ストライクウィッチーズ 続・影のエース戦記   作:軍曹

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第六話

扶桑皇国東京三宅坂陸軍参謀本部――。

 

中将の前で、参謀大佐は緊張した面持ちで直立不動していた。

 

「確認いたしました。統合戦闘飛行隊設立に関する協力要請は出ておりません」

 

「出ていない、だと?」

 

その報告を聞いて、眉をしかめる中将。

 

「はい。公式に我が国から参加した部隊は存在していません。ただ……」

 

「ただ、何だ?」

 

「過去に欧州連合軍から援軍要請があり、それに従ってウィッチ一名とそれを支援する部隊、並びに北欧戦線と現役復帰要請中のウィッチ各一名の派遣が第六課から上がっております。現在、アフリカにいる我が陸軍部隊はこれ一つであります」

 

「その部隊と、統合戦闘飛行隊との関係は?」

 

「それに関して気になる情報が……」

 

参謀大佐は、中将に一枚の紙を差し出す。

 

「何だ、それは?」

 

 中将は渡された紙を読み始める。読み進めるに従って、赤ら顔だった中将の顔が青くなっていった。

 

「……これは本当なのか?」

 

「現在調査中であります」

 

「調査中だと? 派遣された人間はわかっているのだろう?」

 

「それが、この電文自体が無かったことにされておりまして……」

 

「……やはりか」

 

 椅子に深く腰掛ける中将。一瞬目をつぶると、机の引き出しから書類の束を取り出すと、机の上に投げ出した。

 

「ここに一つの報告書が来ている。読め」

 

 参謀大佐はその書類を受け取ると、読み始める。その読んでいる大佐の表情を、中将はじっと見つめていた。

 

「こっ、これは……」

 

「そのアフリカから送られてきたものだよ。差出人は『カミソリの懐刀』だ」

 

「しっ、しかしなぜ閣下に……」

 

 参謀大佐は、信じられないという表情でつぶやく。

 

「それはわからんな。しかし、これは逆に好都合ともいえる。なにせ二部の奴らの弱みを握ったんだからな」

 

 中将は手に入れた強力な手札に喜んでいるのか、凶悪な笑みを浮かべる。

 

「ともあれ、儂は『あの御方』と会ってくる。貴様はただちにアフリカの部隊と連絡を取れ。そして、事実関係が確認され次第、叙勲の用意と逃げた奴らの処分を」

 

「はっ、了解しました!」

 

参謀大佐は一礼すると部屋を出て行った。

 

――後に残された中将。

 

「……くそ、いったい何をしようとしているのだ、石原め……」

 

中将の問いに答えるものは、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 その頃、アフリカ――。

 

まだ外は薄暗く、東の空に断続的な光が見え始めたころ、突如基地の警報が鳴り響いた。

 

「くそっ、こんな時間に襲撃か! エンジン始動!」

 

テントから飛び出したマルセイユの怒号が響く。彼女はネグリジェのまま、ストライカーユニットに駈け出していた。

 

 加東もテントから駆け出し、自らのストライカーユニットに足を滑り込ませる。

 

「大尉殿! これを!」

 

 整備兵が差し出した銃はいつも使っているMG34ではなく、それを二つくっつけた一式連装機関銃。その銃には250発弾倉が取り付けられていて、重量は軽く30㎏を越えている。

 

「いつものは無いの!?」

 

「現在分解整備中なんです!」

 

 整備兵の言葉に加東は僅かに不安を覚える。彼女の魔法力は衰えていて、無事に飛び上がれるか心配だったからだ。

 

 しかしそんな悠長なことを言ってもいられず、整備兵から銃をひったくる。

 

「すみません! 遅れました!」

 

「先に行っているわ! 急いで!」

 

 遅れてやってきた稲垣に声を掛けると、マルセイユが空に上がったのを見て、加東も一気に加速する。

 

 いつもより少し長い距離を走って加東は大空へ上がる。そのままマルセイユの横に付いた。

 

「二番機の位置に着くわ」

 

「加東か、ライーサが来たら替われよ。シールドは役立たずなんだからな」

 

「わかったわ……それにしても、啓一郎がいない時に……」

 

 上坂はアフリカ司令部に呼ばれ、現在はトブルクにいる。またストライカーユニットは持っていかなかったので、基地に戻ってこないと出撃が出来ない。実質頼りになるのはマルセイユとライーサだけといった状態だった。

 

「そんな顔をするな、私がいるだろう」

 

