ストライクウィッチーズ 続・影のエース戦記   作:軍曹

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第十話

 宮藤が足を滑り込ませると、震電はそれに呼応するかのようにマ43‐42特エンジンを起動させる。

 

 宮藤博士の手紙によってもたらされたその高出力エンジンは、宮藤を起点として光の魔法陣を展開し、6枚の呪符が回転を始めた。

 

 そして。

 

「発進!」

 

 十分に回転数が上がったのを確認し、宮藤は滑走を始める。久しぶりの飛行のためか、地面が不安定なためか少しふらついたものの、すぐ真っ直ぐに修正。十分な加速の後、宮藤は約二カ月ぶりに大空へと飛び立った。

 

「芳佳ちゃ~ん!」

 

 宮藤に向かって手を伸ばしながら降下するリーネ。

 

「リーネちゃん!」

 

 宮藤も彼女に向かって手を伸ばす。しかし、その後ろには無数の魚雷型ネウロイが宮藤を狙っている。彼女はそれに気付いていない。

 

「間に合えっ!」

 

 ペリーヌは宮藤を助けるべく、ネウロイに向かって機関銃を連射。銃弾の嵐はネウロイを吹き飛ばした。

 

 撃破されたネウロイの破片が舞う中、宮藤とリーネは空中で手を繋ぐ。

 

「お帰り! 芳佳ちゃん!」

 

「ただいま! リーネちゃん!」

 

 宮藤は自身の、リーネは親友の帰還を喜ぶ。航空歩兵の帰るべき場所――空への。

 

「……まったく! 相変わらずムチャクチャな人ですわ」

 

 そう言うペリーヌだが、安心した笑みを顔に浮かべている。彼女も宮藤の復活を心から喜んでいるのだ。

 

 やがて、宮藤の周りに皆が集まってくる。

 

「芳佳が飛んでる~」

 

「宮藤~、なんで飛べるんだよ~?」

 

「そうだよ、魔法力が無くなったはずなのにな」

 

「分かりません。……でも」

 

 ルッキーニ、エーリカ、シャーリーと順々に顔を見回し、宮藤はそっと自分の胸に手を当てる。

 

「でも、みんなの声が聞こえたら、胸の奥が熱くなって……私もあそこに行かなくっちゃって思ったんです」

 

「……相変わらず無茶苦茶な」

 

「ふっ。そんなことはどうだっていいさ」

 

苦笑する上坂にバルクホルンはそうつぶやき、宮藤に向き直る。そして左手に持っていたMG42を突き出した。

 

「宮藤、お前は守りたいんだろう?」

 

「……はい!」

 

 宮藤はバルクホルンから銃を受け取った。

 

「……あっ、そうだ! 静夏ちゃんは!」

 

『大丈夫よ、芳佳ちゃん』

 

『こっちだこっち』

 

 慌ててあたりを見渡す彼女に、サーニャとエイラから通信が入る。見上げると二人に挟まれた零観の主翼桁に捕まる服部の姿があった。

 

「宮藤少尉……」

 

「静夏ちゃん、よかった、無事だったんだ……」

 

無線越しにお互いの安否を確認し、安堵する二人。それを見ていた坂本は豪快に笑いながら言った。

 

「はっはっはっはっは! 思った通りだな! 宮藤!」

 

 彼女の顔には誇らしげな表情が浮かんでいる。

 

「お前には空が一番似合う! そこがお前のいるべき場所だ!」

 

「坂本さん……」

 

 宮藤が感極まっている所に。

 

「待ってたわよ。宮藤さん」

 

「ミーナ中佐」

 

 ミーナがハイデマリーを引き連れ、降下してきた。彼女は宮藤の目を見据え、微笑む。

 

「久しぶりの実戦だけど……行ける?」

 

「はい!」

 

 宮藤はためらいなく頷いた。

 

「ミーナ」

 

 上坂の一言で、ミーナ達は振り返る。

 

 先ほどまで地面から艦首を突き出していた母艦型ネウロイが、地鳴りと共に浮かび上がり、上昇をし始めている所だった。

 

「うわ~、でっか~」

 

「あれが敵の本体か」

 

 ハルトマンとバルクホルンはその巨体に目を見張る。その姿はさながら漆黒の鯨。色こそ違うが、物語に出てくる白鯨(エイハブ)であった。

 

 先ほどの戦闘で生き残った魚雷型ネウロイが、母艦型ネウロイを守るようにリングを形成する。彼らもまた、決戦が始まると考えているのだろう。そしてその考えは彼女達も同じ。

 

 ウィッチ達はミーナを中心に逆V字編隊を形成し、ミーナの命令を待った。

 

「総員、フォーメーション・ユリウス! 目標、前方の超大型ネウロイ!」

 

「了解!」

 

 命令と共に、母艦型ネウロイに向かう13人のウィッチ達。魚雷型と母艦型は無数のビームを放ち、近づくことを拒もうとするが、彼女達は避けるかシールドを張ってこれを防ぐ。

 

 前衛は母艦型に肉薄して装甲を削り、後衛は前衛が戦いやすいようビームが発射される赤い斑点を優先的に狙う。

 

「あれが――伝説の501の戦い」

 

 上空からその戦いを見ていた服部は、その常識外の戦いにただ驚くばかり。

 

 一般的な教本には、対大型機戦では高速で近づき、瞬間的に攻撃を行って離脱する、いわゆる一撃離脱が基本であると書かれている。そうすることで敵の攻撃を可能な限り受けにくくなるからだ。

 

 だが、彼女達は違う。前衛は後衛を信頼して思いっきり肉薄し、ネウロイに対して持続的にダメージを与えている。規則が、教えられてきたことが正しいと思っていた服部にとって、それは驚愕のことだった。

