ストライクウィッチーズ 続・影のエース戦記   作:軍曹

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今回で第三章終了です。いよいよここから「にじファン」でも上げていなかった正真正銘の新話が始まります。


第二十七話

「なんだ……あれは……?」

 

 大和の背後に浮かぶ巨大なコア。その圧倒的な存在感に誰もが息を呑む。

 

 そうしている間にコアの周囲には六角形の小型ネウロイが次々と姿を現す。その数は最初の時と殆ど変っていない。

 

 そしてそれらすべてが空中に展開し終えると、コアは艦隊に向けてビームを放った。

 

「戦艦が……一撃で!?」

 

 ビーム攻撃を受けた哀れな戦艦ビスマルクは、たったの一撃で船体を真っ二つにし、アドリア海へと沈んでいく。

 

「さ、坂本さん!?」

 

 その時、宮藤はコアに半分飲み込まれている坂本を見つけた。

 

「坂本!」

 

「少佐!」

 

「美緒!」

 

 甲板から悲鳴が上がる。

 

「坂本少佐を救え! 主砲斉射!」

 

 かつて窮地を救ってくれた恩人の危機に、ロレダン指揮下の戦艦ヴィットリオ・ヴェネオは三基の五十口径381mm三連装砲をコアに向け、斉射する。

 

 空気を切り裂いて突き進んでいた九発の381mm砲弾だったが、コアに直撃する寸前、赤いシールドによって阻まれてしまった。

 

「ネウロイが……シールドだと!?」

 

 絶句するバルクホルン。

 

「あのシールド……なぜ梵字が……?」

 

「梵字? ……まさか、坂本さんが!」

 

 扶桑のシールドは独特であり、梵字と呼ばれる文字が魔方陣の中に含まれている。そのため判別は容易だった。

 

「間違いないわ、ネウロイは坂本少佐の魔法力を利用しているのよ!」

 

 他の艦からも主砲が次々と放たれるが、どれもシールドを貫通することが出来ない。逆にネウロイからの攻撃を受けて次々と被弾していった。

 

「ミーナ、再出撃の許可を!」

 

 上坂はいつになく慌てた様子でミーナに食い掛かる。だが彼女は黙って首を振った。

 

「駄目よ、私達はもう魔法力を消耗しきっているわ」

 

「俺はまだ飛べる! ここは一人でも多く……」

 

「何言っているのっ! 一人で出るなんて自殺行為だわ!」

 

 次第に口論となる二人。そんな中――

 

(私達に……出来ること!)

 

 宮藤は決意を固めると、突然走り出した。

 

 

 

 

 

 赤城艦橋には次々と凶報が舞い込んでくる。

 

「戦艦紀伊、大破っ!」

 

「重巡高雄より入電、我操舵不能、我操舵不能!」

 

「巡洋艦ザラ、撃沈!」

 

「……最早これまでか」

 

 帽子を深くかぶり、瞑目する杉田。その時――

 

「艦長! 中央エレベーターが作動中! 誰かいます!」

 

「なにっ!」

 

 副長の樽宮の報告を受け、杉田は慌てて視線を向ける。

 

 チンチンと警報音を鳴らしながらゆっくりとせり上がってくる昇降機。その中央にはストライカー用の懸架台が置かれ、そこに設置されていたストライカーを装着している人影がある。その人物とは……

 

「あれは……宮藤さん!?」

 

 宮藤芳佳。彼女は決意の表情を顔に浮かべていた。

 

 

 

 

 

「宮藤さん!?」

 

「芳佳ちゃん!?」

 

 突然エレベーターが作動し、先ほどまで一緒にいたはずの宮藤がせり上がってくるのを見て驚く隊員達。

 

「なにしているの、宮藤さん!」

 

「私……飛びます!」

 

「無理よ! あなただってもう魔法力は残っていないのよ! 仮に飛べたとしても、あのネウロイは倒せないわ!」

 

 あのネウロイはシールドを張り、戦艦の主砲弾すら跳ね返す。宮藤が背負っている機関銃ではとても倒せる相手ではない。だが……

 

「倒せます。真・烈風斬があれば!」

 

 真・烈風斬。それは古来より扶桑に伝わる秘奥義。伝承によると鎌倉時代、ユーラシア大陸にあったとされる巨大国家、宋を土地ごと海に沈め、その余力を持って扶桑に攻め込んできた怪異を一撃で倒したとされている。確かにその技があればあのネウロイとて一撃で倒せるだろう。

 

「でも、それは坂本少佐の技でしてよ! それに烈風丸はないですし……」

 

