはその姿を確認していた。そして1945年ヴェネツィアで同じネウロイに消滅させられたのを最後に、人型ネウロイの発見は報告されていない。

 

「どうする?」

 

「あまり魔法力を消耗したくない。少し戦ったら撤退しよう」

 

 本当はこの場で撃墜しておきたいところだが、明日の作戦に支障をきたすわけにもいかない。上坂はネウロイの戦闘力を確認するだけに決めた。

 

「えっ……」

 

 やがて近づいてきたネウロイに照準を合わせ、引き金を引こうとした時、上坂は気付いた。

 

「人……?」

 

 近づいてきたのはネウロイではなく、紛れもない人。頭から犬耳を生やしていることから、間違いなくウィッチである。

 

「啓一郎! おかしい、ベルリンからウィッチが飛び立つはずが……!」

 

 バルクホルンは慌てて銃を構え直すが、上坂は構えを解き、茫然としながらつぶやいた。

 

「姉……さん……?」

 

「えっ――」

 

「姉さん!」

 

 上坂は姉さんと呼ぶウィッチに近づいていく。

 

「本当に……啓一郎のお姉さんなのか?」

 

 以前上坂から聞かされた話によると、上坂良子は扶桑海事変で戦死したはず。しかし彼女はこうして生きて彼らの前にいる。バルクホルンはいつの間にか構えを解いていた。

 

 彼女は改めてウィッチを見る。身長は恐らく坂本と同じくらいか。長い黒髪に扶桑陸軍の制服。腰には刀を差している。

 

(ん……?)

 

 ふと、バルクホルンは違和感を感じる。彼女の下半身。彼女の履いているストライカーユニットにはまるでネウロイのような模様が描かれている。他にも頭からは以前どこかで見たことがある黒く角ばった耳。そして何より目。彼女の瞳は焦点が定まっていなかった。

 

(まて、確かお姉さんは陸戦歩兵だったはず……なんで彼女は空を飛んでいるんだ?)

 

 バルクホルンの疑念はさらに深まっていく。

 

 ベルリンから突然現れた、戦死したと思われていた上坂の姉、良子。そんな彼女がなぜ空を飛んでいるのか――

 

「…………っ!」

 

 その時、バルクホルンは思い出した。彼女の履いているストライカーをどこで見たかということを。

 

 ブリタニアで戦っていた頃、最後の戦いの時に現れた人型ネウロイ。良子の履いているストライカーはあの時の人型ネウロイの足に装着されていた物と同じだった。つまり――

 

「啓一郎、離れろ! それはネウロイだ!」

 

「えっ――――」

 

 上坂はその場で停止し、振り返る。

 

 ――その瞬間、良子は腰に差していた刀を抜き、彼の懐に飛び込んだ。

 

「…………なっ」

 

 上坂はゆっくりと視線を落とす。自分のわき腹には赤く輝く刀が深々と突き刺さっていた。

 

 刹那、途轍もない痛みが彼を襲い、口から血を吐く。刺されたわき腹からは徐々に血が滲み出てきた。

 

「姉……さん……?」

 

 上坂は恐る恐る良子の顔を窺う。彼は今だに信じられなかったのだ。自分の姉がそんなことをするはずがない。これはネウロイの仕業なんだと。

 

 しかし、そこにあったのは紛れもない姉の顔。彼女は光の宿っていない不気味な瞳を彼に向けていた。

 

「――――!」

 

 それを見た瞬間、上坂の脳裏にあの時の出来事がよぎる。

 

 燃え盛る大平原――

 

 焼け焦げ、黒炭となった兵士達――

 

 そして、下半身を失い、目を開けたまま絶命した良子――

 

 それまで忘れていた扶桑海事変での出来事すら鮮明に思い出し――上坂は意識を失った。

 

「――――」

 

 良子は上坂が意識を失ったのを確認すると、勢いよく刀を引き抜く。白目を剝いたまま意識を失った上坂は支えを失い、鮮血をまき散らせながら墜ちていく。

 

「啓一郎……?」

 

 バルクホルンは目の前で起きた光景に思考がついて行けず、ただ空中でたたずむ。良子は彼女を脅威とみなさなかったのか、ベルリンの方へと引き換えしていった。

 

 ――やがて、バルクホルンはようやく事態を理解した。

 

「啓一郎――――!」

 

 

 




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