「コアが移動しているだと! 道理で……」
坂本からの通信に驚愕する上坂。彼はここ一週間新型のネウロイと戦い続けてきたが、坂本のような魔眼を持つウィッチが居なかったので、今まで苦戦していた理由が分からなかった。しかし、その疑問がようやくわかったのだ。
しかし仕組みさえ分かれば、あとは対処するだけ。上坂は宮藤に指示する。
「宮藤! 同時多重攻撃を仕掛けるぞ!」
「えっ? ど~じたじゅ~?」
咄嗟のことでよく分かっていない宮藤。
「いろんな方向から攻撃することだ!」
さすがの上坂も怒鳴りながら、背負っていた二丁機関銃を放り投げた。途端に浮遊する機関銃。それらは上坂の意志によって、空中を自由自在に飛び始めた。
「くっ……!」
空中で繰り広げられる戦闘に、二式大艇の機上でずっと見ていた坂本は、自分が戦えない状況に歯ぎしりしていた。
「紫電改はどうだ!?」
「あと五分で何とか!」
機内から聞こえてくる、整備兵の必死の声。
「三分で何とかしろ!」
無茶は承知の上で、坂本は叫ぶ。その時、ネウロイがこちらに向かってビームを放った。
「なっ……!」
思わず身構える坂本。だが、すんでの所で回り込んだ宮藤がシールドを展開し、それを防いだ。
「宮藤!」
「くぅ……!」
先ほどヴェネツィア艦隊を守るために魔法力の大半を消耗した宮藤に、限界が近づいてくる。既にシールドが赤くなっていた。
「上坂!」
「わかってる!」
慌てて宮藤の援護に向かおうとする上坂。しかし、ネウロイの攻撃に阻まれて思うように動けない。
「宮藤!」
「もう……ダメ……!」
宮藤に限界が訪れようとした。その時――
突如ネウロイが爆発した。
「えっ?」
突然のことに呆ける三人。ちょうどネウロイの攻撃が一旦止んだこともあり、戦場が静寂に包まれた。
「今のは……」
『やっほ~!』
無線に入ってきた、懐かしい声。
「あれは……シャーリーさん! ルッキーニちゃん!」
こちらに近づいてきたのは、かつて501で共に戦った仲間、リべリオン合衆国陸軍第363戦闘飛行隊所属、シャーロット・イェーガー大尉とロマーニャ公国空軍第4航空団所属、フランチェスカ・ルッキーニ少尉である。
「ひっさしっぶり~! 芳佳」
ルッキーニは宮藤の近くまで寄り、シャーリーは上坂の援護をすべく、ネウロイに向かって突進する。
「あまり変わっていないようだな、シャーリー」
「まあね、こっちはアフリカでのんびりしていたからさ」
ネウロイに攻撃しつつ、軽口を叩いていたシャーリーだったが、幾ら銃弾を撃ち込んでも再生するネウロイに歯噛みする。
「おいおい、コイツ相当堅いんじゃないのか!?」
「いや、堅さじゃなく、再生速度が尋常じゃないんだ。今までのネウロイとは別物と言ってもいい」
「え~、じゃあさっきのほとんど効いてないの~?」
先ほどの爆発は、どうやらルッキーニの放った銃弾によるものらしい。
「う~ん、そうなるともっと火力が欲しいな」
シャーリーがそうつぶやいたとき、何かがネウロイに着弾し、大きな破片が飛び散る。
「もしかして……対装甲ライフル!」
「ってことは……!」
「芳佳ちゃ~ん!」
遠くから呼ぶ声。そちらを振り向くと、ブリタニア空軍第610戦闘機中隊所属、リネット・ビショップ曹長と自由ガリア空軍第602飛行隊所属、ペリーヌ・クロステルマン中尉がこちらに向かって来ていた。
「リーネちゃん! ペリーヌさんも!」
「ちょっと! “も”とはなんですの“も”とは!」
宮藤の言った、些細なところに突っかかるペリーヌ。相変わらずである。
さらにネウロイ上で起こる爆発。
「ロケット弾……サーニャ達か」
「よう、久しぶりダナ、ケーイチロー」
「お久しぶりです、みんな」
スオムス空軍飛行第24戦隊所属、エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉とオラーシャ陸軍586戦闘機連隊所属、サーニャ・V・リトヴャク中尉がやってきた。
「おいおい、501全員が集まってくる勢いだな」
『ええ、まったくね』
シャーリーの冗談に、通信機から答えが返ってきた。
『なんだ、みんなそろって脱走か? まったく、そろいもそろって……』
『なにいってんのさ、私達だって脱走のくせに』
『い、いや、これはだな……』
通信機から聞こえてくる懐かしいやり取り。カールスラント空軍JG3航空団司令、ミーナ・ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐とカールスラント空軍JG52所属のゲルトルート・バルクホルン大尉、エーリカ・ハルトマン中尉の三人である。
「ミーナさん! バルクホルンさん! ハルトマンさん!」
さっきから驚きっぱなしの宮藤。だがあいにく驚いている暇はない。
「再会を喜ぶのは後でね。……さあ、全機、攻撃開始よ!」
「了解!」
ミーナの命令で、ネウロイに波状攻撃を仕掛け始めた隊員達。シャーリーが飛ばし、ルッキーニが体当たりし、リーネが狙い撃ち、ペリーヌが電撃を浴びせる。
弱った所にサーニャがロケット弾を叩きつけ、エイラがネウロイの攻撃を避ける。上坂が銃弾を送り続けている間にエーリカがネウロイの半身を吹き飛ばし、バルクホルンが銃を逆さに持ってそれを叩きつけた。
「見えた! コアだ!」
最後のバルクホルンの攻撃によって露出したコア。
「任せろ!」
その時、いつの間にか坂本が上空から逆落としにネウロイに突撃していってた。
「坂本さん!」
「坂本少佐!」
「美緒!」
隊員達の脳裏に甦る、半年前の苦い記憶。坂本の存在に気付いたネウロイは、残っていた火線をすべて坂本に向けた。
「心配無用!」
だが、坂本は不敵に笑うと、ネウロイのビームを次々と避けていく。その機動は未来予知を使うエイラに劣るとも勝らないほどだ。
坂本は烈風丸を上段に構える。彼女の目の前にはビームが迫って来ていた。
「切り裂け! 烈風斬!」
坂本はビームを切り裂き、そのままネウロイのコアを真っ二つにした――。
「それにしても、よくみんな集まったな~」
アドリア海に浮かぶ、遺跡の島。戦闘終了後、隊員達はここに集まっていた。
「……まあもっとも、あたしはイチローに呼ばれてきたんだがな」
シャーリーはニヤリと笑う。その言葉に隊員達は反応した。
「私達は上からの命令でロマーニャに行けってさ」とエイラ。
「私達はミーナ中佐から直接……」とリーネ。
「おいおい、これはどういうことだ」
バルクホルンの疑問に答えたのはミーナだった。
「ごめんなさい、実はヴェネツィアが陥落した後、各方面に頼んで501のメンバーを再結集させるように私がお願いしたの」
ミーナは苦笑しながら種明かしをした。
「再結集? ということは……」
「ええ、そう言うこと」
ミーナは一呼吸置くと、隊員達の前で言い放った。
「これより旧501隊員は、アドリア海にて新型ネウロイの迎撃、殲滅するため、終結。ここに、第501統合戦闘航空団、ストライクウィッチーズを再結成します!」