 ペリーヌの指摘に、宮藤は黙って首を振り、大和を見上げた。

 

「あります! あそこに!」

 

 宮藤の目には見えていた。はるか上空の大和の艦首に突き刺さった烈風丸が。

 

 ――あれこそが、最後の希望……

 

 

 

 

 

「行きます!」

 

 掛け声と共に、宮藤の足元に魔方陣が広がる。その巨大さに隊員達は圧倒されていた。

 

「発進!」

 

 爆発的な加速力を得て、震電は滑走を始める。

 

「魔法陣が安定してないよ!」

 

「宮藤!」

 

 ハルトマンとバルクホルンは、魔法力不足の時に起こる魔方陣の点滅に気付いた。

 

 進路は左右にぶれ、飛び上がる気配はない。――滑走距離、あと50m。

 

「飛べ! 宮藤!」

 

「飛んじゃえ~! 芳佳!」

 

「もうちょっとだ!」

 

「頑張って! 芳佳ちゃん!」

 

 シャーリーとルッキー二、エイラとサーニャの声援が聞こえてくる。――滑走距離、あと25m。

 

「宮藤さん!」

 

「芳佳ちゃん!」

 

「宮藤さん! あなたなら飛べる!」

 

 リーネとペリーヌ、それに艦橋上の杉田も叫ぶ。 そして――

 

「宮藤さん!」

 

 飛行甲板が途切れ、宮藤の姿が見えなくなる。

 

「うおおおおおおおっ!」

 

「芳佳ちゃんっ!」

 

「おおっ!」

 

「やったぜ!」

 

 だがそれも一瞬のこと。宮藤は一気に大空へと飛び立っていった。

 

「飛んだ……なんで……?」

 

 ミーナは飛び立つ宮藤を茫然と眺めている。それを聞いた上坂がポツリとつぶやいた。

 

「……魔法力とは何か?」

 

「えっ?」

 

「人類の長年の疑問だ。人類は魔法力にブーストを掛け、大空を飛ぶ技術を持っているが、なぜ魔法力を持つ者が存在するのかという問題にはまだ答えが出ていない。その答えは俺もわからないが……おれは魔法力は体力ではなく、その人の想いなのではないかと思っている。だから飛びたいと思う気持ちが、宮藤を飛ばせたのではないかと思うんだ」

 

 そう言うと、上坂はミーナの顔を見据える。その目には挑発するような光が宿っていた。

 

「ミーナ、お前はどうだ? 確かにもう飛ぶ体力はないかもしれない。でも飛びたいという気持ちもないわけではあるまい」

 

 上坂は振り返る。

 

「――少なくとも、他の奴らは飛びたがっているみたいだぞ?」

 

 そこにはストライカーユニットを装着した隊員達が立っていた。

 

 

 

 

 

「くっ……!」

 

 進路上に入ってくるネウロイを掃討しながら、大和を目指す宮藤。だが次から次へとやってくるネウロイを相手し続けているうちに、どんどん弾が無くなっていく。

 

 一方、コアに捕らわれていた坂本が意識を取り戻していた。

 

「う……ん……?」

 

 目の前に広がるのは、ネウロイの群れ。そして宮藤が果敢にネウロイに攻撃を加えている光景だった。

 

「なんだこれは!?」

 

 そこでようやく自分がネウロイに捕らわれていることに気付く。

 

「坂本さん!」

 

「逃げろ、宮藤! いくらお前でもこの数を相手にするのは不可能だ!」

 

 宮藤は自分を助けようとしている。だがこのネウロイの数では多勢に無勢。坂本は自分のために誰かが犠牲になることを良しとしなかった。

 

 だが――

 

「ウィッチに……ウィッチに不可能はありません!」

 

「―――――!?」

 

 それは坂本自身がいつも言っていた言葉。昔からどんな困難な状況に陥ろうとそこ言葉をつぶやいて自分を鼓舞していた。

 

「坂本さんはいつも言っていた言葉です! 私は、絶対にあきらめたくありません!」

 

 なおも突き進む宮藤。そこへ立ちふさがる無数のネウロイ。

 

「このっ……!」

 

 銃口を向け、引き金を引くが……弾が出ない。

 

「そんなっ! 弾切れ……!」

 

 慌てる宮藤にビームが襲い掛かろうとした、その時。

 

 ――突如、ネウロイが四散した。

 

「えっ……?」

 

『芳佳ちゃん!』

 

 茫然とする宮藤に通信が入り、慌てて振り返る。そこにはボーイズMk.1対装甲ライフルを構える親友と、かけがえのない仲間達の姿があった。

 

「リーネちゃん! みんな!」

 

