ストライクウィッチーズ 続・影のエース戦記   作:軍曹

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第三章開幕です


第三章
第一話


1945年――

 

 ガリアが解放され、一時的ながら小康状態となったネウロイとの戦闘。しかし、1945年春、突如ロマーニャ、ヴェネツィア上空にネウロイの巣が出現した。

 

 だが、今までのネウロイとは違い、人類側に攻撃するわけでもなく、調査の結果、去年ガリアで確認された人型ネウロイが、頻繁に目撃されていることが分かった。

 

 当時連合軍内では強硬派と穏健派に別れ、ネウロイとの和解か徹底抗戦かで話が紛糾していたが、去年の暮れに行われたカールスラント奪還作戦、マーケットガーデン作戦の失敗を受け、穏健派が台頭。これにより、ヴェネツィア上空のネウロイの巣に対するコミュニケーション実験、通称トラヤヌス作戦が実行されることになった――。

 

 

 

 

 

 1945年、春――

 

 ヴェネツィア上空のネウロイの巣に向かって、第504統合戦闘航空団の隊員達と、それをサポートする輸送機が進んでいた。

 

 先頭を飛ぶのは第504統合戦闘航空団飛行隊長、竹井醇子大尉である。

 

『ネウロイを確認! 昨年夏、501で確認された人型に類似!』

 

 竹井の通信機に、輸送機からの通信が入る。輸送機にはレーダーなどといったあらゆる機器が搭載されており、504はそれを護衛する役目もある。

 

「了解! こちらも確認しました。……さて、どう? 啓一郎さん」

 

 竹井は輸送機からの通信に答えると、彼女のすぐ後ろを飛行していた人物に話しかけた。

 

「どう、と言われても……、俺は去年人型を見ていないしな……」

 

 扶桑皇国陸軍明石機関所属欧州派遣諜報員、上坂啓一郎少佐は渋い顔をしながら答える。

 

 彼は501解散後、一旦東部戦線の502に配属されていたが、アフリカ戦線から異動となったモントゴメリーの要請もあり、マーケットガーデン作戦、そして冬季に起きたネウロイ大攻勢に参加。そのままガリア方面で戦っていたが、今回の作戦のために一時的に504に配属となっていた。

 

(まったく……、ガラント閣下め……)

 

 上坂は心の中で、ここに配属になった原因を作った人に向かって、悪態をついた。

 

 

 

 

 

 一週間前――

 

「ロマーニャに行ってくれ」

 

「…………は?」

 

 ロンドンの連合軍欧州総司令部に呼ばれた上坂は、部屋に入るなりそう言われた。

 

「今回のネウロイとのコミュニケーション作戦……トラヤヌス作戦については知っているだろう?」

 

 カールスラント空軍航空歩兵隊総監、アドフィーネ・ガランド少将は上坂がその情報を知っていると言った前提で話を始める。

 

「さて、なんのことやら……」

 

「とぼけなくてもいい。どうせ明石機関では掴んでいるであろう情報だからな」

 

「…………」

 

 ――バレてる。

 

 上坂は顔を引き攣らせながら、かつての501隊長の顔を思い浮かべる。恐らく彼女が目の前の人物に話したのだろう。ある程度覚悟をしていたとはいえ、やはりこれからは非常に動きにくくなるだろう――。

 

「――まあ構わないさ。どうせ各国の首脳陣には既にわたっている情報だ。そんなに隠すようなものでもなかったしな」

 

 ガランドは椅子に深く身を預けると、話を進める。

 

「それで、一時的にだが、504に行ってほしい」

 

「……戦闘ではないのですから、504だけでも問題ないのでは?」

 

 既に作戦の内容を知っていた上坂は、それを隠そうとしない。

 

「まあ確かにそうだ。……だが、もしこれが失敗したら、恐らくヴェネチア上空は激戦になること必須だ。そこで、君を行かせることで、保険をかけておきたいのだよ」

 

「……わかりました。ただちにロマーニャに向かいます」

 

「ああ、宜しく頼むよ」

 

 上坂の見事な敬礼に、ガランドは軽く答礼をした。

 

 

 

 

 

「……そう言えば、宮藤さんだったわよね。ネウロイの巣に入ったの」

 

「ああ、そうだが……それが?」

 

 竹井の質問に答える上坂。

 

「ええ、一度彼女に会ってみたいなと思って……、どんな子だった?」

 

「どんな子だったって……」

 

 宮藤を一言で表すのは難しい。元気がよく、芯がしっかりしていて、所々おっちょこちょいで……、

 

「……無理無茶無謀、そのくせ戦争はしたくないって……戦争には向いてない奴だな」

 

「ふふふ……、なるほどね」

 

 竹井がくすくすと笑う。以前宮藤のせいで自分の本当の所属をバラす羽目になったと愚痴を言っていたのを聞いていたからだ。

 

「まあ、私だって、この戦争を早く終わらせたいわ」

 

「……ああ、俺もだ。そして、その可能性が目の前にある」

 

 上坂達の前にはホバリングする人型ネウロイがいる。

 

「ええ、この戦いを終わらせることが出来るかもしれな……」

 

 そうつぶやいた瞬間。

 

「……えっ?」

 

 上空から赤い閃光が降ってきた。

 

「竹井!」

 

 咄嗟に上坂は、上空から降ってくるビームから竹井を庇うようにシールドを展開した。

 

「うそ……」

 

 上坂達が見ている中、もう一つ放たれたビームが人型ネウロイを襲い、跡形もなく消滅させる。

 

「ネウロイが、ネウロイを攻撃した……?」

 

 茫然と周囲を見渡す竹井。

 

彼女の視界の中、上坂と同じようにシールドを展開し、ビームの嵐を防ぐ隊員達。

 

黒煙を噴き、墜ちて行く輸送機。

 

「……ッ! なんだ、あれは!」

 

 竹井を庇いながら上空を見上げた上坂は、その光景に驚愕する。

 

 先ほどまでヴェネツィア上空にいたネウロイの巣よりも、さらに大きく、禍々しく渦巻いている黒い雲。

 

 最早話し合いの余地などない。

 

「……こちら竹井、作戦は失敗した」

 

 竹井はつぶやくように、司令部に通信を入れた。

 


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