ストライクウィッチーズ 続・影のエース戦記   作:軍曹

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最近大戦略パーフェクト3.0にはまって、執筆が全然進んでいません・・・


第六話

ようやく基地の工事が完了し、稼働し始めた第501統合戦闘航空団。要するに、彼女達に半年前のような日々が戻ってきたのだ。(ただし彼は今まで以上に忙しくなった)

 

 早速部屋を汚くするもの、基地のあちこちに秘密基地を作るもの――人それぞれ、思い思いに過ごす毎日。

 

 シャーロット・イェーガーも、そんな中の一人だった。

 

 

 

 

 

 格納庫内に轟音が鳴り響いている。

 

 その騒音の発生源はP-51D、シャーリーの愛機であり、動かしているのはもちろんシャーリーである。今日はエンジンの調子を確かめるため地上での暖機運転をするだけだが、今回のマッピングが良かったらしく、回転数も順調に上がっていた。

 

「よしよし、今日もあたしのマリーンエンジンは絶好調だなぁ」

 

 上坂あたりが聞けば否定するであろう言葉をつぶやきながら(ストライカーユニットは軍の物であり、決して個人の所有物では無い)、ふと彼女の前にバルクホルンがいることに気付いた。

 

「―――――!」

 

「ああん? なんだって!」

 

 エンジン音が凄まじく、シャーリーの耳に何も聞こえてこない。彼女は渋々と回転数を落とす。

 

「シャーロット・イエーガー大尉! 貴様は何やっているんだ!」

 

「なにって……、いつものエンジンテストだけど?」

 

 何を聞いているんだと言わんばかりの態度。しかし、バルクホルンはそれを聞きたかったわけではなかったようだ。

 

「そうじゃない! お前はなんて恰好をしているんだ! 整備兵もいるっているのに!」

 

 ふと周りを見渡せば、基地の整備兵達が他のストライカーユニットの整備をしている。そして、時たまこちらをちらちらと見ては、慌てて視線をそらすという態度だった。

 

「格好? ああ、このことか」

 

 シャーリーは納得した。今の自分は下着姿である。要するに公共風俗を守れと言いたかったのだろう。しかし――

 

「別によくないか? 見られて減るもんじゃないし」

 

「そう言う問題か!」

 

 シャーリーのお気楽な答えに、怒り出すバルクホルン。その様子にシャーリーはほとほと呆れていた。

 

「……だいたい、今日はこんなに暑いんだぜ? むしろお前こそ、そんな恰好で暑くないのかよ?」

 

 シャーリーと違い、バルクホルンはいつものようにぴっちりと軍服を着ている。見ていて非常に暑苦しい。

 

「暑い、暑くないは関係ない!」

 

 威張るバルクホルンだが、実際は下着までびっしょりである。……要するに、ただ我慢しているだけであった。

 

「相変わらずだな、お前ら」

 

 不意に後ろから声が聞こえてくる。整備兵達に混じって自分のストライカーを整備していた上坂であった。

 

「ああ、啓一郎か。お前からも言ってやれ、このリベリアンに……って!」

 

 バルクホルンは振りかえったが、その光景に絶句した。

 

「ん? どうかしたか、トゥルーデ?」

 

 下は相変わらずの短パンだが、上半身はシャツ一枚で、首には白いタオルを巻いている。

 

完全にどこか田舎にいるおっさんの格好をした上坂がそこにいた。

 

「かっ、かっ、上坂! お前もなんて恰好を……!」

 

「なんて恰好……って、こんな暑いんだから、そこまで言うことは無いだろうが」

 

 ほんのり顔を赤くするバルクホルンに、ヤレやれとため息をつく上坂。確かにバルクホルンと同じく、上坂も規則には厳しい。しかし、彼女と違ってある程度は大目に見ることはある。

 

「そうじゃなくて、私は規則を守れと言いたいのであって……」

 

「規則もいいが、そればかり追求して、熱射病にでもなったら本末転倒だろ」

 

「うぐ……」

 

 完全論破。ここは上坂の勝利である。

 

「あっはっは! いや~、論破されちゃったな! バルクホルン大尉?」

 

「……だからと言って、そんな恰好を許したわけじゃないぞ。せめてシャツ位は着ろ」

 

 お前もだと、上坂は盛大にため息をついた。

 

「へーい。……ん? なんだあれ?」

 

 シャーリーは、ふと格納庫に運ばれてくる機材に目が行く。そこにはミーナと坂本の姿もあった。

 

「お~い、中佐。何やってんだ?」

 

 シャーリーはストライカーから足を引っこ抜くと、ミーナ達に近づいていく。

 

「うん? シャーリーか……って、なんて恰好をしているんだ」

 

 坂本はシャーリーの格好に苦言を呈す。とはいえあまり気にしていないようだ。

 

「今カールスラントから、新型ストライカーユニットが届いたのよ」

 

「ほう、新型か」

 

 バルクホルンは、整備兵によって崩されていく箱を見る。

 

 中から現れたのは全体が赤く塗られ、今までのストライカーよりも鋭利な印象を受けるものだった。

 

「Me262、シュワルベ……だったか」

 

「ええ。正確にはMe262V1。世界初のエーテル噴流式、要するにジェットストライカーよ。まだ試作段階だけど、カールスラント技術開発部が送って来てくれたの」

 

「なんだ、知っていたのか?」

 

 坂本は上坂に尋ねる。

 

「ああ、確か長島飛行機がカールスラントから技術協力を受けたと聞いたことがあったからな。しかし……」

 

 上坂は訝しげる。

 

「大丈夫なのか? ウチみたいな多国籍部隊に、幾ら試作とはいえ最新兵器を持ってきても」

 