 

「なんで……なんであんな戦い方が出来るのでしょうか?」

 

「それは決まってるさ」

 

 坂本は胸を張って答える。

 

「あいつらは仲間を信じてる。どんなに離れようとも、どんな状況だろうと、あいつらは仲間と共に戦っているんだ。だからこそ宮藤も、仲間の声を聞いて飛べるようになったんだと思う」

 

 細かい理屈など坂本はわからない。だが、きっとそうなんだと彼女は確信している。

 

「仲間―――」

 

 それまで一度も考えても見なかったこと。服部は顔を伏せ、考え込む。

 

「私も……」

 

「んっ?」

 

「私も……いつかあんなふうに飛べるのでしょうか?」

 

「……はっはっはっ!」

 

 坂本は言いきった。

 

「飛べるさ!」

 

 

 

 

 

 ネウロイとの戦いは続いている。

 

彼女達は手を緩めることなく攻撃を続けるが、母艦型の強固な装甲を崩すまでには至っていない。

 

 そして、そろそろ弾薬も底が見え始めて来ていた。

 

いくら伝説級の強さを誇る501でも、弾が無ければ戦えない。上坂やペリーヌのように近接武器を持っている者もいるが、残弾不足による後衛の援護が弱くなったせいで近づくのも困難になってきていた。

 

「どうする、ミーナ! このままだとジリ貧だぞ!」

 

 一旦母艦型から離れたバルクホルンが、ミーナに告げる。

 

「もっと高火力をネウロイにぶつけられたらいいんだけど……」

 

 ミーナがそう言った時だった。

 

 突然母艦型ネウロイの左側で大爆発が起こる。

 

「いったいなに!?」

 

 その爆発は母艦型に大きな穴を開け、周囲にいた小型ネウロイをも吹き飛ばしていた。

 

「この攻撃は……大和!」

 

 ミーナはライン川に浮かぶ黒鉄の城に目を向ける。大和の46cm砲 9門はネウロイに向いている。9発の九一式徹甲弾は全弾がネウロイに吸い込まれ、装甲を穿ったのだ。

 

「ミーナ! コアが見えた!」

 

 母艦型の左舷破孔部一番奥に赤く輝くネウロイのコア。

 

「総員、火力を集中!」

 

 彼女達は編隊を組む。

 

 これに対し、数少なくなった魚雷型ネウロイは母艦を守るように円錐形陣形を取り、一斉射撃を開始する。

 

 彼女達はシールドを張り、これを防ぐ。

 

「くっ! どうする! ミーナ……」

 

 バルクホルンはミーナに指示を仰ぐが、そのとき宮藤が前に出る。

 

「宮藤!?」

 

「このまま行きます!」

 

 そう言うなり、宮藤は巨大なシールドを前方に張る。

 

 それを見たミーナは覚悟を決め、命じる。

 

「各自、シールド展開! 宮藤少尉に続け!」

 

「了解!」

 

 宮藤のシールドの前に張られる11枚のシールド。それらは重なり合って円錐形になる。

 

「まさか!?」

 

 服部は見たことも聞いたこともない戦術にただ驚くことしかできない。

 

「良く見ておけ服部」

 

 坂本はこれから起こる出来事に心を躍らせる。

 

 宮藤達はそのままネウロイに突っ込み、ドリルのようにビームを弾き、魚雷型ネウロイを粉砕していく。

 

「これがお前の目指すべき、真のウィッチだ!」

 

 坂本がそう叫んだ瞬間、母艦は円錐形のシールドに貫かれ、コアもろとも四散した。

 

 

 

 

 

「……あ」

 

 光の破片が舞う中、服部はウィッチ達の姿を見つける。その中には当然宮藤の姿もあった。

 

「宮藤少尉!」

 

「静夏ちゃん!」

 

 零観から離れて上昇する服部を見つけた宮藤。服部はそのまま彼女に抱きついた。

 

「少尉はいらないよ、静夏ちゃん」

 

「……はい! 宮藤さん!」

 

 感極まって泣き出す服部とあやす宮藤。その二人を隊員達は見つめていた。

 

「……しかし、まさかシールドで体当たりするとは……」

 

 呆れた様子でつぶやくバルクホルン。

 

「まっ、宮藤だからしょうがないね」

 

「……死んだ人が生き返っても、今ならもう驚かない自信があるぞ。あんなの見せつけられたら」

 

 ハルトマンと上坂、それぞれの言葉に頷く隊員達であった。

 

「ミーナ中佐」

 

 頭部に魔道針を光らせたハイデマリーが報告する。

 

「今、カールスラント国境付近に新たなネウロイの兆しありとの報告を受信しました」

 

「聞いたわね、みんな」

 

 ミーナは一同を見渡し、宣言する。

 

「新たな脅威に対し、我々が成すべきことはただひとつ――ここに第501統合戦闘航空団、ストライクウィッチーズを再結成します!」

 

「了解!」

 

 こうして――

 

 1945年9月4日。カールスラントにおいて伝説の部隊、第501統合戦闘航空団は再結成し、新たな戦いが始まったのである――

 




今回で劇場版が終了しました。
さて、いよいよ次回から最終決戦となります……が、それと同時進行で外伝のほうにこの話と次話の中間にあたるアフリカ戦線のお話を三話ほど投稿していきます。もしよろしければそちらもどうぞ。

……そういえば現在次回作を執筆中なのですが、シリアス&コミカルを目指して書いているものの、読み返してみるとものすごくお堅い文章(イメージ的には某なろうの島戦争シリーズっぽい感じ?)になってしまってます。なんででしょうね? まあまだ世界観の説明ですので、キャラの会話が多くなればもう少し柔らかくなると思いますが。

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