 マルセイユは少しふてくされた顔をすると、さっさと前を向いた。加東はその姿を見て、笑いがこみあげてくる。

 

 加東は持っていた銃を背負うと、腰の雑嚢からライカを取り出し、ネグリジェ姿のマルセイユを撮り始める。

 

「な、何撮っているんだ!」

 

「別にいいじゃない。これも広報の一環よ」

 

 マルセイユは顔を赤くして抗議する。しかし加東は彼女がまるで神話に出てきた女神のように見え、しばらくこっそりと撮影をしていた。

 

 

 

 

 

「いたぞ、ネウロイだ」

 

 しばらく巡航速度で飛んでいた加東は、ルセイユの言葉につられ、目を細める。

 はるか遠くにうっすらと巨大な影が、こちらに向かって来ているのが見えた。

 

「なに……アレ……」

 

「私も見たことが無いな」

 

加東のつぶやきに、マルセイユが答える。前方に見えるのはこれまで出てきた敵よりもはるかに大きく、全長は優に300mを超していた。

 

稲垣達はまだ現場には到着しておらず、現在この空域にいるのは加東とマルセイユだけ。

 

「まあいい、とにかく突っ込むぞ」

 

「了解」

 

 少々不安を感じていたマルセイユ達だったが、ネウロイに対して突撃を掛ける。敵も気付いたのか、マルセイユにビームを撃ち始めた。しかし彼女はその攻撃を紙一重でかわし、加東もマルセイユの動きをまねて、かわしていく。

 その間にも二人はネウロイに7.92mm弾を浴びせかけるが、表面装甲が固いのか、コアを露出させるまでには至っていない。

 

「くそ! 敵が固すぎる! 大きな銃が欲しい!」

 

「ここにはないわよ! アハトアハトならあるけど!」

 

「そんなの持てる奴いるわけないだろう!」

 

 加東の冗談にマルセイユはあきれ半分に怒鳴る。しかし加東は基地の方角を見てつぶやいた。

 

「……そうでもないみたいよ」

 

『すみません! 遅れました!』

 

『曹長がこれを持って行けと言っていたので……』

 

無線越しにライーサと稲垣の声が入る。遠くの方から稲垣がFlaK18 8.8㎝高射砲を担いでこちらに向かって来ていた。稲垣の隣では、ライーサが全周を警戒している。

 

「……どれだけ力持ちなんだ、あの子は?」

 

「さあね! でも今回は非常にありがたいわ!」

 

「まあいい……マミ! そいつを敵のど真ん中にぶち込んでくれ! 私が囮になる!」

 

『わかりました!』

 

「ケイ!お前は引け!」

 

 マルセイユは加東に怒鳴る。彼女のシールドでは囮に慣れないと判断したからだ。

 

 加東がうなずく前に、マルセイユは突撃して行く。今までとは違い、想像もできないようなトリッキーな動きになった彼女を、ネウロイは執拗に攻撃していく。

 

『撃ちます!』

 

 その隙に、実に10mという至近距離まで近付いた稲垣は、ネウロイの中心に88mm砲弾をたたき込んだ。

 

 さすがのネウロイも至近距離の攻撃には耐えられず、コアを露出させる。そこに固有魔法“未来予知”で正確に銃弾をたたき込むマルセイユ。コアを破壊されたネウロイは、先ほどの頑丈さはどこに行ったのやら、あっさりと雪のような、白い破片と化した。

 

 

 

 

 

「……全く、俺の留守中を狙ってくるとは……」

 

 基地の一角に作られたバーで、今回の戦闘に参加できなかった上坂がつぶやく。彼の手にはビールジョッキがあり、なみなみとビールが注がれていた。

 

「ま、今回はマルセイユのおかげで助かったわ。……それに、結構いい写真も撮れたし」

 

 加東はそんな上坂を宥めながらも、極上の笑みを浮かべている。

 

 戦闘終了直後に撮ったマルセイユの写真が思いのほかよく撮れていて、各国の新聞社がこぞってその写真を買い求めたからだ。

 

「……まあ、ようやく扶桑からも物資が届くようになったし、しばらくは大丈夫だな」

 

 ようやく扶桑本国と連絡が取れ、正式に統合戦闘飛行隊に参加するように言われ、これによって、扶桑から食料などが送られてくるようになった。

 

「そうね。それに……」

 

 加東は、隣で酔い潰れて寝ているマルセイユを見る。

 

「私達には、“アフリカの星“がいるもの」

 

「……そうだな」

 

 マルセイユのだらしない寝顔を見て、二人は微笑を浮かべた。

 


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