「宮藤」

 

 上坂は背負っていた機関銃を宮藤に差し出す。

 

「道は俺達で切り開く。思い切っていけ!」

 

「はいっ!」

 

 宮藤が銃を受け取ったのを見て、ミーナは指示を下した。

 

「総員、フォーメーション・ビクトル!宮藤さんを援護します!」

 

「了解!」

 

 ミーナの命令で各員が動き出す。

 

 行く手を遮るネウロイを、隊員達は掃討してく。その合間を縫うように飛ぶ宮藤。とはいえあまりの膨大な数に、いくら倒しても次々沸いてくるネウロイにバルクホルンは焦る。

 

「くっ……! このままではさすがにジリ貧になるぞ!」

 

「すべてを相手にしなくてもいい。道さえできれば構わない」

 

「その道を作るのが大変なんだけどな!」

 

 弾幕を張るバルクホルンと上坂の弾薬がどんどん減っていく。

 

「私に任せて! シュトルム!」

 

 そこでエーリカは固有魔法、疾風を使い、周囲の敵を薙ぎ払う。そのおかげで大和への道が出来、宮藤はそれを掻い潜ってようやく大和に取り付いた。

 

 宮藤は銃を捨て、艦首に突き刺ささる、刀身が黒くなった烈風丸の柄に手を掛けて引き抜こうとする。しかしネウロイと一体化してしまったためか容易に抜けそうになかった。

 

「……っ! 頑張って! 震電!」

 

 震電は出力を最大まで発揮し、宮藤の足元に巨大な魔方陣が浮かび上がる。

 

 やがて――

 

 刀身に一筋のヒビが入る。それはやがて大きくなり、表面を覆っていた黒い外殻が剥がれ落ちていく。その中から青白く光る刀身が現れ、烈風丸が引き抜かれた。

 

「たあああああっ!」

 

 宮藤はそのまま烈風丸を頭上に掲げ、コアに向かって突進する。そして刀身に膨大な魔法力を流し込み始めた。

 

「やめろ宮藤! 烈風丸に魔法力を吸い尽くされてしまうぞ!」

 

 烈風丸は容赦なく宮藤の魔法力を飲み込み続けている。それを見た坂本は必死に叫ぶ。

 

「構いません!」

 

 だが宮藤はやめなかった。例えこの戦いで魔法力を失おうと、多くの人を救えるのなら構わない!

 

「うおおおおおっ!」

 

 コアは宮藤の攻撃を防ごうとシールドを展開する。だが彼女はそれにかまわず突進し続ける。

 

「征けええええええええ! 真・烈風斬!」

 

 転瞬、凄まじい衝撃波がコアに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

「ネウロイの反応……完全に消滅しました」

 

 砕け散ったネウロイの破片が舞う中、サーニャは静かに告げる。

 

「二人は?」

 

「……あっ! いました!」

 

 ミーナが尋ねた時、リーネが落下してく宮藤と坂本を見つけた。

 

 

 

 

 

「宮藤!」

 

 真・烈風斬を放ち、全ての魔法力を失った宮藤の手から、足から烈風丸と震電が抜け落ちる。先に意識を取り戻していた坂本はなんとか宮藤に近づき、体を揺さぶる。

 

「坂本……さん……?」

 

「宮藤、お前魔法力が……」

 

「いいんです、みんなを守れたから……願いがかなったから」

 

 宮藤は晴れ晴れとした表情を浮かべる。

 

「だが、私達は二人とも飛べないのだぞ?」

 

 こうしている間にも、二人は落下して行っている。このままでは海面に叩きつけられてしまうだろう。

 

「――大丈夫ですよ」

 

 だが、宮藤にはわかっていた。

 

「芳佳ちゃん!」

 

 リーネが近づいてくる。その後ろにはみんなの姿もあった。

 

「私達は一人じゃありません。確かに魔法力は無くなってしまいましたけど……でも、私は後悔していません。私は守るべきものを守れたのだから……」

 

「……そうか」

 

 坂本は笑みを浮かべる。

 

 そして――

 

「第501統合戦闘航空団 ストライクウィッチーズ、帰投します!」

 

「了解!」

 

 隊員達の声が、大空に響き渡った――

 

 

 

 

 

1945年6月、ヴェネツィア上空のネウロイの完全消滅が確認され、ロマーニャ防衛を担っていた第501統合戦闘航空団は正式に解散した。

 




第三章終了! いや、長かった……それにしても、今回上坂完全に脇役ですよね。まあしょうがないとはいえ。
ともあれ三日後に最終章である第四章を始める予定です。最後までお付き合いしていただければ幸いです。

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