 ジェットストライカーユニットと言えば、次世代の技術の塊。各国の隊員がいる部隊にそんなものを持ち込めば技術漏えいなどの問題が出てくる。上坂はその心配をしていた。

 

「大丈夫よ、扶桑には技術交換でユニット自体を渡しているし、これを整備するのはカールスラント整備兵だけだから」

 

 その辺は抜かりないようで、ミーナもある程度の対策を考えている。というより、技術漏えいで一番心配なのは上坂である。だがその問題はクリアーされているため、たいして気にしていなかった。

 

「まあそこまで言うならいいか」

 

 上坂は納得し、それ以上は追及しなかった。

 

「……それにしても、次世代の技術とか言うが、実際どのくらいの性能なんだこれは?」

 

 あまりそう言うのに詳しくなく、蚊帳の外に置かれていた坂本だが、それがどれくらい大事なのかぐらいはわかる。だからこそこのストライカーの性能がどれくらいのものなのか気になった。

 

 ミーナは一緒に送られてきた仕様書に目を通しながら、説明する。

 

「そうね……、まず単純なエンジン出力で言うと、現行のレシプロストライカーの数倍、これによってより大型で強力な火器を使用することが出来ると書いてあるわ」

 

「強力な火器?」

 

「レヌスメタルBK5 50mm機関砲。重量540kgととても重いけど、当たれば大型ネウロイだって一撃で撃破できるそうよ」

 

 ミーナは梱包を解かれた“それ”を見ながらつぶやく。“それ”は依然上坂が使っていたボヨヨールド40mm機関砲よりもはるかに大きく、圧倒的存在感を示すように鈍く光り輝いていた。

 

「50……」

 

「対戦車砲かよ……」

 

 坂本達はほとほと呆れる。現在自分達が使っている銃器ですら、口径は最大で20mm、重量は弾薬含めてもせいぜい50kgを行かないくらい。こう考えればいかに大きいかがよくわかるだろう。

 

「それと、最高速度は950km/h以上。巡航速度も今までのストライカーとはけた違いね」

 

「950! それは凄いな~」

 

 今度はスピードに目が無いシャーリーが感心する。彼女の使用するP-51Dの最高速度は700km/hほど。シャーリーのは800 km/h を超えるが、Me262より150km/hも遅い。

 

「確かに次世代機というだけあるな。これなら部隊の戦力向上も間違いない」

 

 坂本は満足そうに頷く。いくら現役復帰した彼女だが、遅かれ早かれ魔法力が尽きてしまう。だからこそこういった人類の希望を目にすることが出来て満足だった。

 

「……ところで、これは誰が履くんだ?」

 

 ふと疑問に思ったことを、上坂が口にする。それに反応したのは二人。バルクホルンとシャーリーだった。

 

「それはもちろん私だろう。何せこれはカールスラント製なんだからな」

 

 まず最初に発言したのはバルクホルン。50mm機関砲をちらちら見るからに、どうやら大口径機関砲を使ってみたいらしい。

 

「いや、ここはあたしだな。なんたって超音速の世界を知っているんだぞ」

 

 それに反論するシャーリー。彼女は何と言ってもその速さに惹かれていた。

 

「お前はスピードのことしか頭にないのか!?」

 

「お前だって火力にしか興味ないじゃないか!」

 

「あらあら」

 

 しょっちゅう角を突き合わせている二人だが、今回の揉め事が相当大きくなりそうだ。

 

「何やってんだ二人とも……」

 

 呆れる坂本。その時。

 

「いっちば~ん!」

 

 突如上から飛び降りてきたルッキーニが、そのままジェットストライカーに足を滑らせる。どうやら格納庫の上の梁にいたようだ。

 

「あ、こら! ルッキーニ!」

 

 シャーリーが慌てて止めようとするが、もう遅い。ルッキーニは魔法力を流し込み、エンジンを始動させた。

 

「ほう……」

 

 レシプロエンジンとはまた違った作動音。周囲の空気を吸引し、それを後ろへ流す独特の音が、格納庫内を揺るがし始めた。

 

「うひゅ~!」

 

 得意満面のルッキーニ。だが。

 

「うにゃ?」

 

 微かに感じ始めた違和感。それは一気に大きくなった。

 

「ひぎゃっ!」

 

 突然髪の毛を逆立て、ストライカーから飛び出す。ルッキーニはそのままシャーリーの懸架台の影に隠れた。

 

「おい! ルッキーニ!」

 

 シャーリーは慌てて駆け寄り、ルッキーニの顔を覗き込む。その顔は青く、何処か怯えていた。

 

「シャーリー」

 

 ルッキーニは涙目になりながら、必死に訴えかける。

 

「あたし、アレ嫌い。……お願い、履かないで」

 

「…………」

 

 シャーリーは長い付き合いから、ルッキーニの言いたいことをなんとなく察する。あれには何かとんでもない欠陥があるんじゃないか……。ルッキーニはそれを感じたのではないだろうかと。

 

「……やっぱ、あたしはパスするよ」

 

「なに?」

 

 シャーリーは立ち上がりながら、バルクホルンにそう告げる。

 

「まだレシプロでやり残したこともあるし……。ジェットを履くのはそれからでも遅くはないさ」

 

「……ふ、怖気づいたな。まあいい、私が履く」

 

 バルクホルンは不敵な笑みを浮かべ、Me262V1に足を滑らせる。

 

 エンジン始動。

 

 再び格納庫内に轟音が響き渡る。

 

(凄い……!)

 

 今までのストライカーよりもはるかに強力な出力。彼女はそれを肌で感じ、その獣のような雄たけびを上げるジェットストライカーに魅了されていった。

 

 

 


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